天狗高原に千棘を探しに来た楽と小咲。千棘の事をほっとけないヤツだと語る楽を見て小咲は、楽が千棘に抱く感情に気づいてしまう………。
小咲「一条君!」
楽「ん?」
小咲「千棘ちゃんのところに行く前に……どうしても聞いてほしいことがあるの」
楽「小野寺……?」
小咲「私…一条君が好きです」
小咲「中学の頃から、ずっとずっと好きでした」
楽「…………!」
小咲( ………気づいてしまった )
小咲( 一条君の気持ちは、きっと千棘ちゃんに向いている )
小咲( だからせめて最後に、ちゃんと自分の気持ちを伝えよう… )
楽「………………」
楽「…………オレも好きだよ、小野寺」
楽「中学の頃から…ずっと小野寺の事が好きだった」
小咲「うん、ありがとう……さっき分かった」
小咲「本当に嬉しいよ………すごく」
小咲「でも一条君は……千棘ちゃんの事が好きなんだよね…」
楽「……気づいてたんだな、小野寺」
小咲「…………うん」
楽「確かにオレは……千棘の事が好きだ」
楽「ヒデェ奴だって思うかもしんねぇけど、オレは二人の女の子を同時に好きになっちまったんだ」
楽「そのせいで小野寺を傷つけちまってたんだな……オレがどっちつかずで悩んでたせいで」
楽「本当にごめん……でも、もう決めたから」
小咲「………うん」
楽「オレは……!」
小咲( あぁ…私、フラれちゃうんだろうな )
小咲( せめて泣かないように耐えよう、一条君を困らせちゃう…… )
楽「オレは…小野寺とずっと一緒にいたい!」
小咲「え…………⁉︎」
楽「だから恋人として……そばにいてくれないか」
小咲「………!」
小咲「……………っ!」
小咲「ほ、んとうに……」
小咲「………本当に……私でいいの?」
小咲「千棘ちゃんのこと…大切なんでしょ?」
楽「……確かに千棘は大切だし、ほっとけないヤツだけど」
楽「オレは、小野寺がいいんだ」
小咲「っ…………!」
ギュッ
楽「!」
小咲「一条君……!私も、私も一条君が大好き!」
小咲「うっ……ぐすっ…………」
楽「……………あぁ」
ギュッ
楽「オレも好きだ、小野寺………」
そしてオレは、10年前の約束の相手が小野寺だった事を本人から教えてもらった。
昔も今も同じ人を好きになるなんて、本当にすごい奇跡だと嬉しくなった。
でも今は…浮かれてる場合じゃない。
楽「すまん小野寺…約束の鍵を開けるのはもう少し待ってくれ」
楽「千棘とも…ちゃんと話をしてこなくちゃいけねぇんだ」
小咲「うん、分かってる…」
楽「じゃ…行ってくるよ」
楽「ありがとな、小野寺」
小咲「………うん」
小咲( …………… )
小咲( 私もあとで、ちゃんと千棘ちゃんと話さなくちゃね )
楽「あ……」
千棘「………………」
千棘「楽………?」
楽「よぉ…見つけた」
千棘「………うん」
楽「お前に会ったら…色々聞きてぇことがあったけど」
楽「でも……なんも浮かんでこねぇや」
千棘「そう…私も」
千棘「……………」
千棘「……………ねぇ楽」
千棘「あたし、アンタが好き」
楽「え…⁉︎」
千棘「最初は大っ嫌いだったわ…でもね、一緒に恋人のフリを続ける中であたしは…アンタに数え切れないくらい助けられた」
千棘「一緒に友達ノートを作ってくれた、プールで溺れたあたしを助けてくれた、肝試しでは迎えに来てくれた……」
千棘「そのうち、どんどん気持ちが大きくなって……1年の文化祭でやっと自分の気持ちに気づいたの」
楽「………」
千棘「でもアンタの約束の子は小咲ちゃんで」
千棘「今アンタが好きなのも小咲ちゃんなんでしょ?舞子君とアンタの会話、偶然聞いちゃって…」
千棘「それを知ってあたしは耐えられなくて……逃げ回ってたの」
楽「………そうだったのか」
千棘「ずっと逃げ続けたあたしにこんな事言う資格なんて無いかもしれない、でも………」
千棘「やっぱり好き…この気持ちを、なかった事になんてしたくない」
千棘「あたしは楽の”ホンモノ”になりたい」
千棘「楽は…あたしの事どう思ってる?」
千棘「お願い……楽の本音が、知りたいの」
楽「…………」
楽「千棘………………ごめん」
楽「オレは…お前の気持ちには応えられない」
千棘「……………………うん」
楽「お前といるのは、本当に楽しい」
楽「楽しくて、本当に楽しくて……気がついたら…オレはお前の事を……」ハッ
千棘「………楽?」
楽( ”コレ”は…言うべきなんだろうか? 伝えたところでさらに千棘を傷つけるだけなんじゃないのか…?)
