ノンケ提督が艦シーメール鎮守府に着任しました。   作:ゔぁいらす

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春風のしたいこと

XX祭りもあっという間に最終日。

簡単な予定の確認を含めた朝礼が終わり、それぞれ持ち場へ移動を始める。

俺は屋台へ食材の仕込みに向かおうとする大淀に昨日高雄さんからもらった旅行券の話をしようと呼び止めた。

「な、なあ大淀ちょっと良いか?」

「何?」

「あ・・・あのさ・・・」

そこで俺は言葉を詰まらせてしまう。

ただ次の休み一緒に旅行へ行かないか誘うだけなのになんでこんなに緊張してるんだ・・・?

もしかしたら断られるのが怖いのか?

いやいやあいつが俺の誘いを断わる訳が・・・

なんて思うのは俺の思い上がりなんだろうか?

最近なんだかんだで他の艦娘たちとも結構話してるのも見るようになったし、休みの日はよく那珂ちゃんと出かけたりもするし・・・

もしかしたら予定なんてないってずっと言ってた俺なんかよりそっちの予定を優先するんじゃ・・・?

もしかしたら一人で自分の地元に帰るかもしれないな・・・

というかあいつの地元ってどこなんだ・・・?

大淀・・・もとい淀屋とは艦娘になる前から合わせてかれこれ4年近い付き合いなのに地元の話をしてもわからないとはぐらかされるばかりか家族の話すら全く聞いたことがないし話そうともせず、いつの間にかあいつの家族や地元について聞く事を俺は知らないうちにタブー視するようになっていたのかもしれない。

そりゃ人間聞かれたくないことの1つや2つくらいあるもんだし・・・

「あ・・・・いやえーっと・・・今度の休暇の予定とか決まってるかなーって」

「予定? 謙は地元帰らないんでしょ? それなら私も鎮守府に居るつもりだけど」

はぁ・・・よかった。

もし先に予定入ってたらどうしようかと・・・

それじゃあ後は誘うだけだ。

「そ、そっか・・・それじゃあ俺と・・・」

あれ・・・やっぱり続きが出てこない。

俺がこんなに緊張してるのはあいつに断られる事を警戒してたからじゃない。

単に誘う事自体に緊張してるんだ。

なんでだ?これまでだってあいつを色んな所に誘う事なんていくらでもあった。

最初は嫌そうな顔をしていたのを無理矢理連れ出したりしたこともあったけど別にそんなのいつもの事だったじゃないか。

そりゃ提督と艦娘という立場になってからは二人でどこかに遊びに行くなんていう事も昔と比べたら減ったけどさ・・・

「あ、あの・・・実は・・・」

ただ高雄さんから旅行券貰ったから行こうぜって艦娘になる前のあいつに言うみたいに言えばいいだけなんだ。

でもそれが何故か今の俺には出来ず・・・

「HEY大淀!はやく行くデース!」

「はーい! ごめんね謙、そろそろ行かなきゃ・・・でも見てて! 金剛さんから野菜の切り方とかしっかり盗んで今度こそ美味しい料理作ってあげるから」

そう言って大淀は食材の仕込みに行ってしまい、結局最後まで言えないまま大淀の背中を見送ることになってしまった。

ただでさえモヤモヤしている心に更にモヤがかかってとても憂鬱な気分だ。

「はぁ・・・」

あいつの背中が見えなくなったくらいにそんな簡単な事すら言えない自分が情けなくなって俺は大きなため息をついていると・・・

「なになに提督さん そんな浮かない顔しちゃってぇ〜業務でお疲れですかぁ?」

急に背後からしたそんな声とともに後ろから抱きしめられ、背中に柔らかいものが当たりふんわりと多分シャンプーの匂いが鼻をかすめた。

こんな事をしてくるやつは今出ていった金剛を除けば一人しか居ない。

「うわぁぁっ! あ、阿賀野!?」

「えへへへ〜 隙あり〜なぁんちゃって・・・」

阿賀野は俺の耳元でそう囁いてきた。

こうして阿賀野が俺をからかってくる事も日常茶飯事だが今日は少し事情が違う。

何故かって?

阿賀野が俺をモヤモヤさせている張本人だからだ。

昨日突然やってきた阿賀野の旧友を名乗る金髪美女(いや男だったんだけど)のアイオワさんの存在

そして夜に突然高雄さんに書かせた外泊届けを出して突然出ていって朝帰りしてきたからだ。

さっきの朝礼も大きなあくびをして眠そうにしてたしきっとアイオワさんに会いに行っていたに違いない。

二人が一体どんな関係なのかとても気になるが、だからといって直接聞くのもプライベートな話だしあんまり触れるのは良くない気もする。

こうして冗談半分ながらも距離感の近い関係を(ほぼ一方的に)築いてきたと思っていたのだがなんだかそんな阿賀野が急にうんと遠い存在に思えてしまって・・・

「なあ阿賀野・・・」

「ん〜?なぁに提督さん?」

「とりあえず離れてくれるか・・・?」

「え〜 いつもみたいに顔真っ赤にしてジタバタしないの?」

「今日はそんな気分じゃないんだよ」

「ふぅ〜ん・・・ 何か考え事? 良かったら阿賀野が相談に乗ってあげよっか? なんでもお姉さんに聞いてくれたまえ〜 なんちゃって」

相談も何も昨日はお楽しみだったんですか?なんて本人に聞けるわけ無いだろ!!

