もうひとりの高町なのは   作:望夢

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目が覚めても夢じゃなかった。わたしが生まれた理由を探して、レイジングハートと一緒にわたしを生み出したジュエルシードを探そうと思うの。……リリカルマジカル、始まります。


stage:02

 

 階段を登りきったなのはは蒸れてしまった頭を冷やす為に帽子を脱いで、火照った顔や首筋を冷ます様に帽子を団扇代わりにして扇いでいた。

 

 ジュエルシードが発動するのは、確かこの八束神社に犬を散歩させていた女性が来てからだったはず。その散歩させていた飼い犬がジュエルシードに取り込まれて暴走体になる。

 

 昨夜にプロテクションを使えるようになっているオリジナル(高町なのは)ならこと防御に関しては暴走体程度に抜かれる様なこともないだろうという信頼にも似た確信があった。

 

「うぐぅ……お腹空いたよぉ…」

 

 きゅぅぅっと音を鳴らすお腹を擦りながら、なのはは呟く。手持ちにお金もないなのはには買い食いする財力はない。ジュエルシードが生み出した思念体なのに無駄に空腹を覚える自分の身体が忌々しい。

 

「フェイトちゃんと一緒……そんなわけないよねぇ」

 

 空腹を覚えるこの身体が果たして思念体ではなく本物の生身の身体だったとしたら、思い浮かべたのは親友を生み出した技術。プロジェクトF。

 

 本人の肉体をクローニングし、記憶を転写させてオリジナルそのままの人間を造り出す技術。

 

 だとしても高町なのはを選ぶ理由がない。魔法に触れるまでごく平凡な普通の小学生だった自分を態々コピーして生み出す必要性がまるで皆無だからだ。

 

 造り出した人物が未来をなんらかの形で知って、なにかを自分にさせるために生み出されたのならそういった可能性もなくはない。しかし放置されている現状、そんな荒唐無稽な話しよりも、ジュエルシードを疑った方が遥かに現実的だった。

 

 靴から桜色の羽を伸ばして浮いたなのはは罰当たりかもしれないと思いつつ、「失礼しまーす…」と断りを入れて神社の瓦屋根の上に降り立つ。

 

 そろそろ学校が終わる時間だ。つまりそれはジュエルシードが発動する時間に迫っていることも意味した。

 

 ジュエルシードとオリジナル(高町なのは)の戦いを見届けたらなにか食べ物を探しにいこう。

 

 幸い、兄と姉が山籠りをしている所で、魚も捕って食べていたと耳にした覚えのあるなのはは、山の奥なら魚が食べれるかもしれないと宛てをつけていた。

 

 もう少しの辛抱だと自分を鼓舞しながら、その時を待った。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 昨日の今日で魔法に触れたばかりで実感の持てなかった高町なのはは、ジュエルシードを発掘したユーノ・スクライアから預かったレイジングハートに魔法で戦った事が夢ではなく現実であったかを確認する様に、念話を使って語りかけていた。

 

 想像していた魔法とは少し違っていたことに、魔法少女への憧れを若干変えられつつも、特別な力を手に入れた実感が、助けられる力を得た自分がなにをすべきなのかと、高町なのはは自分の力の使い道を定める1日を過ごした。

 

 困っている人がいて、助けてられる力が自分にあるのなら、迷ってはいけない。

 

 父からの教え、それを出来る力なんて自分にはないと思っていた女の子が初めて抱いた自分の力が人の手助けが出来るという存在意義。

 

 数年前、怪我で入院してしまった父。まだ実家が喫茶店を構えたばかりの頃に起こった事件。母も、兄も姉も、店を守り、父の世話をし、家族皆が必死になっている時、まだ幼くてなにも出来なかった高町なのはは、一人で家で留守番をしていた日々。一人である寂しさと、無力な自分の不甲斐なさにひたすら耐える日々だった。

 

「…っは」

 

 胸を打ち付ける大きな魔力の波動。それを身に受けた高町なのはは走り出す。

 

『なのは……なのは! 駄目だよ! ボクが行くまで待って!』

 

 念話で会話していたユーノが走り出した高町なのはの様子を察して制止の声をかける。確かに彼女には、日常生活で魔法に触れてきたユーノが羨む程の魔導師としての高い才能と潜在力がある。

 

 それでもまだ昨日魔法に触れたばかりの女の子だ。そんな一夜の一度だけの勝利で一人で戦いに行かせる程、ロストロギアは生易しいものではない。

 

『待てない!』

 

 それでも高町なのはは走り出した脚を止めることはなかった。彼女の心の中にある想いが、彼女の脚を突き動かすからだ。

 

『人や生き物が巻き込まれちゃうかもしれない!』

 

