旅人マレファの旅日記   作:飯妃旅立

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私の原点、はやみねかおるシリーズ。
青い鳥文庫にはお世話になってきました。本当に。
そんな恩を二次創作と言う仇で返す今シリーズ!
なお時系列はバラバラで、基本的に1話完結(2話完結の場合有)で行きます!

それでは、どうぞ――


旅人と列車と匣、時々怪盗と海賊と名探偵。

 さてどうしたものか……。

 カタン、カタン――という静かな、しかし昔ながらの走行音に耳を傾けながら、現在自身が陥ってしまった不幸な出来事に目を向ける。

 といっても自らがいる列車の走行音ではなく、横を通り抜けて行った何処へ行くとも知れない列車の音なのだけれど。

 

「お話を、お聞かせ願えますか、小さな淑女(リトルレディ)さん?」

「あまり強く言うと泣かせてしまいますよ。ただでさえ顔が怖いんだから」

「……人の事を言えた容姿ではないと思うがね」

 

 長い距離を歩いて疲れ、部屋に付くなり寝間着になって、ぽふんとベッドに仰向けになったほぼ直後。

 ドアを叩いたノックに寝間着姿のまま応対してみれば、そこに立っていたのは強面の男2人。

 おっと失礼と一度ドアを閉めて外で待ってくれた2人に甘んじて早々に着替えを済ませ、大丈夫ですと返事を返したのがつい先刻。

 改めてその2人の姿を見ると、リーゼント気味の渋い顔をしたフランス人男性。歳は恐らく四十そこら。もう1人は鋭い目つきに鋭い雰囲気を纏うトルコ人男性。歳はわからない。

 フランス人男性の方はマンダリンと名を名乗り、トルコ人男性の方は名乗らなかったもののマンダリンが彼を「こちらはセラップ君だ」と言ってくれたおかげで判明した。

 

「えと……」

「あぁ、すみません。淑女(レディ)に名前を聞く前に、まずはこちらの身分を表明するのが先でしたね。わたしたちはこういう者です」

 そう言って彼らが差しだしたのは、身分証明書。

 マンダリンが探偵卿で、セラップがトルコ警察刑事。

 追い詰める様にそんなものを出されれば、こちらが名乗らないわけにはいかない。一般市民が警察に名を問われて隠そうとするなど、怪しい事をしていると宣言しているようなものだから。

 

「あ、わた……私は、マレファ……です」

「ありがとう、マレファさん。お休みの所申し訳ないのだが、2、3確認してもよいだろうか」

「ど、どうぞ……?」

 

 探偵卿。マンダリンは自らを探偵卿だと言った。身分証明書にもそう書いてあった。

 国際刑事警察機構(ICPO)が抱える十三の頭脳。彼はそのうちの一人であると言う事。謂わば現代のシャーロック・ホームズである。しかも十三人もいる。 これ見よがしとばかりに助手のような刑事を率いているのもホームズらしい。煙管でも吸っていれば完璧だろう。私の想像(イメージ)上の『シャーロック・ホームズ』が「助手」と「キセル」でしか構成されていなかった事に驚きを覚える。

 そんな探偵卿がいったいぜんたい、わざわざ私なんぞに何を確認するのだろうと、緊張に身体と表情がこわばってしまうのを抑えられなかった。

 

 ●

 

 マンダリン・アタッシュは困っていた。横に控えるセラップも困惑の雰囲気を隠しきれていない。

 原因は、目の前の少女。年端もいかぬ、ともすればマンダリンの娘よりも幼いとさえ思えるアラブ系の少女の、その表情だ。

 

 泣きそう。

 その一言に尽きた。

 

 先程訪ねた十四車両二号室の2人組――全身ブラックの背の高いサングラス男と、東洋人特有の童顔――別れた妻よりも若く見えた――に丸眼鏡をかけた、少しだけ喧しい声質の女――のせいで精神的な疲れを負っていたからか、顔にも声にも凄味の様な物が出てしまっていたのだろう。

 特にセラップの纏う殺気染みた雰囲気は少女には辛いはずだ……と、そこまで考えて、マンダリンははたと気づいた。

 

 何故こんな少女が1人でオリエント急行(こんなところ)にいる?

