この人ならざる『ヒト』に祝福を!   作:ヴァニフィア

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少し比率が少なめな気がしたのでダクネス回を。
騎士が先か変態が先か…


って、この台詞も2回目だったかな。

手軽なクエストもなくなってしまったのでカズマパーティーは各々数日間自由行動ということになった。どうしても金が必要なアクアだけはバイトをしているが。

 

「なんだかんだでけっこう来れてなかったからな…みんな元気だといいけど。」

「本当にこの森に住んでいたのか?」

 

ルミが荷物を取りに行くついでに友達の蟲に会いに行くと言った時、ダクネスが妙に興味を惹かれたらしく、手紙を出すだけにして実家に帰るのをやめ、こうして一緒にルミの元いた家に向かっている。

 

「うん。三年ぐらいかな。あ、道については迷いさえしなければそこまで広い森じゃないから心配しなくても大丈夫だよ?」

「それにしても、あまりモンスターに会わないな。この辺りは。」

「基本的に私の友達の蟲たちに悪いモンスターを追い払うように言ってたからね。森を守ってくれてるんだ。」

「その蟲たちというのはモンスターではないのか?」

「あー、その辺りどうなんだろうね。いつの間にやら仲良くなってたっていうか、元々仲が良かったっていうか?私にとっては友達だから考えたことなかったな。街とかで情報見ても同じ見た目のモンスターもいなかったから、モンスターとはまた違うのか、新種なのか…人間じゃないのは確かだけど。」

「種族は違っても信頼しているのだな。」

「まあうわっと⁉︎」

 

ルミの足元から黄色い大きな蟲が飛び出して来てきてルミはその上に乗った。ダクネスは装備していた剣に手をかけた。

 

「大丈夫かルミ!」

「あ、大丈夫だよ!この子が私が言ってた友達のうちの一匹だからね。」

「そうなのか?ふむ、これが…」

「もう、ぎぎりん!人を脅かしちゃダメって言ったでしょ!ぼろみあに言いつけるよ!」

「…ふっ…ははは、確かに大丈夫そうだな。しゅんとしてるこういう姿を見ると、確かに危険ではなさそうに見える。」

「でしょ?まあ、とりあえず家まで行こうかな。出発ぎぎりん!ダクネスも乗る?」

「いや、私はいい。…ところで、なぜぎぎりんという名前なのだ?」

「ああ、種族の名前がギギリだから。」

「その辺りも知っていたのか?」

「なんでかはわからないけどね。ちなみにこの森の中でなら呼べばみんな来てくれるよ。」

「ふむ、そうなのか。…しかし、ぎぎりんか…紅魔族の名前を思い出すな。」

「あー、あれかわいいよね。」

「う、うむ?そうだな…?」

 

 

ぎぎりんから他のギギリたちの様子を聞きながら、森の中ほどにあるルミの家にたどり着いた。

 

「ここが私のお家だよ!って、この台詞も2回目だったかな。」

「そうなのか?」

「1回目はカズマとアクアだよ。街に向かいたかったけど、方向とかわからなくなって迷っちゃったんだって。その時は時間が遅かったから一緒に泊まったんだ。」

「泊まっ…その時の話を詳しく。」

「え?夜遅くまでカズマとお話しして寝ただけだよ?アクアはすぐ寝ちゃったから。」

「オハナシして寝ただと⁉︎」

「あ、あれ?私なんか変なこと言ったかな…」

「あ、いや………そうだな、カズマは鬼畜だがそんなやつではないか…」

「?…ダクネスってたまに変になるよねー。よくわからないこと言ったり…まあいいけどさ。とにかく上がって上がって。」

「ああ、お邪魔する。…?見た目よりずいぶん狭いな?」

「カズマたちも同じこと言ってたよ。スペースのほとんどはこんなかんじにっ…と。お風呂場なんだ!」

「これは見事なものだな。自分で作ったのか?」

「うん!一度お風呂場を作らずに家を建てたことがあったんだけど、なんだか全然落ち着かなくてさ。この家はそれも入れて三代目なんだけど、いいかんじにお風呂場作れたから大切にしてるんだ。やっぱり家には落ち着けるところがなくっちゃね!」