千棘「……何か言いにくい事があるの?」
楽「いや、その……」
千棘「楽、大丈夫だから」
楽「え?」
千棘「覚悟なら…できてるから」
千棘「楽にとってのあたしがどんな女の子なのか、聞かせてほしいの……全部」
千棘「例えそれで傷ついても、後悔はしないから…」
楽「…………………」
楽「……………すまん、これは今のお前に言ってもどうにもなんねぇ事かもしれないけど」
千棘「…うん」
楽「お前と過ごすうち、オレはいつの間にか…お前と小野寺の両方を好きになっちまってた」
楽「それでオレはずっと悩んでた、我ながら最低な悩みだと思う」
楽「集にもちょっと呆れられてさ、いろいろ考えて…最近やっと答えが出たんだ」
千棘「………うん」
楽「オレにとっての千棘は…ほっとけない、大切な女の子……それが本音だ」
楽「でも…それでもオレは、中学の頃からずっと……」
楽「小野寺のことが、好きなんだ」
楽「その気持ちを…大切にするって決めたんだ」
楽「だからごめん……オレは、お前の”ホンモノ”にはなれない」
千棘「…………」
楽( ……ああ、幻滅されただろうな )
楽( でもこれはオレの自業自得だ、どんな罵声を浴びせられても文句は…… )
千棘「楽……」
千棘「…………ありがとう」
楽「……は?」
千棘「ちゃんと本音で話してくれて、嬉しかった…」
千棘「そっか、あたしたち…両想いにはなれてたんだ」
楽「………なんで」
千棘「?」
楽「なんで”ありがとう”なんて言えるんだよ…!」
楽「オレがお前を振った理由は、嫌われてもおかしくないようなモンなのに…!」
千棘「嫌いになんて…なれないわよ」
楽「!」
千棘「楽はこんな…逃げてばかりのあたしにもちゃんと向き合ってくれて、答えを出してくれた」
千棘「大切な子だって言ってくれた」
千棘「楽を嫌いになる理由も、資格もないわ」
千棘「だから…あたしは感謝してる」
楽「千棘……」
千棘「あ、それとあたし…もう日本には残れないから……」
楽「え⁉︎」
千棘によると、こっちでファッションデザイナーの道を華さんの知り合いから勧められたらしく、将来のために挑戦してみることにしたらしい。
どこまでも勝手でゴメン、と千棘は謝っていたが……。
楽「………勝手なんかじゃねぇ、真剣に将来の事を考えた結果だろ?自分の人生なんだ、やりたいようにやればいいさ」
楽「頑張ってこいよ、応援してる」
千棘「ありがと…ねぇ楽」
楽「ん?」
千棘「もう最後だから……これだけは言わせて」
千棘「例え”ニセモノの恋人”でも…アンタと過ごした高校生活はホントに楽しかったわ」
千棘「凡矢理に来られて、楽と出会えて、小咲ちゃんと出会えて…コレはあたしの一生の想い出よ」
千棘「だからこれからも…友達でいてくれる?」
楽「……………」
楽「あぁ、もちろん」
楽「オレも、お前と出会えて…高校生活を一緒に過ごせて良かった…本気でそう思ってるから!」
楽「だから、こっちこそ…………ありがとう」
千棘「ふふ、じゃあお互い様ね」
楽「……そうだな」
千棘( 大好きよ、バカもやし…… )
話し終えたオレと千棘は、高原を下り小野寺たちと再会した。
かける言葉に悩んでいた小野寺を、千棘が優しく抱きしめていたのを覚えている。
千棘は泣いていた。
それはオレのせいなのに、オレに千棘を慰める資格がないのはもどかしかった。
でも…後悔はしない。
気持ちがすれ違ってしまったことも。
後悔だけはしないと決めた。
その後。
オレと小野寺は二人で高原の頂上に戻り、約束の鍵を開けることにした。
楽「じゃあ…いくぞ小野寺」
小咲「なんだか緊張するね…」
『ザクシャ イン ラブ』
カチャリ…
楽「中身は…」
小咲「指輪と…手紙?」
楽「やっぱり指輪だったんだな、絵本になぞらえて」
楽「こっちは…オレが小野寺にあてて書いた手紙か?はは…我ながら可愛い内容だなオイ」
