ノンケ提督が艦シーメール鎮守府に着任しました。 作:ゔぁいらす
今日は高雄さんが数日俺の代わりに出張に出かける日だがあいにくの曇りだ。
日差しはないけど蒸し暑くて不快指数は相当高いしなんだか雲行きが高雄さん無しでやっていけるかどうか不安な俺の心の中みたいだ。
医務室担当から艤装の整備まで本当になんでもできる高雄さんが居なくなるのは相当手痛いけど逆に言えばそれだけできる人に代わりを任せられるんだから安心感も同じくらいある。
そんな高雄さんの見送りをしに俺はバス停までついて行っていた。
「・・・高雄さん本当に代わり任せて大丈夫なんですか?」
「ええ。あの人が提督の時からこういう事はしょっちゅう私に丸投げでしたから心配しないでください」
高雄さんは俺を安心させるようにそう言って笑った。
あの人って愛宕さんか・・・
「そ、そうですか・・・」
「それより私がいない鎮守府の方が心配ですよ。でも人手も以前より増えた事ですし大丈夫だとは思いますけどね」
そうこうしているうちにバス停に着き
「それじゃあ鎮守府のことよろしくお願いしますね。それとあの人・・・ああ見えて結構寂しがりやだから気をつけてあげてください それでは行ってきます明後日の夕方までには帰れると思います」
高雄さんはバスに乗る間際にそう言うとバスに乗って行ってしまった。
愛宕さん寂しがりやには見えないけどなぁ・・・
まあいいや昨日も愛宕さんデスクワークでぐったりだったし今日は金剛もいるとは言え丸投げするわけにもいかないし早く戻って手伝わなきゃ!
俺は鎮守府に急いで戻った。
そして鎮守府に戻り執務室のドアを開けると
慣れた手つきで書類を片付ける横でしんどそうにしている愛宕さんが居る
「ただいま戻りました・・・って誰!?」
部屋に入ると見慣れないスーツにメガネの女性が大淀と愛宕さんを手伝っている。
「あっ、ケン!おかえりなサーイ!」
そのメガネの女性は俺に気づいたのかこちらを向いて聞き慣れた口調で言った
こんな喋り方する奴そうそう居ない。
「こ・・・金剛!?」
「そうデース!見違えましたか?」
「見違えたも何もなんでそんな格好してるんだ?」
「今日はケンのお手伝いだからできる社長秘書みたいなスタイルネ!形から入ってみたのデース!それにケンってメガネの子好きなんでしょー?」
やっぱり喋るといつもの金剛だった。
「金剛さんちょっとそんな無駄口叩いてる暇があったら早くこっちも手伝ってください!け・・・提督も帰ってきたんならこれだけ朝の海水浴場警備までに片付けておかないといけない書類ですからさっさと片付けてくださいよ!」
大淀が少しむすっとした表情でこちらに書類を手渡してくる
「ちぇーオオヨドは釣れないデースせっかくいつもよりメイクも気合い入れてきたのにぃー!」
その言葉で金剛の唇に目が行き、昨日突然キスされたことを思い出した俺は急に恥ずかしくなって顔が赤くなってくる。
「ん?ケンどうしたデース?なんか顔が赤いヨー?」
金剛がこちらを覗き込んできた。
やっぱり昨日のこともあってか金剛のことを意識してしまう自分がいる。
こいつ絶対わざとやってるだろ・・・!