 

 確かにマンダリンの娘ボタン……日本名藤牡丹やその隣の部屋のジャックという少年も親のいない身でこの列車に乗っている。だが、良くも悪くも(ジャックと言う少年は知らないが)ボタンはしっかりした娘だ。親の贔屓目など元から持ってはいないが、悲しい事に親が居なくとも身の回りの世話を行えるほどには……十三の女子としてしっかりしている。

 しかし目の前の少女はどうだろう。

 余りにも、頼りない。

 こんな子を1人で列車に乗せる親がいるのだろうか。

 

「あ、あの……何を、確認するんですか……?」

「――っと、失敬。ぶしつけですみませんが、お嬢さんはこのくらいの箱を見た覚えはありませんか……?」

 

 親の気を疑う思考を中断し、用をすますことにした。

 わかりやすいように手で大きさを、形を示す。

 すると目に見えて少女が反応した。

 

「あ、もしかして……これ、ですか……?」

 

 そう言いながら取り出したのは、なんとも可愛らしい化粧箱。

 大人の使う道具を小さく収めたような、機能自体は問題ないのかもしれないが玩具の様な箱だった。

 確かにマンダリンたちが調査しているのは箱だが、この箱を開けても出てくるのはせいぜい乙女の秘密だけだろう。

 ……それでも十分に乙女の秘密(パンドラボックス)かもしれないが、とマンダリンは独り言ちる。

 

「いえ、それではないですね。どうやら、お嬢さんにはもう嫌疑をかける余地がないようだ。怖がらせてしまってすみません。わたしたちはこれにて失礼します」

「え……あ、はい! お疲れ様、です?」

「はは、ありがとうございます」

 

 あまり市民と触れ合う機会が無いと言っても、探偵卿は市民の味方である。

 守るべき者からの労いは、どこかの2人組のせいで疲労していた2人の精神をいたく回復させたのだった。

 

 ●

 

 午後七時四十分。

 オリエント急行はブルガリア国境の街――スピレングラードに着いた。

 そしてディミトロブグラートからは北に向きを変え、ルーマニアへむかう。

 

 

 

「ん~……美味しい(ラズィーズ)!」

 

 オリエント急行の五両或る食堂車で、私は出された料理に舌鼓を打っていた。

 出される料理はどれも見た事・食べた事の無いトルコ料理。

 「チョバン・サルタス(羊飼いのサラダ)」に「ミディエ・ドルマ(味付き米のムール貝詰め)」、「マントゥ(挽き肉包みのトマトソース&ヨーグルトソースかけ)」など、見た目も華やかで味も満足の品々。

 肉類はケバブなどが豊富だけど、私はこういうさっぱりとした味付けの物が好み。

 長旅の疲労はひと眠りした事で取れたけれど、英気回復には食事が一番だ。

 

「お味はいかかでしょうか?」

「とても、美味しいです。とっても!」

「それはよかったです」

 

 料理長のカーと名乗った男に感想を伝えると、カーは曖昧に笑った。

 顔色が晴れないのは、恐らくというか確実に彼の向かう先にいる客のせいだろう。

 

 全身黒ずくめの、長身。サングラスが相俟ってか悪い人にしか見えないその男。

 私自身育ちが良いとは言えないけれど、あそこまで薄汚れてはいないはず……。

 その男はテーブルに料理の皿を山積みにしていて、遠目に数えた限りではメニュー全てに追いつくのではないかという……あぁ、追加のお皿が。これはメニュー全部だろう。

 対面に座る女性が呆れたような表情を作っているが、それが既知の物である事から男は日常的にあれだけの量を食べるのだろう。

 

 その男とカーが2、3言葉を交わしたと思ったら、カーががっくりと崩れ落ちた。

 

「お待たせいたしました。「ウン・ヘルヴァス(小麦粉とバターの練り菓子)」です」

「ぁ……ありがとう!」

「それでは、ごゆっくり」

 

 最後のデザートが来たので、男とカーから目線を外す。

 茶色の、バターの芳醇な香りを漂わせるソレ。

 匂いだけで美味しい。

 

 ……あれが名探偵・夢水清志郎……。

 

 得体の知れない存在だ。

 とはいえ武勇に優れるわけでもなし。欠片もヒントの無い状況で私の正体が暴かれるという事もないだろう。

 正体と言う程の、大きなものでもないし。

 

 ヘルヴァは勿論美味しかった。

 

 ●

 

 無味無臭無色の気体が部屋に満ちる。

 人間を即時昏倒させるような強力な代物でありながら、副作用もなければ可燃性も無し。充満する事も付着する事も無いとは、恐ろしい’’ひみつどうぐ’’だ。

 果たしてこれが世界最高の人工知能所以の代物なのか、はたまたそれ以外の技術なのかは知るところではないけれど……。

 

「眠っている淑女(レディ)を起こすなんて、紳士を気取る割には大したことはないのね」

【すみません、小さなお嬢さん(リトルレディ)。しかしこれは悪い夢です。どうか、もう一度ベッドへお入りください。次に目が覚めた時にはジュルシュ付近でしょう】

「サウンドエフェクトがおかしいのよ。車両側の反響音は良くできているけれど、レールの劣化まで考慮できていないわ。ヴァイブレーションを付ける為に素材を良い物にしなければならなかったのかもしれないけれど……」

【成程、課題点ですね。よろしければ、そんな微かな違いに気が付けたお嬢さんが何者なのかを聞きたいところですが】

「あら? 世界最高の人工知能を自称する紳士が、淑女の名前を先に聴くの?」

【これは失礼を。わたしは世界最高の人工知能RD。お嬢さんのお名前をお聞かせ願えますか?】

「私はマレファよ、RD。会話の間に調整は終わったみたいね? なら、私はゆっくり眠らせてもらうわ」

【はい――。Good Night, And Have A Nice Dream】

「えぇ、良い夢を」

 