 今の自分には魔法という力がある。助けられる。だから急いで向かわなければならない。

 

『昨日はちゃんと出来た……! 今日もレイジングハートが一緒! だから、きっと大丈夫!!』

 

 長く続く石段を駆け上がり真っ直ぐ先を見据える。

 

 そこには唸りながら控えていた白い模様のある黒い虎……黒豹が居た。

 

 幸い周りに巻き込まれた人間は居ない事を確認してほっとしつつも、慌ててレイジングハートを取り出す。

 

「Gyaoooooo――!!!!」

 

「あわわわわわ、レイジングハート!!」

 

『Protection』

 

 黒豹は防護服の展開も待たずに襲い掛かってきた。

 

 高町なのはは慌てて杖に助けを求め、その意思を汲み取ったレイジングハートが障壁を展開し、黒豹の突進を受け止める。

 

 貫けないと見るや、黒豹は障壁を足場に蹴り、大きく距離を離した。

 

「び、ビックリしたぁ。変身前の攻撃はご法度なんだからね! 行くよ、レイジングハート!」

 

『Standby ready.』

 

 桜色の光に包まれ、白い学生服姿を下地にしたバリアジャケットを身に纏う。白をメインに、縁は青、袖は青と金、胸には一際目を引く大きな赤いリボン。凛々しくも可愛らしい防護服に身を包んだ高町なのはは、魔法の杖、レイジングハートを握り締めて黒豹と対峙する。

 

「この街で悪さは、わたしが許さないんだから!」

 

「Gruoooooooo――!!」

 

 雄叫びをあげながら突進してくる黒豹に、高町なのはは身を引き締めて迎え撃つ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 オリジナル(高町なのは)とジュエルシードの暴走体の戦闘を、なのはは本殿の屋根の上に潜みながらサーチャーを飛ばして観戦していた。

 

 はて、此処での暴走体は飼い犬を取り込んだ犬型だったはず。同じ黒でも猟犬の様な暴走体とは、今の黒豹の暴走体は似ているのは黒いという所だけだ。

 

「速い……」

 

 猫科と犬科の違いなのか? 自分の記憶にある猟犬よりも俊敏な動きで黒豹はオリジナル(高町なのは)を錯乱していた。

 

「きゃっ! もぉお! 速すぎるってば!!」

 

 ジュエルシードの暴走体に抗議しても言葉が伝わるはずもなく、例え伝わっていても敵対しているなら答える筋合いもない。

 

 レイジングハートがオートで防御しているから良いものの、完全にオリジナル(高町なのは)は黒豹を目で追いきれていない様子だった。

 

 見失ってはレイジングハートが展開した障壁に阻まれている間に姿を捉えて杖を構える頃には離脱して、ヒット&アウェイの前に翻弄されていた。

 

「でも…」

 

 地を蹴り、障壁を蹴り、爪を突き立て、牙を剥き、怒涛の高速戦闘は今まで普通の女の子だった高町なのはが捉えるのは難易度が高い。

 

 しかしなのははそんな高速で動く黒豹の姿を捉えて目で追っていた。

 

 確かに速い。気を抜けば見失いそうになる。戦っていないが故に俯瞰して物を視る余裕があるからかもしれない。しかしそれ以上になのはには、黒豹程度のスピードは見切れる記憶(たいけん)を持っていた。

 

「フェイトちゃんの方が、もっと速い」

 

 黒い影と金色の閃光。高町なのはの親友になるはずの少女は比べ物にならないほど速く、鋭く、杖を振るってくる。

 

 話をしたくて、でも聞き入れてくれなくて、だから話を聞いて貰えるくらい強くなって必死に食らいついていく。それが高町なのは。

 

 女の子の憧れの魔法少女ではない。空戦魔導師高町なのはでなければならない。その為には今のオリジナル(高町なのは)はまだ経験が足りない。

 

「なっ、なんで当たらないの!」

 

 シュートバレットを撃つオリジナル(高町なのは)。まだ攻撃魔法はそれしか使えないのだろう。直射型魔法はその名の通り真っ直ぐにしか飛ばない。高速で移動する相手に当てるにはそれなりの訓練と技量を要する。今の自分なら、相手の動く先に攻撃する先読みも出来なくもない。少し練習すれば誘導型も使えるようになる。

 

「ギャゥッッ」

 

「あ、当たった!」

 

 紛れ当たりか、とにかく確かにオリジナル(高町なのは)の攻撃は暴走体の黒豹を吹き飛ばした。バランスを崩して土の上を転んで行く黒豹。しかし直ぐに起き上がる様はまだ手痛いダメージを受けた様には見えない。

 

