ノンケ提督が艦シーメール鎮守府に着任しました。 作:ゔぁいらす
高雄さんが帰ってきてから数日後
今日は海水浴場が1日封鎖されている。
深海棲艦の被害は少なくなったとはいえ認可の降りていない海水浴場は未だに立ち入り禁止だったりしているところもあるくらいで認可が降りているこの××海水浴場もしっかりと安全が確保されているかどうかの安全点検と監査が入るらしい。
俺たちはというと長峰さんの「いつも君たちに任せっきりというわけにはいかないからな」という粋な計らいで警備もなし。愛宕さんが「私が代わりに見ててあげる今日くらいゆっくりしなさい」と言ってくれたので晴れて1日丸々休みになった。
しかし急に休みになっても近所にはゲームセンター一つ無いし特にやることも思いつかないので今日はゆっくりしていよう。
そう思いベッドで寝転んでいた矢先の出来事だった
コンコンとドアをノックする音が聞こえる。
「はーい」
俺はベッドから身を起こしてドアを開けるとその先には春風が立っている
「春風?どうかしたか?」
「司令官様、ずっと言い出せずにいましたが何かお忘れでは無いでしょうか?」
はて何の事だろう?
今日はまだみんなに顔だしてないしサボってると思われてんのかな・・・
「え、えーっとなんだ?今日の仕事は全部愛宕さんと高雄さんが片付けてくれるって・・・」
「違います」
「じゃあなんだよ?」
「・・・わたくしに殿方の遊びを教えてくださると言ってくださっていたではありませんか」
そういやそんな約束したような・・・
「そ、そうだったな・・・完全に忘れてた」
「はぁ・・・天津風の苦労が身にしみてわかる気がします。そして本日司令官様はお休みなのですよね?」
「あ、ああそうだけど」
「それでしたらわたくしを釣りに連れて行ってください!」
ずっとすっぽかしてたわけだし特にやることもないし退屈だったから断る理由も無いか
「わかった。それじゃあ今日は釣りするか!」
「はい!」
「それじゃあ釣り具を調達しなきゃな」
「えっ、お持ちでなかったのですか?」
「ああうん一応持ってたんだけど全部実家に置いてきちゃってて・・・」
「それなのにそんな無責任なことをおっしゃられていたのですか?」
「い、いやそれで長峰さんに貸してもらえるように頼んであるからさ・・・ちょっと長峰さんの家まで行ってみよう」
監査は昼からだったはずだしまだ間に合うはずだ!
「ええ。お供いたします」
「それじゃあすぐ着替えるから外で待っててくれるか?」
「はい?」
「えっ、だから外で待っててくれって」
「何故です?男同士なのですから気を使ってくださらなくてもいいのですよ?」
「ああいやそういうことじゃなくて・・・」
そうだ。春風も男だから別にこそこそ着替えなくてもいいんだ。
良いはずなんだけど目の前には一見着物のどこぞのお嬢様みたいな子が立っている訳でそんな子の前で服を脱ぐのも抵抗があるというか緊張するというか・・・
なんか調子狂うなぁ
「司令官様?お着替えになられないのですか?」
「あっ、すまん・・・すぐ着替えるよ」
このままじゃラチがあかない。
俺は春風に見つめられたまましぶしぶ服を脱ぎ始めた。
なんでだ・・・?年下の男の子に見られてるだけのはずなのにすごく緊張する
俺はジャージを脱ぎTシャツとズボンを身につけた。
「よし!お待たせ」
「やはり殿方のお洋服は簡単に着替えられて羨ましいです」
「そうか?そんな事考えたこともなかったな」
「わたくしもそんなお洋服着てみたいです。今まで女性ものの着物しか着たことがありませんでしたので」
「そうか・・・じゃあまた今度買いに行かなきゃな」
「買う・・・ですか?」
「ああ。普通に女物の洋服とかでも似合うと思うけどお前がそっちの方がいいって言うんなら付き合ってやるぞ?」
「そう・・・ですか!ありがとうございます!今度は忘れないでくださいね?」
「ああしっかり覚えとくよ。それじゃあ行こうか」
「はい!」
俺たちは長峰さんの家へ向けて歩きだした。
「なんかこうして二人で歩いてると春風が来た日のこと思い出すな」
「そうですか?」
「ああ。お前が道に迷ってるところに運良く遭遇できてよかったよ」
「迷ってません!ただ道を伺っただけです!」
「そうかぁ?完全に鎮守府通り過ぎて逆方向に歩いてたけどなぁ」
「違います!ただ少しわたくしの鎮守府の周りがどうなっているか見てみたかっただけです!」
結構強情なところあるよな春風・・・
まあ春風がそう言うならそういうことにしといてやろう。
そうこうしているうちに長峰さんの家にたどり着いたのでとりあえずインターホンを押してみるが少し待ってみても返事は無い。
「あれ・・・?もう出かけちゃったかな・・・」
確かに急に押しかけてしまった訳だし居なくても仕方ないか・・・
どうしよう・・・釣り具が無いと春風との約束が守れない
そんな時家の中からドタドタと走り回る音が聞こえて
「は〜い!少し待っててくれるかしら〜?」
そんな奥田さん・・・いや今は陸奥さんかな・・・?の声が聞こえた。
今日は男装してないのかな?