「ああもうわかったから離れろって!!」

「もぉ〜ノリ悪いなぁ・・・」

阿賀野はそう言いながら渋々俺から離れてくれた。

「勝手にひっついてきてノリ悪いもクソもあるかよ」

「ふぅん・・・なんか元気なさそう。 元気出ないなら・・・おっぱい揉む?オトコのおっぱいでよければ?」

「だあもう!!いつのネットミームだよそれ!!しかも男のなんて言われたら揉む気も失せるだろ!?」

「え〜それじゃあ・・・もっと気持いい事してスッキリしよっか?」

阿賀野は顔をぐっと俺に近付けてきてそう囁く。

その阿賀野の声は人を堕落させるような蠱惑的なものに感じられてシャンプーの香りがさっきよりも強く香り、潤んだ唇に一瞬俺は目を奪われてしまった。

こんな至近距離で見つめられてはもうどうしようもなく胸の鼓動が高鳴っていき、気を抜けば二つ返事で頷いてしまいそうだったが必死に阿賀野は男だと自分に何度も言い聞かせる。

「ききき・・・・きもち良い・・・事ってその・・・」

昨日アイオワさんともそういう事したのか?

なんて下世話な話が勢い余って口から飛び出そうになったが必死に抑えていると次の瞬間

「えいっ! あはははは引っかかった引っかかった!!」

阿賀野のデコピンが俺の額を捉えた。

「いってぇ!!何すんだよ!!」

「よかったぁ・・・ちょっと鎌かけたらすぐ顔真っ赤にしちゃうんだもんいつもの提督さんじゃないの」

「阿賀野お前なぁ・・・」

「あれ?もしかして期待しちゃってた? それならシてあげても良いよ? 提督さんの処女でも童貞でも好きな方捨てさせてあげるから!」

「バカ!処女なんか一生誰にもやるつもりもないし童貞も男で捨てるなんてゴメンだからな!」

「ふぅんそっかぁ。 ふわぁぁぁぁ・・・ねむ・・・ 提督さんも思ったより元気そうだし阿賀野これから二度寝しま〜す・・・おやすみ〜 夕方のお手伝いの時間になったら起こして〜」

阿賀野は大きいあくびをしてとぼとぼ自室へと歩きはじめた。

「おいこら起こしに行かないからな!ちゃんと起きろよ!!」

そう言うと阿賀野はわかったわかったと言わんばかりに後ろでに手を軽く上げてそのまま部屋へと戻っていく。

昨日寝てないんだろうなとも思ったが阿賀野を見ていたら悩んでいるのもバカバカしくなってきた。

俺も阿賀野も夕方から神社の売店の手伝いの予定が入っているもののそれまではフリーだ。

さて俺は夕方までどうしたものか・・・

昼頃から春風と祭りを回る約束をしているがそれまではまだ時間があるしとりあえず昨日吹雪が金魚すくいで連れてきた金魚の餌を買ってきてやらないとな。

一人で行っても良いけどせっかくだし待機中の吹雪も連れて行ってやろうかな・・・

 

吹雪たち三人が待機している演習場に行くと艤装をつけた春風と天津風が卓を囲んでいた。

「ならあたしは真紅身の黒海老で攻撃!」

「ふふっ、それは読めていました。 わたくしは反撃呪文邪悪なる壁デーモンスパークを発動します! この効果によりあなたの真紅身は消滅、そして残りのスケルターもすべて墓地へ送っていただきます!」

「えぇっ!?なにそのカード!!反則よ反則!!」

どうやらカードゲームをしているらしい。

近所にあんなの売ってるような店はなかったはずだけど一体どうしたんだ?

「おーい何してんだ?」

「見てわからない?闘技神バトルマスターズよ!」

それは年頃の男子が避けては通れないカードゲームだった。

俺も一時期前にやっていたがルールが改定されたり召喚方法が増えたりでよくわからなくなったりしたので知らないうちに触らなくなっていた。

いやそんなことはどうでもいい。なんでこんな懐かしいカードを今更持ってるんだ?

もし天津風たちがバトマ好きなら俺もちょっとくらいは遊んでも・・・

・・・ってカードは実家だったな。

でも共通の話題くらいにはなるはずだ。

「バトマかぁ・・・俺も昔やってたぞ。で、なんでそんなに大量にカードがあるんだ?」

「これはですね、初雪さんから頂きました。何やら箱だけだしてるのにゲーム機を景品で出さないクジ屋を1軒潰してやった戦利品だから・・・と ルールも教えてくださったのでこうしてでっきを組んで天津風と対戦していたのです」

初雪の奴一体何をやったんだ?

