僕が読みたいと思う二次創作『インフィニット・ストラトス』   作:那由他01

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 少年少女の揺れ動く心を主軸に書きたいです。


00:仲違い

 与えられた才能は平等ではなく、不平等に纏まっている。この道場で、一番成長していないのが俺で、他の二人は俺よりも早く、そして、着実に腕を上げている。素振りの音だけでも、自分の才能の無さに泣けてしまう。だが、二人を追い越せる可能性は残っている。その一抹の可能性にかけるのも、若いからこそできる事だ。

 三人の少年少女しか居ない道場は非常に広く感じられる。俺はその隅で静かに木刀を振るっていた。基礎というものは確実に技術の進歩に必要になるものであり、成長の遅い俺にしてみたら、一番実力に結びついていると実感させられるものだ。

 織斑一夏、篠ノ之箒は防具を身につけて試合をしている。最初の頃は箒ちゃんの方が圧倒的に優っていたけど、今では一夏の方も腕を上げて箒ちゃんに食いついていけるようになっている。これも才能の差と思うと自分の才能の無さに泣きたくなる。だけど、努力すれば、確実に二人の立っている場所に立てると言い聞かせて素振りを続ける。

 素振りを続けていたら、珍しく一夏が勝利した姿が目についた。箒ちゃんは泣いている。木刀を床に置いてすぐに駆け寄る。どこか怪我をしたのか、そんな、小学生らしい会話を繰り広げると箒ちゃんは五月蝿いと大きな声を上げて、もう一度勝負だ! と、大声を上げて一夏に再試合を申し込んでくる。一夏もいいぜ、と、強気な姿勢でそれを受け入れた。やっぱり、二人の立っている場所と俺が立っている場所は、違うのだな、なんて、溜息が出てしまう。

 粗方の素振りを終了させ、体を柔らかくする柔軟体操を始める。武術に置いて、最も必要とされるのは、体の柔軟性だと師範は言っていた。体の軸が柔軟なら、相手の攻撃を綺麗に捌けて、攻撃の速度も上がるだとか、イマイチ理解は出来ていなかったが、日に日に体が柔らかくなっていくのは、感動すら覚える出来事だったので、早朝、道場、風呂上がりに欠かさず柔軟体操を行っている。

 柔軟体操を続けていると一夏が箒ちゃんに負けている姿が目に入った。やっぱり、まぐれの一勝だったのだろう。まあ、その一夏にも勝てない俺はまぐれすらないのだから、悲しい限りだ。

 

「くそぉ〜さっきは勝てたのに……」

「ふん、調子にのるからだ」

「わかってるよ……礼遇は試合しないのか?」

「う、うん、じゃあ、一戦だけ」

 

 防具を身に纏って竹刀を握りしめる。相手は一夏、昔は勝てていたが、今は一切と言っていい程勝てていない相手だ。結構前から対策を練っているのだが、どうにも勝つことが出来ない。よくて善戦がいいところなのだ。

 竹刀を構え、そして、箒ちゃんが始め、と、声をかける。

 刹那、一夏の鋭い一撃が迫る。それを受け止め、間合いを放す。

 一夏の太刀は重く鋭い、だからこそ、間合いを確認しながら、大振りの一撃にカウンターを入れるように立ちまわるしかない。正直な話をさせてもらえば、一夏は基礎的な技量が低い。それを天性の才能でカバーしている。トリッキーな戦い方とでも言うのだろうか? それが基礎に固められた俺や箒ちゃんを倒してしまうのだ。末恐ろしい。

 刹那、一夏が間合いを詰めて一瞬で俺の面に太刀を浴びせた。

 常人離れした瞬発力だ。これを努力ではなく、才能で入手しているのだから憎たらしい。溜息を吐き出してもう一度竹刀を構える。

 前々から思っていた。一夏の戦い方は早さと力強さ、俺の戦い方は守りとカウンターだ。多分、俺の戦術と一夏の戦術は相性が悪い。なら、一夏と同じ戦い方をしたらどうなるだろうか? 今までの戦い方を否定する、それは非常に度胸が必要になることだ。だが、試すことに意味がある。やるだけやってみる、それが俺のやり方だ。

