僕が読みたいと思う二次創作『インフィニット・ストラトス』   作:那由他01

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30:自分らしさ

 目が覚めると医務室の消毒液臭いベッドに寝かされていた。肩にはプロテクターが装着され、左掌は新しい包帯が巻きつけられている。なんともまぁ、無様な姿だが、あれだけ戦って、勝ち抜いて、最後に殴り合いの正義の味方ごっこをやってしまったら頷ける結末と言えるだろう。

 

「重症だな、宮本」

「怪我に泣かされてる人生を強要されてるからな、慣れっこさ」

 

 銀髪の少女も顔にガーゼなどを貼られてベッドに寝転がっていた。

 互いに苦笑いを見せて、辛い笑い声を響かせた。

 

「一つ聞かせてくれ、おまえはなぜ強い?」

「強い? そんなの考えたことない」

「馬鹿を言うな、あれだけの技術を持ちながら強さを意識しないなどと……」

 

 清潔感が漂う天井を見上げて、静かに深呼吸を繰り返す。消毒液臭いが、まあ、こういう匂いも悪くはない。苦笑いを見せながら、彼女に返事を返す。

 

「強さってのは、まあ、他人が示す指標のようなものさ。自分自身が強さのレベルやランクを表現することなんて出来ない。強さってのは、他人が勝手に決めることだ。俺は自分を強いと意識したことない、そんな自意識過剰に生きられる程、余裕は持てないからな」

「……他人が決めること」

「だいたい、強い弱いを競うのは前時代的だろ。今の時代は自分らしさを競う時代らしいぜ? リベラルってやつだ。自分らしい強さってのもあるかもしれない。少なからず、俺は自分らしくありたいと願うね」

 

 彼女は静かに頷いて、自分らしさという言葉を何度も呟いた。俺はその姿に苦笑いを見せながら、ベッドから抜け出して彼女の前に立つ。

 

「おまえは自分らしく生きたことがあるか?」

「いや……私は幼い時から軍人として生かされてきた。今更、自分らしい何かを見いだせるわけが……」

「いやいや、それも一つの自分らしさだ。そうだなぁ、軍人なら、射撃訓練とか積み重ねてきただろ」

「ああ、多くの銃火器の知識を持ち合わせている」

「なら、暇な時に射撃訓練場に行かないか? この学校、日本とは思えない設備も揃っててさ、射撃訓練場もあるんだぜ。俺、近接戦はそこそこ立ち回れるんだが、射撃となるとてんで駄目で、指導してくれ」

 

 彼女は少し考えて、それが自分らしさと何の関係があるのかと質問してくる。

 

「知ってるか? 人間は遊んでいる時に一番自分らしく生きられる。まあ、射撃訓練は遊びかどうかわからんが、今回は遊びとして、楽しんでみようぜ。おまえの自分らしい姿、見てみたいしな」

「……それは、口説いているのか?」

「口説いちゃいないが、笑ってくれたら口説いちゃうかもな。俺は笑った女の顔が好きなんだ」

「ふっ……女ったらしだな……射撃訓練だな、いいだろう。祖国で学んだ技術を叩き込んでやる」

 

 包帯の巻かれた左手で彼女の頭を優しく撫でる。彼女は目を細めてそれを受け入れた。

 

「俺、クラス代表だから仕事があるだろうし、一回職員室に行ってくるわ」

「ああ、頑張ってこい……礼遇」

「ああ、ラウラ……あと、もう泣くなよ。泣いてちゃ、前が見にくいだろ」

 

 さてはて、最初の仕事はクラスメイトと箒ちゃんに怒られることだろうな。

 

 

 自分らしさ、彼女はそう呟いた。傷だらけの少年の背中は広く優しく、今まで感じたことのないような暖かさを感じていた。これは彼女が感じたことのない男性からの父性だった。試験管ベイビーと呼ばれる彼女に両親は存在しない。あるのは軍組織の上下関係だけだ。

 

「邪魔をする」

「教官……」

「宮本は傷だらけの体に鞭打って、仕事を処理しに行ったのか。休める時に休まないのも馬鹿の特徴だ……」

 

 千冬はパイプ椅子に腰掛けて苦い笑いをラウラに見せる。ラウラは初めて見る彼女の苦笑いに困惑していた。だが、不思議と暖かく感じた。

 

「教官、私は負けました」

「おまえと宮本は遊んでいただけだ。遊びに優劣は存在しない。だが、教師達が見ている前では全力で試合をしてもらいたいものだ」

「確かに……遊んでいたのかもしれません……」

 

 ラウラはにこやかにそう告げた。自分が初めて行った遊び、それは同い年だが大の男との殴り合い。訓練で殴り合い、投げ飛ばし合ったりすることはあったが、遊びでそれを行うことは無かった。だが、彼とのそれは不思議と楽しい遊びだと思えた。

 

「……おまえはまだ子供なんだな」

「……確かに、遊びにうつつを抜かすのは子供ですね。ですが、不思議と子供でも良いと思えました」

「……そうか、大人びたおまえが――年相応になったか」

 

 千冬は笑みを見せて礼遇と同じようにラウラの頭を撫でた。ラウラは酷く驚いた表情を見せながらも、すぐに優しい笑みを浮かべた。

 

「ラウラ、おまえは私にはなれないぞ」

「わかってます。私は――自分らしく、自分であります」

「そうか……もう甘やかさないからな、覚悟しておけ」

「はい、織斑先生」

 

 

 傷だらけの肉体に鞭打って職員室に向かっていたら仲良し三人娘と遭遇した。そして、俺の顔を見た途端にニンマリと笑みを浮かべて、なんで寝てないの? そう冷たい声を揃えて尋ねてきた。俺は苦笑いを浮かべて仕事片付けないといけないと思って、そう告げると広瀬さんが静かに携帯電話を取り出してメールを始めた。

