和平を結ぼうぜ。
お前達も元々、その心算だったのだろ?
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和平―――
堕天使総督の発した この言葉に、2人の魔王と天使長が、驚きの顔を見せる。
「私も悪魔側とグリゴリに和平を呼び掛ける予定でした。」
しかし、それも僅かな時。
アザゼルに同調する様に、ミカエルも和平と云う言葉を口にした。
「…同じく。」
「でも まさか、一番最初にアザゼルちゃんの口から その言葉が飛び出すなんて、びっくりだよ☆」
「をゐ!?」
そして更には悪魔側も、その心算だったとか。
これには俺も驚いた。
聞けば、「殺し合う位に仲が悪い」らしい3竦みの代表が、揃って和平を結ぶと言ってるのだから。
「これ以上 3竦みの関係を続けていても、世界の害にしかならない。
天使長である、私が謂うのも何ですが…
…戦争の大本である神と魔王は既に消滅しているのですから…。
…失った物は、確かに大きい。
しかし、在ない者を何時までも求め続けても、仕方が有りません。」
「おいおい、大丈夫かよ?
その発言は『堕ち』やしねーか?
…って、『システム』は お前が受け継いだんだったよな。
良い世界に なったもんだな?
俺が『堕ちた』頃とは全然違うぜ。」
そして和平の意義をミカエルが真面目に話し始めるのだが…この男は、何時も真面目に話せないのか?
「な…?何を言っているのですか!?
貴方が『堕ちた』理由は、人間の女人と乳繰り合ったからでしょうに!
現行の『システム』でも それをすれば、普通に『堕ち』ますよ!
この、【閃光と暗黒の龍絶剣(ブレイザー・シャイニング・オア・ダークネス・ブレード)】!!」
「そ、その呼び名は止めろぉおっ!!?」
ミカエルが顔を赤くして大声で呼ぶ名前に、それ以上の赤い顔で、慌てふためくアザゼル。
…って、何なの?その厨二全開な名前?
「くっく…www」
「…………プッ!」
「きゃはははははは☆!!」
そして やはり、その名前を聞き、何やら思い出したかの様に笑う魔王達。
あのグレイフィアさんですら、完全に笑うのを抑えられてない。
よし、どういう経緯でアザゼルが【閃光と暗黒の龍絶剣(ブレイザー・シャイニング・オア・ダークネス・ブレード)】になったのか、後でセラフォルーに聞いてみよう。
「…コホン、と、兎に角!」
そして再び、話し始めるミカエル。
「…神の子を見守り、先導していくのが、我等の使命なのだと、私達 熾天使(セラフ)の意見も一致しています。」
「我等も同じです。
種を存続させる為、悪魔も先に進まねばならない。」
ミカエルの言葉に続き、魔王少女…否、今はトップ会談の場に相応しい、ダークブルーのレディースフォーマルを着こなした、魔王セラフォルー・レヴィアタンが、普段の…今迄のイメージを打ち消す様な真面目な面持ちと口調で語り、
「戦争は我等も望むべき事柄では無い。」
また戦争をすれば、悪魔は滅ぶ。」
サーゼクスさんが更に言葉を続けた。
「そうだ、悪魔だけじゃねぇ。」
そして、アザゼル。
本人にすれば失礼な話だろうが、やはり初対面時から先程迄の対談のイメージが強いからか、とてもじゃないが想像出来ない様な、真摯な顔で話し始めた。
「次、戦争を起こせば、3竦みは間違い無く共倒れだ。
それは人間界にも影響を大きく与え、イコール、世界は終わる。
俺達は戦争をもう起こせない。
起こしては いけないんだ。」
「「「………。」」」
この堕天使総督の言葉に、天使長と魔王2人は無言で頷いた。
「シリュー君…いや、赤龍帝殿?」
「?」
そして此の場で、サーゼクスさんが不意に、俺に話を振った。
「君自身は…この和平については、どう思っているかな?」
「どうとは…どういう意味かな?」
「………。」
質問に質問で返すと、魔王は無言で一瞬、天使長の顔を窺う様に見ると、また俺の方に顔を向けた。
あ、そういう意味か。
「どうも何も、今の俺に、冥界トップの組織レベルの決定に、反対出来る権利は持っていない。
馴れ合う心算は無いが、不必要に進んで敵対する事も無いだろう。」
「そうか…ありがとう。」
いや、サーゼクスさん、考え過ぎです。
とりあえずミカエルとは、この前きっちりとOHANASHIした上で、一応は終わらせているから。
流石に此の場で それを蒸し返し、公開処刑する趣味は持っていない心算でいる。
尤も、和平した後も、天界勢と仲良くする気は微塵も無いけど。
「赤龍帝は、あー言ってるが、ヴァーリ、お前は どーなんだ?」
赤龍帝(オレ)の考えを聞いた後、今度はアザゼルが、白龍皇ヴァーリに同様な問いを掛けた。
「勝手にすれば良いさ。
俺は、強い奴と戦う事にしか興味が無い。
和平成立後も、その時は堕天使所属でなく、俺個人として勝手に動かさせて貰うさ。
例えば…仮に、互いに同盟勢力に席を置いていたとしても、宿命の対決だけは別枠で決着を着けないと駄目だろう。
なぁ?赤龍帝?」
…最悪だな、この男!戦る気満々かよ!?