しかし戸が開く様子もないので耳を澄ましてみると
「・・・何故私が出なくてはいけないんだ・・・!今こんな格好をしてるんだぞ?」
「あら?いいじゃない可愛いわよ?それに今からその格好で出かけるんだから別に見られたって恥ずかしくないでしょう?」
「スカートなら陸奥が履けばいいじゃないか!私にこんなのは似合わん!今からでもズボンに履き替えさせてくれ・・・!」
「ダーメ♡今日はその格好でお出かけするって約束でしょう?」
「し・・・しかし・・・」
どうやら長峰さんと何かをしているらしい。
スカートがどうとか言ってるけど一体何を・・・
「司令官様?どうされました?」
春風が不思議そうにこちらを見てくる。
「い、いや留守じゃないとは思うんだけどなぁ・・・」
ひとまずもう一度インターホンを押してみると
「ほ、ほら!客が待ってるだろ!?早く出てくれ!」
「だーかーらー長門が出ればいいじゃないの」
「嫌だ!もし協会の人間にこんな姿見られたら死んでしまう!」
「その時は誤魔化せばいいでしょ?どうせ協会のオジ様方は胸と尻しか見てないし今のあなたがあのクソ真面目大男の長峰だって誰も気づかないって!いい加減自信持ったら?女の子の格好してる長門も可愛いんだから・・・私が嫉妬しちゃうくらいにはね」
「し・・・しかし・・・」
「もうまどろっこしいわね!今出ますから〜えいっ!」
「なっ!陸奥!?押すな・・・うわぁっ!」
戸がガラリと開くと中から黒髪を二つに束ねたワンピースの女性が姿を現した。
えーっと・・・どちら様・・・・?
「け・・・・謙くんに春風ちゃん!?や、やあ・・・」
その女性はこちらを見て目をまんまるにしている。
この人俺のこと知ってる?
なんでだろう?
やっぱり提督やってると地元の人に名前くらいは覚えてもらえるもんなのかな?
「えーっとどちら様ですか・・・?長峰さんたちのお知り合いとか?」
「えっ・・・・?」
女性は一瞬不思議そうな顔をしたが
「え、ええそうなの!私この街に観光に来たんだけど道がわからなくなっちゃって〜」
急に女性は声のトーンを上げてそう言った。
しかし観光に来たにしては長峰さんの家から出てくるのも荷物を持ってないのも不自然だ・・・
「え、えーっと・・・長峰さんに用があるんですけど今居ないんですか?」
「へっ!?そ・・・そうですね・・・・今長峰さんは留守・・・・だと思いますわ!」
なんか口調もおかしくなってるけどこの人大丈夫なのか?
