ノンケ提督が艦シーメール鎮守府に着任しました。   作:ゔぁいらす

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おまたせしました。


名前のつけられない感情

 XX祭り二日目。

今日は朝から金剛と食材の仕込みをし終えた後、地元新聞の取材を受けることになっている。

そんな物とは無縁の人生を送ってきた俺はとても緊張していた。

一応先輩(なのか・・・?)の愛宕さんに聞いてはみたものの

「どうせあっちはお祭りの取材のついでに話聞きに来るだけだから大した事は聞かれないし地方紙なんて誰も読んでないわよ〜」

とか

「初々しいくらいのほうが可愛いんだから気楽にやればいいの」

みたいなぼんやりとした答えしか帰ってこなかった。

くそう・・・つくづく思うけど一応先輩なんだからもうちょい色々教えてくれたって良いだろ!

気楽にやれなんて言われても変なことを口走って炎上なんてすれば大変だしこっちは気が気じゃない。

一応聞かれるであろう質問をいくつか予想してそれに対する答えを何パターンか用意してはおいたがそれがどこまで役に立つかはわからないし・・・

 

そうこうしているうちに開始の時刻が刻一刻と迫ってきていて記者が来るのを椅子に座って待っている。

インタビューを受ける場所が鎮守府の応接室だった事が唯一の救いだったな。

大丈夫!

愛宕さんは屋台でせっせと焼きそば作ってるから居ないけどここは俺達のホームグラウンドみたいな物でその分少しは心に余裕を持てるはずだし何より昨日だって一緒になってインタビューの対策を考えてくれた優秀な秘書官が隣にいてくれている!

はずなんだけど・・・

「えーっと・・・こういう時は人って字を手のひらに書くんだっけ?いやいやなんか落ち着く呼吸法があったはず・・・ひーふーひーっ・・・いや違う確かふーふーふーっ・・・いやこれでもなくて・・・」

その秘書官は隣でずっと手のひらに入という字を書きながら恐らくラマーズ法みたいな呼吸法を試みている。

仮にラマーズ法だとしてもそれは出産の時の呼吸法であって緊張に効くかどうかは定かではないし最後に至ってはただ息を吐いてるだけだし・・・

「おいおいインタビュー受けるのは俺なんだぞ?昨日は全然大丈夫そうだったのになんで今になってそんな緊張してんだよ」

「だだだだってインタビューなんて私も初めてだし・・・それにもし記者が鋭い人で私が男だって見抜かれちゃって記事にでもされたら・・・ああっ、どうしよう・・・」

大淀・・・いや淀屋が心配性なのは艦娘になる前からそうなんだけどそこまで緊張しなくても・・・

なんだかそんな大淀を見ていたら少しは緊張がマシになった気がする。

「ありがとな、お前のお陰で多少はましになったよ」

「・・・へっ?私何もしてないけど?」

「良いんだよそれで。お前がお前のまま居てくれれば」

「う、うん・・・よくわからないけど・・・謙の役に立てたならそれでいい・・・かな」

もう対策だってやったんだし後はなるようにしかならないんだし今更どうにか取り繕おうとするほうが多分逆効果だ。

さあ来いインタビュアー!どんな質問でも華麗に答えて・・・

その時ドアをノックする音が聞こえ

「「は、はいぃぃっ!!」」

俺と大淀は同時に声を裏返した。

 

「ども、はじめまして! XX新聞の葉山って言います!どうぞよろしくお願いします!」

ドアが開かれ入ってきたのはやけにフランクな感じの若い女の人で、こちらに名刺を手渡してきた。

もっと年取った人が来ると思ってただけに女性と話なれていない俺の中でまた緊張がぶり返してくる。

「は、はじめまして・・・XX鎮守府の提督の大和田で、こっちが秘書官の大淀です」

「お、大淀です。よろしくお願いしまひゅ・・・! こっ、こちらにおかけになってください!お茶もすぐお出ししますから・・・」

大淀が盛大に噛んだのを必死にごまかそうとするのを記者の人はニッコリとわらって見つめた

「いや〜お話は聞いてますよー二人とも春に着任してきた新人さんなんですよねー!ふむふむ・・・初々しい感じの大淀さんもなかなか良いですねぇ・・・」

「えっ、ちょ・・・わ、私じゃなく提督に・・・」

「ああごめんなさい!つい悪い癖が出ちゃいました! というわけで今日は新人提督さんに色々聞いちゃいますよ〜?」

「は、はいっ!」

「そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよぉ それじゃあお話聞いていきますね〜」

 

こうしてインタビューが始まったのだが聞かれることは本当に当たり障りの無い事ばかりで、たまに大淀にも質問を投げかけたりしつつ滞りなく進んでいく。

愛宕さんの言う通りもっと気張らずに受けたほうが良かったかも知れないなと胸を撫で下ろした次の瞬間。

「あのー大和田さんってまだ18歳でお若い多感な時期じゃないですかぁ〜・・・居なかったら居ないで良いんですけどやっぱり鎮守府の中で気になったり好きな艦娘さんとかいらっしゃるんですか?葉山、気になっちゃいます・・・!」 

「ぶぇっ!?」

なんだなんだよ急に!いきなり当たり障り有りまくりな質問来たぞ!?

