後日、テロリストや魔王軍の関係者という疑いが晴れたカズマたちはそのお詫びと褒賞があるとギルドに向かった。ルミは、差し押さえられていた武器などが多いのもあったので家に残って、返されてきたそれに不足がないか確かめたり、家具を配置しなおしたりしていた。
『もう少し暖炉側だったんじゃないかしら?』
「そうだっけ?………この辺かな?」
位置をある程度覚えていたアンナが、ルミにその場所を教える。
『…ええ、そのあたりだったと思うわ。そのソファでだいたい全部元の位置に戻ったんじゃないかしらね。』
「ふぅ、終わったねー。さすがに数が多いから大変だったよ。」
『お疲れ様。一応ものに触れるし私も手伝えればいいんだけど、力はないのよね…』
「大丈夫だよ、そんなに重くなかったから。」
『ソファとかタンスとか結構重かったと思うけど大丈夫なの?』
「これでも力はあるからこのぐらいなら平気だよ。カズマやダクネスぐらいでもまとめて片手で持ち上げられるしね。」
『そうなのね…冒険者ってやっぱり凄いのかしら…』
「どうなんだろ…カズマは力がないって自分で言ってたけど。」
『個人差かしら…まあ、ひと段落ついたみたいだし私はまたちょむちゃんと遊んでいようかしら。』
「ちょむちゃん?…ああ、ちょむすけのこと?ちょむすけはアンナのこと見えてるの?」
『そうなの。家の中で追いかけっこをしたりしてるのよ。』
「そういえばちょむすけが走り回ることが最近多いなって思ってたけど…あれってアンナを追いかけたり探したりしてたんだね。んー、アンナがちょむすけと遊ぶなら私は…ウィズのとこに行こうかな。うん、そうしよ。」
『あら、もしよければルミにも参加してもらおうと思ってたのに。』
「うーん…あんまり走り回ると花瓶とか割っちゃいそうだしやめとくよ。じゃあアンナ、私は行くからお留守番お願いね!」
『わかったわ。もし泥棒が来たら驚かせて追い出すわねー。』
○
アンナに留守を任せ、やって来たのはいつものウィズ魔道具店。ルミはいつものように気軽に扉を開いた。
「おはよー!ウィズいるー?」
「あ、ルミさんおはようございます!聞きましたよ、バニルさんを倒したんですね。」
「うん、みんなが頑張ったんだよ。私はほとんど何もできなかったけど…」
「片腕ですしそれは仕方ないですよ。」
「バニルはどのくらいにやったらこの世界に来れるのかな?前にウィズと話してる時にバニルには残機があるから地獄かどこかで復活できるって言ってたよね?」
「あ、バニルさんはもう帰って来てますよ。今は買い出しに行ってもらってます。これからはバニルさんも手伝ってくれると思いますから、冒険の役に立つあの道具をたくさん仕入れておかないと…!」
「あー…何か買うときはバニルに相談してからの方がいいと思うけど…」
「いえ、その必要はないはずです!あれなら絶対に売れます!売れるなら相談する必要もないですよね!」
「そ、そう?ならいいけど…」
「あ、そういえば今日はギルドに呼び出されていたんじゃないですか?」
「ああ、借金の代わりに持っていかれてた家具とかがたくさん返って来たから私は家でお留守番してたんだ。配置を元に戻したりするのが終わったからバニルがいつごろ帰ってくるのかが気になったから来たんだよ。」
「なるほど、そうでしたか。」
「少し待てば帰ってくるかな?」
「バニルさんが出かけてからかなり時間が経ってますから、もうすぐ帰ってくるかと…」
噂をすればか、店の扉が開く。そこには箱を抱えるバニルがいた。
「今帰ったぞ駄目店し…」
「バニルだ!お帰り!」
「む?ルミではないか。」
「めぐみんの爆裂魔法大丈夫だった?」
「前の身体という観点では無事ではなかったが我輩の存在という観点から見ればどうということはない。たかが残機を一つやられただけであるからな。何十、何百のうちの一つに過ぎん。」
「じゃあ元気なんだよね?」
「まあ、特に体調が悪いわけではないな。」
「それならよかった…」
「なに、我輩は悪魔であるからな。そもそも人間とはつくりが違う。心配はいら…む?」
「ん、どうしたの?」
「なにやら面白そうな話をしている二人組が店の前にいるな。」
「え?」
その時店の扉が開いた。そこにはルミが毎日顔を合わせている二人組、カズマとダクネスがいた。
「ウィズ、少し話が」
「へいらっしゃい!店の前で何やらシリアスな雰囲気で話していた二人組よ、今日はここに何の用かな?おっと、そっちの娘よ。我輩といるのは悪い気分ではなかったなどとむず痒いことを言われても我輩は悪魔ゆえに性別もないのでそんなことを言われても困る。おお、これはいい悪感情、大変美味である!」
どうやら外で何か話していたようでそれをバニルに言われてダクネスは膝を抱えてしゃがみこんでしまった。
「あ、いらっしゃいませ、カズマさん。聞きましたよ。バニルさんを倒したそうですね!」
「え、バ、バニル⁉︎どういうことだ、爆裂魔法を食らって無事だったのか⁉︎」
「あの爆裂魔法で無事なわけがなかろう。もちろん我輩は一度は滅びたが…悪魔には残機があってな。ここを見るがいい。」
バニルが指をさした、仮面の額にあたる部分に2を意味する文字が書かれている。
「2?」
「つまり、我輩は2代目バニルということだ。」
「なめんな!っていうか当たり前のようにルミがいるけど知ってたのか⁉︎」
「え?うん、知ってたけど…」
「な、なら何故言ってくれなかったのだ!」