屋台荒らしとかなんとか言ってたけど荒らし方のレベルが違いすぎるだろ・・・

「ああ・・・わたくし漫画でしか読んだことがなくまさか本当にカードが実在しているなんて夢にも思いませんでしたわ! しかしスケルターはカードから飛び出してこないのですね・・・バトルボードは何処に売っているのでしょうか・・・?」

春風はそう言って目を輝かせている。

そういえば世間には疎いけど少年漫画だけはこっそり読んでたって言ってたっけ・・・

「なあ春風、スケルターが飛び出すのは演出だから・・・本当は出てこないぞ」

「そう・・・なのですか・・・」

春風は残念そうな顔をした。

どうやらカードも実在するもんだから漫画みたいにカードからキャラが飛び出してくると本気で思っていたらしい。

「で、何か用なの?今春風と真剣勝負中なんだけど?」

「ああすまんすまん・・・ってお前ら待機中だろ?」

「ええそうよ?だからこうしていつでも出撃できるように艤装背負ってるじゃない。 ね〜連装砲くん?」

天津風が問いかけると膝に乗っていた連装砲くんがぺこりと頷いた。

「お前らがそれで良いなら良いんだけどさ・・・ちゃんと何かあったら途中でもすぐに出るんだぞ?そう約束するなら暇だろうしそれくらいは良いけどさ・・・ところで吹雪は? 今あいつ当直じゃないだろ?」

「吹雪でしたら先程ケンちゃんを見に行くからと言って自室に戻っていきましたよ?」

「ケンちゃん?」

「昨日すくった金魚の事みたいよ。 用があるなら部屋まで行ってあげれば良いんじゃないかしら?ね、大きい方のケンちゃん?」

天津風は人を馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべてそう言った。

「ああもうお前までそんな呼び方するな! と、とにかく何かあった時はすぐに出られるようにするんだぞ!わかったな?」

 

そのまま急いで自室ってこっそり中を覗いてみると吹雪が嬉しそうに金魚鉢を眺めながら何やら金魚に話しかけていた。

「ふふふ〜 これからは吹雪おねえちゃんがいっぱいケンちゃんのお世話してあげまちゅからね〜・・・ なんちゃって! あっ!ケンちゃんそのお尻に付いてる細いの何?もしかしてうんち? 金魚もうんちするんだぁ・・・ケンちゃんのうんちすっごく細い・・・」

ああもう何いってんだ吹雪は!!

年頃の子がうんちなんて連呼するんじゃありません!

いや吹雪ぐらいの年の頃は俺もうんちだのちんこだのが無性にツボってた時期もあったけど・・・

でもこのまま見てるわけにもいかないし吹雪と吹雪の空間に邪魔するみたいで悪いけど・・・

「はーいどうもー・・・大きい方のケンちゃんでーす・・・」

「きゃぁっ! お、おおお兄ちゃん!?いつから居たの?」

「・・・ちょっと前からだけど」

「こっ、これはね・・・天津風ちゃんに名前が無いのは可哀想だって言われてなんて付けようか思いつかなくて・・・そしたら春風ちゃんが好きなものの名前を付けたら良いんじゃないか?って言ってくれて・・・だから・・・大好きなお兄ちゃんの名前付けたの。 ダメ・・・かな?」

なんか自分の名前を呼ばれてるみたいで落ち着かないけど吹雪にそこまで言われたらダメだとは言えず・・・

「わ、わかった・・・それじゃあその・・・ケンちゃん。しっかり世話してやるんだぞ?」

「うんっ!」

結局新たな同居人はケンちゃんという名前になってしまった。

「そうだ吹雪、今から金魚の餌を買いにスーパーまで行こうと思ってさ。 もし良かったら一緒に行こうと思って探してたんだよ」

「そうだったの?行く行く!! それじゃあケンちゃん?ご飯買ってきてあげるからいい子で待っててね」

吹雪は金魚鉢に向かって優しくそう言った。

なんか調子狂うなぁ・・・

 

こうして俺は吹雪とともにそこそこの距離を歩いて最寄りのスーパーまでやってきた。

「えーっと・・・金魚の餌は・・・一匹だしこれで十分だろう」

筒状の容器に入ったフレーク状の金魚の餌を取り出して買い物かごに入れた。

「ねえお兄ちゃん、金魚ってどんな餌食べるの?」

「この中にふりかけみたいなのが入っててな、それをあげておけば十分だと思うぞ」

「そうなんだ」

「ラベルのところにも書いてるけど食べ切れる量を一日何回かに分けてやるんだぞ」

「うんっ!」

これで当初の目的は達したが流石にここまで歩いてきてこれだけ買って帰るのももったいないな。

「そうだ。せっかくだしアイスでも買って帰るか。もうそこまで熱くもないし帰るまで保つだろうし天津風と春風に差し入れも兼ねてな」

「えっ!?良いの?」

「ああ。どれでも好きなの選んで良いぞ。吹雪も午後からまた当直だし頑張ってもらわなきゃ」

「やったぁ!」

「あんまりでかいの選んで腹壊さないようにな」

こうして吹雪の欲しがったアイスと何本かアイスバーが入った箱、それに軽くつまめる惣菜やお菓子なんかも一緒に買って俺たちはスーパーを出た。

 