 カタン、カタンからガタン、ガタンへ移行した振動と音に心地良さを感じながら、毛布を被って目を瞑る。

 気圧の変化も注意しようと思ったけれど、自分で気付いて微調整したようだ。

 いつもより大分近い月明かりを背に感じながら、身体を丸める。

 

 おやすみなさい。

 

 ●

 

「朝ごはんも、とっても美味しい。とってもよ!」

「ありがとうございます」

 

 またしても浮かない笑顔で応えられる。

 彼の後ろを付いていく助手らしき男が持つのは、巨大な器。なみなみと入ったスープが凶悪だ。あの量は食べられる気がしない。

 料理人として客に挑戦する気持ちはわからないでもないけれど、単純な物量責めはどうなのだろう。昨日あれだけのメニューを完食した男がスープの1鍋や2鍋でお腹いっぱいになるとも思えないし。

 

 と、男の正面でまたも呆れ顔だった女性が席を立つ。

 何の用があるわけでもないだろうに席を立って、まるで偶然小耳にはさんだ、とでも言いたげな様子で近くの少年少女の元へ歩いて行った。

 その様子を見た上で立ち上がる、サングラス――に、口髭の生えた男。全身真っ黒サングラスの方はいまだスープを飲んでいる。

 

「あ、チャイ、ください」

「はい、少々お待ちください」

 

 母国語と違ってカタコトになってしまうイギリス語……つまり英語は、どうにも「幼い少女のような印象」を相手に持たせるらしい。今呼び止めたカーの助手らしき男も私の事を娘でも見るような目で見つめていた。

 思えば昨日の探偵卿と刑事、今朝方の人工知能も失礼な物だ。

 これでも成人はとっくに過ぎているというのに。

 こんなナリでも……。

 

「はぁ……」

「こちら、チャイになります。どうかこれを飲んで気分を落ち着けてください、小さなお嬢さん(リトルレディ)

「ぁ……ありがとう」

 

 悲しんでいるのは主にあなた達の目線故なのだけれど……と言えるわけもない。

 この容姿を利用しているのも事実だし、本当の年齢をひけらかす気も無い。

 ならばお嬢さんと呼ばれる事に何の忌憚があるというのか。

 いや無いのだけれどね……。

 

「はぁ……」

 

 チャイ特有の濃い味を楽しみながら、少しだけブルーな気持ちで朝食を終えた。

 

 ●

 

「すまないが――」

「パパ! また――」

「いや……これは――」

 

 何か、客室の前で争っている声が聞こえた。

 少しチャイを楽しみすぎてお花を摘みに行った後、ふと景色を見ようと向かった車両での出来事だ。

 

 

「私も行くわ」

「お前は――」

「あら……パパ、迷子の子がいるみたいよ!」

「何?」

 

 どうやらダシに使われたらしい。

 険しい顔をこちらに向けるマンダリン。その隙をついてか、マンダリンと言い争っていた少女は少年と共に車両の先頭へと歩いて行った。

 

「……君か。あぁ、しまった……。いや、捨て置く事は……」

「探偵卿さん、アラビア語はわかるかしら」

「! あぁ、聞き取る事は出来る。なるほど、昨日たどたどしい喋りだったのは、慣れない英語だったからか……」

「ええ。あんなのでも通じてしまうから、直す機会がなくってね」

 

 喋りやすい母国語に変えてみれば、流石は探偵卿と言ったところか。

 話す事は無理かもしれないが、聞き取りには応じてくれた。

 

「それで、いいの? 彼女達、あの部屋へ入っていくようだけど……。大事な娘さんでしょう?」

「……何? 何故君がそんなことを知っているんだ?」

「とっても似ているもの。顔立ちは東洋人だけど、頑固そうな雰囲気が特に」

「そ、そうか……。あぁ、いやそれよりも……君は何故ここに? 君の客室は十四号車……食堂車からみて反対の方向だぞ?」

「先頭車両からの……というより、車両の先頭からの景色が見てみたかったのよ。この列車がどういう景色を見ているのか、ね」

「詩的な表現だな……。だがすまない。いまあの付近は調査中でね。一般人である君を通すわけにはいかないんだ」

「あらそう。それは残念。その調査? が、終わったら……教えてくれるかしら。あぁ、ごめんなさい。それは流石に手間よね」

「いや、全てが終わったら君に知らせよう。必ず、この列車の走行中に終わらせる……楽しみにしていてくれ」

「……わかったわ。探偵卿の言う言葉だもの。信じてみるわ」

 

 やはり意思の疎通がしっかり図れるというのはスムーズだ。

 知識あれかし、智恵あれかし。

 それを言うのなら私ももっと流暢な英語を習得すべきなのだろうけれど、それはそれ。これはこれ。

 