こんなのどうやって答えればいいんだ?

居ないって答えるのもそれはそれで無愛想な提督だって思われるかも知れないし居ますって言ったらそれはそれで面白おかしく記事にされて誤解されるかもしれないし・・・

「あ・・・・えーっと・・・そのですね・・・? 確かにかかか艦娘の方々はみんな魅力的ですがね・・・? ですけどもいいいい一応ぼぼぼ僕と彼ら・・・ああいや彼女達にそんないかがわしい目を向けるなんてとんでもないと言いますか・・・」

「ふむふむ・・・!それじゃあ多少はそういう目で見てるって事ですね!いやぁ〜やっぱり年頃の男の子ですもんね仕方ないですよぉ〜」

「ちちちち違いますってば!」

「あはははっ!大和田さんわかりやすいですねぇ・・・わかってますよぉ〜 これは個人的な興味からの質問ですし内緒にしときますから安心しててください。 でも私が本当に聞きたかったのは誰が好きか・・・とかじゃなくて注目すべき一押しの艦娘の方がいるかどうかって事だったんですけどね〜 そういうのがあったほうが鎮守府のPRとしても良いと思いまして」

くそぉぉっ!見事にはめられたァ!!

というか自ら墓穴を掘っちゃったのかこれは・・・

「あー・・・えーっと・・・」

誰が一押しか・・・そんな事考えたこともなかった。

みんな自分なりにやれることをやってるし俺が優劣をつけて良いんだろうか?

「あの・・・艦娘達はみんな頑張ってるので・・・その・・・誰が一押しとかそう言われてもすぐには出てこないというか・・・」

「ふむふむそうですかぁ〜 それなら少し質問を変えますね? 艦娘の中で誰か尊敬できる方とか居ます? ほら年上の方とか結構いらっしゃるじゃないですか。もちろん年下の子でも良いんですけどやっぱりこの人凄いなぁみたいな・・・そんなざっくりした感じでもいいので〜」

尊敬できる人・・・か

一応元提督の先輩(らしい)愛宕さん・・・はないな。

 

その頃・・・

「ぶぅえくしょぉい!! あら〜?誰かが私の噂してるのかしら?」

屋台で焼きそばを作っていた愛宕は低く大きなくしゃみをしていた

「愛宕? 人前でくしゃみする時は気をつけなさいって言ってるでしょ?」

「なによぉ〜高雄だって昨日寝っ転がってお尻掻きながら野球見てたじゃないの〜オジサンみたいだったわよ〜」

「うるさいっ!っていうかみ、見てたの!?」

「ええ。お部屋にお邪魔しようとしたらお楽しみ中だったみたいだったから〜」

「あんたねぇ・・・いい加減人に用ある時くらいはノックすることくらい覚えたらどうなの?」

「怒ったらせっかくの可愛い顔が台無しよ?ま、お互い様って事で」

「はぁ・・・相変わらずズルい人なんだから・・・そうよねお互い様ね・・・ってなるか!公衆の面前でやらかした上他人のプライベート覗き見した分際でよく言えたわね? ただでさえ少ない脳みそがこっちに更に吸われてるのかしら?」

高雄は仕返しとばかりに愛宕の左胸をギュッと鷲掴みにしてぐりぐりと揉んだ

「やんっ! いたっ・・・いででででで!高雄ごめんって!胸握ってひっぱるのだけはやめろってぇ・・・」

「アナタ散々人の胸乱暴に揉みしだいてたでしょ? これくらいの方が気持ちいいだろ?なんて言いながらね」

「悪かったって! 強く揉まれるのがこんなに痛いなんて思ってなかったんだよぉ〜 ひゃんっ♡そこはやめてったらぁ・・・! いやぁん♡」

愛宕の甘い声が周辺に響き、この二人の乳繰り合いで焼きそばの売上が上がったとか上がってないとか・・・

そして提督は葉山の質問にまだ頭を悩ませていた。

 

誰を選ぶべきなんだ・・・?

那珂ちゃんはああ見えてストイックだし金剛もちょっと距離が近い所はあるけど仕事はきっちりこなしてくれてるし阿賀野は・・・うん。なんだかんだで頼りになるし駆逐艦たちは尊敬できると言うよりはなんか妹ができたみたいな感じだしなぁ(みんな男だけど・・・)

大淀も毎日休まず俺より早く起きて事務作業手伝ってくれてるし・・・

でもそんな大淀の事をサポートしながら雑務をこなしてくれてるあの人が一番尊敬できるかなぁ・・・

たまに変な人だなって思うこともあるけど・・・

「えーっと・・・皆それぞれ良いところはあるんですが一人挙げるなら高雄さんですかね」

「高雄さんですかー ここの鎮守府では結構な古株の方ですもんねー」

「あれ?ご存知なんですか?」

「もちろんですよ〜 前任の提督さんの頃からよく秘書官としてお話うかがったりしてましたから」

「あっ、そうだったんですか。 艤装の整備から書類の整理から何から色々手伝ってくれたり教えてくれたりしてくれて新人としてすごく助かってますし純粋に凄いなって思います」

