僕が読みたいと思う二次創作『インフィニット・ストラトス』 作:那由他01
場所はIS学園の整備室、俺のことを助けてくれたラファールを静かに撫でる。おまえが来てくれなかったら、俺は、死んでいたかもしれない……。
紅色のラファールは喜んでいるように見えた。
「礼遇くん、打鉄のことなんだけど」
高垣さんが苦い顔でタブレット端末を手渡した。複雑なロック、企業が施すISのロックなんて子供騙しと言われそうなくらい、強いロックを掛けられている。セシリアと更識さんの方を見てみると、静かに部分展開をしてみせた。俺の打鉄だけ、ここまでのロックを施されているのか……。
携帯電話が震える。確認すると三綾重工からだった。
「もしもし」
「ラファールと打鉄は大丈夫ですか?」
「ラファールはほぼ無傷です。ですが、打鉄は……何者かによって強固なロックを掛けられてしまいました。学園側で解除を試みましたが、ここまでのロックは専門の人に頼らないと……」
「そうですか……打鉄は三綾のスーパーコンピューターで解除を試みます。その間は、ラファールを使ってください」
「いいんですか?」
「ええ、社長が宮本さんを助けに無人で動き出したんだとラファールを評価していました。それに、研究用のISはまだまだあります。お気になさらず」
ラファールをもう一度撫でる。すまないが、打鉄が使えるようになるまで、俺の相棒として働いてくれ、俺は、ISが無いと戦えないような、弱い人間だから……。
「高垣さん……向坂さんに会いに行ってくる……」
「……うん、わたしも付いていく」
「セシリア、更識さん……ごめん、色々と巻き込んで……」
「礼遇さん、貴方は何にも悪くありませんわ……お気を落とさずに……」
「……うん」
整備室を後にし、医務室に歩みを進める。
2
医務室に入ることを躊躇う。だが、一歩を踏み出さなければ、俺は、一年三組のクラス代表、皆を守る存在だ。それなのに、俺は、守るべき存在に守られた。向坂さんを……傷付けた……。
高垣さんが背中を思い切り叩く。
「礼遇くん、もしかして、自分が悪いとか思ってる? それは違うよ、だって、礼遇くんは悪くない。悪いのは、学園に侵入した犯罪者。悪くないよ、ただ、間が悪かっただけ……」
「高垣さん……」
「胸張って、そして、ありがとうって言いなさい……」
「ありがとう……」
高垣さんの言葉を聞き、静かに医務室に入る。すると窓の外を眺めている向坂さんが居た。そして、俺の顔を見て、にこやかに笑う。胸が痛くなる。
「宮本さん……よかった、怪我はないですね……」
「でも、向坂さんが……」
「何を言ってるんですか、あの時、わたしが助けなかったら……死人が出てたんですよ……」
「ありがとう……そして、ごめん……」
向坂さんは笑いだした。そして、優しい微笑みで、告げる。
「わたしが認めたクラス代表は貴方だけ……宮本さん、わたしは、貴方以外を代表とは思えない」
「……向坂さん、ありがとう」
「いいんですよ、わたしは、貴方の味方です……」
ごめんな、そして、ありがとう。俺は、絶対に誰も傷付けない。誰よりも強くなって、君達を守る。絶対に、絶対に……。
3
「皆、集まってもらってすまない」
織斑先生が真剣な口調、表情で一言告げる。そして、学園のすべてのクラス代表が静かに頷いてみせた。
一夏の方は緊張気味になっており、落ち着かない様子だ。
「まず、本日の大会に現れた謎のISと謎のロボット、出所を学園側で細部に至るまで調査したが、わからないとしか言いようがない状態だった。だが、このまま大会運営は出来ないという事だけは言える。すまないが、諸君の活躍の場は締め切らせてもらう」
全員が静かに頷いてみせた。
出所不明のISとロボット、ISに至っては、無人機だ。無人のISなんてこの世界のどの国も開発出来ていない代物、出所を安々と現すはずがない。つまり、国、いや、世界でも有数の何かが関与しているのか? 思い当たる節は――篠ノ之束……いや、箒ちゃんのお姉さんを犯罪者にするのはいけない。家族が犯罪者なんて、そんなの、あんまり過ぎる……。
「話は以上だ。三年生から順次退室してくれ」
クラス代表が静かに退室していく。
この事件、あまりにも不可解なんだ。IS学園を襲撃するなんて、練習機を確保する名目以外に思い浮かばない。なら、収納庫に無人機を持っていくはずだ。それなのに、事を荒立てるように、大会が行われているアリーナに侵入し、一夏と凰さんを襲った。それに付け加えて、無人のロボットも投入し、生徒を襲撃した。いや、俺のことを回収するつもりだったのか? いや、それは無い。もし、俺の回収をするのなら、無人機一機で十分だ。それなのに拳銃を一丁持たせたロボットを何機も連れてきて、俺のことを狙っていた。殺害が目的。それに付け加えて、ジワリジワリと弱らせて死んでいく様を見たいから、拳銃だけを持たせた……これなら、辻褄が合う。
