僕が読みたいと思う二次創作『インフィニット・ストラトス』   作:那由他01

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28:戦う前に

 無茶を押し通しすぎた部分が多かったが、どうにか立たなければならない地点に到着することが出来た。

 左手の傷口はまた開いてしまったが、痛みは感じない。肩の違和感は相変わらず存在しているが、湿布を貼り付ければ大丈夫な領域だ。後は時間が来るのを待って、そして、やるべきことをやるだけだ。

 

「今回は機体もボロボロにして体も痛めつけて、うちの代表は無茶しすぎるよ」

 

 高垣さんに申し訳ないと一言告げる。すると慣れっこだから大丈夫と笑みを見せた。そして、雪影Bはちゃんと使えるように仕上げたと優しく告げる。これでボーデヴィッヒと再戦できる。色々な人達からの期待と歩んできた道、負けは許されない。全力だ。全力で倒す。

 

「はい、二人共打鉄を預けて、完璧に仕上げるから」

「頼むぞ、高垣」

「了解」

 

 俺と箒ちゃんは彼女に打鉄を渡し、そして、短く握手を交わす。

 

「皆のお陰でここまで来れた。本当にありがとう」

「まだまだ試合は残ってるのに早いよ。勝って、そして、ありがとうって言って。サポーターのわたし達は二人を勝たせるために尽力するから……皆! 整備するよ!!」

「「「「「おー!!」」」」」

 

 高垣さんとその他のクラスメイト達は整備室に足早に向かった。

 その姿を見送った後、ロッカーの中から救急箱を取り出して湿布と換えの包帯を取り出して、湿布を右肩に、包帯を左掌に巻きつける。左掌の出血は二戦目より穏やかで、擦り傷を負った時程度のものだ。そこまで重症じゃない。箒ちゃんも出血具合を確認して、胸を撫で下ろしてみせた。

 

「湿布はわたしが貼り付けよう」

「ありがとう」

 

 上半身だけISスーツを脱ぎ、箒ちゃんに湿布を張ってもらう。顔が少し赤い。

 

「どうしたの?」

「いや……男の裸を普通は見ないからな……」

「まあ、綺麗に仕上がった肉体じゃないからね」

「いやいや……ちゃんと、綺麗に仕上がっていると思うぞ……色々と……ガチガチだし……」

 

 なんというか、自分まで恥ずかしくなってくる。なんで試合の緊張感より箒ちゃんの視線に緊張しているのだろうか、なんというか……言葉に出来ない恥ずかしさがある。

 包帯を巻き直し、ISスーツを綺麗に整える。試合まで一時間程度、これ以降の試合は時間の関係上、明日行われる。ボーデヴィッヒを下したとして、残る試合は二戦。その二戦に勝利したら優勝か、ボーデヴィッヒを倒すために突っ走ってきたが、ここまでくると優勝を目指すのも悪くないかもしれない。

 

「箒ちゃん……ここまで来たら優勝まで狙っていこうか。そして、優勝したら幼馴染三人で外に出て、美味しいご飯、食べに行こうよ」

「大口を叩くな、でも、おまえとなら優勝も出来そうだ。その誘い、受けさせてもらうぞ」

「では、わたくしも」

「面白そうだからあたしも混ぜなさいよ」

 

 セシリアと鈴さんがふてぶてしく現れた。そのタイミングの良さに俺も箒ちゃんも苦笑いを見せる。

 

「ハハハッ、いいよ。そうだなぁ、なら、優勝したらパーティーだ。どっかのホテル貸し切って、ビュッフェパーティー、お金は腐る程に貰ってるから、一晩貸し切る程度なら大丈夫」

「絶対優勝しなさい! 絶対よ!!」

「必死ですわね……でも、楽しみにしていますわ、優勝とパーティーともに」

 

 負けられない理由が増える度に自信が高まっていく。俺と箒ちゃんを応援してくれる人がそれだけ居るという自信が心を高ぶらせてくれる。可能性の欠片を拾っただけの存在が皆に支えられて、応援されて、これ程の祝福があるものか、いや、無い。

 

「えらく自意識過剰になっているな――二番目」

 

 振り返るとボーデヴィッヒが強い表情で立っていた。セシリアと鈴さんは身構え、箒ちゃんは闘志を燃やす。

 