「なるほど。…それにしても、2ヶ月も開けていたような感じがしないな。まだ生活感が残っているというか…」

「ちょっとした結界をね。お札を数枚貼るぐらいの簡単なやつだけど。」

「ルミは器用だな。私など盾にしかなれないぐらい不器用だからパーティーの役に立てるのかどうか…」

「よくわからないけど、カズマならきっと色々考えてくれるんじゃないかな?本人はステータスはそんなに高くないって言ってたけど、それとは別のところで賢いからね。」

「そうだな。初級魔法の使い方なども独創的ながらうまく考えて使っていた。私のこともうまく使ってくれるだろう。」

 

その時、家のドアから叩かれたような音が聞こえてきた。

 

「ん?なんだ?」

「あ、もしかしたらぎぎりんがみんなを呼んできたのかな。よっと。あれ?ギギッシュだけ?どうしたの?…なんか爆発音が森の端の方から聞こえてきた?」

「爆発音?……ああ、もしかしたらめぐみんの爆裂魔法かもしれないな。街の近くで撃ったら怒られると落ち込んでたのを聞いたことがある。」

「そうなんだ。めぐみんって本当に爆裂魔法好きだよねー。」

「生きがいと言っていたからな。」

「生きがいかぁ。爆裂魔法を使いたいからアークウィザードになって旅してるんだよね、めぐみんって。ダクネスは何か理由はあるの?」

「わ、私か?…ま、まあ、ステータスには恵まれていたから冒険者になって世界を回ろうかと…ル、ルミはなんなのだ?」

「私?私はほら、何か思い出したりするかなって思ってカズマとアクアについて来たんだよ。魔王を倒すって言ってるから色んなところにそのうち行くだろうからね。」

「そうか。…故郷や親が見つかるといいな。」

「あー…あはは、確かにそうだね。」

「そういえば荷物を取りに来ると言っていたが、何を取りに来たのだ?重いものなら手を貸そう。力には自信があるからな。」

「ああ、軽いものだからヘーキだよ。えっと…あったあった。この笛を探してたんだ。」

「ふむ、珍しい形をしているな。少なくとも私は見たことがない。どうやって吹くのだ?」

「ああ、こんな感じに吹くんだ。」

 

そうしてルミは少し拙いながらも綺麗な音色を奏でる。

 

「…こんな感じかな。まだ練習中だったりするからそこまで上手くないんだけどね。」

「…いや、いい音色だった。また聞かせてくれないか?」

「うん、もちろんだよ!次はちゃんと曲を完成させておくよ。」

「ああ、楽しみにしている。…今日はこれからどうする?まだ昼前程度だが。」

「そうだね…みんな元気に過ごしてるみたいだし、心配事もないかな。もう街に帰ろっか。いちおう爆発音はめぐみんの爆裂魔法だったのかも聞いときたいし。」

「では、もう一度元の道を戻ろうか。持って行くのは本当にその笛だけでいいのか?」

「うん。今日の目的はどちらかと言うとみんなに会いに来るのがメインだからね。そういえばダクネスはみんなに会ってみたかったみたいだけどもういいの?」

「ん?あぁ、まあ大丈夫だ。その、なんというか考えていた蟲とは違ったからな…」

「…?あぁ、もしかして私が襲われるとか思ってたの?大丈夫だよ。よっぽどなことがなければみんなおとなしいから。」

「いや、むしろ襲われたかったというか……んんっ!ま、まあそういうことなら帰ろうか。」

 

 