「ゥゥゥゥ……」

 

 唸りながらいつでも飛び出せる様に姿勢を低くする黒豹にオリジナル(高町なのは)も警戒を強めた。

 

「これは…」

 

 サーチャー越しに戦いを見守っていたなのははある事に気づいた。

 

 ジュエルシードの暴走体である黒豹の魔力が高まっているのだ。それもただ魔力が高まっているわけでもない。なにか明確な力の流れがある。

 

「グオオオオォォォォ!!!!」

 

「ふえ――?」

 

 黒豹が雄叫びを上げたかと思うと、広げた口に魔力が集まり、直射魔法が見失う程の速さで放たれたのだ。

 

『Protection』

 

「きゃあああ――!!!!」

 

 その直射魔法は高町なのはに直撃すると、盛大な爆発と衝撃で彼女を吹き飛ばした。

 

 先ほどの意趣返しと言わんばかりの攻撃。速さもそうだが、威力も砲撃一歩手前程のものだろうか。

 

 なのはの頭も混乱しそうだったが、相手がジュエルシードなら何が起こっても不思議ではなかった。

 

 元々守りに重点を置いていた防護服のお陰で、ダメージはそれほどでもなく、上着が吹き飛んだ程度で済んでいた。――そこまでのダメージが出ていたのだと思うと、普通の魔導師なら撃墜も有り得た可能性もある威力の直射魔法だったという事になる。

 

 高町なのはの杖――レイジングハートがオートで障壁を展開していなければ防護服の上着一枚で済まされなかったかもしれない。

 

「ギャオオオォォォォッ」

 

 再び雄叫びと共に大口を開けた黒豹は直射魔法で高町なのはへ向けて攻撃する。

 

「レ、レイジングハート!!」

 

『Protection』

 

 閃光と爆発、来るとわかっている防御ならば込められる魔力にも差が出る。

 

「あっ…くぁ、ぅぅっ」

 

 吹き飛ばされる事はなかった。しかし、脚を止めて防御に回ってしまった高町なのはに向けて、黒豹は絶え間なく直射魔法を浴びせていく。

 

 ジュエルシードの放つ青白い魔力光の弾丸が、桜色の壁に阻まれて弾け飛ぶ。

 

 重い一撃を放ち続ける魔力量になのはも呆れそうになりながら、桜色の壁に目を向ける。へたり込んで尻餅を着き、半泣きの表情を浮かべながらも必死で障壁に魔力を注いでいるオリジナル(高町なのは)の姿。

 

「レイジングハート……」

 

 なのはは待機状態の愛機に視線を落とす。

 

 レイジングハートは言葉を返すことなく、主人の意思を受け取り、待機状態からデバイスモードへ――宝石から魔法の杖へと姿を変えた。

 

 それが今のレイジングハートに出来る精一杯の事だった。主が望むならその想いに全力で応える。それがデバイスというものだ。主の道は主が決める。自分に出来るのはその手伝いと後押しだけ。

 

 いつでも自分は行ける。その意思表示だった。

 

「そうだよね、迷っちゃいけないよね」

 

 最初は見届けるつもりだった。少し危なくても、それを乗り越えて行けると思っていたから。

 

 でも今はもう、見届けるという余裕はない。

 

「やだ…!…やぁ…っ……っっ」

 

 キツく目を閉じて、嗚咽を漏らしている彼女はもう戦える状態にない。魔力の続く限り、そしてあの強い拒絶の意思があれば、あるいはジュエルシードが魔力切れを起こすまで持ち堪えられたとしても、心が保つかどうか。爆撃の中で、いつ自分が死ぬかもしれないという極限状況を耐えられる自信はあるかと言われたら、なのは自身でさえ首を縦に頷く事は出来ない。ましてや昨日今日で魔導師となったばかりの高町なのはの心は9歳の少女と変わりはない。折れない不屈の心はまだ、彼女にはない。それを培うのはこれからだ。

 

「たすけて…っ」

 

「待ってて、今助けるから」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 轟音が鳴り響く中で、既に高町なのはは戦意を喪失していた。嘗めていた、侮っていた、考えもしなかった。

 

 魔法を手にいれた高揚を粉々に破壊する程の暴力。

 

 アニメで見た魔法少女の様に、自分にも困っている人を助けられると思っていた。危ないかもしれないという考えも確かにあった。それでも魔法の力があればどうにかなると思っていた。

 

 まるで物語の主人公の様に、自分にも輝かしく不思議な未来が待っているのだと思っていた。

 

 しかし現実は無情に少女の夢を打ち壊した。

 

「やだ…! …やぁ…っ……っっ」

 

