もうひとりの高町なのは   作:望夢

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泣いている友達が居た。心細そうに泣いている友達が。そして私にとってジュエルシードを集めることは母さんの為だけじゃない。友達を助けるためにも譲れない戦いになったんだ。

リリカル・マジカル、始まります。


stage:07

 

 学校から帰った高町なのはは自分の気持ちが過去にないほど高ぶっていることを感じていた。

 

 何故ならそれはあまり話すことの出来なかったもう一人の魔法少女との語らいが待ち遠しくて仕方がなかったという理由がある。

 

 自分と同じ名前の、自分よりも大人で、カッコいい魔法の先輩の存在は僅かながらにある不安が和らぐ存在だった。

 

 あんな風になれたらと。同じ名前と背格好だけに、ぼんやりと高町なのははそう思った。

 

 しかし、家に着いた彼女は残酷な現実に打ちのめされた。

 

「え…? 居なくなっちゃった………?」

 

「うん。お父さんの知らない内にね」

 

 ごめんよなのはと謝る父の言葉を耳に聞いても頭に入らないくらいに茫然自失に近い形相で、ふらふらと自分の部屋に上がった。

 

 フェレットのユーノがおかえりと言うものの、それすら耳から筒抜けの様にふらふらとベッドに突っ伏した。

 

 自分の匂いとは少し違う感じで、でも同じ匂いが確かにもう一人の魔法少女がここにいた事を伝えてくれる。

 

「な、なのは……」

 

「絶対……居たもん…」

 

 もしかして都合の良い自分が生み出した幻だったのではないか。そう思ってしまう自分に言い聞かせる様に呟いた。

 

 今日はいつもより朝が遅かった父に、昨日遊びに来た友達が調子が悪くて寝かせているからよろしくと伝えて家から出ていった。

 

 自分とそっくりな女の子に父もビックリするだろうと思っていた。帰ってきたらいっぱい話そうと思っていた。

 

 なのにもう一人の魔法少女は最初から其処に居なかったかの様に忽然と姿を消してしまった。

 

 魔法少女の正体が周りの人に知られてはならない様に、自分とそっくりな魔法少女だからその正体が知られてしまってはダメなのだろうか。

 

 ゆらりと、まるで幽霊の様に立ち上がり制服から着替えることはなくガシッとユーノを掴み、そのまま部屋を出る。

 

「な、なのは……?」

 

「探せば良いんだもん……」

 

 そうだ。きっとジュエルシードを探していればまた会えるはず。

 

 だからジュエルシードを探そう。

 

「行くよユーノくん」

 

「あ、うん」

 

 有無を言わせない威圧感すら感じる声でジュエルシードを捜索する事を宣言する言葉に、ユーノは危険だとかそういう余計なことを言える状態じゃなかった。

 

 余計なこと言ったら潰される……!

 

 肩に乗せたりするわけでもなく片手で掴まれているユーノは憐れ、今は普通に小動物程度の紙耐久しか持ち合わせていないのだ。

 

 そんな冷や汗を掻きながらユーノはなすがままに連れていかれるだけだった。

 

「待っててなのちゃん。絶対見つけて、お話ししよう」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ビク――ッ

 

「どうかした? なのは」

 

「な、なんでもないよ、フェイトちゃん」

 

 フェイトの寝室で、なのはは親友と下着姿という薄着で横になりながらじゃれあう様に絡み合っていた。

 

 そんななのはが突然震えれば、密着しているフェイトにも伝わってしまうのも必然だった。

 

 誤魔化してみたものの、なのはの背筋を薄ら寒いものが走る。まるで何かに狙われているかの様なそんな感覚だった。

 

「フェイトちゃん…?」

 

「大丈夫だよ、なのは」

 

 足が絡み合って、より身を寄せてくるフェイトをなのはは不思議に思った。額が触れるような距離で、互いの吐息の熱すらわかる距離。

 

 フェイトの腕がなのはを抱き締める。

 

「なのははなにも心配しなくて良いんだ。なのはは私が守る」

 

「フェイトちゃん…」

 

 鍛えられているから、自分よりも無駄な肉がない腕や足は細々しいのに、自分なんかよりも力強くて頼りになって、カッコいい親友につい身も心も任せてしまいたくなる。

 

 それに甘えるだけじゃダメだとわかっていても、心身共に疲弊していたなのはは今だけは親友の厚意に甘えていたかった。

 

「ジュエルシード、探しにいかなくて良いの?」

 

 自分の所為で道草を食わせてしまっている自覚は重々承知の上で、なのははフェイトに訊ねた。

 

 離れて欲しくはない。しかしフェイトにはやるべきことがある。それでも今日くらいは傍に居て欲しくて、なのははどうするのかという意味よりも、仕事と私のどっちが大切なの?と訊ねる様な感覚だった。

 

 そしてフェイトはそういう機微がわからない様な子供でもなかった。

 

「なのはは、どうして欲しい?」

 

 親友の、アメジストの瞳に自分の紅い瞳が映るほどの、それこそ唇が触れそうな程の近さでフェイトは訊ね返した。

 

 答えはわかっている。わかっているから敢えてフェイトは聞き返す。態々親友の口からその言葉を聞きたいから。

 

「……フェイトちゃん、答えわかってて訊いてるよね?」

 

「さぁ、どうかな?」

 

 意地悪な笑みを浮かべるフェイトに、それでも言葉にしなければジュエルシードを探しにいくのだろうとわかっているから、なのははフェイト身体を抱き締めて互いの頬が触れあうような距離で呟いた。

 

「……今日は。フェイトちゃんに、一緒に居て、欲しいな」

 

 言い終わってから恥ずかしくなってなのははフェイトの胸元に顔を埋める。

 

「良いよ。今日はなのはの為に傍に居てあげる」

 