 箒ちゃんが合図を出す。

 刹那、俺と一夏はほぼ同時に踏み込み、力一杯竹刀を振るった。そして、互いに力で押し潰そうと鍔迫り合いを繰り広げ、その鍔迫り合いに勝利したのは、意外にも俺だった。一夏が怯んだ瞬間に鋭い太刀を浴びせる。そして、久しぶりに一夏から一本をもぎ取った瞬間だった。

 

「はぁ〜久しぶりに勝てたぜ……」

「礼遇も成長したな、感心したぞ」

「ありがとう箒ちゃん」

「くそぉ〜礼遇にはずっと勝ってたのに……」

「修行が足らん! 家に帰っても素振りをするのだ一夏!!」

 

 俺と一夏は苦笑いを見せながら、素振りの練習をはじめた。確実に実力に繋がっている、素振りや柔軟体操、その他の努力、そのすべてが俺の為に働いている。ずっと続ければ、確実に二人と同等の立ち位置、いや、その上の場所に立てるかもしれない。それが、希望になっていた。

 

 

 その日は、三人で道場に向かっていた。だが、突然携帯電話が慌ただしく鳴り響き、何かしらを告げようとしている。携帯電話を確認してみると緊急避難警報と書かれており、そして、内容は、数千発のミサイルが日本に向けて発射された。出来る限り安全な場所に避難しろ、そんな、ファンタジーとしか思えないような、ことだった。俺は二人にこの警報の内容を伝えて、学校に引き返すことにした。学校は色々な避難所を兼ねている。学校なら、ある程度は安全なのだろうと思ったからだ。

 俺達は走って学校に引き返す。そして、学校に引き返すと多くの人が学校に避難していた。先生達も誘導などをしている。俺は深呼吸をして、ここなら安全だよな、なんて、二人を見つめた。だが、二人の視線は大空の方に向かっており、俺もそれにつられて空を見上げると星のように輝く何かが見えた。

 

「――ッ!? あれがミサイルなのか!」

「避難した方がいい!! 逃げるぞ一夏! 礼遇!」

「学校の人達はどうするんだよ! 見捨てられない!!」

「それはわかる! だけど、今から他の場所に移動しろなんて言えな――あれはなんだ!?」

 

 人型の何かが見える。そして、ミサイルを切り落とした。破片が落下してくる。俺は二人を両脇で抱えて、木の影に飛び込む。破片は大量の土煙が舞い踊り、そして、大量の砂がのしかかる。口に入った砂を吐き出して、破片の方を見ると見事に破片がグラウンドに突き刺さっていた。だが、グラウンドに人影はなく、被害者はいない。ホッと安堵の溜息を吐き出し、二人に怪我は無いかと見てみるが、飛び込んだ際に擦り傷を作っていたが、深い傷は見受けられず、軽症だった。

 

「……よかった」

「IS……たばねぇが助けてくれたのか?」

「IS? あの、二人が言ってた……あれがISなのか……?」

 

 空を見上げると人型の存在は消えていた。一夏も箒ちゃんも口を開けて、ISのことを考えているのだろう、そして、俺だけが取り残されたような気持ちになった。

 その後、ミサイルは到達することなく、すべてのミサイルがISによって撃墜されたことを聞かされる。俺達は道場に向かうこと無く、そのまま互いの家に帰った。

 

 

 あの事件、世間一般からは白騎士事件と言われる事件から一ヶ月後、箒ちゃんは姉の開発したインフィニット・ストラトス、ISの影響によって国から保護されることが決まった。俺と一夏は箒ちゃんの実家に出向いて、最後の別れを告げる。箒ちゃんは泣いていた。親しい仲間がいるこの場所を離れる、それは、小学校高学年の少女だとしても、辛いものがあるのだ。

 俺と一夏は思い思いの別れの言葉を告げる。だが、本当は別れの言葉なんて、死んでも言いたくない。もう少し、この場所で剣を一緒に学びたいというのが、俺達の心境だった。だが、残酷な別れは変えることが出来ない、幼い俺達はそれを必死に理解しようとしていた。

 

「箒ちゃん……絶対に電話番号変えないから、辛くなったら電話して……」

「わかった、礼遇……」

「箒! また、会えるよな……」

「会えるさ! 絶対に……絶対に!!」

 