「なるほど〜 きっとそれ聞いたら高雄さん喜ぶと思いますよ! それじゃあ取材はこの辺りで終わらせていただきます。 お時間頂きありがとうございました! それじゃあ私はこれからXX祭りの方の取材に行ってきますのでお会いする機会があればまた!」

こうして取材はなんとか無事に終わり、俺たちは葉山さんを玄関まで見送った。

 

「ふぅ・・・終わったぁ」

葉山さんを見送り終え執務室に戻った途端糸が切れたように力が抜けて俺は思いっきり椅子にもたれかかる。

慣れないことはするもんじゃないな・・・一気に疲れた。

「お疲れ様 ぷっ・・・あははははっ!」

すると急に大淀が笑い出した。

「どうしたんだよ急に」

「だってあんなに緊張してる謙見てると面白くって」

「はぁ!?緊張具合ならお前のほうがひどかっただろ? なんだよよろしくお願いしまひゅって」

「わ、私そんな噛んでないもん!」

「いいやしっかり噛んでたね」

「噛んでない! ま、それはそうとお疲れ様、謙」

「お、おう・・・お前もな」

「はぁ・・・これで今日のお仕事はおしまいだしやっとゆっくりできるね。これから一緒にお祭り回るんだから今からへばってちゃダメだよ?」

「うん・・・そうだったな。どうする?もう吹雪も待機時間終わってるはずだし今から呼んで行くか?」

「えーっと・・・ちょっと待ってくれると嬉しいな。一時間くらい」

「なんだよ別に着替えるだけだしそんな時間かかんないだろ?」

「むーそういう事言っちゃダメだよ。女の子は準備とか色々結構時間かかるんですー」

「女の子ってお前・・・」

「良いじゃない。お祭りだし折角艦娘になったんだからたとえ女装でも謙には可愛いって思って欲しくて・・・ダメ・・・かな?」

昔は近所の祭りに誘う為に家まで呼びに行けば文句を垂れながらもすぐに出てくる様な奴だっただけになんだかそんな大淀を見ると少しさびしい気分になった。

女の子・・・か。

確かにあいつの外見はもう女性にしか見えない。

しかし身体はれっきとした男のままだ。

そんなちぐはぐになったあいつとこれまでなんとかやってきてやっと新しい関係にも慣れてきたと思っていたが彼の口から直接聞かされると俺はどうしてやれば良いのかわからない。

もう大淀として接する時間も長くなりキスだってしたのに俺はあいつの事をまだ男友達の淀屋として見いるのだろうか?

それともこの感情はあいつを艦娘として・・・いや女として意識してしまっているからこそ湧き上がってくるものなのか?

淀屋・・・俺は一体どうすれば良いんだ?

そんな疑問を彼に投げかけられる訳もなく・・・

「あ、ああ・・・わかったよ。それじゃあ待ってるからな」

俺は思考を止め今の彼女の言葉を肯定した。

こうすれば誰も傷つかないで済むと思ったからだ。

「それじゃあ一時間後に正門前で待っててね」

そして準備をすると言って部屋を先に出ていったあいつを見送ったあと俺は一人何をする訳でもなくただ背もたれに体重をかけていつまでこんな思考停止を続けるんだろうとかそんな事を考えていた。

 

そんな答えの出ない考え事をしていても一向に時間は過ぎてくれず、一時間も持たないしじっとしていたところでこれ以上いい考えも浮かばないだろうと俺は腰を上げて自室に戻って緊張からか変に汗をかいてしまった制服を脱ぎ捨ててTシャツに着替える。

しかしまだまだ約束の時間までは余裕もあるし特にやることもないのでベッドで寝転がってぼーっとしていた。

これじゃあ執務室に居るのと何も変わらないな・・・

特にやることもなく昨日天津風と回った屋台で貰ったおもちゃを眺めたり弄ったりしているとドアをノックする音が聞こえた。

「はーい。 誰だ? 大淀?」

「お兄ちゃんやっぱりお部屋に戻ってたんだね! インタビューお疲れ様! はぁ・・・ノックしてよかったぁ・・・」

ドアの向こうから吹雪の声が聞こえてくる。

「なんだ吹雪か。 どうした?いつもはノックなんかしないのに」

この部屋は一応吹雪の部屋でもあるのでいつもはノックなんかせずに入ってくるはずだ。

そのおかげで何度か見られちゃマズいような事が何度あったことか・・・

それがなんでノックを?

