僕が読みたいと思う二次創作『インフィニット・ストラトス』 作:那由他01
目が覚めると消毒液の香りが充満する医務室のベッドの上だった。情けない限りだ、戦に敗れてしまったらしい。千冬さんが来なかったら、死んでいたかもしれない。本当に、情けない限りだ。
右肩は包帯でぐるぐる巻きにされていて、それなりの重症のようだ。だが、ギブスを装着されていないということは、骨に影響は無いと見た。大会当日までには、どうにか、回復するだろう。
「礼遇! ああ、礼遇……」
「箒ちゃん……一夏、それにクラスの皆……ははっ、負けちった」
「礼遇……大丈夫なのか……」
「ああ、強い鎮痛剤を打ってるみたいだ。違和感はあっても痛みはない」
あらら、全員泣いちゃってるよ、肩痛めただけなのに……。
でも、本当に心配してくれているってことがわかるよ。ごめん、俺、勝てなかった……。
「……礼遇、俺、絶対に」
「一夏、あいつは俺が倒す」
「馬鹿言うな、大会当日までに肩が治るかわからないんだぞ! 俺に任せてくれ……俺にも責任がある……!」
「そうかもな、だけど、ここは譲れない。俺は、あいつを倒さないといけない理由がある」
泣いてたんだ。
『……壊れた人形が、ご主人様が居なくなったら寂しくて泣いてしまうのか?』
『黙れ!!』
彼女は、泣いてた……とても寂しい顔で、涙を流していた。それを知っているのは、俺だけだ。彼女を倒し、あの寂しい顔をやめさせられるのは、俺だけなんだ。安っぽい使命感だ。女の涙が大嫌いなんて古臭い意地だ。みんな泣かせてしまった。だからこそ、皆を安心させるには、俺が寝込むんじゃなくて、一歩踏み入れなくちゃいけない。
「礼遇、意地を張るな……怪我が悪化したら……」
「確かに、悪化は怖いよ箒ちゃん。でも、俺だって男だ。張らないといけない意地は心得ている。差し伸べないといけない手の使い方も理解している。逃げたくない、俺は、絶対に逃げない」
「もう勝手にしろ! だけどな、俺が絶対にあいつを倒す。礼遇の仇を打つために……」
「言ってろ、倒すのは俺だ……親友」
「……意地張るなよ、本当に、親友」
一夏は袖で涙を拭って医務室から退室した。ありがとう、そして、ごめんな。俺は、やるべきことをやり通さないと収まらない性分でね、親友がどんなに願おうと、押さえつけようと、踏み入ってやる。そして、彼女にハンカチの一つでも渡さないとな……。
「礼遇くん……大会に出るのはいいけど、ラファールの修復は間に合わないと思う。予備のパーツを付け替えても内部奥底までに浸透したダメージを払拭することは無理。自己修復機能でどうにかする領域だから……」
高垣さんは暗い表情でラファールの具合を報告してくれた。あそこまで叩き潰されたのだ、大会に間に合わないのも頷ける。謝らないとな……俺の未熟さで負けさせてしまったラファールに……。
だけど、大会に出場するなら――もう一機ある。俺の機体は一機だけじゃない。
「大丈夫、打鉄がある」
「学校の打鉄を使うの? でも、使用許が下りたとしても三綾の武装を入れられるかどうか」
「いや、三綾の打鉄が帰ってきてくれる。そんな気がする。ごめんなさいって顔で帰ってくるさ……」
携帯電話の着信音が響き渡る。左腕で携帯を取り出し、電話を取る。
「もしもし、宮本です」
「宮本さん、打鉄のロックを外すことに成功しました。東京支部に輸送しています。ですが、雪影はデータを改ざんされ、零落白夜が発動できない状態になっています。ラファールの雪影Bを加工して打鉄に移植します。技術者もそちらに向かわせる予定です」
「ありがとうございます」
通話が終わり、そして、皆に苦笑いを見せる。
「もう一機の相棒が戻ってくる。整備で忙しくなりそうだ」
戦う準備は肩以外は揃っている。大丈夫、弱気にならなければ勝てる。
「手伝うよ、わたしは礼遇くん専属の整備士だから!」
「「「わたし達も!」」」
「じゃあ、ラファールの最低限の整備をお願いする。俺の愚行で壊してしまったんだ、見た目だけでも綺麗にしてやってくれ……打鉄が帰ってきたら俺も整備を手伝う。多分、指揮しか出来ないと思うけど」
「今度は壊しても肩は壊さないようにね」
「了解」
三組の皆が胸を張って医務室から出る。早く肩を動かせる状態まで持っていかないとな……。
「礼遇、おまえは……」
「男の意地だ。曲げられない」
「何も言わないさ、だが……支えさせてくれないか?」