小咲「こっちは私が一条君にあてた手紙だよね…なんて書いたんだろう」
『おとなになった らくくんは きっと もっと せがたかくなってるんだろうね』
『きっとまた あえると しんじてます』
『すごくじかんが たっているだろうけど』
『わたしはきっと いまでも らくくんを すきだと おもいます』
『らくくんは いまでも わたしのこと すきですか』
小咲「……………///」
楽「………///」
楽( あぁ…今でも好きだ )
楽( オレはもう、迷ったりなんかしない )
楽( 小野寺を……小咲を、全力で幸せにしてやるんだ )
オレたちが交わした10年前の約束は、すごくすごくまわり道をしたけれど…。
こうして今、実を結んだ。
永い1日だった。
約束と、思い出と、幾人かの想い…。
それらが交錯しあった、永い1日が終わった。
その後千棘は夢を叶えるため華さんのところへ戻り、鶫もそれに付き添って行くこととなった。
二人とも高校は中退ということになってしまったが、もともとあまり学歴の関係ない世界へ行くようなので気にしていないようだった。
オレ達も凡矢理に帰り、ひとまずはいつもの日常が戻ってきた感じだ。
3年生になってからはあっという間だった。文化祭やら体育祭といった行事、受験勉強、そして……小野寺と何度かデートにも行った。
受験が終わると、みんなそれぞれ志望の大学に進学した。オレは公務員、小野寺は和菓子職人を目指して勉強に励み…。
数年後。
集「あーもしもし楽?うん、届いたよ〜招待状」
集「……うん!ハハ、安心しなって、当日はこれでもかってくらい冷やかしてやっから」
集「じゃ、次会うときは式場だな!またな〜」
ガチャン
るり「一条君から電話?」
集「うん、にしてもアイツらもいよいよ結婚かぁ〜」
集「羨ましくない?オレたちも同棲までしてるんだし、そろそろ結婚しようよるりちゃ〜ん」
るり「………そうね」
集「おっ?」
るり「アンタの稼ぎがもうちょっとマトモになったらね」
集( あはは…オレもまだ新米教師だし、こりゃしばらくお預けかな… )
鶫「もしもし?あっ小野寺様ですか!はい、もちろん出席させて頂きますよ」
鶫「えぇ、はい……私もビックリですよ、まさかこうしてファッションモデルとしてお嬢のもとで働くことになるなんて」
千棘「鶫、小咲ちゃんから電話ー?」
鶫「あ、今お嬢がいらしたので……えぇ代わりますね、ではまた当日に…」
千棘「小咲ちゃん…結婚するんだね、おめでとう」
千棘「………え?やだなぁ、私だってもう大人よ?気持ちの整理くらいついてるって」
千棘「うん!今手をつけてる仕事がもう少しでひと段落するし、当日には間に合いそうかな」
千棘「………え、ホントに?うん、ありがとう!」
千棘「じゃあまたね、久しぶりに会えるの楽しみにしてるから!」
ガチャン
千棘「さて鶫、ちゃっちゃと仕事片づけちゃうわよ!手伝って」
鶫「は、はい!」
千棘「早速だけどちょっとこれ試着してみてくれる?」
鶫「こ、これ露出が多くありませんか〜⁉︎///」
*「間もなく新郎新婦の入場です…ご来賓の方々、拍手でお迎えください」
楽「………………」
楽「……ふぅ」
小咲「緊張してるでしょ」
楽「そういうお前こそ…」
小咲「えへへ、バレちゃった?」
楽「…………なんだか、夢みてぇだ」
楽「約束の女の子と再会して、こうして一緒になれる日が来るなんて」
小咲「私も夢みたい…でもこれが現実なんだよね」
小咲「奇跡だね…すごく……すっごく嬉しいよ」
楽「これからもよろしくな、小咲」
小咲「うん、こちらこそ…楽君」
ガチャン……
小咲「あ、扉が……」
楽「よし、行くか!」
小咲「………うん!」
原作では描かれなかったもうひとつのニセコイ物語は、これにておしまい。
願わくば、この愛が永遠に続きますように……