「宮本、退室しないのか?」
「あ、すいません……この襲撃のことを考えていて……」
織斑先生に声をかけられて意識が戻る。
深く考えたいが、相手の行動があまりにも可笑しい。浅い、浅いのだ。まるで、一夏の方に無人機を送った理由が、彼を活躍させるために……俺の方に送ったロボットと無人機は、殺害するために……。
「……食事を取りに行こう。今日は、色々あったからな」
「はい、織斑先生……」
何で、こんなことが起きたんだ……誰の策略なんだ……。
4
織斑先生に食事を奢ってもらって、風呂に入って、天井を眺めていた。
今日一日の騒動、そのすべてが理解できない。いや、理解している部分もあるが、それは、深い何かを持っていない。会ったこともない、見たこともない、ただの個人が思い付きで行ったようなこの事件。確実に命を狙っていた。女尊男卑主義者が起こしたのだろうか? いや、彼らにそんな技術力はない。なら、三綾と敵対している重工が起こしているのか? それは尚更無い、俺を殺すくらいなら、拉致する筈だ。
……篠ノ之束、箒ちゃんのお姉さんなら、ありえる。
「なんで、箒ちゃんのお姉ちゃんが……違ってくれ……」
十六番物置の扉がノックされる、静かに立ち上がって扉を開けると箒ちゃんと凰さんが立っていた。
意外な組み合わせだと思いながらも、いつものように部屋に通す。
「緑茶、ウーロン茶、紅茶、なんでもあるよ」
「別に構わないでいいわよ……手短に話すし……」
「いや、お客様は神様さ、箒ちゃんは冷たい緑茶でいいかな?」
「ああ、頼む」
「……ウーロン茶」
「うん、わかったよ」
二人にお茶を淹れて、ちゃぶ台を囲む。
それにしても、犬猿の仲だと思っていたのだが、少しは話すようになったのだろうか? 女の子は仲良くしていた方が色々と栄える。
「……単刀直入に言うわ……ありがとう。うちのクラスを纏めてくれて」
「う、うん」
「あたしは……目の前の敵のことしか考えてなかった。一夏と一緒に戦えることが嬉しかった。だけど、自分のクラスの全員を蔑ろにしていたって、今更だけど気づいたわ……」
彼女もクラス代表、自分が纏めるべきクラスを纏められなかったことを少し遅くなって気が付いたのだろう。一組は一夏が居なくてもセシリアのようなポテンシャルの高いまとめ役が居る。四組も口下手だが、更識さんが居た。三組はお調子者が多いけど、俺が駆けつけられた。二組だけが、誰も居なかった。悔いているのだろう。だけど、考え過ぎることはいけない。
「いいんだよ、困った時はなんとやら。助け合いの世界だ。それに、俺が先に戦っていたら……凰さんが皆を誘導してただろ? だから、俺は何も言わないよ。ありがとう」
「鈴でいいわ、名字で呼ばれるのは……慣れなくて……」
「じゃあ、鈴さんでいいかな。これからも、よろしく」
照れくさいわね、と、一言告げて握手を交わす。根は優しい子なのだろう。
「じゃあ、お礼も言えたし、あたしは行くわ。ウーロン茶ありがとう」
「どういたしまして」
鈴さんが退室して、箒ちゃんが少しだけ寂しそうな顔を見せた。
多分、中継室のことだろう。
「礼遇、すまなかった……自分の思い付きで……」
「いいよ、俺は、あの行動に何も言わない」
「それでも!?」
「箒ちゃん、一夏のことをどうにかして助けてあげたかったんでしょ? それに何かしらを言うつもりは微塵もないよ。ただ、生きててよかった……箒ちゃんが死んだら……」
「礼遇……ありがとう……」
女々しいな、俺……。
向坂さんのことで胸が痛かった。箒ちゃんの言葉で胸が痛かった。全部全部、自分の仕業のようにも思えた。高垣さんは悪くないと言ってくれた。だけど、心の奥底では、自分に責任の一端があるのではないか、そう思ってしまっている。
「礼遇……泣いてるぞ……」
「ごめん、色々とあったからさ……自分の無力さが情けなくて……」
「おまえは、やれるだけのことをやった……だから、恥じる必要はない」
箒ちゃんが静かに抱きしめてくれる。温かい。
「箒ちゃん……俺、皆を守れるかな……」
「守れるさ……おまえは強い……」
ありがとう箒ちゃん……もう、誰も傷付けない。俺が守ってみせる……。
誤字脱字ありましたらオナシャス!
こんな自分が読みたい、自分勝手に書いている物語にお気に入り登録してくれてありがとナス!