「うぉわぁ!な・・・なんでもねぇよ!ここまで戻ってくるとき走ってきたからそう見えるだけだろ?ささ!早く片付けなきゃな」
俺は誤魔化すように金剛を振り切って机に座り書類を片付け始めた。
いつもは高雄さんが要点を簡単にまとめた付箋を付けたりしてくれているのだが今日はそれがないので記入が必要なものや重要で目を通さなくてはいけないものと別にそうでもないものの判別が簡単にできずいつもよりも時間はかかるし金剛のことが頭から離れなくて気も散るしで大変だ。
まあこれこそが普通なんだろうけど高雄さんがどれだけ俺のために気を使ってくれたかが痛いほどわかった。
帰ってきたらちゃんとお礼を言わなきゃいけないな・・・
横では大淀が俺の記入漏れがないかのチェックをしてその横では愛宕さんが死んだ目でハンコを押している。
金剛は予想以上に要領良く仕事の手伝いをこなしてくれた。
本当に黙ってれば出来る秘書と言ってもいいかもいいかもしれない。
そしてなんとか朝の海水浴場警備までに書類を全て片付けることができた。
「ふぅ・・・終わった」
「終わったも何もまだ1日始まったばっかりですよ」
大淀の言う通りまだ海水浴場警備の仕事が残ってて俺はそれの指示やら管理をしなきゃいけない。
「オオヨドー疲れてるケンにあんまりキツいこと言っちゃダメだヨー?みなさんお疲れ様デース!紅茶入れたから飲んでくだサーイ!」
金剛は俺たちが書類を片付けている間に紅茶を淹れておいてくれたらしく俺たちに配ってくれた。
大淀は仕事を取られて不機嫌そうだったが紅茶を飲んだその顔は少し悔しそうな顔に変わっていく。
よっぽど金剛の淹れた紅茶が美味かったんだろうな。
実際金剛の淹れた紅茶はいつも大淀に淹れてもらっている物と甲乙は付けがたいけどめちゃくちゃ美味しかった。
そして一息入れてしばらくすると執務室のドアをノックする音が聞こえた。
多分朝の警備に行く艦娘が来たんだろう。
今朝の当番はだれだったかな・・・
「入っていいぞ」
そう言うとドアが開いて目にクマのできた天津風が執務室に入って来た
「おはよう・・・ございます・・・」
天津風は見るからにしんどそうにしている
「お、おはよう天津風 なんかしんどそうだけど大丈夫か?」
「別にしんどくなんかないわよ!ただ昨日の夜少し寝れなかっただけよ」
「寝れなかったって何かあったのか?」
「いちいち何があったか聞くなんてデリカシーがないわね ただ眠たくならなかっただけよ!」
「そ、そうか・・・ちゃんと寝なきゃだめだぞ?でも過ぎたことは仕方ないし少しでも体調悪くなったら我慢しないで相方に言って休ませてもらうんだぞ?」
「わ、わかってるわよそれくらい・・・って別に心配されるほどのことでもないわよ!保護者じゃないんだからネチネチあたしのプライベートにまで口出ししないでくれる?」
睡眠不足からイライラしているのか天津風がいつもよりきつめに俺に当たってくる。
そこまで寝れないって一体何があったんだ?
でもこれ以上詮索すると更に怒鳴られそうな気もするし相方に気をつけるように言っておいてやるか
そういえば天津風の相方はだれだっけ・・・?
そろそろ来てないとおかしい頃なんだけど
「金剛さん早く警備に行きますよ!」
天津風が言った
「oh!嫌デース!もっとケンと一緒にいたいネー!」
「駄々こねないでください子供ですか!?」
「NO〜!せっかく服もメイクも決めて来たのにぃ〜今日は1日ケンのお手伝いしてるデース」
金剛は年甲斐もなく駄々をこねた。
せっかくさっき見直したのにこれじゃ台無しだ。
「もう片付けもだいたい終わったし愛宕さんもいるからお前は警備行けよ!それこそ今の天津風一人に任せるわけにもいかないだろ?」
「嫌デース!他の子に変わってもらうヨー!」
「はいはいこんな小さな子の前で駄々こねないでください」
大淀が淡々と駄々をこねる金剛を捕まえるとそのまま執務室から引きずり連れ出した
「ケンと離れ離れなんて嫌デース!ケンヘルプミィィィィィ!痛いっ!痛いデース!お尻にトゲが刺さってるヨー!!」
金剛の声がどんどん遠くなっていく
そんな金剛の姿を呆れた顔で天津風は見ていた
「・・・・それじゃあ天津風、朝の見回り任せたぞ」
「ふんっ!言われなくたって仕事なんだからやってやるわよ!・・・・いってきます」
天津風は最後に小さくそう言って金剛の後を追いかけていった。
寝不足みたいだけど大丈夫かなぁ・・・
でも正直天津風より金剛の方が心配な状態だったけど・・・
そして執務室には机に突っ伏した愛宕さんと俺の二人きりになってしまった。
愛宕さんデスクワーク少しやったくらいでこんなぐったりするなんて元提督だとは信じられないよなぁ・・・
俺が偉そうなことを言える立場じゃないと思うけど本当に提督だったのかと疑いたくなる
「ん?今私が本当に提督だったかどうか怪しいと思ったわね?」
突然愛宕さんがこちらを向いて言った
心を読まれた!?いやそんなはずはない。
誤魔化さないとまた昨日みたいに怒られるんじゃ・・・
「え、ええ!?そんなわけないじゃないですか嫌だなぁ」
「誤魔化さなくたっていいわ。顔に書いてあるもの」
あれ?怒られない?
