「……もう帰りたい」
目の前の光景を見た和真が頭を抱えた。目の前にはキャベツが群をなして飛び、まだ遠くだがその方向一面は緑色に染まっているほどだった。
「ほう、空を舞うほど活きのいいキャベツとはな」
「あれって活きがいいっていうの?」
龍燕の言葉に和真が疑問気味に言う。
「しかしだ。食糧が手に入る以外にも、それの高値の買い取りまでやっている。今夜は宴だ、キャベツ料理で飲み明かすぞ」
「龍燕は相変わらず酒か、まぁいいけど」
やる気満々に言う龍燕に和真は今日も疲れそうだなと溜め息をついた。
「よし行くぞ和真!」
龍燕は瞬動で他冒険者達よりも前に出た。
「
掌から炎を放ち、周囲に炎の人形(ヒトカタ)を百体出した。
「キャベツを収穫し、速やかにここへ運べ。散開!」
炎の人形(ヒトカタ)は一斉に瞬動で地を駆ける。そして人形はキャベツを球を掴み取り、龍燕のところへ戻る。
「よし」
龍燕は人形から暴れるキャベツ受け取り、籠手型の武己のしまっていく。
「大量のキャベツだな。ん、こいつはレタスか?」
持ってきたキャベツの中にレタスが混ざっていた。
「まぁいいか」
その後も順調に収穫されていき、終わった。
夕方、大量のキャベツが入った檻を全てギルドに運び終えた。そしてギルドの食堂には冒険者達が席に着いた。そして酒と料理が全席に配られた。それらは全て一番収穫量が圧倒的に多かった龍燕の奢りだ。
「龍燕!お前は最高だぜ」
「本当に下級職かよおめぇは」
酒を片手に皆が龍燕に言う。
「どんどん食ってくれ!今日は飲み明かすぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
「飲み尽くすぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
皆は杯を高く突き上げながら声を上げた。
「皆凄いな」
「龍燕も凄いですね?完全に中心にいます」
「そんなのどうでもいいわよ!どんどん食べて飲むわよ!全部龍燕の奢りなんだから!」
「少しは遠慮しろよ」
龍燕の仲間達も宴を楽しんでいた。
キャベツの宴から数日後、ダクネスは実家へ筋トレをしてくると言って帰った。
アクアは毎日バイトに行っている。
和真はキャベツ収穫で得た金で少しでも平凡に暮らしたいと今は別行動。
残りの龍燕とめぐみんは蛙狩りも飽きたため、一緒に鍛練をすることに決めた。
「さてどこを鍛練場にしようか」
「なるべく町から離れましょう、また門兵に怒られてしまいます」
そのめぐみんの言葉にえっと龍燕は声を漏らし振り返る。
「また……って、すでに一度怒られたのか?」
「……はい」
「わかった。なるべく離れようか」
二人はさらに十分歩き続けた。
「ん、あれは?」
「廃城、でしょうか?」
少しは離れたところに、見た目的に崩れそうなボロい城があった。
「よし、アレを的にしましょう」
「んーまぁいいか。そうしよう」
めぐみんの言葉に龍燕は頷いた。
その城へまずめぐみんの爆裂魔法を放ち、大爆発が起きた。
「おぉ凄いな。ただ倒れてなければさらにいいがな」
「倒れることは言わないでください」
「そうだな」
龍燕はめぐみんを抱えてやり、木に背を預けさせた。
「特等席で休みながら、今度は俺の技を見てろ」
「はい、楽しみにしてます」
龍燕はめぐみんから少し離れて、城に向けて立つ。
「そうだな、初日は簡単に行くぞ」
そういうと龍燕の身体から紅の炎が覆った。そして龍燕の髪と瞳が炎の様に輝き、身体を覆っていた炎は形を変え、羽織と双翼となった。
「これが秘奥義。炎之瞳と炎之羽織、炎之双翼だ」
「す、凄いです。本当に簡単になんですか?」
「まぁ覚えられる者は少ないな。俺の師匠もできないって言っていたからな。さて行くぞ、円舞(エンブ)」
龍燕の自作の技で、龍燕の操る炎を瞬間的に増大と他技の操作をしやすくする技だ。
「九頭龍波(クズリュウハ)!」
右掌打から放たれた九つの炎が螺旋を描いて城へ向かっていき、直撃した。
辺りに紅の輝きと衝撃波が伝わった。
「凄いです龍燕!」
「ありがとう。うむ」
「ん、どうしました?」
「めぐみんに俺の技で身体強化や回復系のをやったら、魔法は撃てなくとも動けないかなと思ってな」
腕を組ながら言う龍燕に確かにとめぐみんは頷いた。
「よし、今後はそれも考えながら鍛練をしよう」
「はい」
二人はその後、休憩しながら鍛練の目標を考えた。
めぐみんは二発は撃てなくても、倒れずに少しは動けるようになること。龍燕は新技の開発とめぐみんの技に合う合作用の技の開発を考えた。
龍燕とめぐみんは季節が夏から秋に変わるまで鍛練場と決めた場所へ通い続けた。
「今日も頑張ったな」
そう言ってめぐみんの頭を撫でてやる。
「いつも同じ台詞を言っていますよ?」
「あ、そうだな」
二人は笑いながらおやすみと別れた。
「明日はダクネスが戻ると言っていた日だな。久しぶりに皆でクエストを受けたいな」
そう言いながら龍燕はいつもの宿屋に向かった。