「あの・・・えーっとね? ちょっと見てほしいものがあって・・・」

「どうした改まって? 入ってくれば良いじゃないか」

「うん・・・それでも良いんだけど・・・良いんだけどね? なんだか急に心配になってきちゃって・・・ だからお兄ちゃんにドアを開けてほしいの」

吹雪の声はいつになく神妙だった。

いつもは見てほしいものがあれば「お兄ちゃん見て見て!」と飛びついてくる吹雪がここまで神妙になるなんて一体何があったんだ?

俺はすっくと立ち上がりドアを開けると

「どう・・・? 変なとことか無い?」

そこには淡い水色の浴衣を着た姿の吹雪が立っていて、いつもとは違うその服装の青とぽっとを頬を赤らめた顔のコントラストに俺は一瞬言葉を失ってしまった。

「お、お兄ちゃん? やっぱり私にこんな綺麗な浴衣似合わなかったかな・・・?」

「い、いや! 断じてそんなことはないぞ! すっごく似合ってる! その・・・なんか綺麗だなって思って・・・」

「綺麗・・・? 私が!? ありがとうお兄ちゃん・・・私嬉しい」

「もっと自信持てよ吹雪は元から可愛いんだから」

「かわいい・・・? でも私・・・男の子なんだよ? そんな可愛いなんて・・・」

「お前が男だとかそんなの関係ないって! 吹雪はずっとその事で悩んでたんだろ? それなら尚更だ。 笑ってるお前は例え身体がどうだろうとか関係なく可愛いよ」

俺は今思うことを全て吹雪に伝えた。

吹雪はずっと身体の事で悩んでてその度に悲しそうな顔をするのが居た堪れなかった。

でも嬉しかったりした時はちゃんと笑えるしこうして俺みたいなへっぽこ提督を慕ってくれる優しい子なんだ。

そんな吹雪がもう男かどうかなんて関係ない。

そう言い切ってやったと思った反面大淀にもこうして伝えたいことを伝えれば良いんだろうけどそこまでの勇気が持てないのが少し情けないと思う自分が居た。

「お、お兄ちゃん・・・あれ?」

すると吹雪の頬を涙が伝っている。

「・・・あれ? なんで私泣いてるんだろ? 痛くも悲しくも寂しくもないのに・・・おかしいな・・・折角笑ってる私が可愛いって言ってもらえたのにこれじゃあ・・・」

「吹雪、人は嬉しくっても泣くもんなんだ。 だから我慢しなくて良いんだ。 それに辛いときも悲しいときも我慢なんかしなくていいからな。 俺がそばにいる間はできる限りそれに答えられるように頑張るから」

「お兄ちゃん・・・うぁ・・・・うわぁぁぁぁん!」

吹雪は溢れ出す涙を止められなくなったのか俺に飛びついてきた

「おいおい泣いても良いって言ったけどこれから出かけるんだから顔ぐしゃぐしゃになってたら出かけるどころじゃないだろ?」

「でも・・・でもぉ・・・なんだか涙が止まらないんだもん・・・」

「ちょっと待ってくれ? ハンカチかなんか持ってくるから」

抱きつく吹雪をそのまま部屋まで誘導し、ひとまず椅子に座らせた。

そして脱ぎ捨てた制服からハンカチを取り出して吹雪に渡す

「ううっ・・・えぐっ・・・」

しばらくハンカチに顔を埋めていた吹雪だったがズビー!!と大きな音を立てた。

恐らく泣きすぎて鼻水まで出てきたんだろう。

しかしそれを境に吹雪の呼吸は安定したものになっていき・・・

「どうだ? ちょっとは落ち着いたか?」

「うん・・・ありがとお兄ちゃん・・・ ごめんなさいハンカチに鼻水つけちゃって」

「そんくらい気にすんなって!どうせ洗濯するんだから」

「・・・うん」

「もう大丈夫か?」

「・・・うん!」

まだ少し目が潤んで腫れぼったいがが吹雪はそう言って笑ってくれた。

この調子ならもう大丈夫だろう

その時ふと時計を見るともう約束の時間を過ぎていた

「やべ・・・!ちょっとゆっくりしすぎた!」

「どうしたのお兄ちゃん?」

「ああいやインタビュー終わってから大淀が準備に時間かかるから一時間くらい待っててくれって言われてたんだけどもうそれから一時間過ぎててさ!」

「ごめんねお兄ちゃん・・・私が急に泣き出したりするから」

「気にするなって! それに待たせてたのは向こうだし多少の遅刻は大目に見てくれるよ・・・多分! じゃ、大淀と合流してお祭り楽しもうな?」

「うん!」

俺は急いで準備を済ませ、吹雪と共に待ち合わせ場所に向かった

 

待ち合わせ場所に近づくと遠目に大淀の後ろ姿が見えてくる。

やっぱりもう先に来てたか

「おーい!お待たせ! ちょっと遅くなった」

俺はそう声をかけながら大淀の方へ向かう

 