「そ、そうですか・・・はぁ・・・」
俺はひとまず胸をなで下ろす
「私だってデスクワークがやりたくて提督やってたわけじゃないのよ?戦闘が少なくなって書類整理に明け暮れてる毎日に嫌気がさしたから艦娘になったの まあでもあなたが来るまではこの姿で普通に提督業もやってたんだけど」
「そうだったんですか・・・」
そこまで正直に言われると清々しいものがある。
でもなんでわざわざ艦娘になってまで鎮守府に残ったんだろ?
結局そんな疑問が1日頭から離れないままその日の仕事を終えた。
天津風はなんとか無事に見回りも終えたし見回りを終えて金剛がまた手伝ってくれたのも相まって明日の準備もバッチリだ。
そして1日を終えた俺は吹雪と部屋に戻り風呂を済ませて寝支度に入っていた。
「ふぅ今日は一段と疲れた・・・高雄さんが居ないだけでこんなに大変だとは・・・」
「お疲れ様お兄ちゃん!途中で雨も降って来るし私も大変だったよ」
吹雪の言う通りあれから雨が降り出して結局海水浴場はいつもより早く営業を終えた。
どうやら明日まで降り続くらしくて明日の警備はいつにも増して大変そうだ。
「吹雪もお疲れ様 風邪ひかない様にちゃんと風呂で温まったか?」
「うん!でもまだ足りないかも・・・」
俺が風呂入ってるうちにクーラーで身体冷やしちゃったのか?
「足りない?まだお湯張ってるけどもう一回入って来るか?」
「ううん違うの ちょっとこうしたいだけ!」
「うわぁ吹雪!?」
吹雪は急に俺に抱きついてきた。
寝巻き越しに風呂で温まってほんのり暖かい吹雪の体温が伝わってくる。
クーラーが効いて冷えた部屋だったからかそれをとても暖かく感じた。
しかし吹雪との距離が日に日に縮まっている気がする。
もう兄弟なんかよりずっと近しいけど友達でも恋人でもないそんな不思議な関係に思えてしまう。
漫画で読ような絵に描いたような兄が好きな妹って実際はこんな感じなのかな・・・
「お兄ちゃんにぎゅーってしたかっただけ!びっくりさせてごめんね えへへ」
吹雪はそう言ってにっこり笑った。
「吹雪ぃ・・・」
本当に可愛い妹ができたみたいで庇護欲を掻き立てられてしまう。
それに吹雪にそうされただけでまるで今日1日の疲れが吹き飛んだ。
今日も気持ちよく寝れそうだ。
そろそろ寝よう。
でも天津風今日はちゃんと寝れてるだろうか?