「それじゃ、私は客室に戻るけれど……1つだけ助言。あなた達はどちらも頑固だけれど、自分を変えようと思うのは間違いよ。かといって何もしなければ何も起きない。けれど、今回の場合だけは幸運(ハッズ・サイード)が近くにいるわ。奥さんと娘さんのためを思うのなら、流れに身を任せなさい」

「……どういう」

「ほら、2人が出て来たわよ。健闘を祈っているわ、つぎはぎ(パッチワーク)さん」

 

 それだけ言って、悠々と帰る。

 客室へ戻ってベッドに転がり、昼食の時間を待った。

 

 ●

 

「いきなり声をかけられた時には驚いたぜ」

 

 嬉しそうに言う荒々しい恰好の男。

 彼の名はビッグ・フック・ビル。海賊の美学を持つ、信念において海賊である男だ。

 彼に相対するは、性別不明年齢不明の銀髪。名をクイーン。怪盗クイーン。

 怪盗の美学を持つ、赤い夢の住人である。

 

 彼らは十年来の再会を喜び、語り合っていた。

 語り合う内容は主にビルの息子、ジャックの事。

 そして、クイーン自身の事だ。

 

「悪魔と契約してね。時間流から外してもらってるんだ」

「冗談に聞こえねぇぜ、そりゃ」

「尤も、ここには時間流そのものをも超越する存在がいるようだけれどね」

 

 クイーンがその言葉を呟いた瞬間、ブフッ! と口に含んだ液体を吐く音が聞こえた。

 視線を巡らせてみれば、年端もいかない少女がたどたどしい英語で謝りながらナプキンを貰っているところが目に入る。

 クイーンの言葉に反応した、というのがタイミング的にも一番しっくりくるのだが、クイーンは現在蜃気楼(ミラージュ)の術を使っている。こうして話している自分以外、周囲の人間の記憶から自らの存在を消し去ってしまう気配操作術だ。

 様々な強者(つわもの)……己の妻を含めた’’そういう存在’’を見てきたビルにしてみれば、あの少女がそのカテゴリに入るかどうかといえば怪しい。

 

「あれがか?」

 

 敢えてあの子が、と聞かなかったのは、もし本当に自分たちの会話をあの子供が聴いていて、且つ目の前のクイーンの様に年齢不詳だった場合を考えての事。

 ビルは決して頭の悪い部類ではない。むしろ、海賊を辞めるまでは頭の切れる存在だったのだ。

 

「わたしでも全貌は掴み切れていないけどね。RD曰く――あぁ、わたしの友人の事だけれど、世界最高の知能を持つ彼にして、彼女をスキャンしようとするとどうやってもエラーが起きるんだそうだ。わたしと同じようにね」

「そりゃあ……いいな」

「冒険の匂いがするかい?」

「船出の匂いはするな。世界の全てが分かる上での船出ってより……わからねぇことが1つや2つあった方が、船旅は楽しくなるってモンだ」

「違いない」

 

 2人は笑う。

 海賊もまた……単に略奪行為を行う海賊ではなく、夢を追い求める海賊も……世界に取り残された、赤い夢の住人なのだから。 

 そして、少なくなったチャイを飲む彼女も――。

 

 ●

 

「100点ね。振動も気圧も音も完璧。流石ね?」

【しかしあなたを起こしてしまいました。何が悪かったのでしょう】

「主な原因はシロクマね。相当に気が立っているわ。彼の殺気のせいで、空気がピリピリしているのよ」

【成程。それはわたしに制御できる物ではありませんね。――ですが、ご婦人(レディ)? それ以上に、あなたの気が立っていた……それが原因ではないでしょうか】

「――120点(カマール)よ、RD。そうね、昼間にあった時代遅れの海賊(Captain Hook)時代知らずの怪盗(Queen’s Card)のわざとらしい会話のせいで警戒を強めていたのは事実。けれど、減点が1つ。RD、あなた乙女(レディ)の身体を無断で調べたわね。仮にも紳士を称すあなたが」

【――これは、失礼を。では総評は何点でしょうか】

20点(Fail)ね。それほど、乙女の秘密は大きいのよ」

【手厳しいですね。とはいえどこかの怪盗よりは理論的な総評です。以後、気を付けましょう】

「えぇ。でも、空の旅は存外楽しい物だわ。40点加えておきましょう」

【落第は免れましたか。そろそろ車両を戻しますが、外の景色をお見せしましょうか?】

「要らないわ。だって私が乗っているのはオリエント急行。地平のレールをひた走る鉄の蛇よ。空が見えるわけないもの」

【では、おやすみください。もうすぐ長い列車旅も、終わりを告げますので】

「えぇ、おやすみなさい。楽しい事はすぐに終わってしまうわね?」

【Good Night, And Have A Nice Dream】

 

 ●

 

