翌日。龍燕は早朝の鍛練を終え、ギルドの食堂へ向かった。
「俺が先か。とりあえず席を取っておくか」
席につき、朝食を女給に頼む。選んだ品は『トード(蛙)の焼き物』だ。そして武己の
収納機能から握り飯を出す。蛙の焼き物とご飯は相性がいい。
「うむ、蛙の焼き物は旨いな」
追加で二十皿をさらに頼み、握り飯もさらに武己から出した。
「さて腹も膨れたな」
龍燕は支払いを済まし、席で皆を待つ。
「おはよう龍燕。早いね」
「おう、おはようアクア。和真はどうした?」
昨日、解散した時にアクアは和真と一緒に行っていた。が今はいなかった。
「あー和真は疲れたみたいでまだ寝てるわよ。引籠りだったからね」
「体力無いな。まぁ結構走っていたしな」
アクアの言葉に龍燕は頷いた。
「これから宴会芸スキルを披露するんだけど、龍燕も見に来る?」
「宴会芸スキル?そんなのがあるのか?面白そうだな、見に行くよ」
「じゃあ向こうで朝から酒盛りしている人達のところへ行きましょ」
「おう」
二人は酒盛り達のところへ向かった。
昼頃。宴会芸スキル全て習得したアクアが、少し顔を暗くしていた。理由は龍燕の炎の舞う美しさに負けてしまったのだ。
「いいぞ龍燕、もっと見せてくれ」
「おう!火螢(ヒケイ)、円舞(エンブ)」
龍燕の周囲に、龍燕の両掌から溢れ出る火螢が、円舞でさらに炎の量が増える。紅に輝く、桜の花弁を模した小さな炎が食堂中に広がった。
「今度は何を見せてくれるんだ?」
「次は小花火だ。しかも火花の形は桜の花弁だ」
おおーと盛り上がる中、龍燕は自作術式、二つの技を掛け合わせる双纒技法を二回、使った。まずは爆炎(バクエン)と弾炎(ダンエン)を作り、それをさらに掛け合わせ小さな花火を弾かせた。辺りでバン、バン、と炎が弾け、同時に桜の花弁状の炎も煌めきを増しながら舞った。
「こいつぁすげぇ!綺麗な炎だ」
「小さな桜の花弁がキラキラ光って凄い綺麗」
「炎なのに物が燃えないのも凄いです!」
盛り上がりがさらに上がった。
「ありがとう!また何か新技ができたら披露するよ、楽しみにしていてくれ」
龍燕は階段から降りると、いつもの席に皆が集まっていた。
「龍燕って宴会芸スキルもあったんですね」
凄かったですとめぐみんが笑いながら言う。龍燕は首を横に振って答える。
「いや、宴会芸スキルというのは持っていない。俺の神能(チカラ)である炎を細かく操作をして、使える技を工夫すればあれぐらいできる。しかし、こういう使い方は初めてだったが結構楽しかったぞ」
「そうだったんですか」
話していると黄色く長い髪に鎧を纏った少女が、めぐみんの隣で座る和真に声を掛けた。
「こんにちは和真殿。皆さんも一緒でしたか」
「ん、和真…知り合いか?」
龍燕が和真に聞くと、頭を抱えながらあぁ~と返された。
「どうしたんだ?まぁいいか。お前は?」
「私はクルセイダーというナイトの上級職。名前はダクネスだ。君達のパーティーに是非入れてもらいたい」
「あ、そうだったのか。そうだな……では面接からやろうか。席に座ってくれ」
頷いたダクネスは龍燕の向かいに座った。龍燕の左にはめぐみんが、右にはアクアが
座った。和真はカウンター席で頭を抱えながら動かないため、三人で行うことにした。
「では特技から教えてもらおうかな」
「特技、か。力と耐久力には自信がある」
「力、か。よしなら腕相撲をしてみようか」
龍燕の言葉にアクアとめぐみんがえっと声を漏らしながら振り返る。
「腕相撲で入れるかどうかを決めるってこと?」
「まぁそういう感じかな。でも勝ち負けで決めるというわけではないが、俺に勝つ気で、全力の力でこい」
そう言って龍燕は立ち上がり、腕をテーブルの上に伸ばして肘をついた。
「うむ、わかった。全力で行かせてもらうよ」
ダクネスも立ち上がるとすぐに手を伸ばし、龍燕の手を握って肘を置いた。
「めぐみん。合図を頼めるか?」
「わかった」
めぐみんは立ち上がり、横に立つ。
「行きますよ?用意、始め!」
