『クジャーッ!』『ブロロォ!!』
『…………………』
仲間?を斃された、巨熊と異形の蟲が、鹿の様な、馬の様な、龍の様な…小さな魔獣に凶悪な爪と鎌を振りかざし、2体掛かりで襲い掛かる。
その様…鹿の胴に龍の頭と鱗…それを見て、シリューは呟いた。
「あの姿は正しく…」
その小さき獣の姿は正しく、伝説にある聖獣"麒麟"其の物だった。
「……………………。」
シリューは迷っていた。
先程、自分達が魔獣の群と戦っている中を通り過ぎていった時 既に、此等の獣が1対3の様相だったのは判っていた。
そして今も、その内の1体は撃破するも、1対2の不利な戦いを強いられている、麒麟?の幼生。
あの麒麟に助太刀するのは容易い。
しかし、それが本当に正しい行いかと、迷っている。
数の上でも、体躯の上でも不利な側に手を差し伸べる…
それは、問題無くに見えるが、実は違う。
この場は人間社会ではなく、使い魔の森。
この一見、不平等な争いも、この場の其れは、自然の摂理の中の一端、弱肉強食の理の1つに過ぎないのだ。
自身の自称・正々堂々主義の下に、不利な側に加勢して この場を収めたとしても、それは自然という大きな枠組みからすれば、只の自己満足に他ならない。
易々と介入して善くない事柄なのを、シリューは理解していた。
「くっ…こういうのは解ってる心算だが、やはり、見ていて歯痒い!」
例え、初見の際に その戦況を見抜き、考える前に体が動き、つい、この獣の群を追い掛けてしまっていたとしても…だ。
》》》
鋭い爪に鎌、針による攻撃を同時に受け、傷を負う劣勢の中、それでも要所で反撃をする白い麒麟。
先程、双頭の蛇を倒した五色の光は魔力が尽きたのか、それとも『溜め』が必要なのか、放とうとする気配が無い。
『……………。』
額から生えている、細長い円錐状の角を、まるで日本刀の様に変形させ、体当たりと同時に熊に斬り掛かる麒麟。
『ゴバァアアアーッ!!?』
『キシャー!』
『!!?』
凶熊に強烈な一撃を浴びせるも、同時に異形の蟷螂が、第2脚に位置する左右の鋏でガッシリと麒麟を捕らえると、腹の先から粘着質の糸を吹き出し巻き付け、その身を雁字搦めにする。
『…………………!!』
『ゴラァアアッ!』『シャーッ!!』
地に藻掻き、動きが取れない麒麟を、その爪と鎌で斬り裂き貫かんと、腕を、第1脚を大きく高く掲げ、一気に振り降ろす2体の巨獣。
ガキィイッ!!
『シャッ?』『ゴアッ?』『……!??』
しかし その凶器は、麒麟の身体に届く事はなく、
「ちぃ、思わず飛び出してしまった…
体が、勝手に動いてしまった…」
その場に飛び込んだ、シリューの赤い籠手を纏った左腕に止められるのだった。
『キシャー!』
「でぇいやあっ!!」
ドゴッ!
その後、招かれざる『乱入者』に対して、異形の蟷螂が蠍の針が付いた様な尾を振り回しながら、突き出し仕向けるが、シリューは それを躱すと、逆に前蹴りを一閃、攻撃者を吹き飛ばす。
それに追撃を試みるシリューだが、蟷螂も吹き飛ばされる途中で体勢を立て直し、攻撃の構えを見せた。
それによりシリューも、蟷螂の攻撃の間合い手前で一時立ち止まり、改めて戦闘体勢で対峙する。
バシュッ!
『グオッ!!』
同じタイミングで、麒麟が身体全身から魔力を解放する事で、自らを拘束していた糸を粉砕。
いや、それは魔力ではなく、
「今のは…
そう、
バスゥッ!!
『グヮッ!!』
自由に動ける様になった麒麟は、シリューの乱入で、動きが止まっていた熊型の魔獣に、再度 頭部の角で斬りつける。
此によって、一時的に2組の、1対1の構図が出来上がった。
◇シリューside◇
『シャッシャーッ!』
この蟷螂?蠍?が、腕と云うか前脚と云うか、兎に角 巨大な鎌と鋏を振り翳しながら襲って来た。
それを俺は、紙一重で避ける…つもりだったが、鎌の振り降ろしを横移動で躱した後、次に来た鋏の刺突をバックステップで去なしたと思ったら、いきなり その腕の関節部が鋭い速度で延び、その伸びた分だけ避けきれずに
ズシャァッ!