ドライグには悪いのだが、俺自身は んな宿命なんて、興味無いのだぞ!
コカビエルが戦争狂なら、コイツは戦闘狂だな!
放って置いたらコイツ、魔王にも喧嘩売りかねんぞ!?
「…お前達二天龍、自覚してるかは知らんが、お前達は世界を揺るがすだけの力を秘めた者の1人なんだ。
お前達の選択1つで、俺をはじめ、各勢力が動きづらくなるんだよ。
…和平に異存は無いのだな?
白龍皇?赤龍帝?」
「「………(コクン)………!?」」
「「「「「な…?!」」」
「「これは…!??」」
俺とヴァーリが頷いた その時、会議室が異様な違和感に包まれた。
人払いの結界とも違う、今迄感じた事も無い違和感…
「し、白音!白音!?」
「アーシア先輩?朱乃先輩?」
「つ、椿姫!?」
「おぃ、草下?花戒?ルガールさん?」
「皆、落ち着いて!」
そして騒ぐ黒歌達。
見れば、小猫、アーシア、木場、朱乃先輩、更には支取先輩と匙を除く、シトリー眷属、そしてミカエルの御付きだった、秘書天使が硬直している。
まるで当人だけ、その時間の流れを止められた様に…?!
…って、まさか!?
「部長!これは!?」
「…えぇ。これは間違い無く、ギャスパーの力ね。」
「何者かが、あのハーフヴァンパイアを捉えて、ヤツの神器を強制的に禁手(バランスブレイカー)状態にさせているんだろう。」
「アザゼル!何者かがって…(ピカッ)…?」
ズドン!
「な…!?」
言っている最中に、外が激しく光ったと思えば、校庭から魔力の弾が、会議室に向かって飛んできた。
しかし その魔弾は、校舎に直撃はしたが、壁も窓も破壊する事無く霧散した。
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「テロだよ。」
「アザゼル?」
「何時の時代もな、そんなに平和が嫌いなのか、こんな風に特定の勢力同士が和平を結ぼうとした時には、邪魔してくる輩が居るんモンだよ。
外、見てみ?」
「………?」
アザゼルの言う儘に、シリューが窓から外を窺うと、校庭に約100人程の、フード付きの黒いローブを纏った人影が。
「奴等は…?」
「所謂『魔法使い』ってヤツだ。」
「幸い、彼等の火力では、僕達が張った防御結界を破る事は、不可能だけど…」
「おかげで私達も、此の場からは動けないね。」
天使長、堕天使総督、魔王2人の4人掛かりでの結界は確かに強固だが、それは4人の動きを封じた事に繋がっていた。
「ならば、残りの者で、討って出るしか無いでしょう!」
「待て待て黒龍?
間違っては無いが、闇雲に出りゃ、良いって訳じゃないぞ?
先に、旧校舎のハーフヴァンパイアをどうにかするのが先だっての。」
「ぅ…」
会議室を飛び出そうとした匙を、アザゼルが呼び止め、
「それにしても、本当に厄介な能力だぜ。
その気になれば、視界に映した内側に居る者に迄、効果を及ぼしちまうとはな…大した潜在能力だ。
尤も、俺達を停めるには、出力不足だったみたいだが。」
ギャスパーの能力の高さを、改めて評価。
「ギャスパー君の力を無理矢理に利用しているなんて…?!」
「この場で力を暴走させない様に、アッチで留守番させてたのが裏目に出たにゃ!」
「上空で待機していた、各軍勢も停まっているみたいだな。」
「…ギャスパーをテロリストの武器にされている…これ程の屈辱は無いわ!」
リアスが声を荒げる。
「部長、落ち着いて!
とりあえず俺が、旧校舎迄強行突破して、ギャスパーを救い出す。
反撃は その後だ。」
「…だったら、私が行く!
私の下僕は、私が責任を持って救い出してみせる!」
「はぁ!?」
シリューが諭すが、それはリアスに取っては逆効果。
「何を言ってるんだ、この駄肉姫!
【王(キング)】は無闇に動くなって、この前に言ったばかりでしょうが!」
「駄肉ゆうなぁー!!