二人でアイスを食べながら鎮守府へ戻ると

「ほ〜らケンちゃん? お腹空いてたよね?ご飯買ってきてあげたからいっぱい食べてね〜」

吹雪は一目散に自室へと駆け込み、早速優しく声をかけながら買ってきた餌を金魚にやると食い入るように金魚鉢を見つめた。

「お兄ちゃん見て見て!!ちゃんと食べてくれたよ」

「そりゃ金魚の餌なんだから食べるよ」

「そっか・・・でもなんだか嬉しいの!美味しそうに食べてくれてるみたいに見えるし」

「じゃあ餌もやったことだしアイス天津風たちに届けに行かないとな」

「うんっ! そろそろ交代の時間だしね・・・ ケンちゃん?お姉ちゃんこれからお仕事行ってくるからね」

 

部屋を出て演習場へ行ってみると

「では縄文火炎ドラゴンで天津風にダイレクトアタックします!アタック時資材を2枚墓地へ送ることであなたのスケルターはガードできませんっ!」

「くっ・・・ソウルで受けるしかないわね・・・ああ悔しいっ!また負けた!! もう一回よもう一回!!」

相変わらず春風と天津風が机を囲んで白熱した戦いを繰り広げていた。

「なあ天津風、そんなハマったのか?」

「へっ!?あなたいつ帰って・・・違うわよこれはここがロクに遊ぶものもない辺鄙なところだし待機してるのも暇だから仕方なく・・・」

「あらあら嘘はいけませんよ天津風。 先程まであんなに楽しそうにしてたではありませんか」

「うう・・・そ、それより何の用よ?」

「そろそろ昼時だしなんか食うもんほしいんじゃないかな〜って金魚の餌買うついでに色々買ってきたんだけど」

「アイスもあるよ! みんなで食べよう」

「それを早く言いなさいよ・・・あっ、あたしこれが良い」

「ではわたくしはこれを頂いてもよろしいでしょうか?」

天津風と春風は一旦手を止めて持ってきたアイスや惣菜やお菓子が入った袋から好きなものを取り出し、俺と吹雪も混ざって四人で軽い昼食を取った。

 

昼食を食べ終え、そろそろ春風と祭りを回る時間が近づいてきた。

「ふぅ・・・食った食った。 それじゃあ俺残ったアイス共有の冷凍庫に入れに行ってくるよ。 ま、どうせ阿賀野が全部一人で食っちゃいそうだし釘刺す張り紙でも貼ってからな」

「うん!ありがとねお兄ちゃん。それじゃあ春風ちゃん、そろそろ交代の時間だね。」

「ええ。 わたくしお祭りを回るのとても楽しみにしていました。是非色々ご教示いただけると幸いです」

春風はこちらに深々と頭を下げてきた。

そんな大したことじゃないと思うんだけどなぁ・・・

「おう! ま、ご教示なんて大したことはできないけど・・・春風が楽しんでくれるならそれでいいや。 どうするんだ?着替えたりとかするのか?」

「はい。 流石にこのままではと思いますので少々準備にお時間いただければ幸いです。 今日のために服も用意したので」

「わかった。じゃあ俺玄関で待ってるよ。 それじゃあ吹雪も当直がんばってな」

 

演習室を後にして俺は食堂にある共有の冷凍庫に余ったアイスを入れておいた。

勿論【一人一日一本まで! 特に阿賀野!】という付箋も貼って。

こうでもしておかないと共有で置いておいたものはだいたいあいつに全部食べられちゃうし・・・・

いや書いてあっても食う時は食うんだけどさ。

 

しかしこの日のために春風が服を用意したって一体どんな格好をしてくるんだろうか?

やっぱりすげえ高そうな浴衣とかなのかなぁ・・・

もしそうなら屋台でなんか食べてソースとかこぼれたりしたら大変そうだしすげえ気を使いそうだ・・・

そんな事を考えながら玄関で待っていると

「司令官様〜」

と遠くから春風の声が聞こえてきた。

なんか思ったより早かったな。

着付けとかもっと時間かかると思ってたんだけど・・・

「おっ、来たか! えっ・・・?」

俺は声の方に振り向いてみるとそこには予想だにしなかった姿の春風が居た。

「ど、どうでしょうか・・・? 似合っているでしょうか・・・? 高雄さんにお願いして買ってきていただいたんです。 まさかあんなに安く衣服が揃えられるとは思っていませんでしたが」

春風が来てきたのは高そうな浴衣なんてものではなくキャップを被りTシャツに半ズボン、それにスニーカーといういつもの雰囲気とはかけ離れたボーイッシュ・・・というより完全に男物で揃えた格好だった。