制服のブレザーとワイシャツを引き裂かれ、極々浅くではあるが、右肩口から左脇腹辺りまで、斬りつけられた!
…って、ななな…何と云う事を…
この制服、どうしてくれる訳?
これ帰った後、母親に何て言い訳すれば良い訳!?
仮に「刀を持った893と戦り合った」とか言ったら、母さん倒れるぜ?
身に負った傷は、薄皮一枚切られただけで、致命傷でも何でもない。
アーシアに頼めば、傷痕も残らず治して貰える。
でも こっちの制服は再起不能だろ?
きっと高レベルな裁縫スキル持ちの姫島先輩でも、お手上げのレベルだぜ?…これ。
こうなったら小猫が、男物の制服の予備も、用意してくれているのに期待するしかないのだが、とりあえず…
バサァッ!!
「邪魔!」
俺はズタボロの制服を、脱ぎ捨てた。
▼▼▼
「廬山龍戟閃!」
巨大な蟷螂に、全身が浅くではあるが、斬り傷だらけになっている、シリューの
『!!?』
その
一瞬だけ、少し驚きの顔を浮かばせ、シリューを刮目するが、直ぐに目の前の敵に意識を集中させる。
今迄の戦闘ダメージの蓄積に加え、この膝蹴りが予想以上に効いたのか、蟷螂の動きが明らかに鈍くなった。
それを確認したシリューが、
「ド・ラ・ゴ・ン…(Boost!!)…波ぁっ!!」
そして左拳から放たれた、エネルギー波が蟷螂の頭を消し飛ばし、その頭部を喪った巨体は その場に崩れ落ち、その後は動く事は無かった。
◇シリューside◇
予想外に手子摺った蟷螂を下した後、俺は熊と戦っている麒麟に目を向けると、
『…………!!』
殺気こそ込めてはいないが、明ら様に、「これ以上、余計な真似はするな」と言いた気な目で睨まれた。
「良いだろう!この先は1対1の、只の喧嘩だ!手出しはしないで見届けてやる!!」
俺が そう言うと、麒麟は一瞬だが口元を緩め、ニヤリと笑った…様な気がした。
そして小さな獣は巨獣に攻撃を仕掛けていくのだった。
麒麟も熊も、双方が爪や角や牙による攻撃で、俺以上に全身傷だらけになっている。
出血具合から見て、決して浅くない傷も両者にある。
『BOWAAAAAAAAAAH!!』
『!!』「!?」
その後の幾度かの攻防の後、距離を空けた熊が、大音量の雄叫びを上げる。
質量を持った音の衝撃波が、麒麟と 其の後方、直線上に位置していた俺を襲った。
…例えば…ゲーム風に例えるなら、ダメージにプラスして、その大声で竦み上がらせての『1ターン休み』な効果を与えそうな その攻撃を、俺は身体全身に
そして麒麟は…やはり大音量の叫びに臆する事無く、そして体に受けるダメージも お構い無しに特攻、体当たりからの角での斬撃を浴びせると、あの2つ首の蛇に放った、魔力を練った…否、
▼▼▼
横になって動かなくなった熊の傍、ダメージが大きいのか、その場で しゃがむ様に伏せる麒麟の幼生。
シリューも麒麟の目の前まで歩み立つと、その場で腰を落とし、胡座を掻いて座る。
「余計な真似をして、済まなかったな…」
『……………………………。』
麒麟は逃げるでもなく、そんなシリューを只単に、『自分に関わるな』と言わんばかりに睨み付ける。
「派手にヤられたな…傷は大丈夫か?」
『……………。』
麒麟の表情を察した上でか、それとも気付いていないのか、尚もシリューは麒麟に話しかける。
「俺の仲間に、治癒のスペシャリストが居る。今も、この森に一緒に来ているんだ。
俺もホレ、見ての通り、全身傷だらけだしな、一緒に治して貰うか?」
『………………………………………。』
麒麟が やや、困惑の顔を浮かべる。
『先程から この人間は魔獣の自分に対して一体、何を言っているのだ?』…そんな表情である。
『俺と一緒に来い…
俺の使い魔に、ならないか?』
『………!!』
リアス達が自分にした様に、誤魔化す事無く、敢えてストレートに自分の要求だけを言うシリューに、麒麟の目の色が変わり、決してダメージの少なくない体を、無理に震わせながら起き上がると、身体全身から
その顔は、正しく『自分を使い魔としたいなら、実力を示せ』と語っているかの様だった。
「ふっ…逃げないっていう事は、少しは脈アリと思っても良いのだな?」
それに対して、地面に胡座を掻いて座っていたシリューも立ち上がると、
》》》
一方その頃、最初に魔獣の群に囲まれ、襲撃を受けていたリアス達も、匙や木場、使い魔達で それを撃退、再びミルたんとウンディーネが戦っている筈の、森の泉を目指して進んでいた。
「結局は戻って来なかったけど、神崎のヤロー、一体、どうしたんだ?」
「まあまあ匙君、神崎君にも、何か考えがあったんだよ…多分。」
「…あの凄いスピードで通り抜けて行った獣の群に、何か感じる物があったのでしょう…多分。」
「し、シリューさんは、理由も無く、その場を無責任に放棄する様な人ではないですから!…多分。」
「多分多分…って、アナタ達、そこは もう少し、信用してやりなさいよ!