「はあぁぁ!」
まず動いたのはダクネスだった。ダクネスは思いっきり力を入れる。
「ふむ、特技に力と言うだけあって結構力強いな」
龍燕は少しずつ力を入れていく。
「う、ぐぐぅ……つ、つよい……」
龍燕の方が圧倒的に強いと、見ていたアクアとめぐみんはわかった。ダクネスは左手をテーブルの端に掴み固定しているが、龍燕は右だけの力で余裕に倒していっているのだ。そしてダクネスの右手の甲がテーブルに着き、龍燕の勝ちに終わった。
「うむ。力はなかなかにいいな。それは合格だ。次に武器は何を使っている?」
龍燕は座り直しながらダクネスに聞く。ダクネスも座り直すが、龍燕のその問いに目線を逸らした。
「わ、私は一様……両手用の大剣を使っている」
「一様?」
龍燕が妙に思いその言葉を復唱する。アクアとめぐみんも頭に?を浮かばせながらダクネスを見る。
「私は……不器用すぎて、攻撃が当たらないのだ。だから戦力と見ずに私を、盾役としてパーティーに入れてくれないか?」
「あ……当たらない、のか」
龍燕は目を閉じ、腕を組んで少し考えてから答えた。
「……とりあえず仮で採用にしておく」
「仮?」
「力はかなりよかった。それで攻撃が当たれば威力も高いだろう。だから今は片方に良いとあるからとりあえずの仮だ。攻撃が当たらないというのは、俺が少し力を貸そう。これでも戦技教導をしていたからな」
「あ、ありがとう!」
ダクネスが立ち上がって、頭を下げて龍燕にお礼を言い出した。龍燕の後ろのカウンター席にいる和真はやっぱりかと呟いていた。
「あ、ダクネス!こんなところでどうしたの?」
食堂に入ってきた少女がダクネスに声をかける。
「あ、パーティーに入りたいってこの人のトコ?あたしは盗賊のクリスよ」
クリスがよろしくと龍燕達に挨拶、皆も皆も名乗った。
「ん、そっちのカウンター席にいるのは?」
クリスはカウンター席に座る和真の方へ行った。すると何やら和真はクリスと話して元気になり、ダクネスも加わって和真は技の習得に行ってくると言い残して行ってしまった。
「暗くなったり元気になったり、おもしろいやつだな。ダクネスも行ってしまったし、俺達は俺達でクエストを受けに行くか。今晩も呑むぞ」
「あ、私も呑みたいかも。で、何を受けるの?」
アクアの問いに龍燕はもう決まっていると振り返り、二人に言う。
「蛙狩りだ」
「「え?」」
龍燕の答えに二人は顔を青ざめた。
「安心しろ。次はやらせない。言ってやれ?食うのは俺達だとな」
「よだれまみれにならないなら……」
「う、うん。行ってもいいわよ」
「作戦は現地の丘上で話す。じゃあ受けに行こう」
三人は受付嬢のところへ受けに行った。
「さぁ今日のクエストは十体だ。出来るだけ皆も力をつけられるように役割を分担するぞ」
「はい……で、この檻みたいな炎は何ですか?」
めぐみんが炎で出来た壁や天井、床を見ながら聞く。
「作戦説明中に邪魔されたくないから
「そうなんですか?私の爆裂魔法を以前受けてピンピンしていたので、この技も凄いのかと思いました」
「そうか。技や、それにうまく使った力量で変わってくるがな。例えば小さく掌程度にこの大きさに、この炎壁分のを使えばそれだけ強度は増す」
龍燕は掌を見せながら簡単に説明し、めぐみんとアクアは確かにと頷く。
「さて、作戦なんだが」
龍燕は二人に考えた作戦を話す。
まず辺りの空間上に龍燕が威力を押さえて
「俺の炎球壁とめぐみんの爆裂魔法が合わされば、威力もかなり上がってほとんどが倒れるだろうな」
「はい!」
龍燕の言葉にめぐみんが目を輝かせながら言った。
そして三人は作戦を実行した。蛙を集めるまでに少し時間が掛かったが、一時間で終わった。
「思えば私は追われるだけだったんですけど?」
「それも重要だ。それに体力も増えるからいいだろう?支援役でも体力は多少あった方がいいからな」
「確かにそうだけど……脚が痛いよぅ……明日筋肉痛になるかも」
アクアは自分の足を見ながら言う。