それどころか髪もさっきまでの様にセットされたものではなく下ろして後ろで括っている。

「に、似合ってる・・・というか意外だな・・・ てっきりもっとしっかりした浴衣とか着物とか決めてくるのかと思ってたよ」

「ええ。始めはそうしようと考えていたのですけどいつも和装ですからね。 せっかくですし男児の様な格好でお祭りを楽しんでみようかな・・・と。 どうでしょうか?わたくし男の子に見えますか?」

春風はそう言ってこちらに姿を見せつけてくる。

確かに身体つきは男っぽいし遠目に見れば男に見えなくもないんだけどやはり隠せない気品みたいなものが身体から溢れ出しているような気がする。

それに・・・男装したのは良いんだけど体を動かす度に胸の膨らみが揺れるのはどうにかならないのか・・・?

いつもの和装より生地が薄いからか春風の胸元がとても強調されて見えるのだが春風はあくまで女装をしたときに見栄えが良くなるからと胸にいつもパッドを入れているのは知ってるけど今は男装して必要ないはずはずなのになんでつけてるんだ?

「な、なあ春風・・・? たしかに様になってはいるんだけどさ・・・」

「そうですか!? 嬉しいです! せっかくですし今日は春風ではなく一人の男児としてお祭りを楽しみたいんです!」

「そ、そうなのか・・・けど・・・ なんで胸の詰め物そのままなんだ?」

俺がそういうと春風ははっとなったような顔で胸を見て触った。

「す、すみません司令官様! わたくしとしたことがいつもの癖でパッドを付けてきてしまいました・・・女装は以前から家のしきたりでしてきましたが艦娘になってから胸は艦娘になってからつけるようになって実はお恥ずかしながら今では身体の一部のようになっていてうっかり・・・やはり変ですよね?今すぐ外します・・・!」

そう言うと春風が急に襟首に手を突っ込んで胸元を弄ろうとするので

「わ、わかったから!! 別に春風が良いなら俺は気にしないから!!」

「そう・・・・ですか。 司令官様がそう仰るなら」

春風はそう言って手を止めた。

 

そして二人で祭りの会場へ足を運ぶと3日間ぶっ続けでステージイベントのMCを買って出てくれている那珂ちゃんの声が会場に響いている。

そういや今日はライブをやるんだー!とか息巻いてたっけな・・・

「春風、どこか行きたい所とかあるか?」

「ええ。 今日のために予習をしてきました。 あちらの屋台わたくしとても気になっているんです」

春風が指差したのはチーズドッグの屋台だった。

「えっ、あんなのが良いのか!?」

あまりにも春風の雰囲気には似つかわしくないド派手でどぎつい色の屋台だったので俺は少し戸惑う。

「昨晩初雪さんがとても美味しそうに召し上がって居まして・・・わたくしあのようなハイカラな物初めて見て自分でも食してみたいと思ったのです。 いけませんか?」

「いや・・・いけなくはないけどさ 春風ってこういう人混みとか屋台とかあんまり好きそうなイメージなかったから」

「そんなことはありませんよ。 祭ばやしに人々の喧騒。これを肌身で感じられてわたくしとっても嬉しいんです!」

「そうなのか・・・じゃあ買いに行こうか」

「はい!」

そしてチーズドッグの屋台にできていたそこそこ長い列に並び、やっとのことで手に入れることができ、俺自身もこの手の流行り物は敬遠してあまり食べる気にはならなかったので初体験だが見た所アメリカンドッグの様な見た目をしていた。

それを口に運ぶとサクッとした衣の中からチーズが溢れ出してきて、切り離そうとするとが思ったよりも弾力がありにゅっと口からチーズが手元まで伸びていく。

それをやっとのことで噛み切ってなんとか食べることが出来た。

「ふぅ・・・予想より伸びたなこれ・・・」

「ふふっ!司令官様も初雪さんみたいな召し上がり方をするのですね! わたくしもしてみたい・・・いえしかしこんなはしたない食べ方など・・・」

春風は買ったはいいもののどうやら食べ方を気にしているようでチーズドッグをたべられずに居た。

「大丈夫だって。多分これが正しい食べ方なんだし・・・ 今日はお祭りなんだからその服みたいにいつもの春風じゃない所見せてくれよ!」

「は、はい・・・!そうですよね!今日のわたくしはお祭りを楽しむ男の子なのですから!ではいただきますっ・・・はむっ・・・・んんっ!?」

春風も同じ様ににゅっと口からチーズを伸ばし、それを必死に噛み切ろうと苦戦しながらも感触していった。

「ふぅ・・・ 面白いお料理でしたね! わたくしこのような物初めていただいたので・・・!」

春風はとても嬉しそうに食べ終えた串を得意げに眺めている。

「そうだ春風、この手のドッグの一番美味しい所知ってるか?」

「えっ・・・?わたくしもう食べ終わりましたけど・・・」

「ほらここだよここ! ここがカリカリしてて美味いんだ」

俺は串の根本に付いている固い部分をカリカリと音をさせながら食べてみせた。

「そ、そんな場所まで食べられるのですか・・・! やってみますっ!」

春風は目を輝かせて俺を真似て付け根の残った部分をいい音を點せながら食べていった。

「先程まで食べていた部分の方が美味しいはずなのになんだかここだけ特別な気がして不思議です・・・!」

「そうだろ? 別に特別美味いってわけじゃないんだけどなんか無性に食べたくなるんだよこの部分。 なんていうかこれを綺麗にしてやっと食べ終えたって実感するっていうか」