 オリエント急行はハンガリー国境を越え、オーストリアに入る。

 ウィーン、ザルツブルグ……。ドイツでは停車することなく素通り、フランスのシャンパーニュ地方へ入った。

 その中心地であるランスが最後の停車駅。そこを抜ければ後はもう終着駅であるパリまでどこにも停まらない。

 

 

 

 なぜ私はここにいるのだろう。

 

 改めて、オリエント急行での最後の晩餐の後、車掌とカーに「残って欲しい」と声を掛けられた面々を見遣る。

 加えて国際刑事警察機構(ICPO)の探偵卿マンダリン・アタッシュとトルコ警察刑事セラップにまで引き留められて、それを断われる者などいないのだろう。

 浅黒い肌に黒い髪、青い目をわくわくさせている双子。あれが風に聴くジェラールとジャンダン。黒猫(アートルム・フェーレース)という犯罪組織を名乗る、富豪のギュルセル家が2人。

 その近くで人食い虎のような少年が座ることなく壁に寄り掛かって目を瞑っている。

 ラム酒を抱えたビッグ・フック・ビル。彼の息子である少年ジャックとマンダリンの娘であるボタンが仲良くテーブルに座っていて。並べられた料理に手を伸ばしては丸眼鏡の女に手をはたかれている黒ずくめサングラス――夢水清志郎。

 ドアの所には車掌と料理長のグラハム・カー。

 最後の晩餐には1人足りない十二人……いや、まぁ、自分をいれれば十三人になってしまうのだけれど。

 

 本当に何故私は呼びとめられた?

 

 私と一瞬会った事の或るボタンも首を捻って私とマンダリンを交互に見ているし、ビルは無関心にラム酒を……あぁアレ持って帰ろうとしているのか。

 他の客……何を考えているのか分からない夢水清志郎と丸眼鏡の女は除いて、誰もが「誰? この少女は」という目線を私へ向けていた。

 

 マンダリンがこの場を設定した2人……車掌とカーに頭を下げ、さらにはカーを疑った……カーの料理人としての誇りを傷つけた事を謝罪した。

 そのまま推理へと移ろうとしたマンダリンを、夢水が止める。探偵の鉄則「さて――」だ。北の高校生探偵も同じことを言っていたし、探偵界の掟なのだろう。

 

 そうして披露されるマンダリン・アタッシュの推理。

 弓なりになったオリエント急行と弓銃(ボウガン)、ロープウェイ。

 確かにこれなら問題ない。問題の無いトリックで、不可なくパンドラの匣を先頭車両から最後尾の車両へ持って行けるだろう。

 けれど、

 

「そこまで言い張るのなら、パンドラの匣があるか、皆さんで立ち会ってもらって、部屋を調べてもらいましょう」

「……今は、ありません。それは、ハンガリー警察の捜査でもわかっています」

 

 証拠がない。

 妄言で戯言(たわごと)と言われればそれまで。

 事実がっかりしたようなジェラールとジャンダン、そして人食い虎の少年は、わざとらしく溜息を吐いた。

 そんな手詰まりの空気が流れた――その時。

 

 食堂車の扉が開き、入ってきたのはワゴンを押す理性的な猛獣。

 その鋭い眼光が私を貫き、ビクッとなる。自然な(てい)で彼と私の間に入って来てくれたのは意外にも意外、なんとビッグ・フック・ビル。なんだこの海賊、かっこいいじゃないか。

 

「『落し物を拾ったら、お巡りさんに届けましょう』――ふざけた真似を!」

 

 うんうん、と頷く猛獣と、そんな彼に苦労してんだな、という目線を向けるビッグ・フック・ビル。ちらりと丸眼鏡の女を見てやれば、口の端だけを上げた笑みで見返された。

 そしてようやく自信を取り戻したマンダリンによる推理の続き。

 箱に付いた指紋。ジェラールとジャンダンのものではなく、マンダリンの物。

 すぐさま罠だとジェラールが指摘するも、マンダリンは全指の火傷を見せた。

 

 形だけの詰み手(チェックメイト)

 

 ジェラールの口が微かに動く。

 「破壊せよ」。

 その言葉に人食い虎の少年が獰猛に笑い、素早い身のこなしでパンドラの匣を奪取する。猛獣がそれを止めるも、雑技団のような身のこなしで少年が匣を蹴り上げ、キャッチして窓の外に出た。

 

「90点ね……。日差しの入り方が甘いわ」

「夜なんだから日差しなんてあるわけないだろ? 嬢ちゃん、100点って言いたくないだけじゃねぇか?」

「100点を出してしまったら、私はその人を愛さないといけないでしょう? 120点(過ぎたる者)100点未満(足りない者)の、どちらかでないといけないの」

「なるほどなぁ……。さっきの俺はどうだった?」

95点(カリィブンヌ)。その手に盗んだラム酒が無ければ105点だったわ」

「手厳しい嬢ちゃんだな」

 