すると女性の後ろから奥田さんいや今はこっちも女装してるから陸奥さんか・・・)がぬっと出てきた
「な〜に下手な小芝居打ってるのよな・が・と?」
「あっ、こら!せっかくごまかし通せると思ったのに!」
「えっ?長門・・・ってことは長峰さん!?」
確かに言われてみれば艦娘の時の長峰さんに見えなくもないけど・・・
「ち・・・違うんだ謙くん!これは私の趣味とかではなく陸奥が勝手に・・・!」
長峰さんは顔を真っ赤にして誤魔化してくる。
いつもの真面目な長峰さんを見ているとこう顔を真っ赤にして取り乱している彼は不覚にも可愛く見えてしまう。
人って化粧と服だけでこれだけ変わるんだなぁ・・・
「あら?謙くんびっくりしてるわね?どうかしら?せっかく綺麗なんだからたまには可愛い服も着なきゃよね!謙くんも今の長門の事、美人だって思ったでしょ?ねぇ?」
「そ・・・そんなことはない!私なんかがこんな服着たって気持ち悪いだけだ!第一私は男なんだぞ?艦娘としての衣装ならばそれは仕事だから仕方ないが関係のない所で男がこんなヒラヒラしたスカートを履いてれにこんな化粧までして・・・こんなの変なだけだ!そう思うよな謙くん?な?そうだろう?」
二人に詰め寄られる。
確かに男の人に可愛いって言うのも変な話だけど確かに今の長峰さんは普通に背の高い美人の女の人にしか見えないし
いつも隠してるけどあれだけ大きい胸にあれだけ綺麗な顔してたらもう男だって言う方がおかしな話なんだよなぁ・・・
「・・・・綺麗・・・だと思います・・・」
俺は恐る恐る思ったことを口に出した。
「なっ・・・!?」
「ほら〜やっぱり謙くんならそう言ってくれると思ってたわ!」
「け、謙くん?世辞なら取り消してくれても良いんだぞ!?そんな訳ないよな!?世辞だよな!?」
「い、いえ・・・長峰さん艦娘の格好してる時から普通に綺麗な人だって思ってましたけど・・・」
言っちゃった!でもそうだ。いくら男だからってそれだけの胸に綺麗な顔をしてるんだから無防備な格好で無自覚でいられるとこっちも困るし長峰さんには自分の外見をもう少し自覚してもらう必要がある・・・はず・・・
「そ・・・そうか・・・・別に嬉しい訳ではないが礼は言っておこう・・・」
長峰さんは目を逸らして言った
「あらあら照れちゃって〜ほんとは嬉しいくせにぃ〜」
「嬉しくなどない!そ、そうだ謙くん?急に訪ねてきて用はなんなんだ?」
「あーそれなんですけど釣り具借りにきました。用意できてますか?」
「その事か・・・それなら事前に連絡してくれ」
「す、すみません・・・じゃあ用意できてないんですか?」
「いいや。いつでも使えるように準備はしてある。餌のオキアミも冷凍のやつを用意しておいた」
「ありがとうございます!準備が良くて助かります」
「取ってくるから待っていてくれないか」
長峰さんはスカートをひらりとなびかせて家の中へ入っていった
「謙くん!長門ああ見えてもすっごく喜んでたし褒めてくれてありがとね」
「い、いえ・・・思った事を言っただけですから」
奥田さんも奥田さんだ!もともと中性的だとは言えやっぱり胸も大きいしちゃんと女装すれば美人だし・・・ああもう男ってなんなんだよ・・・本当に俺と同じ生き物なのか疑いたくなるくらいにどっちも美人だ
「ところで奥田さん?女装してどこへ行くつもりなんですか?」
「久しぶりにお昼頃まで暇だから鳳翔さんのところでご飯食べようと思ってね!せっかく久々に二人で出かけるんだから男臭い服装よりこっちの格好の方が良いでしょう?鳳翔さんにもっと長門可愛いところも見せてあげたいし!」
あの女将さん長峰さん達とも知り合いなのか・・・でも女装して出かけるってことは艦娘してた頃からの知り合いってことだよな・・・?
あの女将さんは一体何者なんだろう?