「そうなのですね! 年頃の男児は皆この食べ方を知っているのでしょうか・・・?」

「うーん・・・どうだろ? でも大体周りはみんなやってたな」

「そう・・・ですか・・・やはりわたくし・・・世間のこと・・・それに男児のことを知らなさすぎるのですね・・・やはり男で有るはずなのに女として育てられてきた以上こんな中途半端になってしまうのでしょうか・・・? わたくしはこんな女々しい自分が憎くて仕方がありません」

そう言うと春風の表情は暗くなった。

それまで春風はただ世間知らずで家から抑圧された反動で男らしくなりたいという大雑把な目標を掲げているだけかと思っていたが思っていた以上に根が深いはなしなのかもしれない。

どんな家庭の事情があったか詮索はしていないがきっとただ女として育てられてきたから男らしくなりたいとかそんな反抗から来るものではなく春風は普通の男の子にずっと憧れ、そして悩んでいたのだろう。

だいたいこの歳くらいの男の子なら知っているようなこと、やっているようなことを春風はずっと知らず、そしてできずにいてそれどころか艦娘になって更に年頃の男の子とはかけ離れた生活を送るようになってしまった彼がこうして男の格好をしたり俺に世間一般の男の子とはどんなものなのかを聞いてきたりして必死に失われた時間を取り戻そうと彼なりに努力しているのが痛いほどに伝わってくる。

「だったら・・・ だったらこれからいっぱいやればいいじゃないか! そりゃ艦"娘"として生活しなきゃなんないからずっととは言えないけど鎮守府の艦娘はみんな男なんだから! お前が普段男の格好したりしても誰も咎める人なんて居ないさ。 それを咎められる権利なんて誰にもないんだよ。 だから艦娘だったとしても・・・それでも自由で居られる時は春風の好きにしたら良いんだ」

「司令官様・・・」

「だから無理に男らしくなりたいとか女らしくしなきゃいけないとかじゃなくて春風が自分のやりたいことをやれば良いんだよ。 きっと天津風たちとカードゲームやったりこうして男の格好で祭りで楽しみたいっていう春風も春風だけど・・・それでも前にも言ったと思うけど綺麗で髪のセットも毎朝欠かさずやって女物の着物を着こなして凛として女性として振る舞ってるお前もそれを嫌々やってるとは思えないんだ。 だから多分どっちも春風なんだよ。 だからそれを恥じる必要も悔やむ必要もどっちか選んだり捨てたりすることも無いんだ。 春風は他の男の子たちに無いものを沢山持ってるじゃないか」

「そう・・・ですか・・・ わたくしずっとただ漠然と男らしくなりたいと思う余り男らしさとは何か・・・そう考えるようになっていたのです。 でも無理に男らしくなる必要も・・・女々しいわたくしを否定する事もしなくて良いのですか・・・?」

「ああそうだ! これからやりたいことなんていくらでも探せば良いんだよ。それが男だろうが女だろうが関係なく春風自信がやりたいことをさ。艦娘をやりながらだって色々やれることはあるはずだろ?」

「・・・はいっ! あれ?すみません司令官様・・・何故か涙が・・・」

春風の頬を涙が伝っていたがその顔は先程と違いとても晴れやかに見えた。

「泣きたいなら泣けば良いんだぞ? 男だろうが女だろうが泣く時は泣くんだから」

「・・はいっ! でもせっかくこうして司令官様とお祭りを楽しめる機会なのです! これは人前で泣くのが女々しいとかそのような思いではなくただお祭りで涙を流すようなことをしたくないという私自身の意思でこの涙は次に嬉しいことがあった時に取っておきます!」

春風はそう言うとポケットから高そうなハンカチを取り出して軽く涙を拭うと俺に笑顔を見せてくれた。

そして春風が落ち着くのを待ってから会場を回るのを再開し、祭りの喧騒を二人で歩いていく。

春風は見るものすべてが憧れていたものや知らなかったものに溢れているで、その輝いた瞳は少年のものに見えた。

 