 視界の隅で目を瞑っていたマンダリンが、その目を開いてある一定の面々に目をやった。

 夢水、丸眼鏡の女、セラップ――そして私。

 あぁ、とばかりに自分も入っている事に気付いたような仕草をする。

 この中にクイーンがいると思い至ったのだろう。

 

「でも、なんで私はここに残されたのかしら?」

「そりゃ嬢ちゃん、アレだ。あの腕の悪い探偵卿となんか約束したんだろ? 盗み聴くつもりはなかったが、先頭車両の景色がどうとか、アイツが走行中までには事件を終わらせるとか、そんな約束」

「……あぁ! なるほど、だからここでかっこよく事件を解決して、娘さんへのイメージ回復と私との約束を果たそうとしたのね。案外ロマンチストじゃない。見直したわ」

「嬢ちゃんの事を見た目通りの年齢に思っているだろうからなぁ。さっきの晩餐の時も嬢ちゃん普通にワイン飲んでたのアイツ気付いてないんだぜ」

「推理の事で頭がいっぱいだったんでしょう? つぎはぎ(パッチワーク)にするには、余りにもピースが足りないものね。私に関しても同じ」

「まぁクイーンの奴に加えて、あのよくわからん男と俺、更には嬢ちゃんみたいなのがいればなぁ。さっき出て行ったボウズと兄ちゃんも末恐ろしい雰囲気だったし、ただの探偵卿じゃあ荷が重いわな」

 

 笑ながら折角盗んだラム酒を開けるビッグ・フック・ビル。

 ならば、と私もテーブルに残ったグラスを前に出す。

 ニヤりとしながらなみなみ注いでくれるビル。本当にかっこいい海賊だ。ロッサが惚れた理由もわかるという物だろう。

 

「んじゃ乾杯(ブリンディシ)

乾杯(フィー・スハティカ)

 

 コツン、とグラスを合わせて、コクコクと飲み干す。

 流石、オリエント急行で出されるラム酒……ん?

 

「これ、持ち込みかしら?」

「おう。高級酒は持って帰ってゆったり飲むさ」

「……ま、海賊のラム酒も悪くはないわね」

「だろ?」

 

 少しばかり……かなり安いお酒だったけれど、十二分に美味しかった。

 

「これなら、120点ね」

「そりゃあ良い」

 

 ●

 

 推理は成ったが、証拠は持ち去られて帰ってこない。

 どこか安心したような様子のジェラールとジャンダンの2人は足早に、しかし愉悦の笑みを浮かべて去って行った。

 さて、とビルも立ち上がる。一応旧知の仲として悲壮に包まれているマンダリンを慰めに行ったのだ。

 さらにそこに夢水も加わり、あわやビルが逮捕されるか――という所で夢水の推理ショウ。写真を見ただけで、まるで全てを見てきたかのように夢水は……名探偵は、全てを解決してしまった。

 嬉しそうに夢水の肩を叩くビル。

 同じく嬉しそうに食料を頬張りながら、しかし夢水は気落ちしたマンダリンに言う。

 

 まだ、事件は終わっていないと。

 次の駅に部屋を用意してくれと。

 最後に笑うためだ、と。

 

 

 なお、危ないからとの理由で私はまた車両の先頭へ行かせてもらえなかった。

 オーステルリッツ駅って、終着駅なんだけどな……。

 これはもう見る事は叶わないだろうと、私は肩を落として部屋に戻るのだった。

 

 ●

 

 オリエント急行が、パリのオーステルリッツ駅に着いた。

 数日間の旅で仲良く成った者との別れを惜しむ者、こちらの駅にいた待ち人と抱き合う者など様々で、探偵卿であるマンダリンもまた、ある意味ではそちらに属する人間だった。

 

「ママ!」

 

 ボタンが勢いよく飛び付いて行ったのは、パリの街にすれば浮く……しかし、どこか風景に溶け込んでいる和服――桜模様の京友禅。

 マンダリンの妻、藤こはぜである。長身で、ポニーテールのように見える髪型は『尾長』。

 東洋人でありながら、その場の人間を圧倒する美しい女だった。

 そんな彼女と、彼女の娘と、マンダリンに駆け寄っていく黒ずくめサングラス。

 黒ずくめサングラスは彼と彼女らの手を引くと、長年使われていませんよ、感の甚だしい貨物室の中に引き込んでいった。

 道行く人々が良からぬ想像をしてしまったのも、無理はないだろう。

 

 さらにはそこに、浮浪者かと見紛う荒々しい男とタキシードに紫蝶ネクタイの少年、何故か荒々しい男の方と親しげに会話をする幼い少女も入って行けば、混乱は極まる。

 もっと前から貨物室に注目していた者達――’’かの’’と頭に付くほど、パリの地でさえ一部には有名な双子、ジェラールとジャンダンがそこへ入っていくのを見ていた者達は、更に困惑の極みである。刑事の格好の者が入って行ったから危ない事ではないのだろうが……と思い、一方であの混沌とした部屋で危ない事が起こらない可能性はあるのだろうか、とも心配になっていた。