「もう! 遅いよ?」

大淀は少し不満そうにそう言って振り向くと大人びた浴衣を身にまとった大淀がいた。

準備に時間がかかると言っていたがしっかりと浴衣を着込んでいて長い黒髪が風で揺れるそんな大淀の姿に俺は面喰らってしまった。

やっぱりもうあの頃の淀屋じゃないんだな・・・

って俺がそれを否定してしまったらもうコイツは淀屋じゃなくなってしまう。

俺はそんな複雑な気持ちを必死で抑え

「いやぁ〜ごめんごめん! 俺の方も準備に手間取っちゃってさ! な?吹雪?」

必死でおどけて見せた。

「えっ?う、うん・・・」

「まあ吹雪ちゃん!その浴衣可愛いわね! 高雄さんに着付けてもらったの?」

「ううん! 高雄さんまだ帰ってきてないから春風ちゃんが着付けてくれたの! お兄ちゃんだけじゃなくてお姉ちゃんにまで可愛いって言ってもらえて嬉しいな!」

「そう、謙にも可愛いって言ってもらったんだ・・・ 私はまだ浴衣の感想貰ってないんだけどな〜」

大淀は少し不満そうにこちらを見つめてくる。

俺を見つめる彼の顔は化粧もしっかりとしているのかいつもより唇も色っぽく、まつ毛も長く見えた。

「え、ああいやその・・・ 似合ってるよ? うん。 凄く・・・」

準備に時間をかけたのにも頷ける程にしっかりと着こなしていて悲しいほどに彼の浴衣姿は綺麗だった。

「む〜・・・ 吹雪ちゃんにもそんな感じだったの?」

「いやそうじゃなくて急に言えって言われたらどうしてもこうなっちゃうだろ・・・? でも似合ってるのはホントだから・・・なんというか凄いびっくりしたと言うかさ・・・」

「ま、謙がそうやって言うって事は嘘じゃないと思うし・・・それに待たせちゃったからそろそろ行こっか。 吹雪ちゃんもいっぱい楽しみましょうね!」

「うん! 私お兄ちゃん達と回るの楽しみにしたかったからずっと我慢してたの! お姉ちゃん・・・手、つないでも良い?」

「ええもちろん! 謙、何ボーッと何突っ立ってんの? 置いていくよ?」

考え事をしているうちに大淀は吹雪と手を繋いで先に歩き始めた。

「おいちょっと待ってくれよ! 散々待たせといてそりゃあんまりだぞ」

「でも遅刻したのは謙の方でしょ? ほら早く早く!」

少し前までは俺が半ば強引に引っ張ってでもやらないと遊びに行くなんてこともしなかったあいつが今や誰かの手を引いて行くなんて変わっちゃったな・・・

本当は喜ばなきゃいけない場面なんだろうけどどこかそんな彼に寂しさを覚えながら俺は二人を追いかけて祭りの会場へと向かった。

 

「うわぁ〜 すっごい賑やかだね! いい匂いもいっぱいする!」

吹雪はまるで目に映るもの全てが初めて見る物かのように目を輝かせて立ち並ぶ屋台を見回した。

本当に俺たちとここに来るまで自由時間に出歩いたりするのを我慢していたらしい

「別に待ってくれなくても昨日の休憩の時とかに回ってくれてても良かったんだぞ?」

「それじゃダメなの! 折角お兄ちゃんたちと回る約束したんだから楽しみはそれまで取っておきたかったの! あっ! 私あれ食べてみたい!!」

吹雪が指指したのはチョコバナナの屋台だった。

「おっ、チョコバナナか買ってくるよ。 淀屋、お前はどうする? もし食いたいならついでに買ってくるけど」

「えっ、あ・・・うん。それじゃあ私もお願いしようかな」

「おうわかった! ちょっと待っててくれ」

俺は屋台の列に並びチョコバナナを三本買って二人の待つ方へ戻ったのだが・・・

「お待たせー・・・ってあれ? 居ない・・・」

そこには二人の姿はなかった。

どこ行ったんだよ全く・・・

見渡してもそこら中に人が沢山いて簡単に見つけられそうにもないし・・・

どこかの屋台で遊んでるかもしれないし軽く探しに行こうか

そう思い向きを変えて歩き出そうとした時顔が何やら柔らかいものにぶつかった。

「Oh!」

そんな声が頭上から聞こえて独特な匂いもする。香水かな・・・?

そして視界に広がるのは胸元の開いた浴衣から覗く谷間・・・

女の人の胸に思いっきり突っ込んじゃったのか!?

「ご、ごめんなさい! これはその・・・事故で」

俺は大急ぎで距離をとって頭を下げた。

「ミーもゼンポーフチューイだったから Are you alright?」

なんか独特な喋り方をする人だな。

そう思い顔を上げると目の前に立っているのは浴衣姿の金髪で見るからに外国人っぽい顔立ちの女の人だった。

えっ?てことはやっぱ英語で謝ったりしたほうが良いのか?

「え・・・?あ・・・そのソーリー・・・アイムファイン・・・」

くそぉぉぉ!こんな時なんて言えば良いのかわかんねぇ!