「司令官様!あれは何でしょう?」

春風が指差した屋台の前では子供や大人が机に突っ伏して何かをしていて、屋台のテントには型抜きと書かれていた。

「ん?ああ型抜き・・・かな。 爪楊枝で型をくり抜いたらその難易度に応じた賞金がもらえるとかなんとか・・・」

「そんな屋台も有るのですね・・・! 司令官様はおやりになったことはあるのですか?」

「いや。近所の祭りじゃああいうのは見たこと無いからやったことはないな・・・」

「では司令官様も初めてなのですね! それではご一緒していただけませんか・・・?」

「ああ良いぞ!」

「ありがとうございます! カードは使えるでしょうか・・・?」

「い、いや・・・カードは屋台じゃ使えないと思うぞ?」

こうして二人で型抜きをすることになったのだが・・・

「ああっ!クソッ!こんなのできるわけ無いだろ!」

俺は一番安いやつですらまともに抜くことは出来なかったのだが。

横を見てみると春風が凄い変な形の型を綺麗に抜き取って屋台の親父に見せていた

「・・・はいっ!出来ました! これでよろしいのでしょうか・・・?」

「ぐぬぬ・・・・難癖を付けてぇが付ける場所が見当たんねぇ・・・もってけドロボーだいっ」

「ふふっ!ありがとうございます」

「チクショー! 毎年来る髪の長いガキと言い商売上がったりだぜ全く・・・」

屋台の親父はそう吐き捨てている。

待てよ・・・?毎年来る髪の長いガキ・・・

「あ、あの・・・」

「なんでぇ!? 終わったならさっさと帰ってくんねぇか」

「す、すみません・・・ 髪の長いガキってもしかしてこのくらいの背丈で目が死んでるみたいな変なTシャツ着てた子ですかね・・・?」

ボディーランゲージを交えて初雪かどうか尋ねてみるとオヤジは大きなため息を一つ吐き

「ああそうだが? お前さんあのガキの知り合いか?」

やっぱり初雪のことか・・・

あいつほんとに屋台荒らししてるのか・・・

「ま、まあそんなところです・・・」

「そうか・・・じゃああのクソガキに伝えといてくんねぇか?また来年お前さんが抜けねぇような新作を作ってきてやるから覚悟してろってな!」

屋台の親父はそう言ってニカっと笑った

「・・・えっ?迷惑じゃないんですか?」

「ああ確かに抜かれるのは迷惑極まりねぇんだがもうここまできたらあいつのために新しい型作ってそれが抜かれるかどうかの毎年の勝負だと思っててなぁ・・・ ま、あいつに持ってかれても儲けが出るくらいには儲けさせてもらってるからおあいこよ。まさか抜けるやつが二人出てくるとは思わなかったけどな・・・」

ちらっと屋台に目をやると

【新作! 超高難度型1回1万円 抜けたら10万円!! 一人一回再チャレンジなし】と書かれていた。

あれ・・・もしかして春風の抜いてたやつって・・・

「ふぅ・・・一気にお札が9枚も増えてしまいましたね・・・余り現金は持ち歩かない主義なのですが・・・これだけあればお祭りを十分楽しめるでしょうか?」

春風は高そうな財布に10万円を突っ込んでいた。

やっぱり男とか女とか以前に春風って色々ズレてそうだなぁ・・・

 

そして春風と二人で一通り屋台を周っていき、先程手に入れた10万円で豪遊した。

もちろん全額使い切る事はなかったが・・・

そして俺の神社の手伝いが始まる時間も近づいてきた頃、俺たちはベンチに腰掛けて一息ついてた。

「いやぁ悪いな色々奢ってもらって」

「いえいえわたくしが勝手にお金をお出ししただけですからお気になさらないでください。それに吹雪達へも良いお見上げが出来ました」

「・・・そっか。 で、どうだ?今日は楽しかったか?」

「ええとっても! お祭りってこんなに楽しかったのですね! わたくしが艦娘になる前はお父様が行くことを許してくださらなかったので遠くから聞こえてくるそんなにぎやかな祭ばやしを屋敷からただ聞いている事しかできなかったのでこうしてお祭りに参加できてとても嬉しかったです!」

「春風が喜んでくれたならよかったよ」

「ええ。ですがお祭りがただ楽しかっただけではないんです」

「だけじゃない?どういうことだ?」

「いつも他の艦娘の方たちと一緒にいらっしゃる司令官様をこうして独り占めできるのも悪くありませんね!」

そう言うと春風は座る距離を詰めて俺に身体を寄せかけてきた。

「は、春風!?」

「いつも司令官様の隣は吹雪や天津風の定位置になっていますからね。こうして二人を気にせず司令官様の隣を独占できるのもなかなか良いものです」

「春風・・・」

「司令官様、今日は本当にありがとうございました。 なんだかずっと心にかかっていたモヤが晴れたようなとても晴れやかで楽しい気分です。 こんなわたくしですが今後ともご指導ご鞭撻・・・お願いできますでしょうか?」

「ああもちろんだ!」

「そう言っていただけて嬉しいです・・・これからもどうかこの春風を・・・遥輝をどうかよろしくお願いいたします」

「・・・へっ?ハルキ?」

「まだ申し上げておりませんでしたよね?わたくしの本当の名前です」

「いい名前じゃないか」

「しかしこの名前で呼んでくださったのお母様と一部の者だけで基本遥華と呼ばれておりましたが・・・戸籍でも遥華になっていました。ですが遥輝という名前は何もかも女として育てられているわたくしの事を想って母上が亡くなる前にもう一度付けてくれた大切な名前なのです。その名前を司令官様にも知っておいてほしくて・・・」

「きっと優しいお母さんだったんだろうな」

「はい! それはとても綺麗で優しい方でわたくしの憧れでした」

その言葉でピンときた。

春風はきっとただ家のしきたりだかなんだかで女装をしていたわけではなく母親にあこがれて女性的な立ち居振る舞いや髪の手入れや完璧な着付けをマスターしていたのだろう。

そんなものを捨てるなんてとんでもない!