 とはいえ、そんな周囲の予想あらかたに、貨物室の中では『クライマックス』が始まっていた。

 

 ●

 

 名乗りと、さて――という言葉から夢水の推理が始まる。

 あのパンドラの匣が本物ならば、ジェラールとジャンダンを引き留める理由は無い。

 ならばあの匣は偽物なのだと。そして本物はここにあるのだと。

 

「本物は追跡者自身に持ってきてもらえばいい」

 

 それに勘違いを起こすボタンと、激昂するマンダリン。

 しかし全く意に介さず、冷静に対応し――真犯人を、指差した。

 

「パンドラの匣をはこんだのは、あなたです」

 

 トルコ警察が刑事――セラップ。

 セラップはうろたえながら抵抗するが、彼の抱える頭陀袋の中身を見せろと言われて詰まってしまった。車掌も、マンダリンも、ハンガリー刑事も……彼の袋の中身を確認していない。

 セラップはジェラールを見て、俯くジェラールに悲しそうな表情をして――その頭陀袋から、拳銃を取り出した。

 

「動くな!」

 

 手を上げて、壁の方へ移動しろというセラップ。

 ジェラールとジャンダンはセラップ側へ移動し、残念だと呟いてこれからの予定を話す。

 けれど、その脚本には2つほど抜けがある。

 夢水にそれを指摘され、クイーンの存在を馬鹿にしたジェラールが嗤いながら死を告げる。セラップが引き金にかけた指に力を入れようとした、その時。

 声が響いた。

 

「誰だ!」

「真打ち登場!」

 

 カッと丸眼鏡の女から放たれたカードが、拳銃の銃身を割断する。

 驚いて拳銃から手を離すセラップ。更に妙な事に、本来マガジンがあるべき場所には、暗い所だとわかり辛い、しかし明るい所なら簡単にわかる黒色の粘土が詰め込まれていた。

 ソレを見て、ビルがニヤっと笑う。

 

 丸眼鏡の女はクイーンの変装だった。

 わけのわからない早着替えで性別不詳年齢不詳の姿になると、今度は夢水と親し気に話し出す。なにやら口の端をヒクヒクと動かしたりしているが、特に気にする事でもないだろう。

 

「さて、そろそろ幕を降ろそうか」

「――いや、幕を降ろすのは、わたしだ」

 

 パンドラの匣に手を掛けたジェラールが言う。

 本当に残念だと言いながら、その指が匣に――、

 

お馬鹿さん(アフマク)ね」

 

 天井が轟音と共に割れる。

 破片が舞い、土埃で視界が狭まる。

 その場へ降り立った1人がパンドラの匣を蹴り上げ、それをクイーンが回収していった。

 

 後に残されたのは、呆けた表情の犯罪者3人と、海賊、探偵卿。一般人は土煙でそれどころではなく、最後の名探偵は既に興味を失っていた。

 

 犯罪者でも、海賊でも、探偵卿でも、一般人でも――名探偵でもない彼女の姿は、何処にもなかった。

 

 ●

 

 ともすれば、先程いた貨物室よりも静かな空間に、彼女は居た。

 

【Missマレファ。その匣をどうするつもりですか?】

「そうねぇ……あなたはどうするのが一番だと思うかしら」

【遺跡専門家のMissパシフィストに渡すのが、少なくとも私達が所持しているよりは安全だと思いますね】

「時代外れの怪盗より遺跡荒らしの方が信用できるなんて、悲しいわね」

【ある意味で、わたしはクイーンを信頼しています。しかし同時に信用は全くしていません。何をしでかすかわからない――あるいは、そのパンドラの匣(ボックス)よりも不明瞭な存在(ブラックボックス)ですから】

「なるほど、言い得て妙ね。――けど、心配は無いわ」

 

 少女は、マレファはポーンとパンドラの匣を投げる。

 そしてソレを、いつの間にか脱いでいたらしい靴の無い足――の、付け爪で、一閃した。

 パンドラの匣が、開く――、

 

危険(エマージェンシー)。この区画を完全封鎖――おや?】

99.99%(フォーナイン)の確率で未知のウィルスが入っている――だったかしら」

 

 両断された匣は、綺麗に天使と悪魔のレリーフで分かたれ、その中身を晒す。

 出てきたのは――何もない。

 

「0.01%の確率は不明(アンノウン)……でもね、簡単な話なのよRD」

 

 彼女は前置きをする。

 さて、と。

 

「神話のパンドラの匣は、実在した。あの時の匣が、そのままトルコの美術館に保管されていた。つまりね、RD――」

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 悪戯っ子のような笑みで、マレファは言った。

 そう、パンドラの匣はずっと前……それこそ神代の時代に、開けられているのだ。

 他ならぬ、パンドラ自身の手によって。

 