まあ、何となく気持ちは分かるけど…。」
「リアス…それ、フォローになっていませんよ?」
「さて…と、あのド迫力バトル、決着は付いているのかねぃ?」
≫≫≫
そんな会話が進む中、ランタンを片手に、森を掻き分けて進むザトゥージを先頭に、一行が泉に辿り着いて目にしたのは、
「アンタも なかなか、ヤるにょ!」
『…………♪』
「「「「「「………………。」」」」」」
互いに顔面ボコボコな状態で、互いに肩を組み合い笑い合っている、ミルたんとウンディーネだった。
「あ、部長、戻ってきたのですねっ…て、ぷぷっ…な、何ですの、貴女達の格好!?」
「う、どーでも良ーでしょ!そんなの!?」
泣きながら笑いを堪えている朱乃の言葉に、ミニスカートな婦警スタイルのリアスが、目に涙を浮かべながら叫ぶ。
実は あの後、この泉に着く前に、また『あのスライム』と同種の魔獣に襲われていたリアス達。
それは木場と匙が辛くも撃退した物の、その代償として、
リアス…婦警さん(ミニスカート)
アーシア…ナース服(やはりミニスカート)
小猫…モリ〇ン(…とゆーより、〇リス)
ソーナ…空琉〇遊亭〇京
…な、出で立ちとなっていた。
尚、木場、匙、ザトゥージの3人の両頬に、何故か真っ赤な紅葉が刻まれているのは、別の話である。
「そ、それで姫島さん、アレは一体…?」
「それが…」
ソーナがミルたん達を指差して、朱乃に説明を求めるが、
「拳で語り合って、そして解り合った…て所でしょう?」
「た、多分、それで合っています…。」
現状を解析した匙が、代わりに答えた。
この後、ウンディーネは魔法陣契約により、『アクア』の名前と共に、正式にミルたんの使い魔となる。
「くっそ~!やっぱし この2人のバトル、見たかったぜ…」
「気持ちは分かりますが、次はシリュー先輩を探しましょう。」
》》》
「うっゎ…」
「あらあらあら?」
「はわわわ…」
「むぅ…」
「ひぇっ!?」
リアス達がシリューの気配を辿って着いた先には、全身を血塗れにして倒れているシリューと、それを護っているかの様に、やはり身体全身を傷で被われて血塗れとなっている、小さな魔獣が居た。
「炎駒?」
その姿に、思わず自分の兄の下僕…眷属の名を口にするリアス。
シリューが大ダメージで…血塗れでダウンしているという、予想外の光景を目の当たりにして、驚愕するリアス達。
自分達が居ない間に一体何があったのか、普段から あれだけ説教してるのに、またしても懲りずに
「あ…部長達…?
アーシア、来た早々で悪いが、回復、頼めるか?」
『………………。』
「は、はい…!!」
リアス達に気付いたシリューがアーシアに呼び掛け、それに応えて慌て駆け寄り、自身の
「俺は後で良い…先に、
『…………。』
「これは正しく麒麟…しかも幼生ってのは、俺も、初めて見たんだぜ…」
ザトゥージも驚きながら呟く。
ザトゥージが言うには、麒麟は その独特な
「それが、多くの魔獣に追われていた理由か…」
その説明に納得するシリュー。
そんな時、
「シリューさん、この子の治療、終わりました…でも…」
麒麟の傷を癒やしていた、アーシアがシリューに話し掛ける。
「その…ごめんなさい…この子の古い傷は、治せませんでした。」
そう言って、謝るアーシア。
今回の戦闘で負った傷は痕も残さずに治療できたが、過去の戦いで出来た古傷は治せなかったとの事。
過去の戦いを物語る身体中の傷痕。
特に額の…角の下にある、大きな斜めの十字傷が痛々しい。
「別にアーシアが悪い訳じゃないさ…
それよりか、俺の治療もして貰えたら、嬉しいのだが…?」
「は…はい!」
》》》
「…我、神崎孜劉の名に於いて命ずる。
汝、我が使い魔となり、我が剣、我が盾、我が目、我が耳、我が脚となり、我と共に生きよ!