そんなことを考えていると長峰さんが釣竿やらクーラーボックスやらを担いで持ってきてくれた。
その姿は確かに男らしいとも言えなくもないけど今の服装のせいでなんのこっちゃわからなくなってしまう。
「待たせたな謙くん!餌はクーラーボックスに入れてある。あと竿と仕掛けはとりあえず5本用意しておいた。仕掛けは一番簡単なコマセを用意しておいたから他の駆逐艦の子・・・特に天津風ちゃん達も連れて行ってやってくれ!あああとこれだ!ライフジャケットこっちも5人分用意したからしっかり着るんだぞ?それとクーラーボックスに獲れたてのアジも一緒に入れておいたから今晩の飯にでもしてくれ!愛宕なら美味しく料理してくれるはずだ」
長峰さんはいろんなものを大量にこちらに渡してくる。
さすが長峰さんだ。準備もいいし初心者でも簡単にできるサビキの仕掛け一式まで用意してくれるとは・・・
ちなみにサビキとは重りのついたカゴに餌の小エビを入れて竿を上下に動かして餌を捲いて複数つけられたエビに見立てた釣り針を餌と間違えて食べた魚を釣る簡単な釣り方だ。
深海棲艦が現れて海に用意に近づけなくなってからは全然やっていなかったがよく子供の頃父親とよくこれで魚釣りしてたっけ・・・
「長門・・・褒められて嬉しいのはわかるけどちょっと多すぎじゃない?これじゃ謙くん達だけじゃ持って帰れないわよ?」
「べっ別にこれは頼まれたから用意していただけだしアジは大量に獲れて余っているものを渡しただけだ!」
「んもうツンデレなんだからぁ〜それじゃあ私が車で送ってあげるわ。どうせ鳳翔さんのお店行く道中だし」
「いいんですか?じゃあお願いします・・・」
「ええもちろんよ!それじゃあ車出すから乗ってちょうだい」
奥田さんはそう言って車で俺と春風を鎮守府まで送ってくれた
そして鎮守府に戻った俺たちはひとまずクーラーボックスを開けてみるとパック詰めされた冷凍のアミエビとレジ袋に大量に詰められたアジが入っていたのでアジを冷蔵庫へ入れて執務室にいる愛宕さんに報告へ行くことにした。
「司令官様・・・長峰様が女性の格好をさせられていましたが本当にあのままで良かったのでしょうか?」
その道中春風に突然話しかけられる
「急にどうしたんだ?」
「お二方が艦娘という事を天津風から聞かされてはいたのですが折角男として生活していらっしゃる筈なのに何故お休みの日にまで女装をしなければならないのか不思議に思っていまして」
確かに言われてみれば真っ当な疑問だ。
長峰さんもまんざらではなさそうだったものの奥田さんに無理やり女装させられてる感じだったし・・・
「俺もよくわからないんだ。春風が着任する前に艦娘として助けに入ってくれた事が何回かあってその時の二人はすごく綺麗でかっこよかった。でも確かに今の二人は普通に男として生活してるんだよな・・・女装する必要も無いってのもわからなくもない」
「そうでしょう?わたくしだっていずれは長峰様のような男性になりたいと思っていました。そんな時天津風に彼がわたくしたちと同じ境遇の艦娘だったことを聞かされてわたくしもあんな男らしい艦娘になりたいと思っていたのですがあんなお綺麗に女装されているところを目の当たりにしてしまってわたくし自身驚いていると言いますか・・・」
「うーん・・・でも二人とも綺麗だっただろ?長峰さんもなんだかんだで女装するのも嫌いじゃ無いと思うんだ。それに春風、お前のその着物姿結構似合ってるって思ってるんだぜ?なんかそれを全否定してまで男らしくしなきゃいけないなんて思うのも勿体無い話じゃ無いか?もちろん春風が女装なんてしたく無いなんて言うなら男装して過ごしても俺は文句言わないし誰にも文句は言わせないけどな」
「し、司令官様!そうやって誰彼構わず褒めるのはやめてくださいませんか!?わたくしも本気にしてしまうではありませんか・・・!」
「いや嘘なんかついてないぞ?初めて会った時から着物の似合う綺麗な子だなって思ってた」
「ふふっ!ありがとうございますそんなに褒められてしまっては吹雪達がヘソを曲げてしまいそうですね!それでは司令官様の言葉に免じてわたくしもうしばらくこの格好で側に居て差し上げます」
春風は嬉しそうにそう言ってくれた。
そして執務室入ると中には高雄さんと愛宕さんが居た。
「あら提督に春風ちゃん、お出かけしてたんですね 何かご用ですか?」
「はい、ちょっとだけ。長峰さんからアジをもらったんで冷蔵庫に入れときました」
「そう・・・それじゃあ今夜は愛宕にアジフライでも作ってもらいましょう」
「ええ〜私昨日あれだけ作ったのに今日も料理作らなきゃいけないの〜?」
愛宕さんは執務机にぐったりと倒れ込んで心底めんどくさそうに言った。
そりゃ昨日あれだけ気合い入れたんだから休ませてあげてもいいとは思うけど・・・
「もう!折角貰ったんだから作りましょうよ!私愛宕のアジフライ好きよ?一緒に作りましょうよ!ね?」
「・・・・・んもぅ高雄がそう言うなら作ってあげる」
さすが高雄さんは愛宕さんの扱いをよくわかってると言うか愛宕さんがちょろいと言うか・・・
でも愛宕さんのアジフライなんだか今から楽しみになってきたぞ!
