僕が読みたいと思う二次創作『インフィニット・ストラトス』   作:那由他01

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23:彼女の決断

 時刻は深夜零時を回った頃だろうか。一人の少女が人気の無い整備室で重々しい通信機とノートパソコンを駆使して、これから情報を流し、そして、流したという事実を宮本礼遇に伝える。録音機の準備も上から送られてきたメールもすべてバックアップを取ってある。この場で失敗さえしなければ、彼女は礼遇、そして、三綾の手によって救出される。それが、彼女の一筋の光だった。

 

「定期連絡、シャルル……デュノアです」

 

 重々しい声色で通信機を使いこなす。通信に出たのは野太い声の男だった。彼女は淡々と礼遇の情報を流し、そして、ノートパソコンから雪影Bなどの詳細なデータが入ったファイルをメールで送った。

 

「……纏められた情報は以上です」

「……我々は貴様を監視している。もし、我々を裏切るようなことがあれば……」

「――ッ!?」

「……標的に悟られている可能性がある。三綾重工が大規模な会議を行っているという情報が入った」

 

 少女の体中に何かが這いずるような違和感が駆け巡る。そして、汗が滝のように流れ、呼吸が困難になる。

 酷く動揺している。

 なぜ、情報をリークした時点でここまでの探りを入れられるのか。

 なぜ、三綾重工が大規模な会議を行うことを知っているのか。

 なぜ、この男は疑うような声色をしているのか。

 体中に巡る恐怖が彼女の胸を締め付け、そして、呼吸を乱す。

 だが、この探りはブラフだった。本当にスパイとして任務を遂行しているかどうか、それは彼女の返事次第で変わってくる。

 

「……そう、なんですね」

「……君には宮本礼遇の誘拐を行ってもらう。訓練は受けているだろう? デュノア社の存続に関わる。君の誠意ある行動を期待する」

 

 悟られた、少女の曖昧な返事で悟られた。野太い声の男もこの手の道に精通している人間の一人だ、多感な時期の少女の心なんてわかりきっている。だからこそ、三綾重工の会議が自分達を買収するための会議であるということを理解する。そして、出来る限り行動を早め、自分達の利益を優先するために礼遇の誘拐を提示する。

 

「失敗したら……どうなるんです……」

「ありとあらゆる手段を駆使して君を殺す。それだけだ」

 

 通信が終わる。

 彼女には二つの選択肢があった。

 企業に従うか、

 礼遇に従うか、

 彼は自分の作戦を穴だらけと表現した。もう、企業側が送り込んだスパイが自分のことを殺そうと潜り込んでいる可能性もある。恐怖が体中を駆け巡り、そして、正常な判断を狂わせる。

 

「僕は……死にたくないよ……」

 

 

 シャルロットに呼び出されてやってきた整備室、そのには見慣れた金髪の少女が立ち尽くしていた。本部への連絡を済ませ、三綾に流す情報を纏めたのだろう。静かに彼女の元へ歩みを進めると震える手で彼女は……銃口を向けていた。

 

「礼遇……ドジしちゃった……」

「バレたか……」

「もう、僕……礼遇を誘拐しないと……生きれない! だから……」

「どのくらい悟られたんだ。言ってみろ……三綾で――ぐっ!?」

 

 一発の銃声が響き渡る。頬から流れる鮮血が白い制服に滴り落ち、そして、染み込んでいく。

 苦笑いを見せて、静かに彼女の元に歩みを進める。

 響く銃声、だが、引かない。引けない。

 

「あ、あぁ……ぼ、ぼく……」

 

 

 礼遇は僕が銃を撃っても逃げることなく、ただ、ゆっくりと歩みを進めていた。

 顔は苦笑いを見せ、頬からは鮮血が流れている。

 僕は……もう助からない。礼遇もデュノアも敵に回した。このまま、殺されるんだ……。

 嫌だよ、死にたくないよ……。

 でも、死ぬなら、自分の手で……。

 響き渡る一発の銃声、僕は、死ねたのかな……。

 

 

 滴る左手の平から流れる鮮血はシャルロットの可愛らしい顔を汚してしまっていた。今すぐにでもハンカチを手渡してやりたいのだが、生憎右手が上手く動かない。左手は血で汚れてしまっている。でも、よかった……。

 

「ど、どうして……どうして死なせてくれないの……」

「.32ACP弾じゃなければ貫通してたな。危ない危ない」

 

 腰が抜けている彼女は後ずさる。恐怖に顔を歪ませて、涙を流しながら、呼吸を荒げながら。

 俺は静かに抱きしめた。

 

「俺の心臓の音を聞け……止まってるか?」

「……動いてる……動いてる……うぅぅ」

「手の平を胸に置いてみろ、止まってるか?」

「……ちゃんと、動いてる……うん……」

 

 上手く動かない右腕で静かに彼女の頭を撫でる。

 怖かったのさ、結局はスパイなんて出来る程、心が強い少女じゃない。もしかすると、こうなることも理解していたのかもしれない、だけど、これも一つの結果だ。いや、結果はまだ先のことだ。俺は、彼女を自由にしないといけない。

 

「礼遇……僕……礼遇を撃った……もう……」

「言っただろ……俺は君を助けるって、どんなに撃たれようと、斬られようと、絶対に助ける。俺は、女の涙が大嫌いなんだ。大丈夫、笑えるようにしてやるから、絶対に……」

「でも、僕は裏切ったんだよ……」

「裏切ってない。怖かったんだ。怖かったから、こうなったんだ。心配するな、俺はその程度で見捨てるような奴じゃない。俺は、君の正義の味方だ。泣いている君に自由という花束を手渡す一人の存在だ」

「礼遇……うぁあああ! ごめん……ごめん! 僕、ぼく……」

 

 泣き止むまで静かに頭を撫で続ける。

 

「礼遇……逃げよう、逃げて、一緒に静かに暮らそうよ……」

「逃げるってどこにだ?」

「南米とか、あっちの方はラファール採用してないし、僕、語学は達者だから!」

「それも悪くないな」

 

 シャルロットの顔がパッと明るくなる。

 でも、その選択肢は俺の中には存在しないんだ。

 

「でもな、シャルロット。逃げた先に見えるのは後悔だけなんだ。俺は後悔したくない。今できる行動を精一杯して、駄目だった時に逃げるのが一番だ。なあ、シャルロット――おまえは本当の自由を見たくないのか? 一抹の可能性かもしれないが、俺に付いてきてくれないか……」

「でも……僕、怖いよ……」

「怖くても付いてきてくれ……俺はおまえの味方だから……」

「礼遇……信じていいの……僕、怖いよ……」

「俺が死んでも、おまえは絶対に守る。約束する。だから、一生のお願いだ……付いてきてくれ……」

 

 俺は、守らないといけないんだ。絶対に。絶対に……。




 後半は酔ってる状態で書いてるので、誤字脱字あったらオナシャス!
 シャルロット可愛いなぁ。

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