今朝の眠そうなあいつの顔を思い出すと少し心配だがわざわざ部屋まで出向こうものなら「気持ち悪い!」とかなんとか言われて追い出されるだけで逆効果だろうししばらく様子を見ることにしよう。
「それじゃあそろそろ明日に備えて寝るか!」
「うん!今日もお兄ちゃんにくっついて寝ちゃうよ」
「蒸し暑いのによくやるなぁ・・・まあいいけどな!それじゃあ電気消s・・・」
電気を消そうと照明の紐を引こうとしたその時
ドンドンドンと凄まじい勢いで部屋のドアをノックする音が聞こえた
「うわぁ!だ、誰だよこんな時間に!?」
恐る恐るドアを開けるとその先から泣きそうな天津風が勢いよくこちらに飛び込んできた
「お兄さん助けて!」
そのまま天津風は俺のみぞおちに向けて飛び込んできてがっしりと俺に抱きついた
驚いたのもつかの間その衝撃がもろに腹部に遅れてやってきた。
「ぐぼぁ!」
飯食った直後なら絶対吐いてたぞこれ・・・
「天津風ちゃんどうしたの!?」
吹雪も心配そうに天津風を見つめるが天津風は俺の腹に顔を埋めたまま何も言わない。
それに何やら震えているようだ。
「ど、どうしたんだ天津風・・・急に飛び込んできて」
「・・・・・何かが・・・私の部屋の外にいるの」
天津風は消えそうな声でそう言った。
「何か?なんだよそれとりあえず落ち着いて話してくれ 吹雪、お茶入れてやってくれるか?」
「うんわかった!」
吹雪に冷蔵庫に常備してある麦茶をコップに入れさせてひとまず天津風をちゃぶ台の前に座らせた。
一杯飲むと少し落ち着いてさっきのことが恥ずかしくなったのか
「・・・さっきのこと誰かに話したら殺すから・・・吹雪もよ!」
天津風は顔を赤らめてそう言った。
「はいはいわかったわかったで、何かってなんだよ」
「・・・わからないわよそんなの!昨日の晩から部屋の外で鉄が擦れたり当たる様な音がずっとしてて・・・それで最初は無視してたんだけど気になって外をのぞいたら暗くてよく見えなかったんだけど何か鉄の塊みたいなのがこっちに向かってきて急いでドアを閉めたの・・・でも結局そのまま部屋の前にずっと居たんでしょうね 朝になるまでずっとドアの前でその音が止まらなくて・・・」
「鉄の塊?そんなのが動くわけないだろ・・・てかそれが昨日寝れなかった原因か」
寝不足の言い訳にでっち上げたにしては鬼気迫る表情だったし今朝ごまかしてたのに今更弁明のためにそんな嘘を天津風がつくとも思えない。
「・・・ええ。あたしも最初は夢かと思ったの。でも朝音が止んでドアを見に行ったらドアに引っ掻いた傷みたいなのがついてて・・・・」
「でもそれって昨日の夜の話なんだよな?」
「話は最後まで聞きなさいよバカ!」
「あっはいすいません」
「それで今日寝る前部屋の前にゴキブリホイホイを仕掛けてみたんだけど今夜は部屋の前じゃなくてベランダの方に鉄の塊が出てきて・・・それで逃げてきたって訳・・・それにしたって頼りないあなたなんかに助けを求めるなんてどうかしてるわよね・・・あーあ。高雄さんがいてくれたらなぁ」
天津風はいつもの様に皮肉を言う
高雄さん艦娘の相談とかにもよく乗ってるもんなぁ・・・
やっぱり高雄さんは一晩二晩居ないだけでも相当みんなにとっても相当な痛手なんだな
でもその鉄の塊が動くなんてにわかには信じられない。
その割には罠に気づいて裏に回るってそこそこ知能があるって事だよな・・・
「なあ天津風」
「なによ?」
「その鉄の塊をベランダのドア越しにさっき見たんだよな?」
「ええもちろん」
「どんなのか覚えてるか?ちょっと描いてみてくれ」
俺は天津風に紙とペンを渡してどんなやつだったのかを描いてもらうことにした。
しばらくして
「・・・できたわ」
天津風がそう言うので描いた紙を見せてもらうとそこには顔が真四角で土管の様な体をしてツノが二本生えたよくわからない生物・・・?いや生物なのかこれ・・・よくわからないものが描かれている
やっぱ天津風俺のことからかってんのか?