恥ずかしがっていたダクネスがルミに軽く詰め寄った。
「俺たちはバニルが死んだと思ってたから、ルミは友達だって言ってたし落ち込んでるだろうなって思って気を使ってたんだ。」
カズマの言葉を聞いて、少しルミの表情が曇った。
「…ごめん、心配かけて。言っといたらよかったね…」
「いや、聞かなかったこっちもな。お互い様だ。ん?だったらなんとなく落ち込んでるように見えたのってなんでだ?」
「え?うーん、そんな風にしてたっけ?」
「ああ、失くした腕の部分を抑えて俯いたりしてただろ?」
「ん?…あー、これは何か最近違和感があってさ。ムズムズするんだよ。」
「ムズムズ?なんでだ?」
「わかんない。あとでアクアに診てもらおうかなって思ってるけど。」
肩より先がない腕があったところを見ながら、少しさすってみる。腕を失ったことで前とは違うことはあっても、こんな風に違和感を感じたことはなかった。
「おお、そういえばカズマとやら。汝に少し商談があるのだが…」
「ん?」
「あ、ダクネス、大丈夫?」
「…少しの間そっとしておいてくれ…」
「う、うん…」
「ルミさん、体調が悪いなら早めにアクア様に診てもらっておいた方がいいですよ。」
「んー、まあずっと気になっちゃってるしそうしようかな。カズマはバニルと何か話してるし。じゃあウィズ、私帰るよ。またね!」
「はい、また来てくださいね!」
○
そんなわけでルミは屋敷にそのまま帰ってきた。明かりはついていて、すでに何人かは帰ってきているようだ。
「ただまー!」
「おかりー。」
ルミの声にアクアが返す。すると少ししてめぐみんが玄関にやってきた。
「あ、帰ってきましたね。ちょむすけ知りませんか?」
「ちょむすけ?多分屋根裏部屋とかで走り回ってると思うけど…」
「屋根裏部屋ですか?」
「アンナが追いかけっこしたりして遊ぶって言ってたよ。」
「アンナ…ですか…うーん、ルミ以外に見えないのでどこにいるかわからないんですよね。アクアが悪霊じゃないけど何かが居る気がするって言っているので本当なんでしょうけど。」
「基本的にはアンナは屋根裏部屋を使ってるみたいだから多分いると思うよ。」
「そうですか。じゃあ見てきます。」
そう言ってめぐみんは階段の方に向かった。ルミが靴を脱いで居間に入ると、家具を持っていかれる前は当たり前だった、アクアがソファで寝転んでいる光景があった。
「アクアー、ちょっと診て欲しいんだけどー。」
「んー?どしたのー?」
「なんだか最近なくなった腕のあたりに違和感があるんだよ。」
「そうなの?まあ、このアークプリーストの私にかかればなんてことないわ。一回服脱がせるわよ?」
「うん、お願いアクア。」
「どれどれ…んー…これは…」
しばらくブツブツ言いながらアクアは患部を見る。
「どうかな?」
「喜びなさいルミ!腕が治るわよ!」
「えっ、ほんとなの⁉︎」
「ええ!今まではまるで魔法障壁があったみたいに魔法が効きそうにない状態だったんだけど、今は普通の状態に戻ってるの。私のヒールにかかれば肉体再生なんてちょろいもんよ。なんてったってカズマさんの首をつなぎ直したのも私よ!」
「じゃあ、お願いしてもいいかな!」
「任せときなさい!ヒール!」
そうして、ルミの片腕は元どおりになった。余談だが、再生していく腕を見るのはなかなかにグロテスクで若干ルミにトラウマが残しかけ、3日ほど肉を食べたいとは思えなくさせた。
○
「ってことで元どおりだよ。」
「おお、よかったじゃないっすか!」
腕が治った翌日、ルミは花壇で薬草を見ているとルミの様子を見にきたらしいアッシュがやってきたのでそんな報告をした。
「初めて会った時から片腕でしたし、こうして両腕があるルミを見るのも新鮮っすね。」
「そういえばそうだっけ。まだ少しリハビリがいるって言われたけど。」
「リハビリっすか?」
「うん。さすがに腕がなくなる前と比べるとやっぱり動かしにくいんだ。」
「あー、そりゃそうっすよね。…だったら、僕がリハビリ手伝ってあげるっすよ?」
「え?」
「運動がてらに、少しだけ試合みたいなのとかするのもありだと思うっす。」
「試合かぁ…」
「もちろん怪我しない程度っすよ?ある程度なら体を動かすのにちょうどいいしやって見る価値あるんじゃないっすか?」
「…確かにそうかも…ある程度実戦形式じゃないと感覚も戻らないかもしれないし、お願いしようかな。」
「じゃ、早速明日からここでやるってことでいいっすか?」
「うん、明日の朝もまた今日みたいにこの薬草を見てると思うから待ってるよ。」
「了解っす!じゃあ僕は今日のとこは帰るっすよ。ゆんゆんさんが少し心配なのもあるんで。」
「わかったよ。じゃあまた明日ね!」
「また明日っすー!」
そうしてアッシュは走っていった。本当にルミの顔を見に来ただけだったらしい。
「さてっと。…しばらくお薬は作ってなかったから結構量あるなぁ。でも、ある程度は減らさないとちゃんと育たないし、半分は抜いておこうかな。肥料も撒いておかないと。」
一月に2回は収穫できるほど成長が早いがその分栄養を多く吸ってしまい、近くにたくさんあると育ちにくくなってしまうことを経験的に知っていたルミはそこそこの広さがある花壇からいくらか薬草を引き抜いて部屋に運び込んだ。
ということでルミの左腕が完治しました。最近うたわれるもの要素がないですが、次回か次次回ぐらいに少し出る予定です。