僕が読みたいと思う二次創作『インフィニット・ストラトス』   作:那由他01

9 / 45
07:お見舞い

 肩に鎮痛剤を打ってもらって痛みはじわじわと引いていった。

 流石にグレネードを多用した戦法は肩にダメージが蓄積する。ISを身に纏っていても、ダメージは蓄積するものなんだよな、グレネード戦術は少し考えないといけない。だけど、第三世代を相手にする時は絶対グレネード必要だし、一回戦うくらいなら違和感を覚えるくらいで終わるだろうから……。

 

「御見舞に来たよーっていうか、機体を壊す前に肩壊すなんて、投手だったら二軍にもなれないよ」

「高垣さん……不甲斐ない不甲斐ない……」

「軽口叩けるならもう大丈夫そうだね」

 

 医務室に備え付けられているパイプ椅子に座り、苦笑いを見せる。

 ぶら下げている鞄の中から待機状態のナイフになっている打鉄を取り出して、静かに俺に渡してくれた。鞘から少しだけ刀身を見てみると美しく銀色に輝いている。俺が治療を行っている間に整備してくれていたのか……。

 

「今からどうでもいいことを話すけど、聞いてくれる?」

「いいよ、ちょうど暇してるから」

「病人がベッドに寝てるのは暇なことじゃないと思うんだけどさ」

 

 高垣さんは打鉄に指をさす。

 

「わたしのお父さんね、その打鉄の開発者の一人なんだ。だから、礼遇くんが自己紹介の時に打鉄を専用機にしてるって言った時、すごく嬉しかった。もう、開発、製造されて何年も経つ打鉄だけど、ラファールや試験段階の第三世代を使わないで打鉄を使ってくれる人が居て、本当に嬉しかった。実はわたし、男の人って、お父さん以外はあんまり好きじゃなかったんだけど、それでも、打鉄の整備をしてる時の礼遇くんの顔を見てたら、なんて打鉄を大切にしている人なんだろうって思うと……なんだか、嫌いになれなくて……」

 

 女尊男卑、ISの登場によって当たり前になった風習。だけど、こんな風に何かしらの接点があって、そして、通じる思いがあるのなら、好き嫌いなんて消えてしまう。彼女は、俺の大切な協力者であり、そして、仲間だ。

 

「俺も、この打鉄が大好きなんだ。実を言うと、初めて動かしたIS、こいつなんだぜ」

「えっ?」

「長崎で行われた適性試験、そこで俺は、この打鉄を起動させた。縁を感じたんだ。そのまま三綾重工に向かって、三綾の社長さんに会って、俺は真っ先にこの打鉄を専用機として貸し出してくださいとお願いしたんだ。そしたら、社長さんもすぐに了承してくれて、IS学園に入学するまではギリギリまで打鉄を扱えるように鍛錬の日々、瞬時加速もその時に覚えた。もう、この打鉄は俺の手足のようなものさ、それくらい、切っても切れない間柄ってところかな?」

「……本当に好きなんだね、打鉄。お父さんも喜ぶよ」

 

 時代遅れでも、乗り手次第では化けるのがISだ。どんなに拡張領域が狭かろうと、機動力が低かろうと、少ない長所を見い出せば、どんな最新鋭機にでも勝つことが出来る。オルコットの戦いで、やはり、戦闘は知略だということを心の底から理解したばかりだ。案を提示してくれる仲間がいる。打鉄を整備してくれる仲間がいる。俺の背中を押してくれる仲間がいる。だからこそ、俺も打鉄も万全の状態で強大な敵に立ち向かうことが出来る。弱くても、強い部分は必ず存在している。だからこそ、それを剣にして、盾にして、戦うのが俺のやり方だ。

 

「俺は、弱いけど、支えられたら強くあれると思う。だからさ、一年三組の皆で、俺のことを支えてくれないか? 居るんだろ、壁からヒソヒソ声聞こえてるぜ……」

「あらら、バレちゃったかーくじ引きでわたしだけが礼遇くんと喋れる権利手に入れたのにー」

「まあでも、皆のお陰で勝てた。また頼るかもしれない。その時は――お願いしていいかな?」

 

 いいよ、その声が聞こえた。本当に、頼もしいクラスメイト達だ……俺も、君達を守るよ……。

 

 

 一年三組が退却した後、俺は自室に帰る準備を進めていた。すると箒ちゃんと一夏がそろりと入室してきた。

 一夏は苦い表情を見せながらも、すれ違った時などの悲しそうな目をしておらず、少しだけ、光が入っている

ようにも見えた。

 

「礼遇……肩は……」

「大丈夫、鎮痛剤を打ったら治ったよ。グレネードをポンポン投げすぎたのが原因だ。一夏のせいじゃない」

「……そうか、でも、俺が、壊したから」

「いいんだ、人間なんて、いつか老いて壊れる。それが早かっただけ。それに、アレには、俺にも原因があった。おまえの心の状態も考えないで、ただ、餓鬼みたいにお願いしていた自分がいる」

「それでも!」

「一夏、これ以上話しても、水掛け論になるだけだ。互いに、もう一度名前で呼び合える仲に戻れたんだ。昔みたいに、幼馴染として会話するのは難しい、だけど、名前で呼び合う仲からはじめて見るのはどうだ? 織斑って言うと千冬さんも指しちゃうからさ、ビクビクしてんだ」

 

 一夏は袖で涙を拭い、そして、静かに握手を交わす。これでいいんだ。幼馴染に戻れなくても、友達には戻れる。名字で呼び合うほど、短い関係じゃないんだ。後は、時が自然に解決してくれる。