 俺達は抱き合って、互いの再会を誓った。そして、箒ちゃんは泣きながらも、笑いながらこの街を後にした。

 胸の中に、ぽっかりと穴が空いたような気がする。

 

 

 俺は、今現在、箒ちゃんの家の道場と神社の管理をしている親戚の夫婦に無理を言って剣道場を使わせてもらっている。もし、箒ちゃんが剣道を続けていたら、大きな大会で再会することが出来るかもしれない。俺は才能がない、もしかしたら、大会に出ても一回戦敗退になるかもしれない。でも、時間は申し分ないくらいある。どんなに時間がかかっても、一夏と箒ちゃんと同じ舞台に立って、再会する。絶対に。一夏だって、俺の話を聞いたら賛同してくれる筈だ。だから、俺は努力を重ねる。時間がかかっても、絶対に、彼女に再会してみせる。

 それは道場を借りて一ヶ月後の出来事だった。俺は何度も一夏に箒ちゃんと再会するために剣道を続けようと誘った。だけど、一夏の返事に良いものはなく、日に日に俺のことを避けるようになった。互いに剣道を学んだ身としてみたら、とても悲しかった。

 今日も道場を借りて素振りを続ける。すると一夏が息を切らせてやってきた。

 

「一夏、ようやくわかってくれたか!」

「……違う、俺はお前の事を説得しに来たんだ」

「説得……?」

 

 一夏はじわりじわりと俺の前に迫って、叫ぶように、

 

「ここは三人で学んでたから意味があるんだ! 箒がいなんじゃ……意味がない……」

「一夏、確かに箒ちゃんは居なくなった。だけど、剣道を続けたら絶対に会える。箒ちゃんは絶対に剣道を続けるさ、だから――一緒に剣道を続けよう。俺は弱いから、何年かかるかわからない。おまえが続ければ、俺はおまえに付いて行って、全国の舞台に行ける。そして、箒ちゃんが待ってるかもしれない、全国の舞台で」

「五月蝿い!」

 

 一夏は俺を押しのけて、備え付けられている木刀を取り出す。そして、俺の前に突きつけて、そして、

 

「俺が勝ったら剣道をやめろ! こんな、こんな虚しいことは続けない方がいい……」

「確かに、箒ちゃんも一夏もこの場所に来なくなった。だけど、虚しくはない。剣道を続けたら、絶対三人で会えるから! 小さな可能性でも! 俺はそれに賭けてみたいから……」

 

 一夏は思い切り木刀を地面に叩きつける。そして、叫んだ――早く剣を取れと。俺はとても悲しかった。一夏は俺の言葉なんて聞いていない。無自覚で、我儘を言い続けている。こいつの悪いところは、無自覚で人を傷つけることだ。悲しい、幼馴染がこんなにも、わからず屋なんて……!

 振るっていた木刀を拾い上げ、静かに構える。

 互いに意地の張り合い、もう、この勝負に意味なんてなかった。ただ、自分の意地が正しいかという意地の塗り合いなのだ。

 

「なんでわからないんだよ! 礼遇!!」

「なんでわかってくれないんだ! 一夏!!」

 

 激しい鍔迫り合いが続く、互いに腕力はある。膠着状態が続き、互いの戦意が燃え上がる。互いに互いの意地を持ち合わせている。だからこそ、全力で打ち合ってしまう。だが、優劣は決まっていた。織斑一夏は天才だ。天才だからこそ、俺は彼の力を欲していた。それだけだ。

 ――刹那、鋭い太刀が俺の右肩に突き刺さる。

 その場に崩れ落ち、言葉にできない何かが口から溢れる。

 

「れ、礼遇……」

「ぐっ……うぅ……これが、おまえが望んだことかよ、俺は、ただ……三人で、また、再会したかっただけなのに……」

 

 わかってる、一夏は良かれと思って行動したんだ。だけど、俺と思いが食い違っていた。それだけ、だけど、苛立ちだけが先行する。俺は、もう二度と正常に剣を握ることは出来ないだろう。だけど、これだけは言わないといけない。

 

「おまえは……逃げてるだけだ……いいさ、逃げ続けろ、その先に俺は居ない。箒ちゃんは居るかもしれないが、俺は、おまえの隣で絶対に笑えない……」

「礼遇!?」

 

痛みに耐えられず、意識が消え失せた。


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