僕が読みたいと思う二次創作『インフィニット・ストラトス』   作:那由他01

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END:桜散り落ちて

「作戦完了――と言いたいところだが、お前たちは独自の行動により重大な違反を犯した。帰ったらすぐに反省文の提出と懲罰用の特別トレーニングを用意してやるから、そのつもりでいろ」

「……はい」

 

 帰投した俺達は問答無用で正座をさせられ、厳しいお叱りを受けている。かれこれ三十分くらいだろうか、流石に三十分も正座をさせられると足が痛い。でも、生きて帰ってこれたという事実には変わりはない。

 一年一組の副担任、山田先生がそのくらいにと言って織斑先生が説教することをやめた。

 

「じゃ、じゃあ、一度休憩してから診断しましょうか。ちゃんと服を脱いで全身見せてくださいね。――あっ! 男女別ですよ! わかってますか、織斑くん、宮本くん」

 

 わかってますって、と言おうとした瞬間に喉から湧き上がってくる違和感を感じる。絶えきれず、咳をするように吐き出すと、畳に鮮血が広がっていた。

 え、なんでだ……なんで、血が……。

 頭に響く鈍痛が息を苦しくさせ、そして、意識を持つことを拒絶させる。

 

 

「どういうことなんですか! 傷は無いって……」

 

 一夏が布団の中で呻いている礼遇を見て言った。

 千冬は特別な外傷は一つもない礼遇の姿を見て、何が起こっているのかと考え込んでいる。一夏は千冬に詰め寄るが、本当に何もわからないのだと言われて、歯を食いしばり、その場に座り込む。

 

「すべての臓器に異常はない」

「あーらら、これは面白いことになってるね~」

 

 束が窓から侵入する。礼遇を見守っている全員が束のことを睨みつける。そして、最初に動いたのは箒だ。礼遇に何をした! そう問い詰めるが、束は自分は何もしていない。パラサイトが勝手に自殺行為しただけだよと明るく言ってみせた。

 

「どういうことだ……」

「そのパラサイトがさっきまで乗ってたISね、第四世代型の失敗作なんだ」

「「「「「「第四世代型!?」」」」」」

 

 束は投射ディスプレイを取り出して、桜吹雪という機体の情報を映し出した。桜吹雪という機体は第四世代型を作る上で枝分かれした展開装甲を持つ機体であり、箒の専用機、紅椿より発展した物となっている。だが、発展し過ぎた為、開発はストップした。

 

「展開装甲ってのは、まあ、色々な場所でオールラウンダーに戦えるように設計してたんだけど、この第四世代Aプランは人体に与える影響が酷かったのさ。最初に展開装甲を発案した時にね、展開装甲の形というのを深く考えたのさね。Aプランがパラサイトが得た桜吹雪。Bプランが紅椿」

 

 Aプランの桜吹雪は展開装甲ではなく、拡散装甲というものを取り入れ、数千枚の装甲を状況に応じて移動させて機動力、防御力、攻撃力を与えるという計画だった。だが、その数千枚の装甲を直感的に移動させるにはISの学習プログラムでは難しかった。だから、体内にナノマシンを入れることによって解決しようとした。

 

「でもね、このナノマシンというのが曲者だったわけさ」

 

 人間の感情を読み取るナノマシン。それを体内に入れることによって感情の起伏や一枚単位での装甲の移動を可能にさせたが、それは人間の脳が耐えきれるようなものじゃなかった。束は言った。第四世代型Aプランの機体を一時間も乗ったら廃人になる。

 

「――礼遇が、廃人に……」

 

 箒と一夏は声にならない苦痛を表現できないでいる。さっきまで笑って会話していた人間が壊れて生きているのか、死んでいるのかもわからない存在になる。箒は自分が礼遇を選んだから、桜吹雪という化物を生み出してしまったと後悔の念で泣くことしか出来ないでいる。

 

「箒ちゃんの貴重な泣き顔ゲットー! あはは!」

「束ねぇ! 助ける方法は……」

「うーん、無いと思うよ」

「あるんだな……」

 

 千冬は束が濁した「無いと思う」という言葉に助ける方法はあるという意味を見出した。だが、束は助ける義理も無いし、人の死を乗り越えて人は成長していくと綺麗事を並べてそれを拒否していく。

 

「束ねぇ……お願いだ……一生に一度のお願いだ。礼遇を! 助けてください!!」

「わたしからもお願いです。助けてください!!」

 

 千冬以外の全員が束に向けて土下座をする。さて、妹を土下座させるこんなゴミに構う時間は無いと言い放とうとした時、千冬も静かに土下座した。その姿を見て、束は狂ったように礼遇を殴り、蹴り、そして、首を絞めた。だが、途中でそれが無意味なことだと理解し、手を離す。

 

「……なんでかなぁ。なんでだろうね」

 

 束は溜息を吐き出し、全員に部屋から出るようにと促す。千冬は信用するからな、そう言って全員を撤収させた。彼女は考えた。このパラサイトを生かすか殺すか、生かせば感謝される。殺せば軽蔑される。どちらも構わない。

 

「どういうシナリオで終わらせよっかなぁ」

 

 束は待機状態の桜吹雪、腕輪になっている桜吹雪にコードを差し込む。最初は桜吹雪が礼遇に送り込んだナノマシンの機能停止を行わなくてはならない。今も体の中を動いているナノマシンは薄れていっている感情というものを理解しようとして色々な薬を放出している。それを止めなければ正常な状態には戻らない。