箒ちゃんは一枚の書類を俺に手渡す。大会の書類、箒ちゃんの名前が書かれてある。その下に俺の名前を書けば、正式にコンビとして大会に出場することになる。
「わたしは弱い。一夏はわたしとは出ないだろう。多分、ボーデヴィッヒを確実に倒すために、専用機持ち……おまえのクラスのデュノアと出るのではないか……」
箒ちゃんと共に大会に出場するのは自殺行為だ。確実にボーデヴィッヒと対戦するなら、もっと他のISの扱い方が上手い生徒に頼るべきだろう。でも、箒ちゃんは俺の隣で戦いたいと思っている。技術もない、才能もない、それでも、隣で何かをしてやりたい。そんな、心意気が感じられた。
「箒ちゃん……足を引っ張らないと約束できるか……」
俺だって本気だ。確実にボーデヴィッヒを倒して、彼女の涙の意味を確かめないといけない。だからこそ、本来なら高垣さんか向坂さんのような腕の立つ人を隣に立たせるべきだと心得ている。
「わからない……わたしは弱い。力になれないのはわかってる。でも、支えたい。大切な幼馴染を――支えてやりたい……」
「……泣かないで、箒ちゃんの思いは伝わった」
「礼遇……」
「箒ちゃん……勝つためには手段を選ばない。武の道の逆を歩くかもしれない。それでも、俺についてこれるか? 極悪非道と罵られるかもしれない。惡の華を心に咲かせる必要だってある――それが出来るか? 篠ノ之箒!」
箒ちゃんの涙は消えた。そして、真っ直ぐ。
「ああ、咲かせてやる。極悪の花を」
「よし。じゃあ頼る。箒ちゃんは俺の相棒であり、共犯者だ。作戦会議や武装の選択をする日は呼びに来るから時間がなくても来てくれ。一日でも出席できなかったらすぐにコンビを解消する。それくらい俺も意地になっている」
「わかった。礼遇の相棒として、共犯者として……腕を振るわせてもらう……」
やっぱり、箒ちゃんは笑った顔がかわいいな……。
2
「宮本……」
「織斑先生……」
箒ちゃんが医務室を出て約十分後に織斑先生がバツが悪そうに入室してきた。腕の中には分厚い茶封筒が抱かれている。多分、ボーデヴィッヒの処罰についての書類だろう。
「ボーデヴィッヒが起こしたこの件、私はドイツに報告を入れようと思う。自分が育てた教え子の一人だが、ここまでするなら、容赦は出来ない。専用機も取り上げられ、代表候補生の地位も奪われるだろう。大会の出場も停止させる……」
「そこまでしなくていいです。報告もしなくていい、大会にも出場させてください。俺が、倒します」
「その体で何が出来る!? 大会当日に回復したとしても、その間の練習が一切できない。相手は……真の意味で戦い方を教え込んだ――軍人だ」
織斑先生は静かに下を向く、そして、唇を噛み締めた。
多分、あの時、平手打ちをされた時、ボーデヴィッヒに自分は教師としてこの場所で教え子を見守りたいと遠回しに告げたかったのだろう。そして、彼女のことも見守りたかった。だが、それを逆の方に取られてしまった。自分が一目置いている生徒を倒してみせろ、殺してみせろ。そうしたらドイツに帰らないこともない。そう、取られてしまった。悪い意味で彼女は単純だ。言葉の意味を正しく理解できていない。
「戦い方はわかりました。弱点も見つけました。次は、絶対に負けません」
「だが、おまえのラファールは……」
「打鉄が治りました。心配しないでください」
「尚更無理だ。打鉄で何が出来る……」
「確かにそうですね、打鉄で何も出来ないならその程度だったってところですかね? でも、打鉄で何かが出来るからこそ、織斑先生は――一夏じゃなくて、俺の方を例えた。期待しているんでしょう、俺が、彼女に何かできる事を」
織斑先生は静かに俯いた。
「それに、泣いてたんです。彼女……とても寂しそうに……」
「……そうか」
「多分、孤独だったんでしょう。強い存在だからこそ、孤独になる。誰かに似ていて、放っておけない」
「……頼めるか、無責任な願いだとは心得ている。それでも、ラウラを――助けてやれるか……」
「ええ、俺は一人じゃない。多くの仲間が居て、そして、心強い先生もいる。向かうところ敵なしです。心配しないで、男として、やれることはやります」
昔気質な男だな、なんて苦笑いを見せた後に茶封筒を真っ二つに破り捨てた。
「男というのは生きにくいものだな」
「男は自由ですよ。ただ、世界が狭く見えるだけ」
「頼むぞ――礼遇」
「任されました――千冬さん」
シャルロットのことも、ボーデヴィッヒのことも、多忙だな、俺……。
文字に脂が乗らない。次はネットリ脂っこく絶対に書きます!
誤字脱字あったらオナシャス!