翌日、龍燕は早朝の鍛練を終えてからギルドに向かった。
「おはよう、めぐみん。カズマ、アクア、ダクネスも久しぶりだな」
席に座る仲間達に挨拶し、皆も返した。そして龍燕も注文しながら席につく。
「ダクネス、筋トレはどうだった?」
「うむ、上々だ」
「そうか、朝食を終えたら久々に皆でクエストを受けにいくか?」
龍燕の提案に皆が頷いた。
そして朝食を終え、なんのクエストにするかを見に行こうと立ち上がった時、放送が流れた。その放送は以前の放送と同じように冒険者は至急正門へ集合してくださいと流していた。
「何かあったのかな?まぁ言ってみるか」
龍燕達は皆と正門へ向かった。
正門に着くと首無しの馬と、それに跨がる首無し鎧がいた。よく見ると兜を右手に持っている。頭はあるようだった。
「なんだあれは、初めて見るな」
平然と龍燕は妙な鎧騎士をみる。すると鎧騎士は喋り始めた。
「貴様らに問う……毎日毎日俺の城に炎や爆裂魔法を撃ち込んでくる大馬鹿はだれはだぁー!よく聞け貴様ら!この街には低レベルの雑魚しかいないのは知っている。どうせ俺には手は出せまいと放置しておけば調子に乗ってポンポン撃ち込みやがって!おかげで耳鳴りは止まらんわ、食事は喉を通らんわで陰湿にも程があるわー!」
怒りを露にしながら鎧騎士は怒鳴った。
「大馬鹿、だと?」
冒険者の一人が鎧騎士の言葉に鋭い目付きで復唱した。言ったのは龍燕だ。周りにい
た冒険者達が龍燕に視線を向ける。
「もしかして貴様が俺の城を攻撃した奴か?」
「そうだと言ったら?」
「貴様、何故こんな嫌がらせをする?」
「嫌がらせ?正直に言うとあの『崩れそうな廃城』、新技開発の的として使っていただけだ」
龍燕の挑発混じりの言葉に鎧騎士はなんだとと声を上げた。
「俺の城を崩れそうな廃城だと?!駆け出し冒険者風情が俺を起こらせたな。今日は警告だけのつもりだったがやめだ。見せしめに貴様を殺してやる」
そう言い放つと鎧騎士は来い我が配下達というと鎧武装した骸骨兵が大量に現れた。
「目算で数百程度か。しかも『雑魚』そうだな」
「そう言う口を開けるのも今の内だぞ」
「あれで行くか」
龍燕は秘奥義、炎之瞳と炎之双翼、炎之羽織を解放した。炎之瞳で瞳が紅に煌めきを放ち、髪が炎の様に桜の花弁状の火花を辺りに舞った。また身に纏った炎は羽織状に形作られ、背には二対四枚の炎の翼が作られ髪と同様に火花を舞い散らせた。
「な、なんだその姿は?!本当に駆け出し冒険者なのか?」
鎧騎士が龍燕の変化に驚きの声を上げる。周りにいた冒険者達も驚きを隠せずにいた。
龍燕は双翼を大きく広げた。
「万鬼重城(マキジュウキ)」
翼から溢れ出る紅の炎が、龍燕に似た炎の人形を次々に作り出され、計一万騎が鎧騎士達を包囲するように展開された。
「……まさか、こんな力を持っているとは……貴様、駆け出しではなかったな?」
「『冒険者』としては『駆け出し』だ。だがな、俺は元英雄部隊と言われた部隊の名を継いだ二代目部隊の指揮をしていた、灼煉院龍燕(シャクレンインシエン)だ。それとなさっきの言葉で俺もかなり、頭にきている。俺の仲間を大馬鹿呼ばわりしたことは許さん」
龍燕の言葉にめぐみんがえっと声を漏らし、握っていた杖にぎゅっと力が籠もった。
「さて、始めるか」
龍燕は右手を鎧騎士に向けて上げ静かに、万鬼重城に指示を送る。
「蹂躙せよ」
万鬼重城達は一斉に走り出す。一分程で鎧騎士の配下は全滅した。しかし十分で鎧騎士は肩で息をしながらも、龍燕の万鬼重城を倒し切った。
「ほう、倒し切ったか」
「ハァ……ハァ……お、俺は……魔王軍の、幹部デュラハンの、ベルディアだ。ハァ……この程度、問題ない。龍燕と言ったな?一騎討ちだ!」
剣を杖代わりにしながら鎧騎士、ベルディアは龍燕に一騎討ちを申し出た。龍燕はいいだろうと大太刀を一振り出し、腰に差して抜刀した。そしてベルディアに向けて歩き出す。
「いつでもかかってこい」
「減らず口を……」
ベルディアは龍燕との距離が数メートルに近づいたところで、自分の頭を投げた。瞬間ベルディアは素早い動きで龍燕に数回斬りつけた。そして龍燕後ろで止まり、落ちてきた自分の頭を手に取る。
「……、なん、だと?」
ベルディアは目を疑った。自分の大剣の、龍燕に触れたところが蒸発し無くなっていたのだ。そして龍燕が刀を鞘に戻したのに気づいた時ベルディアの意識は暗転し、光となって消滅した。
「さて、終わったな」
龍燕は大太刀を武己にしまい、皆のところに戻った。冒険者達からは勇者並みの力を持ってるんじゃないかとか、龍燕を囲みながら言い始めた。
「ええと、龍燕。さっきのだけど……私の事で怒ってくれたんですか?」
「ん、当たり前だろ?大事な仲間の一人が大馬鹿呼ばわりされたらそりゃ怒る」
そして龍燕はめぐみんの頭にそっと手を置いた。
「めぐみんは最高の『爆裂魔法使い』だ」
「はい、ありがとうございます!」
めぐみんは凄く嬉しかったのか涙まで流しながら喜んだ。