僕が読みたいと思う二次創作『インフィニット・ストラトス』   作:那由他01

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番外:少女達の思い、天災の困惑

 シャワーの流れる音が彼女を癒やす、そして、胸に抱いた思いが心を締め付ける。

 三綾重工の企業代表、クラス代表、その肩書を持つ少年は、多くの生徒からお飾りという視線を浴びていた。織斑千冬の弟の織斑一夏とは違い、後ろ盾なんてものを持ち合わせておらず、なぜだか三綾重工の企業代表で、専用機は時代遅れの打鉄、実力なんて大したものじゃないというのが、このIS学園での大多数の見解だった。だが、それは一度の勝負で覆る。

 練られた戦略、大胆な行動、完璧な攻防のタイミング、彼の戦い方は第二世代ISを専用機として借り受けている代表候補生に匹敵、いや、凌駕していて、多くの生徒達が息を呑んだ。それくらい、彼が示したインパクトは大きく、あの戦いを見た全ての生徒が二つ返事でこう答える――彼は強い、お世辞抜きで。

 

「……宮本礼遇」

 

 セシリアは静かに彼の名前を口にする。数時間前まで嫌っていた男の名前、だが、今の彼女は彼に対して尊敬の念に等しい何かを抱いていた。初めて出会った自分より強い男性、女性の権威が強くなったこのご時世、ISを身に纏い、戦える男性は二人だけ、その片割れは、本当の意味で天才と呼ばれても差し支えない何かを持ち合わせていた。強い男、そして、面白い男、それが彼女の好奇心を刺激してやまない。

 彼女は彼の瞳に惹かれていた、あの絶対に諦めない、静かな闘志を燃やすあの瞳に。

 彼女は彼の意思に惹かれていた、自分が纏めるクラスを絶対に守ろうとする、強い意思に。

 彼女は彼の強い言葉に惹かれていた、絶対に慢心することなく、絶対に他人を否定しない、優しく、強い言葉に。

 

「(……父は弱い人でした。他人の顔色ばかり伺う、そんな、弱い人……)」

 

 貴族の家に婿養子として入ってきた父は、幼い少女に強い父親の姿を見せることができなかった。男は弱い存在、そんな固定概念が生まれ、そして、固まっていた。だが、それを思い切り破壊する礼遇の姿は、非常に痛快でインパクトが強く、勘違いしている少女の心を一瞬で正気に戻らせた。

 第三世代の最新鋭機、相手は第二世代、それも初期に製造された時代遅れ、彼女は慢心していた。彼が使う打鉄に長所なんて存在しないと胸を張って、一瞬で終わらせられると言い聞かせて、だが、蓋を開けたら彼女は打鉄の長所に、少年のポテンシャルに劣勢を突きつけられた。最初は慢心していただろう、だが、その慢心はすぐに消え去り、全身全霊の戦いを行った。だが、彼は知恵を使って勝利をもぎ取った。その姿は、ISを纏う少女なら誰しもが憧れる織斑千冬のようにも見えた。彼女もまた、時代遅れで最新鋭のISを倒してきた存在なのだ。

 第二回モンド・グロッソ、ラファールの試作機が参戦するその場所に第一世代IS暮桜を身に纏った千冬は立っていた。セシリアも彼女の戦いを見ていた。多くの解説者が第二世代の壁を超えられないと議論している中で、彼女は全てを覆すように勝利を重ねていった。不思議と嫌味は感じられず、自国の代表が敗れようが、不思議と爽快感があった。強いと同時に賢い、それが心の中を巡る。その姿を見ている彼女は、彼のことを織斑千冬に酷く似ていると思ってしまう。時代遅れで最新鋭を倒す爽快感、それは、とても強く、憧れのようなものを植え付ける。

 

「憧れ……なのでしょうか……」

 

 両親が列車事故によって他界し、多額の遺産を相続した彼女は、必死に勉強を重ね、家を守ることを心の底から誓っていた。そして、ISの適正でA+を叩き出し、強き女の徴とも言えるISの世界に足を踏み入れた。祖国が彼女を必要とし、彼女が祖国を必要とする。そんな関係、そして、強くなる、気高くなる道を歩んだ。だが、彼女に目標なんて存在しなかった。ただ、我流に等しい何かを得て、そして、使用する。彼女の専用機、ブルー・ティアーズのBT兵器はまだまだ試験段階の武装、それらをこう動かした方がいいなどの完璧なマニュアル、目標などなく、彼女の我流は伸び続けてきた。だが、彼女には目標が必要だった。我流で強くなることは不可能じゃない。だが、我流を押し通しても、絶対に踏み込めない領域が存在してしまう。その領域に足を踏み入れるためには、やはり、目標や師をたてる必要がある。彼は、宮本礼遇は、その領域に片足を踏み入れていたのだろう。織斑千冬という、高い壁を追い求めて……。

 我流を極めているからこそ、目標ある礼遇に憧れる。師はなくても、師と思って尊敬する人がいる。彼女は、そんな姿にも、惚れ込んでいた。

 

「……あの方は、凄い人ですわ」

 

 赤くなる顔は、恋する乙女そのものだった。

 

 

 彼女は、宮本礼遇という少年を知っている。幼き頃から互いに剣の道を歩んだ同志とも言える存在だった。

 彼女は、今の宮本礼遇という少年をあまり知らない。肩を壊し、篠ノ之流とはまた違う、我流の剣を探した彼を彼女はあまりしらない。知らないからこそ、彼が勝利した姿が、目に焼き付いてしまう。決して美しい一方的な戦いではなかった。逆に泥臭く、一歩間違えれば落とされる寸前の勝負だった。だが、その姿は強い男の背中を見せていた。消えることない闘志、勝つために練った戦略、仲間を守るという意思、それが多くの少女達の心を奪い去った。彼女、篠ノ之箒もその一人だった。