「それじゃあ俺たち釣り行ってきます!」
「釣り?珍しいですね」
「はい。春風とやる約束をしてたんですよ」
「この辺りならわざわざ鎮守府から出なくても工廠の近くが結構良いポイントですよ!」
「わかりました高雄さん。それじゃあ行ってきます」
「いってまいります」
「はい行ってらっしゃい」
「私が腕によりをかけてアジフライ作るんだから晩御飯までには帰ってきてね」
俺たちは軽くそう挨拶を交わしてひとまず他の駆逐艦達を探しに行くことにした。
「それじゃあ春風!分担しよう。俺は初雪呼んでくるから吹雪達を呼んできてくれ!俺は先に初雪呼んで釣り具持って工廠行ってるからそこで落ち合おう」
「わかりました」
俺たちは二手に別れてひとまず初雪の部屋に行ってみることにした。
「おーい初雪ー居るんだろ?」
試しに部屋のドアをノックしてみると
「・・・ん?なに・・・?」
ドアの向こうから眠そうな初雪の声がした
「初雪、今暇か?」
「・・・いちおう・・・というか今の司令官のノックでおきた・・・」
「そうか・・・起こしちゃったかごめん」
「で・・・何の用?」
「あのさ、釣り具を借りてきたんだけど駆逐艦全員分貸してくれたんで初雪もどうかなーって」
「やだ」
「なんでだよ!」
「私がそんなアウトドアなことやると思う・・・?それにこんな暑いのに外に出ようなんて考える方がおかしいよ」
「そ・・・そうか・・・わかった」
「いってらっしゃい・・・じゃあ私二度寝するから起こさないでね」
「お、おうおやすみ」
結局初雪は誘えなかったがこのまま呼んでもどうせ出てきてくれないだろうし無理やり参加を強制するようなことでも無い。
俺は初雪を諦め釣り具を担いで工廠に向うと既に吹雪、天津風、春風が待っていた
「あっ!お兄ちゃん!」
「あら司令官様遅かったですね」
「呼びつけといて遅いわよ!」
「お兄ちゃん!初雪お姉ちゃんは?」
「あ、ああ。暑いから外出たく無いってさ」
「そっか・・・残念だね」
「まあこれで全員揃ったし先にこれ着てくれ」
俺は3人にライフジャケットを配ったが天津風だけは難色を示す
「別にこんなの要らないでしょ?」
「長峰さんが危ないから着ろってさ」
「そ、そう・・・あの人相変わらず心配性ね・・・わかったわ着てあげる」
そしてライフジャケットを全員着終わり竿に仕掛けをつけて全員に渡した。
「えーっと・・・この重りに餌が入るようになってるからここにエビを入れて・・・」
「うわっ・・・気持ち悪い・・・それに臭いからあたしはやんないわよ」
天津風が冷凍のエビをみるや否や嫌そうな顔をする
「なんで来たんだお前・・・まあいいや説明続けるぞ。 この餌の入った重りを海に投げ入れて餌が舞うように竿を上下に動かすんだ。そうしたらこのいっぱいついてる釣り針を餌と間違えて魚が食いつくっていう釣り方だ!針結構たくさんついてるからそれだけ気をつけるんだぞ」
「へぇ〜お兄ちゃん物知りだね!」
「それならわたくしたちにでもできそうですね!」
吹雪と春風は早速竿を持って俺の言ったことを実践し始める。
そんな二人を少し離れた場所で日傘をさして天津風が見つめていた。
「な、なあ天津風・・・」
「なによ!?日傘さしてるのがおかしいっての?」
「いやなにも言ってないんだけど」