「筋肉痛になったら俺が治してやる。頑張ったんだからな。めぐみんも凄かったぞ、一枚だけだったら完全に砕けていたな」
龍燕は炎球壁を出来るだけ強度を上げたが、それでもめぐみんの爆裂魔法の威力が高かったため、咄嗟に二重、三重と増やしたのだ。
「爆裂魔法は、龍燕にはそんなに効きませんでしたが……それでも最強の魔法なんです」
めぐみんが龍燕の背中から手でVサインを作りながら言った。
「じゃあ和真も帰って来るだろうし、急いで戻ろう」
「そうね」
アクアが頷き、龍燕はアクアの手を取り、町の門へ瞬間移動をした。
「……これはどういう事だ?」
龍燕とめぐみん、アクアがギルドの食堂に戻ると、平然といる和真、泣いているクリス、頬を赤く染めて興奮気味にいるダクネスが席に座っていた。
「うむ、クリスと言ったな?なぜ泣いているのか、教えて貰いたいんだが……いいか?」
龍燕の問いにクリスはぐずりながら頷いた。
「この男に、スティールっていう盗賊スキルを教えたんだけど……カズマのスティールで、私のパンツを盗られて……私は財布をあげるから返してって言ったんだけど、それじゃ足りないって……カズマは自分のパンツに値段をつけろって……」
「「「……」」」
「もし払えないなら……我が家の家宝にして、奉られるって……」
そこまで言うと、クリスはさらに涙を流し始めた。
「そうか……今度クリスの為に、その目の前で、和真には蛙狩りをやらせようかな?一人で、俺の作った特別製の囲いの中で、五匹討伐」
龍燕が和真を睨みながら言うと、和真は慌ててクリスから貰った金を全て返し始めた。
「クリス、和真を許してもらえないか?和真も反省しているよな?」
龍燕はさらに和真に殺気を込めて睨むと、和真はクリスに謝り始めた。
「うん……今回だけ、許してあげる」
クリスからの許しを得て、和真は良かったと心の底から思った。
「ええと、和真はそのスティールというのを完全に覚えられたのか?」
「あぁ習得したぜ」
こんな感じに、と和真はめぐみんに拳を向けてスティールと叫んだ。そしてそれから約二秒、めぐみんがそわそわとさせたかと思うと何かに気づいたのかスカートの裾を押さえ、頬を赤く染めながら視線を下げた。
「……和真、お前……まさか、またやったのか?」
龍燕の言葉に和真はえっと声を漏らし、拳を開いた。そこには黒い布が……間違いなく
パンツがあった。
「めぐみん。すまんが……あれはお前ので間違いないか?」
確かめるように龍燕はめぐみんに聞くと頷いた。
「そうか。和真、反省していると思ったが違うようだな?それとも言い訳があるのか?」
「はい!あります!パンツが欲しくてやったんじゃないんです!スティールは盗るものを選べないんです!本当なんです!信じてくださいお願いします!」
和真が必死になって龍燕に言う。
「クリス、本当か?」
「はい、選ぶことはできません」
龍燕はクリスに和真が言っていることは本当かを確かめた。そして改めて和真に言う。
「とりあえずそれをめぐみんに返して謝罪だ。そしてその技は、今後必要以外では絶対に使うな」
「わかりました……」
和真はパンツをめぐみんに返し、謝罪をした。
『緊急!緊急!冒険者の方は至急冒険者ギルドに集合してください!』
町中に放送が繰り返し流れた。
「緊急?敵か?」
「あ、たぶんキャベツよ」
「「キャベツ?」」
アクアが思い出したように答えた言葉に龍燕と和真は復唱した。まためぐみんとダクネスはなんだキャベツの収穫かとか、もうそんな時期なんですねと軽く言葉を漏らした。
「キャベツの収穫か。……でもキャベツはどこにも植えてなかったはずだが?」
龍燕は毎朝、早朝に鍛練として歩法術を一通りやっている。その中でも瞬動や虚空瞬動は町をぐるりと数周やっている。そのため多少詳しくなったが、この町には確かに
キャベツ畑自体が無いことを知っていた。
「二人は初めてだからわからないよね?行ってみればわかるわ」
アクアの言葉に疑問が浮かんだが、とりあえず頷いて他冒険者達と共に正門へ向かった。