 

「礼遇……ありがとう……」

 

 一夏が退室した後に箒ちゃんが御礼の言葉を告げる。俺は苦笑いを見せて、静かにいいんだよ、それだけ言わせてもらった。

 

「一夏の表情が柔らかくなった。それだけでも、わたしは嬉しい……それに、あの頃の一夏の太刀筋に戻っていた。だが、幼い頃の太刀筋、成長しているんだ、もっと、強い篠ノ之流を叩き込まないといけない」

「それは、箒ちゃんに任せるよ。俺は、肩が壊れてるから、一夏には、何も教えられない。今回ばかりは、箒ちゃんにすべてを任せるよ」

「任された! 安心して、一夏の成長を見守ってくれ……」

 

 箒ちゃんも胸を張って静かに退室する。

 一夏、挨拶くらいはしてくれるよな、そうだったら、嬉しい。

 

 

 自室に戻るとちゃぶ台に食堂の日替わり定食がラップがかけられた状態で置かれていた。そして、その上に綺麗な文字で記されたメモが置かれている。書いた人の名前を確認すると織斑千冬と書かれていた。

 内容は食事が終わった後に、教職員達が酒類を購入する自動販売機まで来てくれというものだった。

 なにか悪いことでもしたかな、なんて、ゾクッとするが、食事が終わった後でいいと書かれているため、なんだろうか、叱る目的で書かれたものではないと推測できる。じゃあ、何かしらの頼み事があるのだろうか? 千冬さんが俺に頼み事をするとなると、一夏絡みしか想像がつかない。

 両手を合わせていただきますと一言告げてから、食事を開始する。冷めていてもとても美味しい。

 

 

 食事を終わらせて指定された場所に移動すると缶ビールをチビチビと煽っている織斑先生が静かにベンチに腰掛けていた。俺は、こんばんは、と、恐ろしげに告げると、ああ、と、重々しい声色で返してくれる。

 

「何か、ありましたか?」

「いや、少し話したくてな……呼びつけてすまない……」

「いいんですよ、生徒が先生に呼ばれたら行くことが普通ですし」

「今は、教師としての織斑千冬ではなく、一夏の姉としての織斑千冬としてあたってくれ」

 

 寂しげな表情だが、口元は笑っている。

 

「一夏と仲直りは出来たか……」

「仲直りとまでは言いませんが、また、名前で呼び合える仲になりました。それに、一夏の太刀筋も、あの頃に戻りつつあります。正直、少し怖いです……今日は、勝てました。ですが、次戦う時には、俺は勝てないかもしれません」

「いや、おまえは勝つさ、一夏とおまえでは、決定的に判断力、そして、戦略性の差がある。一夏はどう成長しようが、それらのキャパシティが低い。それに、剣道とISは違う。剣だけではなく、銃火器、はたまたミサイルまで飛び出してくる代物だ。一本のブレードだけで今現在の世界最強になれるのであれば、それは、私を真の意味で超えている。超えられないさ、一夏は、今現在のISの壁を……」

「……そうでしょうか」

「弱音を言わせてもらえば、私はタイミングが良かった。世界にISというものが発表され、世界中で製造される。そんな、最初期の時代で世界最強の名を手に入れた。そして、運良く二度目の優勝も攫えそうだったが、まあ、アクシデントというやつだ、決勝の前で事件に巻き込まれた。多分、三回目のモンド・グロッソに出場したとしても、私は勝ち進めなかっただろう」

 

 千冬さんは飲み干したビールの缶を握りつぶし、ゴミ箱に投げ入れる。財布の中から千円札を取り出して、もう一本、ビールを購入する。そして、プルタブを開け、喉を鳴らしながらビールを飲み進める。酒で寂しさや、情けなさを隠そうとしているのだろうか……。

 

「……素ビールは味気ないでしょう? 気を利かせて柿ピーあったんで、持ってきました」

「……気が回るな」

 

 柿ピーを千冬さんに渡すと静かに封を開けてチビチビと手をつける。

 

「私は、一つだけ……礼遇、おまえにお願いしたいことがあるんだ」

「なんですか?」

「……一夏におまえの背中を見せ続けてやってくれ。私では、一夏の手本にはなれない。だから、おまえが一夏の手本になってくれ……」

「すぐに追い抜かれますよ?」

「いや、一夏は絶対におまえを追い抜けない。おまえは、ISに乗ることにおいては、一夏と同じ天才だ」

 

 千冬さんは俺に指をさす。そして、苦笑いを見せて、

 

「何年もISに乗ってきた教師に勝った。最新鋭の第三世代機に乗る代表候補生に知略で勝利した。普通じゃあ出来ない。おまえも、天才だ。埋もれさせるなよ」

「わかりました。その言葉、絶対に忘れません」

 

 千冬さんに一礼をして、その場を後にする。

 何を馬鹿なことを、貴方は今でも世界最強に恥じない人だ。第二回モンド・グロッソ、俺は貴方の活躍を見ていた。第二世代の製造が安定し、試作型のラファールが登場するそんな時に、貴方は第一世代の暮桜を巧みに操作して、射撃をいなし、瞬時加速を使いこなし、そして、当時最新鋭だった第二世代を打ち倒していった。今、俺が貴方と戦っても、絶対に勝てません。技術を学んだとしても、絶対に勝てません。貴方は、俺が知る最強のIS乗りなんですよ……。

 俺は、貴方の背中を追いかけますよ……目標として……!




 ちょっち短め、でも、誤字脱字あったらオナシャス!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。