「じゃあ何?あたしは海だけ眺めてたらそれで良いの!あんな気持ち悪いの触りたく無いもの!」
天津風の足元では連装砲くんもそうだそうだと言っているようなそぶりを見せている。
「お前さあ・・・一応この辺の地元民なんだろ?釣りくらいやったことないのかよ」
「地元民って言っても何年か前に引っ越して来ただけだしそんなのしたことないわよ!」
「そ・・・そうか・・・じゃあ無理にやれとは言わないけどさ」
そう言った刹那
「お兄ちゃん!なんか竿がビクビクしてるよ!」
「わたくしもです!」
二人が俺を呼ぶので俺はそちらに向かい
「よし!リールを巻くんだ!」
「う、うん!」
「はい!」
二人がリールを巻いていくと小さなアジが一匹づつかかっていた
「やったぁ!私にも釣れたよ!」
「たったこれだけですか・・・でも嬉しいです」
「二人ともなかなかやるじゃないか!よし俺が取ってやる」
二人の竿についたアジから針を外して用意していたバケツの中に入れた。
それから何回か繰り返してそんなことをやっていると天津風が俺たちから少し離れた場所で釣竿を垂らしている。
なんだあいつも二人が楽しそうにしてるのが羨ましくなって俺に言うのが恥ずかしいからって一人で始めたのか。
相変わらず素直じゃない奴だなぁ
でも餌もつけないで垂らしててもなんも釣れないだろ・・・
「お、おい天津風」
天津風に近づいて声をかけてみるとバケツの中には大量に魚が入っている。
この短時間で餌もなくどうやって!?
「何よ?」
「いややっぱ釣りしたかったんだなーって」
「悪い?誘ったのはあなたでしょ?」
「いやそうだけど・・・餌もつけずにどうやって・・・」
「あっ、来た!ちょっと話しかけないでくれる!?」
天津風はリールを勢いよく巻くと海面から大きなものが浮かび上がって来た
「なっ・・・餌もなしにそんな大物を・・・・!!」
しかし海面から浮かび上がって来たのは糸でぐるぐる巻きにされた連装砲くんだった。
そんな連装砲くんの小さな手が魚をがっしりと掴んでいる
「よしっ!また捕まえて来たわね偉いわよ連装砲くん!」
天津風はぶら下がった連装砲くんをバケツの上に持っていくと連装砲くんが手に持っていた魚を器用にバケツの中に入れた。
つまり連装砲くんで魚を捕まえてそれを釣り上げていたのか・・・
「お、お前・・・連装砲くん遣いが荒すぎるだろ・・・」
「別に私の連装砲くんなんだからどう使ったって良いでしょ?それに連装砲くんだって嫌がってないんだから」
糸をぐるぐる巻きにされて竿に吊るされた無残な姿の連装砲くんだったがその表情はどこか誇らしげに見える・・・気がする。
「い、いやそうだけどさ・・・」
「じゃあ別にいいでしょ?それじゃあ次行くわよ連装砲くん!もっと大きいの捕まえてらっしゃい!」
天津風がそう言うと連装砲くんは自分から海に飛び込んで行った。
天津風も楽しそうだしひとまずこれでいいか・・・
「きゃーっ!お兄ちゃん助けて!」
突然吹雪が声をあげたので俺は急いで吹雪の元へ駆け寄った。
「どうした吹雪!?うわっ!」
吹雪のスカートに針が引っかかって大きくめくれ上がってパンツが丸見えになっていて、パンツにはやはり小さいがもっこりとしたふくらみができている。
今日は縞パンか・・・・ってそれどころじゃないぞ!