汝が
契約用の魔法陣を転開すると、シリューは その名を額に残った傷痕の形に因んで
カァッ…
「な…!?」
その契約が終わったと同時に突然、エックスの身体全身が眩く煌めき、辺りは強烈な光に包まれた。
その場に居る者全てが、その眩しさに目を手で覆い隠す。
そして やがて光が収まった時、その場に立っていたのは、ラブラドールの成犬程度な体の大きさ…ではなく、競走馬並みの体躯な、白い毛並みと金と銀の鱗を持った麒麟だった。
「こ、コイツは更に驚いた…
まさか、リアルに成獣に進化する直前の個体だったとはな…
麒麟の変化に立ち会えるなんて…俺達は運が良いんだぜぃ…!!」
「す、凄い…」
「綺麗…」
◇シリューside◇
「…さて、これで皆、使い魔を得た事だし、そろそろ帰りましょ!」
エックスとの契約の際の、予想外なイベントに、俺を含む皆が一通り驚いた後、リアス部長が撤収を呼び掛けてきた。
…って、え?匙は?
「ああ、俺なら…」
そう言って匙は、角を含めて全長約40㌢の…ヘラクレスとアトラスと深山鍬形を足した様な、カブトムシ型の使い魔を喚び出してみせた。
何それ?凄くカッコいいんですけど?
「コイツが俺の使い魔、ジョースターだ。
お前が途中で抜けた、魔獣の群とのバトルの後で、ミルたんと合流する途中で契約したんだよ。
お前が抜・け・た・バトルの後で…な!」
「いや、それは悪かったから!」
う…もう少し、ソフトに言ってくれると有り難いのだが…
しかし、それにしても…
「なあ、ザトゥージ、あのカブトムシ?って、まだ森に居るか分かるかい?」
俺は何気無しに、ザトゥージに匙の使い魔のカブトムシについて聞いてみた。
「あん?あのギルガメッシュ・ビートルは、確かに珍しい個体ではあるが、探せば、それなりに見つかると思うが…
まさか お前さん、アレも自分の使い魔にするって言うのかい?」
「いや、捕まえて、ヤ〇オクに出展する。
あのカブトムシなら間違い無く高額買い取りで、ウハウハ間違い無しだ。」
「ウハウハ…そんな素晴らしい響きの日本語があったとわ…!!」
「はい、シリュー先輩匙先輩。
虫取り網です。」
「「ありがとう。」」
俺の台詞に、匙と小猫が賛同してくれた。
「「だ・か・ら!アンタ達は何をしに、この森に来たと思っているのよ!!?」」
すはかーん!!x3
「「「ぎゃぴりーん!?」」」
同時に、リアス部長と支取先輩のハリセンも炸裂した。
「全く…お馬鹿な事 言ってないで、さっさと帰るわよ!!」
「ええ。夜も明けてきましたし…」
う…残念…。夜が明けたなら、仕方無い。
学校に行かないと いけないからな。
ん?夜が明けた?今から学校…だと?
全然、寝てないんですけどーーーーっ!?
▼▼▼
ゴン!x2
「「ギャーッス?!」」
「ん?神崎に匙?
私の読む、枕草子は子守歌だったか?」
その日の1時間目の授業、爆睡していたシリューと匙の頭上に、担任教師の持つ出席簿の『角』が墜ちてきた。
そして、
「オマエラフタリ、アトデ、ショクインシツニ コイ…ナ?」
「「は…はひ…」」
全く目が笑ってない担任教師の笑顔での誘いに、2人は声を震わせ、泣きながら首を縦に振るのだった。
「全くアナタ達、そんなに お金稼いで、一体どうする心算だったのよ?」
「欲しいアルバムがあったので…」
「デート費用!!(どやぁ!)」
「…スィーツ店巡りと、アニメのブルーレイに…」
‡‡‡‡【次回予告!!】‡‡‡‡
次回:ハイスクール聖x龍
『レーティングゲーム、開戦!(仮)』
乞う御期待!!