 彼は、強い人間だ。だから、彼女を支えると約束した。彼女も、彼が強いからこそ、甘えている。多分、彼女にとって、父親や恋心を抱く幼馴染より信用し、信頼できる男は彼だけだろう。だからこそ、心の中にかかる靄が悩みを助長させる。

 守られる立場になった。二人の幼馴染から、それは、とても心苦しい。一夏には、自分が足手纏いになると言っていない。それは、好きな人が離れていくのを怖がっている自分がいるからだ。だが、礼遇には、素直に打ち明けることが出来た。それは、信頼の部分で彼なら絶対に自分を見捨てない、切り捨てない、その以前に、彼は面と向かって、恥ずかしげもなく守ると告げるから。

 笑い話に聞こえるかもしれない、片方は最新鋭の第三世代機、片方は時代遅れの第二世代機、守る守らないの問題ではなく、守れないのではないかという声も聞こえそうだ。だが、礼遇は必ず守ってしまう。彼の心は絶対に折れない。刀折れ矢尽きようとも、彼は諦めない。命が尽きてしまおうとも、彼は、諦めない。それくらい、彼は篠ノ之箒という少女の中で信頼され、愛されている。

 

「(わたしは……怖いのか……)」

 

 恋しているのは、織斑一夏、

 信頼しているのは、宮本礼遇、

 どちらも幼馴染であり、切っても切れない絆で結ばれている。だからこそ、揺れ動くのだ。自分は、なぜ、好きな筈の一夏を礼遇以上に信用出来ないのか、一夏に背中を預けられないのか、少女の悩みが加速する。

 もし、自分がISに乗り、何かの事件に巻き込まれたとしよう、その時、背中を守って欲しいと願うのはどちらだ、そう質問されたら、彼女は迷うことなく、礼遇と答えるだろう。それは、今日の勝負の結果ではなく、技量やISの強さでもない、ただ、自分のことを絶対に守り通してくれるのは、一夏ではなく、礼遇だと理解してしまっているから……。

 

「(何で……悩むんだ……好きなのは一夏だ……)」

 

 一夏に入学して再会した時、彼女の恋心は本物だと思っていた。だが、礼遇と再会した時、礼遇に悩みを話した時、彼女の恋心は揺れ動いた。肩が壊れようが、何をしようが、絶対に一夏を自分勝手な理由で責めようとしなかった。逆に、昔のように三人で剣道をはじめようなんて、心優しいことまで告げた。だが、一夏の我儘でそれは出来なかった。自分勝手になると思ってた。だけど、彼は泣いている彼女に気をかけた。自分の肩のことなんて二の次で泣いている幼馴染を優先した。強い人、昔から心が強い奴だと思っていたが、成長して、尚強くなったようにも見えた。だからこそ、彼への信頼は日に日に強くなっている。

 

「(わたしは、一夏が好きだ。それで、それでいいはずなのだ……)」

 

 少女の悩みは尽きない。

 

 

 天災は酷く冷徹な表情で宮本礼遇の資料を読み漁っていた。なぜ、彼がISを起動させることが出来たのか、なぜ、千冬と同じ目をしているのか、それが酷く気に食わなかった。

 彼女は織斑千冬を骨の髄まで知っている。彼女の行動パターンや判断、そのすべてを知り尽くしている。だが、彼女と同じ目をした礼遇のことは知らない。本来は知る意味もない存在なのに、どうにも、愛する千冬と同じ目をしている彼が気に食わない。それに付け加えて、彼女がいっくんと愛でている一夏も彼の手腕に敗れた。これは非常に苛立たしい。

 

「パラサイトが乗ってる打鉄……三番目なんだ……」

 

 白騎士、暮桜を作り上げた篠ノ之束はそれ以降はISを作るということをしてこなかった。だが、最近は活発にISの開発に関わりつつある。白式の雪片弐型、来るであろう妹の篠ノ之箒の連絡を待って、紅椿の開発。だが、彼女を悩ませるのは、パラサイトと蔑む宮本礼遇の存在。彼の存在で紅椿の開発が遅れている。

 彼女は三番目と言った。礼遇の乗る打鉄には、暮桜の次に製造されたNo.3のコアが使用されている。暮桜を一つ上のお姉ちゃんに持つその打鉄は、無意識で姉に乗る、織斑千冬に似た瞳をしている少年に心を許してしまった。そして、姉が振るった雪片と同じ零落白夜を発動させる雪影を手に入れた。

 

「お姉ちゃんになりたい妹か……筋は通ってる……だけど、その筋、切り刻んで捨ててやりたい」

 

 織斑千冬の正統後継者は織斑一夏だと彼女は決めつけている。だからこそ、織斑千冬の道を歩もうとしている宮本礼遇の姿が嫌らしく思えた。その道は、一夏が歩むべき道、そこに土足で踏み入り、そして、歩みを進めている彼の姿に殺意すら覚えていた。

 暮桜の零落白夜を持ち合わせている白式が、なぜ、紛い物の打鉄に負ける。ありえない。

 

「……確実に殺す」

 

 彼女は計画を練り始めた。宮本礼遇、一夏と箒のパラサイトである少年を始末するために……。




 誤字脱字あったらオナシャス!
 あと、箒もちゃんと可愛いヒロインだから、箒アンチなんかには絶対にしないんだからね!!

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