「お兄ちゃん早くこれ取ってよぉ〜!」
「あ、ああわかった大人しくしててくれよ?」
俺はスカートから針を外した。
「はぁ・・・助かったよありがとお兄ちゃん!」
「い、いやお安い御用だよこれくらい!」
それから俺も釣りに参加してしばらく釣竿を垂らしていた。
すると
「なんですかこのお魚!風船みたいに膨らむんです!」
春風が釣竿をこちらに見せてくる
「ああそれフグだな」
「フグ!?わたくしよくお刺身を食べていました!まさかこんなお魚だったなんて!」
やはり春風の家は相当な金持ちなんだな・・・
しかし刺身でしかフグを見たことないって相当だぞ
「それで、この小さいのは食べられるのですか!?久しぶりにお刺身食べたいです!」
春風が目を輝かせている
「そいつな・・・毒あるから食えないんだよ。いやまずフグはみんな毒があるんだけど」
「そんな!わたくしはずっと毒のあるお魚を食べていたのですか!?」
「ああいや種類によってはちゃんと調理すれば食べれるんだけどこいつはクサフグって種類のフグで食べれないことはないらしいんだけどやめといたほうが良いんじゃないかな・・・フグ調理には免許が要るしなによりこいつは刺身にするには小さすぎるし とりあえず噛まれると危ないから俺が針外すよ」
俺はフグから針を外してバケツに入れた。
「それにしても可愛らしいですねこのフグ・・・」
バケツで泳ぐフグを春風は興味津々に見つめている
「でも食えないしさっさと逃したほうがいいんじゃないかな」
「せっかく釣ったのに逃してしまうのですか?」
「ああ。だってこのまま殺しちゃうのもかわいそうだろ?」
「そうですよね・・・」
「じゃあ逃がそうか」
「ええ。さようならフグさん」
春風はフグを海に名残惜しそうに逃した。
それからしばらくたって魚の釣れが悪くなってきた。
「ん〜そろそろ暑くなって来たし魚も釣れなくなって来たし戻るか」
「うん!そうだね!お兄ちゃんに教えてもらったおかげでいっぱい釣れたよ!」
「わたくしも楽しかったです!ありがとうございました!」
結局俺たちの釣果はアジが10匹にクロダイが2匹それにキスが4匹とメジナが1匹とクサフグ1匹だった。
メジナの引きが凄まじく他の魚に比べて強かったので釣った春風はすごく驚いていた。
さあそろそろ天津風にも声をかけて・・・
「な、なんだそれ!」
天津風はもう飽きたのか釣り糸でぐるぐる巻きになった連装砲くんと戯れていたがその横で大きな魚がバケツに突き刺さっているのが見えた
「何って連装砲くんが捕まえて来たんだけどあたし魚の種類とかよくわかんないし触りたくないしそれになんかあなたの手も生臭いから絶対にあたしに触らないでよね」
おそるべき現代っ子・・・!
しかし連装砲くん漁法おそるべしだな・・・
その魚は大きめのサバだった。
こりゃ美味しい晩飯になりそうだ!
「天津風よくやったな!」
「ふん・・・!別にあたしがやったわけじゃないんだから代わりに連装砲くんを褒めてあげて・・・ってうわ!連装砲くんもすごく磯臭いわね・・・」
「帰ったらまずその釣り糸をなんとかしてから洗ってやらないとなおーい二人ともそろそろ帰るぞー」
「はーい!」
「わかりました」
釣った魚をクーラーボックスに入れて3人を連れて釣りを切り上げた。
「じゃあ俺は魚を愛宕さんに見せてくるわ」
「うん!それじゃあ私たちは天津風ちゃんの連装砲くんを洗ってあげなきゃ!」
吹雪たちと別れた俺はクーラーボックスを持って執務室へ向かうと愛宕さんはおらず高雄さんが一人でコーヒーを飲んでいた。
「あら提督お帰りなさい!釣れましたか?」
「はい結構色々釣れましたよ」
俺はクーラーボックスを高雄さんに見せる
「まあ!本当に色々釣れたんですね!良いサバも居るじゃない」
「聞いてくださいよ高雄さん!天津風が連装砲くんを釣竿にくくりつけて捕まえたんですよ」
「あの子結構賢いこと考えるのね・・・これなら秋の秋刀魚釣りも・・・・」