やはりそれもあってこその春風・・・・いや遥輝という人間なんだ。

「そっか・・・じゃあその憧れも名前と一緒に大事にしなきゃな」

「はい! 憧れも・・・やりたいこともどちらも大切にしてみせますね!」

春風はそう言って再び笑ってくれた。

 

そして神社の売店の手伝いの時間が迫ってきて春風と別れて神社の社務所へ行くとそこには雲人さんと高雄さんがいた。

高雄さんはもう非番のはずだけど・・・

「あら提督、早かったですね」

「謙さんお待ちしておりました」

「は、はい。 そういえば阿賀野は来てますか?」

「ええ来てるわ。 というかあまりにも起きないので私が引っ張り出して連れてきました。今中で着替えてます。」

高雄さんはやれやれと言った感じで頭を抱え、そんな高雄さんを見て雲人さんも愛想笑いを浮かべていた。

てか着替えってどうすれば良いんだ?

「あ、あの・・・俺はどうしたら?」

「謙さんのお着替えの準備もしてありますよ。 もちろん更衣室も分けているのでご安心ください。こちらです」

雲人さんに案内され、俺は社務所の中の仕切られた場所へ通された。

そこには袋がちょこんと置いてあって恐らくその中に俺用の服が・・・・

服が・・・・

あれ?

袋の中から恐らく俺用のであろう服を取り出したのだがそこに入っていたのはどう見ても女物の巫女服と可愛らしい下駄だった。

もしかして間違えたのかな・・・?

「あのー雲人さん?すみませーん・・・服多分間違えてるんですけどー」

そう声をかけると

「いえ。それで合ってますよ」

「うわぁぁ!た、高雄さん!?」

急に高雄さんがぬっと顔を覗かせてきてそれを追うように雲人も顔を覗かせ二人で部屋に入ってきた。

「悪く思わないでください謙さんっ・・・ 神社の運営ってけっこう大変なんですけど高雄さんからいくらかお心づけを頂きまして・・・本当にごめんなさいっ・・・」

雲人は俺の方を見て申し訳無さそうに手を合わせる。

そして高雄さんは不敵な笑みを浮かべ・・・

「ということで提督にはそれを着て接客してもらいますね」

「えっ!?えっ!?」

訳がわからないでいると巫女服姿の阿賀野が化粧道具を入れたポーチと黒い髪のウィッグを持って部屋に入ってくる

「あ、阿賀野!? ここ俺の更衣室だぞ!?」

「しってるよそんな事・・・さあ提督さん? また女の子になろっか?」

「という訳です提督。 大人しくこれ着てもらいますからね・・・♡」

高雄さんと阿賀野がそんな事をいいながら俺ににじり寄ってくる

「じゃ、まずは足の脱毛からね〜」

阿賀野はガムテープをべりべりと引っ張ってこちらに向けてくる

あれ・・・この感じ前にどっかで・・・

ってか高雄さん顔怖いって!

「ちょ・・・ま・・・待って・・・!た、高雄さん!?」

「大丈夫ですって。大人しくしてたらすぐ終わりますから」

高雄さんにものすごい力でがっちりとホールドされ、阿賀野の持っていたガムテープがスネに当てられた次の瞬間ベリベリという音とともに俺の足にものすごい痛みが走る。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

俺の悲鳴が社務所と神社に響き渡ったがそんな叫びも祭りの喧騒にかき消されていった。

 

それからしばらく俺は椅子に座らされ阿賀野に化粧をさせられて女物の巫女服を着せられていた。

「うんっ・・・じゃあ最後にウィッグをかぶせてっと・・・よしっ!高雄?こんなもんで良い? ほーら提督さんも自分の可愛い格好みてみてよぉ〜」

そう言って阿賀野が持ってきた姿見には以前とは少し違った化粧をさせられた巫女服姿の俺が居た。

「ううっ・・・女装する羽目になるなんて・・・」

「良いわ良いわ!!提督?こっちに目線くれます?」

高雄さんは鼻息を荒くして一眼を俺に向けて構えていた。

俺、マジでこのまま接客しなきゃいけないのか!?

それに花火始まった時天津風と会う約束してるのにこんな格好でどうすりゃ良いんだよ!!




ご無沙汰しております。
8月7日に創作活動5周年を迎えます。
ここまで長く続けられたのはひとえに読んでくださる皆様のおかげです。
本当にありがとうございます。
こんごともどうかよろしくお願いいたします。

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