「お前達に私を倒すことが出来るか? 万が一でも」

「そうだな、まあ、強がってるだけかもしれない。でも、強がれるだけの理由もある。それじゃあ不満か?」

「意味がわからない。人間の言葉を話してみせろ!」

 

 噛み付くボーデヴィッヒを鼻で笑ってみせる。今は虚勢を張ってみせることが重要だ。相手を油断させる。打鉄二機で何が出来ると思わせる。それだけでいい、それだけで勝ち筋が見え隠れする。見えてくれるだけでいい。隠れても構わない。光が見えたらそこに突き進むのみ。

 

「礼遇」

「何も言わなくていい。劣勢の俺達を笑い飛ばしに来ただけさ」

「ああ、そうだ。笑いに来た」

「この!」

 

 手を出そうとする箒ちゃんの前に立ち、手出しをさせないようにする。

 

「なぜ……そこまで冷静になれる! 答えろ!!」

「手の内は明かさない。試合で確かめればいいさ、俺達の作戦、そして、勝ち筋を」

 

 

 なぜだ。なぜ、なぜ、なぜ!

 酷く劣勢に立たされている筈なのに、なぜ、笑える? 荒ぶる片方を抑えられる!? どんな作戦を組み立てている……わからない、AICに弱点は存在しない。教官の零落白夜さえ、AICは受け止めてみせた。戦っている。私は、こいつと一戦交えている! だからこそ、奇策も押さえつけられる。それなのに、それを感じさせないこいつの態度は何なんだ!

 

「私は負けない。それだけは伝えておく……」

「そうだな、こちらの陣営は奇跡が起きたら勝てる。それだけは言っておく」

「奇跡だと? 笑わせるな! 戦いに奇跡など……!」

 

 踏み込めない。もう一度張り倒してやりたい顔がそこにあるのに、踏み込めない。わからない、なぜ、私は動けないのだ。こいつに憎さを感じていて、そして、殺意すら持ち合わせているはずなのに……一歩踏み出せない。

 

「……おまえが奇策に出ることは理解した。おまえの勝ち筋は潰れたも同然だ」

 

 そうだ、こいつは奇策に出る。それだけはこの短い会話で理解した。相手の筋を切り取れば、こちらは絶対の勝利を約束される。それだけで十分。実りある事実。

 

 

 彼女は理解していないのだろう。逆に勝ち筋が広がっていくことを。奇策に恐れを抱き、そして、自由に動けなくなることを。

 確かに、AICは一対一なら最強の存在だろう。だが、二対二、そして、俺が敗北から実らせた唯一無二の最強の弱点。ワイヤーブレードは箒ちゃんのワイヤーブレードで殺される。君の機体はそのAICに重きを置きすぎている。だからこそ、見えた弱点。武装の貧弱さ、そして、一筋の弱点。打鉄の防御力なら数発耐えられる。だからこそ、最低でも三回は使える弱点特攻。それを俺は成功させる。

 

「……試合で会おう」

「……その時の勝者は誰になるやら」

「……私だ」

 

 静かに過ぎ去っていく対戦相手の背中は俺の強気な態度によって萎縮していた。強大な力に弱点は存在する。それが事実。だからこそ、俺は強く出れた。

 

「礼遇……本当に勝ち筋は存在しているのだろうな……」

「そうですわ、そこまで強気に出れるのであれば、本当に奇策が」

「ある。それだけが事実だ」

「……勝ちなさいよ、負けたら許さないから」

 

 鈴さんが背中をコツンと優しく殴ってツンとした態度で去っていく。セシリアも心配そうな表情を見せながらも、では、と、一言告げて去っていった。

 

「礼遇、おまえには何が見えている……」

「勝利だよ。そして優勝。クラスメイトに泣かれる姿も若干」

「馬鹿者……いや、実らせろよ、その見えているものを……」

 

 さあ、試合の準備をしようか、頭の中の作戦を現実に実行する。それだけで十分だ。それだけで、俺は一年さん組を、箒ちゃんを、俺を応援してくれる皆を、連れていける。優勝という華々しい場所に。さあ、やるぞ!




 私情で遅くなりました。原作読み返したりするから、次も遅くなると思います。ごめんなさい。許してください! なんでもしますから!! (なんでもするとは言ってない)

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