「えっ、秋刀魚がどうしたんですか?」
「い、いいえなんでもないわ!」
「そうですか・・・」
「それじゃあこの魚愛宕にさばいてもらいましょう!私も手伝わなきゃ」
「愛宕さんはどこに?」
「もう先に頂いたアジの料理の下準備をしに食堂の厨房にいるはずよ 私たちも行きましょう!」
高雄さんと食堂へ向かうとアジを切っている愛宕さんがいた
「おかえりなさ〜い」
「ほら見てよ愛宕!提督たちこんなに魚釣って来てくれたのよ!?さばき甲斐があるわね!」
「はぁ・・・他人事だと思ってそんなこと・・・でもなかなか良い魚もいるじゃない!私頑張っちゃおうかしら〜でも提督?もちろん手伝ってくれますよね?」
「えっ、俺は・・・?」
「ああ?お前らが釣って来たんだろ?ちょっとくらい手伝えや」
愛宕さんはこちらを睨みつけてくる
「は、はいぃ・・・!」
確かに言う通りだし怖いし俺は手伝うことに。
それからしばらく高雄さん愛宕さんと共に魚の下処理やらをやって夕飯に備えた。
そして夕飯の時間になり
「はぁ〜お腹ぺこぺこだよ〜あれ提督さん?今日当番じゃないのに料理してるの?」
腹をすかせた阿賀野が一番乗りで厨房にやってくる
「ああ、今日は魚釣って来たからそれの下処理やら手伝ってたんだよ」
「えっ!?提督さん魚さばけるんだ!阿賀野も家事はやってたけどそれはできないから憧れちゃうな〜」
「ま、まあちょっとだけだけどな・・・」
「で、今日の晩御飯はなんなの!?」
「アジフライとかサバ味噌とかその他諸々だ」
「そんなにいっぱい!?」
「ああ。釣っただけじゃなくて長峰さんたちにもアジをたくさんもらっちゃってさ」
「わーい!楽しみ〜!!」
阿賀野は子供のように喜んでいる。
そして食堂に人も集まりはじめ俺と愛宕さんで料理をみんなが集まるテーブルに乗せていく
「は〜い今日の晩御飯は天津風ちゃんが釣ってきたサバの味噌煮にアジフライ・・・!それにキスとメジナの唐揚げとクロダイの鯛飯でーす!」
さすが愛宕さん・・・どれも美味そうだし良い匂いが漂っている。
そして皆が席に着き料理を食べはじめた。
「・・・やっぱり魚は食べるに限るね・・・」
初雪がそんなことを呟きながら唐揚げに手をつけているし
「うーん!このサバデリシャスデース!アマツカゼやるネー!」
「アジフライすっごく美味しい!食事制限中だけどこんなの食べちゃうじゃん!ああ・・・罪な那珂ちゃん」
金剛と那珂ちゃんも美味しそうに食べてくれていて釣ってさばいた甲斐があった
その横ではガツガツと阿賀野が豪快にアジフライを食べている。
やっぱ食べ方の男らしさは阿賀野が一番だなぁ・・・
「吹雪、どうだ自分で釣った魚の味は」
「美味しいよお兄ちゃん!」
「お魚を自分で釣ってそれを食べるだなんて考えたこともありませんでしたしとても楽しかったです!また釣れて行ってくださいね!」
春風も嬉しそうに料理を頬張っていた。
「あたしはもうあんな暑いし臭いのはごめんよ!・・・でも連装砲くんはまたやりたいって言ってるから次も絶対誘いなさいよ」
「ほんっと素直じゃないなお前!」
「ああもううるさい!でもお魚捌くの手伝ってたんでしょ?それに免じて今日は怒らないでおいてあげるわ・・・ありがと」
天津風は最後にぼそりとそう言った。
もっとちゃんと言えば良いものをどこまで素直じゃないんだこいつは・・・
「ん〜?最後がよく聞き取れなかったな〜?」
「な、なんでもないわよ忘れなさい!」
「え〜ほんとかぁ?」
「良い加減怒るわよ!」
「え〜なんだって?」
「もう!バカにするのも良い加減にしなさいよ!!!」
天津風を少しおちょくり過ぎてしまったのか天津風が立ち上がって俺を追いかけてくるので俺は反射的に逃げだした。
「おいこら飯中だぞ走りまわんなって!!」
「うるさいうるさい!あなたがあたしのこと怒らせるからでしょ!?こら!逃げるな!!ちょっと待ちなさーい!!」
食堂にはそんな天津風の声と他の艦娘たちの笑い声が響いていた。