「ぶははははは!なんだこりゃ!?こんな動物がいる訳ないだろ!アニメの見過ぎか寝不足かなんかじゃねーの?」
「違うの!本当に見たの!これが動いてあたしに迫って来たの!本当なの!!」
まるでト●ロを本当に見たと言い張る少女の様に天津風は言うが大きさと現れた場所的に深海棲艦でもないだろうしこんなよくわからない物体にそこそこの知能があって動いているなんて俺には信じられなかった。
「はいはいわかったわかった 怖かったねー」
「信じてないでしょ!お兄さんのバカバカ!!」
「痛い痛い!!わかったからスネを蹴るのをやめろ!」
こんなのが居るかどうかは別としてこのままだと話は平行線だし天津風はおろか俺と吹雪まで寝不足になってしまう。
「はぁ・・・で、俺はどうすればいいんだ?」
「・・・泊めて」
天津風は言いにくそうに言った。
「はぁ!?なんだよー急に寂しくなって泊めて欲しいからってこんな嘘までつくなんて可愛いところあるじゃないか」
「そんな回りくどいことする訳ないでしょ!?」
「ぐべらっ!痛ってぇ!!」
天津風のパンチが俺の左頬を捉えた
「大丈夫お兄ちゃん!?もー天津風ちゃん!お兄ちゃんに暴力振るっちゃダメでしょ?」
吹雪は天津風を諌めてくれたがそれならさっきスネを蹴ってきてた時からそう言ってやって欲しかった。
「だってこのバカがあたしのことバカにするから」
「そうだねお兄ちゃんも悪かったよね。お兄ちゃん謝って」
吹雪が突然場をしきり始めた。
「・・・ごめん」
「ふんっ!そうよあなたが悪いの!」
「次は天津風ちゃんの番だよ?」
「はぁ!?なんであたしが謝らなきゃいけないのよ」
「だって殴ったでしょ?殴られるのってすっごく痛いんだよ?体だけじゃなくて心も痛くなるんだよ?私・・・目の前で大好きなお兄ちゃんと天津風ちゃんがそんなことしてるの見たくないの・・・だから・・・」
吹雪は少し声を荒げて言った。
そうか・・・吹雪は前いた鎮守府でずっと暴力を受けてたんだよな
そんなこともあってか吹雪は人一倍人の痛みに敏感なのかもしれない。
「・・・・ごめんなさい」
吹雪の過去は大雑把ではあるが天津風にも話していたから天津風もそのことを察したらしくしゅんとして謝ってくれた。
「ちゃんと謝れたねえらいえらい」
吹雪は笑顔で天津風の頭を撫でる
「もう!子供扱いしないでよ!!・・・ちょ・・・くすぐったいから」
一応後輩の天津風に少しはお姉さんぶりたいのかもしれない。
そんな二人の姿を見て少し心が温かくなった様な気がした。
「・・・で、なんだっけ?」
「ああもう!なんか変な生き物があたしの部屋の周りをうろついてて怖いから泊めてって言ったの!二回も言わせないでよね」
「ああはいはいそうだったそうだった。布団これしかないから今回も3人で寝ることになるけど」
「わかってるわよ!今日は壁側の吹雪の横で寝るからあなたは壁のない方の端で寝なさい!」
「はいはいわかりましたよ。それじゃあ吹雪、ちょっと狭いかもしれないけど天津風も入れてやってくれよ」
「うん私は大歓迎だよ!お兄ちゃん落っこちないように気をつけてね?」
「ああ」
「それじゃあ天津風ちゃん!早くお布団おいでよ!!」
吹雪はベッドに飛び乗ると天津風を呼んだ。
「ええお邪魔します」
二人がベッドに入った後俺は落ちた時のために座布団をベッドの外側に置いてから電気を消して天津風、吹雪、俺の順で川の字になる様にベッドに入った。
しかし狭いな・・・前天津風が急に一緒に寝かせろって言った時は俺が真ん中だったし隅の吹雪は俺にがっちり抱きついてたからなんともなかったけどこんなの寝返りでも打とうものなら即座に落ちるぐらいにスペースがない。