 そんな小動物の様な愛らしさを持つ親友の身体を抱き締めて、フェイトは安心させるように頭を撫でる。

 

 思った以上に小さかった親友の身体を抱き締めながらフェイトは今夜使い魔のアルフにどう親友を紹介しようかと考え始めた。

 

 クゥ……――

 

 そんな思考を一瞬遮った音にフェイトは視線を下げた。

 

「なのは…?」

 

「っ…………」

 

 親友に声を掛けると耳まで真っ赤にして胸に顔を埋めてくる。そういえばお昼も食べずにベッドに横になっていたのを思い出す。ちゃんと朝食を食べていた自分でも小腹の空きを覚えている。なら頼るべき家もないかもしれなかった親友はもしかしたら昨日からなにも食べていないのではないかと考え始めると血の気が引いていく。

 

「なのは。ご飯食べた?」

 

 そんな質問に親友は首を横に振った。脳髄を鉄槌の騎士に撲られた様な衝撃が走る。

 

「きゃっ。フェイトちゃん!?」

 

「今すぐご飯食べよう!」

 

 掛け布団を跳ね除けて、フェイトは親友を横抱きにしてベッドから起こすとクローゼットから適当に服を見繕う。この時はまだ互いにあまり体格が変わらない事は幸いだった。

 

 お揃いの黒いワンピースを着て、親友の手を引いてフェイトは街に繰り出した。

 

「ごめんなのは。気づいてあげられなくて」

 

「う、ううん。フェイトちゃんが気にすることじゃないよ」

 

「気にするよ! 友達だもの!」

 

 なのはの手を掴み、凄むように身を寄せるフェイト。そんな親友の勢いに押されながら、こんなに押しが強かったかと疑問に思いつつ、それでも繋いだ手は確りと握り締めた。

 

「じゃあ、ショッピングしてくれたら赦してあげる」

 

「良いよ。でもその前にご飯だね。……なのはとデートかぁ」

 

「でで、デート!?!?」

 

「え!? ちがった、かな?」

 

「えっと……」

 

 この天然記念物系の親友は時々素でボケをかましてくれる。一緒に遊んだり食事をしてショッピング。確かにデートと言えなくもない。

 

「ちがった、かな? かな?」

 

「……ちがわない…、かも…」

 

「うん。それじゃ、いこっか」

 

 違わないよね? と、不安一色で問われたら流石に違うとも言えなかった。

 

 勢いに押されながら戸惑いつつ肯定すると眩しい笑顔を浮かべて手を引く親友に、なのははただなされるがままに歩き始めた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「ねぇなのは、もう今日は帰ろうよ。家族のみんなも心配しているだろうし」

 

「もうちょっと……もうちょっとだけ」

 

 家を出てからあちこちを探し回って、いつの間にか夜になっていた。それでも高町なのははもう一人の魔法少女を探すことを諦められなかった。

 

 ユーノの心配もわかる。でももう少し探せば会えるかもしれない。そんな不確かな希望を抱いて歩き続け、気づけば隣町にまで来てしまっていた。

 

 それに気づくと、確かに子供の足で帰っても良い時間になってしまう。携帯で時間を確認すればもう夜の7時半を過ぎていた。走って帰っても夕食の時間は過ぎているだろう。

 

 一言メールを入れてから帰ろうとしたところで、世界から音がなくなった。

 

「え?」

 

 それなりに周りに人が居たはずなのに、今は誰一人として居なくなっていた。

 

「広域結界!?」

 

「けっかい…?」

 

「一定範囲内を隔離する魔法だよ。でもいったい誰が」

 

「なのちゃん…!」

 

 自分以外の魔法少女なら自分と同じ姿の魔法少女。そして黒い魔法少女。

 

 だから魔法がある所に居ると信じて、高町なのはは走り出した。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 一度は集めたジュエルシードの場所はわかっているから先回りして集めることができる。

 

 街中のジュエルシード。それでもどこの交差点だったかまでは思い出せなかった。だから前と同じで魔力流を打ち込んで強制発動させる。

 

 広域結界を展開したなのは。そんななのはをアルフが警戒した様子で眺めている。

 

「大丈夫だよアルフ。なのはは敵じゃないから」

 

「とは言ってもねフェイト。いきなり連れてこられて紹介された友達が実は魔導師だったって。警戒しない方が無理な相談だよ 」

 

 アルフが言いたい事はわかるつもりだ。それでも自分がなのはに対して一切の敵意を持っていないのも伝わっている。だから代わりにアルフがなのはを警戒してしまうという嫌な役割をさせてしまっている。

 

「……フェイトちゃん。結界の中に」

 

「うん。……行ってくるよ、なのは」

 

「行ってらっしゃい。フェイトちゃん、アルフさん」

 

「ふん。良いかい? 変なマネしたらガブっていくからね!」

 

 なのはの言葉にそっぽを向いてビルから飛び降りていくアルフにフェイトは苦笑いを浮かべながら親友に駆け寄る。

 

「フェイトちゃん?」

 

「必ず、ジュエルシードは手に入れてくるから。待ってて」

 

「うん」

 

 それがなにもしないで見守っていてという念押しである事をなのはもわかっていた。それでも言葉にするのはなのはの立場を考えての事だ。

 

 無罪潔癖でPT事件を乗り切って貰うことをフェイトは考えていた。ジュエルシードの思念体だとしても心がある親友を消させない為にはすべてのジュエルシードを手に入れて、親友を発生させたジュエルシードを突き止めてそれを核にして個として確立させる。それでもダメなら使い魔契約だって考えている。

 

 手に入れてしまった記憶の所為であっても、本物ではないとしても。親友を見捨てることなど出来ないのだから。

 

 

 

 

to be continued…

 


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