英語の授業もうちょい真面目に受けとくんだったな・・・

しかしそんな慌てふためく俺を見て面白くなったのか女の人は笑った。

「HAHAHAHA! OhSorry あんまりにもcuteなboyだから笑っちゃった。 ワタシ、ニッポンゴちゃんと分かるから大丈夫よ?」

「そ、そうですか・・・ごめんなさいぶつかってしまって」

「気にしないで。 それより怪我は・・・なさそうね」

よかった・・・怒ってなさそうだし気さくそうな人で・・・

「そ、それじゃあ俺はこれで・・・」

いくらなんでも胸に突っ込んでしまった人とこれ以上何か話せる訳もなくその場をいそいそと離れようとすると

「wait! ちょっと待って!」

「は、はいぃっ!」

突然呼び止められてしまう

どうした?

やっぱり胸に突っ込んだりしたから俺怒られるのか・・・?

「ふふっ・・・ そんな怖がらなくても良いのよ? こういうのニッポンだと何ていうんだっけ・・・? Hmmmm・・・フデヌリあうもコショウの・・・・」

「もしかして袖振り合うも多生の縁・・・ですかね?」

「YES!それよそれ! ソデどころじゃ無かったけどね」

「す、すみません・・・」

「そのタショーのエンって事で聞きたいことがあるの Hmmmm・・・その前にアナタ名前は? ワタシは・・・アイ・・・そう!アイって呼んで!」

なんだろう凄いフランクなんだけど海外の人ってみんなそうなんだろうか?

いや絶対そうじゃないんだろうけど脳裏に金剛の姿がちらついてくる。

「えーっと・・・謙って言います」

「Oh!ケンね! よろしく!」

アイさんはそう言うやいなや握手を求めてきたので手に持っていたチョコバナナを片手に三本持って握手に応じた。

結構大きい手の人だなぁ・・・背も俺よりちょっと高いし

「よ・・・よろしくお願いします・・・で、聞きたいことってなんですか?」

「人を探してるのよ。 えっと・・・この辺りでヤタイをやってるって聞いて来たんだけれどケンより少し背の低い黒い髪のcuteなgirl・・・知らない?」

質問の内容が漠然としすぎている!

流石にそれで分かる訳がないだろう

「えっと・・・それだけじゃわからないですね・・・ 何の屋台かわかったりします?」

「Hmmm・・・たしかヤキソバって言ってたかしら」

「焼きそばですか・・・」

昨日見て回った限りは焼きそばの屋台は鎮守府がやっているものも含めて何軒かあったがそんな黒い髪の可愛い女の子の店員なんて見てないというかわざわざ他の店の焼きそばを買いに行くこともなかったしなぁ・・・

「ごめんなさい・・・ 心当たり無いですね」

「Duh・・・ ザンネン 久しぶりにアガノに会えると思って楽しみにしてたんだけど・・・」

ん?

今なんか聞き覚えのある名前が聞こえた気がするんだけど・・・

「あの・・・アイさん? いま阿賀野って言いませんでした?」

cuteな”girl”と言われて完全に除外をしていたが阿賀野なら黒髪で俺より少し背が低いとなると完全に合致する。

しかも丁度今阿賀野は焼きそば屋で店番をしてるはずだしそんな名前の人そうそう何人も居るはずないしなぁ・・・

「ええ。言ったわ。 もしかしてyouアガノを知ってるの!?」

「は、はい一応・・・・というか本当に阿賀野を探してるんですか?」

「of course!なんて偶然! で、アガノはどこに居るの?」

「あ、えーっと・・・ここから近いんで案内しますよ」

「Oh! ケンってとってもKindnessなのね! chu」

アイさんは急に俺の頬にキスをしてきた

「なっっ・・・なななななな!!」

「これくらい挨拶よ! これくらいで真っ赤になっちゃうなんてJapaneseboyはやっぱりcuteね! さ、早く案内して!」

やっぱりなんか金剛に似てるなこの人・・・

 