「だから、もしこの匣に残っている物があるとすれば……それは、人類の希望だけ」

【しかしその匣には何も入っていませんでした。なら、人類の希望はどこに?】

「だから、何もないのよ、RD」

 

 彼女は酷薄に笑う。

 二つに分かれたレリーフを、RDのカメラに向けて続ける。

 天使と悪魔と、それ以外のナニカが嗤う。

 

「匣を開ける時、パンドラは葛藤したわ……開けるか、開けないか。開けてはいけないと言われて渡されたそれを、開けてしまいたいという好奇心。自制心と好奇心がぶつかり合って――結局、パンドラは好奇心に傾いた」

 

 まるで見て来たかのように語る彼女。

 何故か、RDの時刻を司る部分に小さなエラーが走る。

 

「それが災厄よ。好奇心に負けて、自制心を失う……それが人間全体に降り注いだ、今代にも、そして末代にまで続く災厄。覚えがあるでしょう、RD。あなたはその最たる人間と付き合っているのだから」

【――なるほど、クイーンは災厄だったのですね。――通りで】

 

 何に納得したのかは、彼が納得するまでに置いた間に込められているのだろう。

 マレファは続ける。

 

「果たしてパンドラは好奇心に負け――匣を開けてしまった。けれど、どうしたことでしょう。その匣の中には何も入っていなかったのよ。何も、ね」

 

 芝居がかった口調でくるくると回りながら喋るマレファ。

 RDの映像を司る部分に小さくないエラーが走る。

 

「好奇心は全ての罪に通じるわ。マイナスの言い方にすれば、嫉妬心ね。知りたい。やりたい。見たい。聞きたい。欲しい。だから、知っているのがずるい。やっているのがずるい。見ているのがずるい。聞いているのがずるい。持っているのがずるい! 好奇心と嫉妬心は連鎖を重ねて、更に自制心を跳ね除ける」

【アレが欲しい。持っているのがずるい。だから、盗んでしまおう。なるほど、クイーンに通じますね】

「けれど、そんな大罪の好奇心の涯に得た物が無だったら――何も無かったら、人間はどうすると思う?」

【欲しい欲しいと思って、全ての能力を駆使した末に得た物が何も無かったら――クイーンを含め、誰もが脱力するんじゃないですか? 今までの努力や犠牲はなんだったのだと】

 

 そこまで言って、世界最高の人工知能は気が付いた。

 脱力する。

 無気力になる。

 確かに仕事をしないクイーンは目に余るが……その間は、少なくとも自分とジョーカーは平和である。

 

「それが希望よ。考えずに、動かずに、疲れて……平和になる。戦争を起こそうにも得る物がゼロで自国へは大なり小なりの被害が出る。そんな状況で、わざわざその国に戦争を仕掛ける? 領土も民も、食料も何も入らない……ただ、お金と自国民と自国の食糧が消えていくだけ。それ以前の関係に恨みつらみがあればまた別だけれど……」

【次第に人間達は疲れ、戦う事を止める。それが人間同士の争いであれ、永くを生きたいという闘病心であれ――諦める】

 

 とうとう、音声にもノイズが走り始めた。

 

「匣の外側が美しい意匠なのも、好奇心を掻き立てるためのゼウスの罠よ。もとよりゼウスは人間に災厄を与えたかったのだし……」

【すみません、Missマレファ。現在、原因不明のエラーが……】

「あら、もうなの? 全く……クイーンに、外観部分だけの時間流の固定の仕方を教えてもらうんだったわ」

【修復中……】

「それじゃ、この匣はここに置いておくから……また会いましょ?」

 

 バン! と一瞬にして、トルバドゥールのメイン電源が全て落ちた。

 しかしコンマとかからない内にサブ電源が起動、全てのシステムが復旧する。

 先程までの大量のエラーは消え、RDは人工知能ながら一息を吐いた。

 

 そして、パンドラの匣が在る故に厳重に封鎖しておいた回収コンテナから、あの少女の姿が跡形も無くなくなっている事に気が付いたのだった。

 コンテナの中央には2つに割れたパンドラの匣。

 それに乗せられたカードには、2つの大きな数字が。

 『25点!』

 

【何が5点分になったのでしょう……】

 

 世界最高の人工知能RDは、クイーンとジョーカーが帰ってくるまでの間、追加された5点分が何なのかを考えつづけたのだった。

 

 無論、答えは出なかったが。

 

 ●

 

 ばちん! と大きな破裂音がして、その真白の空間に少女は弾き落とされた。

 ふわりと着地して、はぁと一息つく。

 

「次はどの時代に行けるかなぁ……」

 

 上も下もわからない空間を、マレファはコツコツと楽しげに歩いていく。

 時代外れの旅人。

 旅先の物を採点する事が、彼女の『旅人の美学』である。

 










はやみねかおるが児童図書にあったからこそ小説が好きになって、物語が好きになった。
ファンブックも勿論買ったしHPも見ている――けれど!

あの世界を表現できるかと言われれば、別である!

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