そんな中なんとか自分のできる範囲でスペースをとらない寝やすい姿勢を見つけ出して目を閉じた。
それからしばらくした時のことだ小さくガチャン・・・ガチャン・・・という音が小さく聞こえてきた
「ひぃっ・・・・!アイツ・・・ここまで来てるんじゃ・・・」
天津風もその音に気づいたのか布団に身を潜らせて震えて居るのが布団越しに伝わって来た
「いやいや流石にお前がここに居るのなんかわかるはずないだろ。俺も吹雪もいるし安心して寝てろ。きっと風かなんかで何かが飛ばされた音だろ」
しかしその音は次第に大きくなりこちらに近づいてくる。
「やっぱりあたしを追いかけて来てるんだわ・・・!」
ここまでくるとにわかには信じられなかった天津風の話を信じざるをえない状態になってきて俺も少しこわくなってきてしまう
「そそそそそんな訳ないだろ」
口ではそう言ってみるものの音はさらにこちらに近づいてくる。
そしてガタンとドアに何かがぶつかる様な音がして
ドンドンドンドンと何かがドアに何度も体当たりをしている様な音がする
これじゃあ寝れない訳だ。
天津風を気の毒に思うとともにさっきまで全く信じてやれなかった事を後悔した。
しかしこのままでは埒が開かないし恐怖と同時にさっきのよくわからない生き物を見たいという好奇心も湧き出てくる。
「よし天津風・・・俺がそのよくわからない生き物を捕まえてやる!」
「はぁ!?捕まえる!?一体何かすらわからないのよ?もしかしたらおばけかもしれないじゃない危ないわよ!」
「霊的なものなら余裕でドアとかすり抜けられるだろ・・・多分 それに新種の生き物だったら大発見だぞ!?」
怖いと言ったら嘘になるがそう強がりを言って俺はベッドから下りて電気をつけ何かをぶつけられてガタガタと揺れるドアに手をかけた
「・・・よし・・・開けるぞ・・・?」
俺の鼓動も緊張や恐怖しんやらでばくばくと脈打つがこうなってしまったらこうする他ない。
俺は覚悟を決めてドアを開けた。
「な・・・・なんだこれ!?」
そこには確かに天津風が絵に描いたような四角い顔でツノが二本生えていて土管の様な筒状の体をした金属っぽいものがぴょこぴょこと動いていた。
目を疑ったが紛れもなく天津風が絵に書いた通りのものが目の前にいる。
ヘッタクソな絵だと思ってみてたけど本当にその通りだ
なんなんだこいつは!?
付喪神的なやつ!?それともトラン●フォーマーとかそういう類の宇宙生物か!?
とにかく捕まえないと!
俺は部屋に入ろうとしてくるその物体を捕まえようと飛びつくが華麗に躱されてそのままみぞおちにカウンターの体当たりを受けてしまった。
見ての通りの鉄の塊が腹にぶつかった訳だから凄まじく痛い。
完全に生物の固さではない。
「ぐぉっ・・・!」
痛みのあまり俺はうずくまるとそれを見た謎の生物は嬉しそうに・・・いや俺をバカにするかの様に目の前でぴょんぴょんと跳ねて見せた。
それを見た吹雪と天津風がベッドから飛び出してくる
「お兄ちゃん大丈夫!?」
「お兄さん!?狙いはあたしなんでしょ!?よくもお兄さんを・・・!!」
天津風が震えながらもファイティングポーズを取ると謎の生物は天津風めがけて走り出しそのまま天津風に向けて飛びかかった。
「天津風!逃げろ!!」
俺はうずくまりながらそう言うが次の瞬間
「うひゃぁ!な・・・なによこれぇ・・・離れなさいよぉ・・・」
謎の生物は天津風に体当たりはせず抱きつく様に天津風の胸にひっついていた
「なんだかこの子嬉しそうだよ?」
吹雪の言う通りなんだか懐いている様にも見えなくもない
得体の知れない謎の生物に懐かれるって天津風一体何をやったんだ・・・
「ん?この子の頭に生えてるこれ・・・なんだか私たちの艤装に似てるね」