 

「広瀬、ありがとう」

「箒ちゃん、なんで刀持ってるの? 俺は手ぶらだよ、いつも拳銃とナイフ持ってるけど、今日は珍しく手ぶらだよ。それに怪我してるから体が自由に動かないよ!」

 

 恐怖を通り過ぎると笑えてくると聞いたことがある。笑えてきたよ、女の子って怖いね。いやはや、昔から箒ちゃんには畏怖の感情を持っていたわけだが、今日はその畏怖の感情が本物の恐怖にクラスチェンジしましたね。やっぱり箒ちゃんはおっかねぇや。

 

「礼遇……おまえはどうして無茶ばかりを突き通す?」

「そうだよ礼遇くん」

「でもさぁ、俺は皆の代表だからさ、皆に背中見せないと。大きい背中を」

「「「「傷だらけの背中は見たくない」」」」

 

 多分、この世界に生まれ落ちて一番苦い顔を、苦い笑みを浮かべているだろう。確かに傷だらけの背中を見せたら逆効果かもしれないな……。

 

「……負けたよ。医務室に戻るのもあれだから自分の部屋に戻るかね。でも、傷が治ったら無茶するからね」

「ストッパーは沢山居るよ、頼ってね」

 

 仕事は片付けられなくなった。部屋に帰って風呂に入るか、傷にしみそうだが……。

 

「待て礼遇、おまえは医務室から逃げ出してそのまま帰れると思っているのか?」

「え?」

 

 箒ちゃんがニンマリとした笑顔で刀に手をかけた。

 

「礼遇、おまえはなんであの時戦った。そのまま寝かせておけば終わった話だろうが」

「……あの時、殴り合ってた方が、後味が良かっただけさ」

 

 箒ちゃんは溜息を吐き出して、俺の頬を思い切り叩いた。

 

「これでチャラにしておく。だが、無茶は友人を心配させるだけだ――それだけは覚えておいてくれ」

「ありがとう、箒ちゃん……」

 

 女の平手打ちは痛いね、心まで痛くなる。

 

 

 部屋に帰るとジャージ姿のシャルロットが暗い表情で座っていた。

 

「礼遇、おかえり」

「ああ、ただいま」

 

 軽い挨拶を交わして少しの間無言になる。

 五六分の時間が流れたところで肩に痛みが走り始めた。鎮痛剤が切れ始めたのだろう。仕方ないので痛み止めを棚から取り出して服用する。その姿を見たシャルロットはまた、暗い表情になった。

 

「心配するな、肩が痛くなるのは今に始まったことじゃない」

「でも……そうだね、礼遇は強いから」

「強い弱いじゃないと思うんだがな……いや、強がってるだけかもしれない」

「礼遇、僕ね……礼遇と一緒に戦いたかった」

 

 苦笑いを見せて、我儘を言わないでくれ、そう告げて風呂の準備に取り掛かる。だが、お湯が張られていて、温度も適温。彼女が沸かしておいてくれたのだろう。

 

「風呂、先にいいか?」

「うん、いいよ……」

 

 

 傷に少しばかりしみはするが、この痛みが心地良く感じてくる。もうそろそろ三綾からシャルロットの件での進展の報告が入ってくる頃合いだろうし、ここ数週間での出来事の終わりが見え始めている。でも、俺の仕事はまだまだ山のように残っている。気を抜ける暇なんて存在しない。

 風呂場の扉が開かれる。そこにはバスタオル一枚巻いたシャルロットが立ち尽くしていた。

 

「シャルロット……おまえ、何してんだ? さっき風呂、先にいいかって言っただろ……?」

「礼遇……僕を、女にして……」

 

 素っ裸で抱き合うことなんて初めてで、気が動転する。でも、不思議と嫌らしい感情は抱けず、ただ、どうして彼女がこの行動に至ったのか、それが不思議でならなかった。

 

「僕ね……礼遇に感謝してる。そして、好きだから、僕を……」

「シャルロット、確かに君は魅力的な子だ。だけど、こういうのは早いと思う。俺からしたら、君はクラスメイトで、守るべき存在みたいなもので……まだ、そういう感情はいだけない」

「でも、僕は君が好きだから。一緒にいたいと思うから……」

「俺が君を助けたのは、体を目的にしてたからじゃない。ただの、偽善に近いものだ。だから、恋愛感情なんて」

「それでも! 偽善だとしても!! 僕は……宮本礼遇という一人の男の人が好きだから」

 

 男として、こんな可愛い子に好かれることは嫌だとは思わない。だけど、この子を傷つけたくない。俺は全世界が注目しているモルモットのような存在だ。俺は常に危険に晒されている。この学校がまだ、安全だから気を抜いて生活できるってだけで……。

 

「……目を閉じな」

「……礼遇」

 

 それでも、俺のことを好きだと言ってくれる女の子がいるんだ。

 

「男のファーストキスがどれだけの価値があるかわからないが、はじめての口付けだ。これで勘弁してくれ」

 

 首に手をかけられ、そして、二度目の口付けが飛んでくる。

 

「セカンドキスも貰うね……絶対に、諦めないから」

「……もっと魅力的な女の子になりな。そしたら、考えるよ」

「考えてないくせに……」

「どうだろうね、俺だって男だぜ」

 

 俺も、彼女のことが好きなのかもしれない。だから、突っ返すことが出来ない。




 オリジナル書いたり、原作読んだり、アルバイトしたり、もう色々と重なりすぎて。
 少し蛇足入れて、次の話に飛ばして、二巻終了の流れかなぁ?

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