俺はアイさんを焼きそば屋の屋台まで案内すると阿賀野が客に愛想を振りまき焼きそばを売っていた。

「いらっしゃ〜い ってあれ?提督さんどうしたの? 阿賀野の事恋しくなっちゃった?」

「ちげーよ! それより多分お前にお客さんなんだけど・・・」

そういうや否やアイさんは阿賀野を見るなり

「Oh! アガノ! 本当にアガノなのね!? 会いたかった!!」

「あ、アイオワ!? 金剛さん?ちょっとの間一人で頼めます?」

阿賀野は屋台で一緒に焼きそばを作っていた金剛に店を任せこちらに出てきた。

「本当に来てくれたの? 阿賀野嬉しい!」

「こうして会うのは何年かぶりだけれど声も見た目も更にcuteになったわね・・・ あの時は出来なかったけど今夜は・・・」

「もうアイオワたら会うたびに何言うのよ〜 それにまだ早いよ?」

どうやら本当に二人は知り合いだったらしく熱い抱擁を交わしている。

「えーっと・・・なあ阿賀野? アイさんとはどういう関係なんだ?」

「ん?  あのね、このアイオワとは艦娘になったとき研修施設で一緒だったの こうしてちゃんと会うのは施設ぶりなんだけどね」

「YES! ケンをテイトク=サンって呼んだってコトはケンがアガノのAdmiral!? What a coincidence!!」

「は、はい・・・一応そこの鎮守府で提督やってます・・・」

「それじゃあ隠す必要も無いわね! ミーはIowa級戦艦、Iowa 今は○○泊地に所属してるの」

「そ、そうなんですか・・・」

あれ?艦娘で阿賀野と同じ施設出身って事は・・・

「あの・・・アイオワさん?」

「何かしら?」

「阿賀野と同じ施設ってことはもしかして男の人だったり・・・なんて」

「ええ。オトコだけど?」

「 What!?」

「モチロンアガノがオトコノコだって事も知ってるわ!」

やっぱりか・・・

「ケン、案内してくれてthankyouね!」

「は、はい・・・」

「来てくれてすっごく嬉しいんだけど私・・・まだ店番あるから」

「気にしないで終わるまで待ってるから!」

「うーん・・・それじゃあ21時くらいには切り上げられると思うからこの辺りでまたその時間に会わない?」

「YES!モチロンよ! それじゃあワタシそれまでオマツリ満喫して待ってるわね! Let's meet again! ケンもアリガトウ!」

そう言うとアイさん改めアイオワさんは走り去っていった。

なんか凄い忙しい人だったな・・・

「な、なあ阿賀野・・・?」

「なぁに提督さん」

「アイオワさんってなんか凄い人だな」

「うん。そうだね。 でもアイオワのあの性格のおかげで私はこうしてちゃんと艦娘やれてるの。 艦娘になりたてで色々悩んだりしてた時にずっと近くで一緒に居てくれた人だから」

「そう・・・だったのか」

その時の阿賀野の表情はなんというか恋する乙女のような顔をしていて、俺はなぜかそんな阿賀野を見て少しアイオワさんが羨ましいと思ってしまった。

何で俺男と男が仲良さそうにしてるだけなのにこんな気分になってるんだ?

別に阿賀野が誰と仲良くしようと阿賀野の勝手だし別に俺がどうこうする立場でもないはずなのに・・・

「じゃ、じゃあ俺、大淀たち探してるからそろそろ行くな!」

俺はそんな感情から逃げるようにその場を離れて大淀たちを探しに戻った

 

そしてあてもなく自分用に買ったチョコバナナを食べながらうろついていると

「やったぁ!すくえたよお姉ちゃん!」

吹雪の声が聞こえてきたのでその声の方に行ってみるとチョコバナナの屋台からそう離れていない金魚すくいの屋台で二人は金魚すくいに勤しんでいた。

吹雪は頭にヒーローのお面を被っていたり腕にヨーヨーをぶら下げていたのでこの辺りの屋台を転々としていたことを伺わせる。

「吹雪、淀屋!探したぞ?」

「あっ、ごめんね謙、吹雪ちゃんが色々見たそうにウズウズしてたし謙も結構並んでたから・・・」

「お兄ちゃんみてみて! 金魚すくったの!」

吹雪が誇らしげに金魚が一匹入ったお椀を得意げに見せてきた。

「お、おう・・・そうか!」

横に目をやると大淀の手には破れたポイが3本ほど握られていてお椀には一匹も金魚が入っていなかった。

相変わらず不器用だなぁ・・・

昔地元の祭りで金魚すくいやった時もすぐにポイ破いてヤケになってたっけ?

「あははは!」

「な、何?急に笑って」

「いや、やっぱお前は変わんないなって」

「そ、そう・・・かな?」

「で、吹雪?その金魚どうするんだ?」

「どうする・・・?」

「すくった金魚はもらえるんだぞ」

「そうなの!? じゃあもらって良い?」

「ああ いいぞ」

確か使ってない金魚鉢があったはずだし一匹くらいなら吹雪にも飼えるだろう。

 

こうして袋に入れてもらった金魚を吹雪は目を輝かせて見つめる

「綺麗なお魚・・・ 海にはこんなの居ないよね!」

「ああ。金魚は淡水魚だからな それよりチョコバナナ。早く食べちゃってくれよ」

「お兄ちゃん、私今手がいっぱいだから食べさせてくれない?」

そう言って吹雪は口を開けてこちらを見つめてきた

「えっ・・・?」

「お兄ちゃん早く・・・あーん」

「わ、わかった・・・ほら行くぞ」

吹雪の口目掛けてチョコバナナを入れると美味しそうに頬張っていく

「あむっ・・・んんっ・・・おいひぃ・・・」

くそっ!なんでたべさせてるだけなのにこんな背徳的な気分になるんだよ!!

それになんか視線を感じる・・・

視線の先では大淀がもじもじとしてこちらを見つめていた。

「ね、ねえ謙?」

「なんだ?」

「あ、あの・・・私も食べさせて欲しいな・・・なんて」

「はぁ・・・!?」

「嫌・・・かな?」

「い、いや・・・別に嫌って訳じゃ わかったよほらさっさと食っちまってくれ」

俺はもう片方の手でチョコバナナを大淀にも食べさせた

「んむっ・・・んぁっ・・・」

くそぉぉぉ・・・なんでただチョコバナナ食べさせてるだけなのに俺は変な気分になってるんだよぉぉぉ!