吹雪に言われてみると頭に生えているツノの様なものは砲塔に見えなくもない
なおさら生物にそんなものが生えているとも思えないし一体なんなんだこれ・・・
「なんであたしを追いかけてきたのかしら・・・」
謎の生物は天津風から離れようとしない。
俺も何度か引き剥がそうとしてみたが相当嫌われているのか触るたびに何かしらの攻撃を受けた。
どう考えても自らの意思を持って動いているとしか思えない
しかしこんな得体の知れないものに引っ付かれていては天津風も俺たちも眠れない
「一体どうすりゃいいんだ・・・」
誰かに相談するべきなんだろうけど一体誰にするべきなんだ・・・?まずは保健所かNASA辺りに聞くべきなのかとも思うが保健所はこんな時間に開いてないだろうし英語できないからNASAに相談するのも無理そうだ。
そうなるとどことなく艤装みたいなツノが生えてるからひとまず高雄さんに聞いてみるか・・・
俺はわらにもすがる思いで高雄さんに電話をかけることにした。
頼む・・・起きててくれ!
『はいもしもし?提督こんな時間にどうされましたか?』
よかった!高雄さんが電話に出てくれた
「あのー・・・えーっと・・・驚かないで聞いてくださいね?頭から砲塔みたいなのを生やした鉄の塊みたいな生き物なのかなんなのかよくわからない物体が天津風に付きまとってるんですよ」
『あっ!そのことでしたか!まだ最終調整が済んでなかったので帰ってからやろうと思っていたんですけど我慢できずに飛び出しちゃったみたいですね』
高雄さんは何かを知っていそうだった。
「何か知ってるんですか?」
『ええ。一応私が組み立てましたからね』
組み立てた!?
やっぱり生き物じゃない・・・ってことはロボットなのか!?
「一体あれは・・・」
『まずは天津風ちゃんに代わってください』
「あっ、はい」
俺は高雄さんに言われるがまま電話を天津風に渡した。
「はいもしもし・・・はい・・・えっ!?はあ・・・そうなんですか・・・わかりました・・・それじゃあおに・・・提督に代わります」
しばらくして天津風が俺に電話を渡してきた
『もしもし?今一応天津風ちゃんに簡単に説明しましたからあとは天津風ちゃんから聞いてください ふわぁ〜あ眠いので切りますね。提督おやすみなさい』
「は、はい夜遅くにすみませんでしたおやすみなさい」
電話を切って天津風になんだったのか聞いてみるとこれは天津風専用の「連装砲くん」というれっきとした艤装らしく原理はよくわからないが特定の艦娘には意思を持ったいわばサポートメカのような艤装があるらしく、天津風の配属が急遽決まったため艤装がここに届くまで少し時間がかかっていた様でそれが数日前に届いて高雄さんがメンテナンスをしていたそうだ。
しかし工廠に閉じ込められていた連装砲くんは主人に会いたい一心で飛び出してきてしまったらしい。
簡単に言えば戦闘中以外はペットの様なものらしくそれで天津風にべったりだったわけか・・・
全く信じられないが目の前で起こっていることなので信じるしかない。
「それじゃああたし・・・この子の事気になるし部屋に戻るわ!おさわがせしてごめんなさいね!それじゃあおやすみなさい!」
高雄さんから聞かされた天津風は安心したのか連装砲くんを我が子の様に抱きかかえて帰っていった。
「結局なんだったんだろうな・・・」
「一時はどうなるかと思ったけど天津風ちゃんが嬉しそうでよかった!私もあんな動く艤装ほしいなぁ・・・」
「えっ・・・吹雪もああいうのがいいのか・・・?」
「うん!」
「そ、そうか・・・」
吹雪は羨ましそうに天津風を見送り終えさっきまでのことが嘘の様に静かな夜の静寂が部屋に戻って来て俺と吹雪は眠りについた。