 

「機能停止完了……」

 

 次は桜吹雪の初期化だ。桜吹雪がこのまま礼遇の腕に付けられている限りナノマシンの注入は続く。初期化して打鉄の状態に戻すのが先決だろう。今にもやーめたという声を響かせそうな顔で初期化をしはじめた。そして、桜吹雪は打鉄に戻り、ナイフになる。

 

「……やっぱり殺そう」

 

 束は礼遇の手に打鉄を持たせ、そして、喉に突きつける。目が覚めて恐怖によって自殺したとこじつければいい。誰も自分が礼遇を殺す瞬間は見ていないのだ。廃人になった人間が廃人らしく死を選んだと言えばいい。満面の笑みで突き刺す。

 

「――それは駄目だぜ、糞餓鬼」

 

 束の体が宙に舞う。咄嗟に受け身を取って礼遇を見ると一匹の狐がほくそ笑んでいた。束は私はか弱いウサギさんじゃないから消えな、そう言って狐を威嚇する。だが、狐は動じることなく、礼遇の腹部に座ってケケケと笑った。

 

「神社の小娘、おまえは何故こいつを殺す?」

「気に食わないからだよ……」

「気に食わないか、俺は逆だ。こいつのことを酷く気に入ってる。おまえみたいな神を信用しない者よりもな」

 

 束は一瞬で理解した。この狐は自分の産まれ育った神社の神様。どうして礼遇に取り付いているのかは知らないが、殺したいと思っているから殺すともう一度言って、礼遇の首に手をかけようとする。が、神通力によって束は畳に叩きつけられる。

 

「グッグググ……」

「なあ、小娘よ? おまえさんは天才と囃し立てられているらしいな。どうだ、下級の神を殺せそうか? ケケケ」

「殺す……絶対に――殺す!」

 

 束は自分が出せるすべての力を使用して神へと身を近づける。だが、途中から頭が働かなくなり、そして、意識が途絶える感覚が襲う。だが、彼女の人間離れした精神力がそれを許さない。

 

「なあ、小娘。おまえは玩具を大切にするか?」

「するわけねぇだろ……」

「俺と逆だな。俺は玩具は酷く大切にする」

 

 狐の尾が揺れた。礼遇の荒れた呼吸が静になる。神様がすべてを治したのだ。束はその姿を見て叫んだ。邪神の類いが! その言葉を聞いて狐は腹を抱えて高笑いした。

 

「人を救うのが邪神なら、人を殺すのが聖神なのだろうな。いやはや、奇跡を一つ起こしたくらいで邪神と言われるとは、面白いぞケケケッ」

「おまえは私の家の神だろ! 私の願いを叶えろ!!」

「神を従える者はおらん。神に従える者はおるが。まあ、どちらにせよ、おまえの願いなんぞ絶対に叶えない」

 

 束は全身の力を集めて一人と一匹に飛びかかった。だが、その攻撃は威力を失い、ボトリと地面に叩きつけられて終わる。そして、ようやく理解するのだ、人知を超えた力というものを。

 

「のう、篠ノ之の者よ、神というものが怖くなっただろう。貴様は現人神とも言われるくらいに囃し立てられ、そして、永久に忘れられない地位を得ている。だが、それでも下級神一匹にも勝てはしない。それは強い屈辱だろう」

「……グググッ」

「俺はこの者が死ぬまで取り憑く。貴様がどんなにこいつを殺そうとしても無駄足になるだけだ――諦めろ!!」

 

 束は悟った。自分は神格化される人物にはなっているが、神を超えてはいない。自分の家が祀っている神様一人にすら勝つことは出来ない。どんなに策を練ろうが、殺すことが出来ない。彼女がはじめて諦めるという選択肢を取った。

 

 

 目が覚めると箒ちゃん、一夏、ラウラ、シャルロット、セシリア、鈴さんが泣いていることがわかった。静かに、どうなってんだこれ? それを言った瞬間に全員が俺に抱きついてきた。もう一度、どうなってんだこれ? よくわからないが、何か悪いことが起こって、そして、良いことが起こったようだ。

 それからは早かった。自分が危険な第四世代型をセカンドシフトで呼び出して死の危機に立たされていたことや、箒ちゃんのお姉さんが俺のことを助けてくれたこと。助けられるというのに違和感を持ったが、あの人も人間だったのかという思いが交錯した。

 でも、言わないといけないことがある。

 

「ただいま」

 

 これを言わないと終われない。




 この作品を全話読み返しました。そして、思ったことは自分のレベルの低下です。

 楽しんで書いていたこの作品ですが、話を重ねるごとにレベルが大幅に下がっていることが理解できました。

 このまま話を続けていても、やがては低レベルなお話しになって終わるだけだけでしょう。

 読んでくださった方々には申し訳ありませんが、この作品はアニメ一期、原作三巻までで終わらせてもらいます。

 綺麗に終わらせることが二次創作の花というものです。

 この後の展開は色々と考えていました。でも、これ以上に綺麗な終わり方が出来るかどうかはわかりません。

 もしかしたら、気が変わって礼遇ちゃんの物語をまた書き連ねることがあるかもしれません。

 ホモは嘘つき。

 期待せず、そして、気長に待っていてください。

-追記-

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