「到着っと!」

「往復するとなかなかの運動になるな。」

「だねー。ちょっと汗かいちゃったよ。お昼食べてからお風呂行こっかなー。」

「その前に門の手前で倒したジャイアントトードの運搬の手続きをしよう。その報酬で食べればいい。」

「あ、そっか、ちょっと忘れてた。弱いモンスターは全部逃げてると思ったけど、ジャイアントトードは地面の下に潜って冬眠の準備してるんだね。」

「人間と同じように全部が全部そういうわけではないだろうが、変わり者はいるということだな。」

「あ、それにしても、ダクネスって強いね。不器用で攻撃が当たらないって言ってたけど、当たればジャイアントトードが一発で倒れてたし。」

「確かに力も高めではあるが、今回のように当たったのは奇跡だ。あまり当てにしないでくれ。」

「器用さは上げたりしないの?普通の職業には基礎能力値を上げるスキルもあるって聞いたけど。」

「すぐに倒しては…んんっ、敵に攻撃するよりも味方への攻撃を私が受けるようにしているんだ。」

「防御力に一点集中してるんだっけ。みんなの盾になるって怖くなったりしないの?」

「大丈夫だ。楽しみ…いや、みんなに攻撃が集中するよりはよっぽどマシだ。」

「やっぱりかっこいいな、ダクネスのそういうとこ。」

「そ、そうか?なんというか、今まで冒険者をしていて褒められたことがあまりないから、少し照れくさいな…」

「あはは、確かに普通なら攻撃も当てて欲しい人の方が多いもんね。私たちのパーティーなら、めぐみんもいるから防御さえ何とかなれば敵は倒せるからちょうどいいのかも。」

「ああ、みんなと出会えて本当に良かったと思っている。もちろんルミともな。」

「うん、ありがとダクネス!あ、すいませーん!門のすぐそばでジャイアントトード倒したので運んでくださーい!ダクネス、一緒に唐揚げ食べよ?」

「ああ、そうしよう。」

 

 

「おや、ルミとダクネスはもう帰っていたのですね。」

「あ、カズマとめぐみん。おんぶしてもらってるってことはやっぱり爆裂魔法撃ってきたの?」

「まあな。めぐみんがいい感じの的を見つけたからそこにな。やっぱりってことは予想とかしてたか?」

「あー、あれだよ。ギギッシュが森の端の方から爆発音が聞こえたって教えてくれたんだ。ダクネスが街の近くで爆裂魔法を撃ったら怒られたってめぐみんが言ってたって聞いたからそうなのかなって。」

「ギギッシュってあれか。ギギリだっけか。あいつらって耳いいのか?」

「たぶん振動を拾ったんじゃないかな。そういうのにはけっこう敏感だったと思うから。」

「ふーん、そうなのか。ん?ダクネス、その唐揚げ余ってるのか?」

「少し頼みすぎてな。食べるか?」

「ああ、貰っとく。ちょっと小腹すいたし。」

「カズマ、私にもください。」

「わかったよ。…今度あそこに行くときはおにぎりでも持って行くかな。」

「今度ってまた爆裂魔法唱えに行くの?」

「そうですよ。1日1回撃たないと気が済まないですから。」

「ルミもついてきてくれないか?ステータス的に俺じゃおんぶするの疲れるんだ。」

「あー、どうしよっかな…ちょっとバイトみたいなことしてるからそっちしたいな。ダクネスは用事あったりする?」

「私か?特に用事はない。宿で体を鍛えようと思っていただけだから着いていっても構わないぞ。」

「じゃあお願いしてもいいかな?」

「いいのか?もし面倒だったら断ってもいいんだぞ?」

「おい、私の日課に文句があるなら聞こうじゃないか。」

「文句を言われたから少し離れたとこまで行かないといけなくなったんだろ…」

「お願いできます?ダクネス。」

「おい、無視すんなよ。」

 

結局、普通のクエストが復活するまではダクネスもこの日課に付き合うことになった。

 

 

ルミの方は、朝早くに森に行き、材料の草を摘んできてから傷薬や飲み薬を作るという作業を数日前から続けていた。この日はウィズの店で調合をしていた。

 

「…えーっと…この草をすり潰して……次がこれで…」

「こうやってこの飲むタイプのお薬は作ってたんですね…風邪が治ったとか、口コミで早くも人気なんですよ〜。」

「それなら良かった。効かなかった、とか怒られたらって思って少し怖かったんだ。あ、ウィズ、そこに置いてるの取ってもらっていい?」

「これですね。」

「ありがと…っと、だいたいこれで完成かな。で、後は…」

「後は?」

「おいしくなーれ!」

「ええっ?」

「ギルドのお姉さんがね、私が何か食べ物とか飲み物を作る時は絶対にこうしたほうがいいって。」

「あー…あはは…そういう…」

「実際美味しくなるのかな?これ。」

「…どうでしょう…」




ルミの前ではこれでも隠そうとしています。
うたわれるもの用語
笛…モデルはルルティエの笛。特別な効果は今の所ないが綺麗な音が出る。

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