 目を閉じて、現実を拒絶する。こんなはずじゃなかった。言われた通りにユーノを待てば良かった。これは調子に乗った自分に神様が罰を与えたのだ。昨日は偶々運が良かっただけかもしれなかった、敵が弱すぎたのかもしれなかった。

 

 そんなことも、魔法のこともロクに知らないで一人で突っ走ってしまったからこうなってしまった自業自得。

 

「たすけて……」

 

 絞り出した声は、現実に対する最後の抵抗だった。

 

 もう魔力もほとんど残っていない。耐えてあと数回。それがリミット。魔法に魔力を注いでいる自分がそう思っているのだから、それは揺るぎもしない事実。

 

 そう都合よく向こうも魔力が切れる。ユーノが間に合って助けてくれる。

 

 そんな淡い期待を否定する爆音が響く。着実に迫る死の音に、高町なのはは藁にも縋る想いで助けを求めた。

 

「たすけて…っ」

 

 そんな都合の良い展開が現実で起きるはずもない。次の爆発が聞こえたとき、壁は消えてしまう。そうしたら自分は――

 

「待ってて、今助けるから」

 

 降って沸いた声。そして爆発音。しかし高町なのはは身を守っていた壁の消滅を感じなかった。

 

 恐る恐る目を開くと、見えてきたのは白、……青、涙でぼやけていた視界に写るのは誰かの背中。

 

 自分と同じ、明るめの茶髪を白いリボンで左サイドに纏めた小さなサイドテールが目についた。

 

 自分と同じ、白い服、白いスカート、白い靴に身を包む女の子。

 

「大丈夫? ケガはない?」

 

 ずっと毎日聞いている声には、まるで母親か姉の様に優しく包んでくれる温かさがあった。

 

「え…っと、はい…」

 

 まだ現実味が追いつかなくて、呆けた返事をしてしまう。自分は助かったのか? 目の前の女の子はだれ?

 

「少し待ってて、すぐに封印するから」

 

 自信たっぷりと含まれた声に、高町なのはは身体から力が抜けていくのがわかった。

 

 自分の声とそっくりな女の子は、なのに自分と違って臆する事なく立っている。

 

 その手に握る杖も、自分のものとそっくりなのにより力強く綺麗に見える。

 

「アクセル――」

 

『Accel Shooter』

 

 女の子の周りに光の玉が現れる。ひとつふたつと増えていく。その数は6つにまで増えた。

 

 同じ色の光の玉なのに、自分の打ち出した光の玉よりも力強く、大きな鼓動が聞こえてくるくかの様だった。

 

「シューートッ」

 

 その光景はいくつもの光の筋が飛び出すという目を見開くようなものだった。

 

 光の弾丸ではなく、光の玉をぶつけるわけでもない。光そのものが飛び出したかの様な光景。

 

「ギャオオオォォォッ」

 

 ジュエルシードの暴走体も口から青白の光の玉を放ってきた。

 

「ひっ」

 

 その光景に高町なのはは怯えた。無意識の内に、その青白い光が恐怖を覚えてしまう程になってしまった。

 

「大丈夫だよ」

 

 しかしそんな怯える高町なのはの頭を優しく撫でたのは小さな手だった。

 

 ようやく対面した姿は、……顔すらそっくりな女の子だった。なのに女の子は自分よりもずっと大人の様に感じる笑みを浮かべていて、優しい手つきに身体の緊張が解れていく。

 

 そんな彼女らの背中では、アクセルシューター二発を消し去るも、力尽きた直射魔法を貫いて4発の桜色の筋が暴走体の黒豹に突き刺さる。

 

 女の子は撫でていた手を離すと、背中に高町なのはを庇うように立ち、そして靴から羽を広げて飛び立つ。

 

 その天使の様な姿に、高町なのはは見惚れてしまった。

 

 どうして自分の姿とそっくりなのか、どこから来たのか、聞きたいことがあったのに、その悉くを忘れてしまうくらいに高町なのははこの光景を目に焼きつけたかった。

 

 カッコよくて、キレイで、優しくて、強くて、高町なのはが求めた魔法少女像そのままを体現する女の子の姿を。

 

 

 

to be continued…




FGOを初めてしまったので大分更新速度は落ちます。チュートリアルガチャでキャットが来た時は運命を感じた。初めてのfateゲーのextraでの初鯖は玉藻だったんだ。だからキャス狐系鯖には思い入れが深くて。大事に育てます。

ちなみになのはちゃん(偽)の戦闘能力は――スタート地点は同じ?チートコード付きだもの仕方ないよね!

なのシュテとかなのフェイ、なのヴィヴィ、色々な組み合わせありますけど、なのなのだって良いと思うんだよ(錯乱)

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