こうしてチョコバナナを食べさせ終え、三人で祭りを一通り楽しんだ。

 

「よし。そろそろ帰るか」

「うんっ! 初めてのことがいっぱいで私すっごく楽しかった! ありがとうお兄ちゃんお姉ちゃん!」

「私も楽しかった・・・やっぱり謙とこうやって遊ぶの・・・」

「ああ。俺も楽しかったぞ。 それじゃあその金魚を飼う準備もしなきゃだし早く帰るか」

「えっ、飼うの?」

吹雪の口からはなぜか疑問のような言葉が発せられた

「えっ?飼わないのか?」

「だって・・・あんな中でかわいそうだったから川に逃してあげようと思って」

「吹雪、あのな? 金魚は元々人が飼うように生まれてきた魚だから川なんかに逃しちゃダメなん」

「そう・・・なの?」

「ああそうだ。 だから持って帰った以上は責任を持って面倒見てやらなきゃ」

「そうなんだ・・・ なんだか私に似てるかも・・・ 」

「似てる?」

「ううん! なんでもない それならちゃんと面倒見てあげなきゃね!」

吹雪は一瞬どこか寂しそうな顔で袋の中の金魚を見つめていた。

 

鎮守府に戻り金魚鉢を見つけ、金魚をそこに移し替えて部屋に置いてやると吹雪は金魚鉢の中の金魚を食い入るように見つめていた。

「ありがとうお兄ちゃん! この子大事にするね」

「ああ。 餌も明日スーパーに買いに行かなきゃな」

すると戸をノックする音が聞こえたので戸を開けると高雄さんが部屋の前に立っている。

「お疲れ様です提督」

「あ、はい・・・何か用ですか?」

「お祭りが終わった後の休暇分の外出、外泊届がまだ出てないですけどどこかへ行く予定はないんですか?」

「え? ああいや地元に帰ろうとも思ったんですけど特にやることもないだろうし休みはここでゆっくりしようかなって」

「そう・・・ならよかったわ はいこれ」

そう言うと高雄さんは何やら封筒を手渡してきた

「なんですかこれ?」

封筒を開けると中には温泉旅館瑞鳳宿泊券と書かれたチケットが二枚入っていた。

「それ、よかったら大淀ちゃんと二人で行ってらっしゃい?」

「えっ?」

「本当は私と愛宕で行こうと思ってたんだけど愛宕が乗り気じゃなくて・・・たまには提督の方からビシッと大淀ちゃんを誘ってあげたらどうかしら?」

「良いんですか?」

「ええ。いつも頑張ってるあなたと大淀ちゃんへのご褒美だと思って」

「高雄さん・・・ありがとうございます! でも吹雪は・・・?」

「あのね・・・?大淀ちゃんずっと今日提督と二人で久しぶりに遊べるって楽しみにしてたのよ? でも吹雪ちゃんを仲間外れにするわけにはいかないし・・・あの子けっこう気を使ってるんじゃないかしら?」

「それは・・・」

確かに思い返してみれば少し前に地元に戻った時も吹雪と一緒だったし何かするにしても最近はいつも吹雪と一緒だった気がする。

「吹雪ちゃんには悪いけど一泊くらい二人水入らずで楽しんできたらどうかしら? 吹雪ちゃんもずっとこのままって訳にもいかないし・・・ それに今は天津風ちゃんや春風ちゃんも居るんだから。ね?」

「は、はい・・・」

「それじゃあ後は提督がなんとかなさい。 私はこれから愛宕を迎えに行ってくるから」

「ありがとうございます・・・あっ、そうだ!」

「何かしら?」

外泊届けで思い出したがさっきあんな事を言っていた阿賀野を鎮守府に戻ってから見ていない。

「あの・・・阿賀野今日なんか出かけるとか言ってました?」

「ええ。さっき急に外泊届出して出ていったわね。 全く・・・外泊届は早めに出すようにってずっと言ってるんだけど・・・」

「そう・・・ですか」

やっぱりか・・・

きっとアイオワさんに会いに行ったんだろうな・・・

別にただ友達に会いに行っただけのはずなのになんだろうこの気持ち・・・

なんか胸の奥で引っかかるというか・・・

「どうしたの提督? そんな思いつめたような表情をして何かあったの?」

「い、いえ何も・・・」

「そう。それじゃあその旅行券の事よろしく頼んだわね」

そう言うと高雄さんは行ってしまった。

二人水入らずで・・・か。

確かに二人でどこかに遊びに行って泊まるなんてことは鎮守府に来てから無かったけど・・・

本当にそんな事をして良いんだろうか?

俺はあいつのこと・・・ちゃんと友達として見ていられるんだろうか?

そんな一抹の不安が胸を過ぎった。


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