あんたこそ強行突破なんて、脳筋思考しか無い訳?」
「の…脳筋ん!?」
「おいバカップル、痴話喧嘩なら終わってからにしろ。」
「「違う!!」」
何やら言い合い始めた2人に対する、アザゼルの仲裁の台詞に、駄肉姫と脳筋が息を揃えて言い返す。
「旧校舎(むこう)には、未使用の戦車(ルーク)の駒が有るから、それを使うのよ!」
「成る程、キャスリングか。」
「……??」
キャスリング…本来はチェスに於いて、盤上の【王(キング)】と【城兵(ルーク)】の駒の位置を、一手で瞬時に入れ替える技法。
…それに習い、主にはレーティングゲームにて活用されるが、【王(キング)】である悪魔と、その下僕である【悪魔の駒(イーヴィル・ピース)】で転生した【戦車(ルーク)】は、幾つかの条件も在るが、瞬時に その居場所を入れ替わる事も出来ていた。
そして それは、まだ転生に使われていない、『駒』の儘でも適用される。
…つまり、リアスは旧校舎に保管されていると云う【戦車(ルーク)】の駒との入れ替わりにより、瞬時にギャスパーの本に飛ぶのが可能だったのだ。
「確かに それならば、敵の虚を突けるが、それでも1人では危険だ。
グレィフィア、君の魔力方式で、一度に複数名を、『キャスリング』で飛ばせる事が、出来るかい?」
「お嬢様と もう1人ならば…」
「ならば、俺が行こう。」
「ん、シリュー君…頼んだ。」
「それでは…」
グレィフィアが両掌に小さな魔法陣を浮かべると、それはシリューの足下に移行、
「シリュー、行くわよ!」
「了解!」
リアスの呼び掛けと共に、2人は姿を消し、床には入れ替わる様に現れた、『戦車(ルーク)』の駒が転がっていた。
「よし、ヴァーリ。
お前は外で、討って出ろ。
白龍皇である お前が現れたとならば、敵の親玉も動くかも知れん。」
「…構わんが、白龍皇(オレ)が居るのは、向こうも最初から承知じゃないのか?」
「それでも、リアス・グレモリーと赤龍帝が、まさか『キャスリング』みたいな裏技で、いきなり旧校舎(アッチ)に乗り込んで来るのは想定外だろう。
陽動の効果は、十分に有るさ。」
「承知した。
黒歌…と黒龍君、手伝ってくれるか?」
「お、応!」「了解だにゃ!!」
アザゼルの要請でヴァーリが、そして黒歌、匙の3人が、3階の窓から、外の校庭目掛け飛び出した。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
「ぅ惡っ羅ぁ!」
バキっ!
神器【黒い龍脈(アブソープション・ライン)】を発動させた匙が、
「にゃっ!!」
ズサァッ!
猫の耳と尻尾を曝け出し、駒王の制服から、着崩した和服に換装した黒歌が、
「【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイデイング)】…禁手(バランス・ブレイク)!」
(Vanishing Dragon Balance Breaker!!!!)
ドゴォッ!
そして白龍皇の鎧を纏ったヴァーリが、校庭内の魔法使いの集団を一掃。
しかし、
「うげ?!また出てきやがったぜ!」
「キリが無ゃいにゃ!」
「………………。」
屍が転がる校庭に、無数の魔方陣が浮かび上がると、其処から また新たに転移してきた魔法使いの一団が、攻撃を仕掛けてくるのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ガシャァン!
「ギャスパー!!」「無事か!?」
「はぁ?リアス・グレモリーと…赤龍帝…だとぉ!?」
「馬鹿な?!転移は出来ない筈!?」
キャスリングにより、旧校舎オカ研部室へと転移したリアスとシリューは、間違い無くギャスパーが捕らわれているであろう、新校舎を窓越しに はっきりと見渡せる部屋…即ち、3F廊下中央の教室へ、扉を蹴破って突入した。
「ぶ、部長!シリュー先輩!」
「リアス様!シリューたん!」
読み通り…
その部屋には、椅子にローブで縛られ、新校舎を正面に見据える様に座らされているギャスパーと、やはり身動き出来ぬ様に拘束され、床に転がらされているミルたん、そして数人の黒ローブの魔法使いと覚しき人間達。
他にも、恐らくはミルたんが倒したのだろう、数人の魔法使いが蹲っていた。
「ギャスパー!ミルたんも!
良かった、無事だったのね!」
「ごめんなさいにょ…ギャーたんを守りきれなかったにょ…」
とりあえずギャスパー達が無事なのを確認出来たリアスが、安堵の笑みを浮かべる中、ミルたんは申し訳無さそうに謝罪。
「気にするな、テロリストの襲来自体が予想外だったんだ。」
それに対しては、シリューがフォロー。
「ごめんなさい部長…ごめんなさい…。
僕は皆に迷惑ばかり掛けて…」
「ギャスパー?」
「部長…先輩…お願いです…」
しかし、続けてギャスパーが涙を流しながら、リアス達に発した言葉は
僕を、殺して下さい。
‡‡‡‡【 次回予告(予定)!! 】‡‡‡‡
「魔法少女は、悪い魔法使いや魔女なんかには、絶対に負けないにょ!!」
次回:ハイスクール聖x龍
『大魔法岬(仮)』
乞う御期待!!