ノンケ提督が艦シーメール鎮守府に着任しました。 作:ゔぁいらす
あれから数週間が経って梅雨の気配も去り蒸し暑さと蝉の声が鎮守府を包んでいた。
俺は執務室の机の上に山積みにされている資料の上にぐったりと倒れ掛かる。
「あ〜熱いこう熱いと何もやる気が起きないな・・・」
「そう言わないでほら謙、アイスティー入れたからこれ飲んで早く終わらせてしまいましょ?」
大淀はそんな俺にアイスティーを出してくれた。
「ああ。ありがとう・・・」
大淀からグラスを受け取るや否や俺は一気に飲み干す。
部屋の熱さも相まって身体中が染み渡る様なそんな気がした。
「はぁー美味い!これでさっさと終わらせられそうだ」
「ええ。それに明日からはもっと忙しくなるんだから早く終わらせちゃいましょう!」
大淀はメガネをくいっと上げる。
「ああもうそんな時期なのか早いなぁ・・・」
あの後海水浴場警備の段取りが進み、明日はそんな海開き前ということもあって海岸の清掃をすることになっている。
そんなの提督と艦娘でやることじゃないと思っていたがボランティアではなく一応業務扱いらしく、それならばと暑さでやる気が上がらない中自分を奮い立たせ資料を片付けた。
そして夕食を済ませた後執務室にみんなを呼び簡単に明日の作業の段取りや配置の最終確認を行った。
「というわけで明日は海水浴場の清掃をやるからみんな事前に配った資料に目を通しておいてくれよ!」
なんだか久々に提督らしいことをやっているような気がするがやることはただの掃除である。
「全く・・・なんで艦娘になってまで海水浴場の掃除なんかやんなきゃなんないのよ・・・」
天津風が不満そうに呟く
「そう言うなって。長峰さんたちがまたお礼も弾んでくれるって言ってたし戦いに出るよりは楽な仕事だと思うぞ?」
「そ・・・それは・・・そうだけど・・・」
天津風は口ごもってしまった。多分長峰さんと会うのが気まずいんだろう。
お互いに自分のことを知られたくないと思っている以上俺からできることはただ時間が解決してくれると信じて天津風を見守ってやることくらいだ。
「とにかく。決まっちゃったものは仕方ないしどっかの誰かさんが伝えてくれなかっただけでこの鎮守府の行事みたいなものらしいしそう言いたくなるのもわかるけど参加しようぜ・・・?な?」
「・・・・ええ。わかったわ」
天津風は少し黙りこんだ後うなづいた。
「よし!それじゃあ明日。朝8時に海水浴場集合だからな!それじゃあ解散」
俺の解散の合図と同時にぞろぞろと部屋から艦娘たちは部屋から出て行きそんな後ろ姿を見て最初は5人しか艦娘がいなかったここもなんだか賑やかになったななんてことを思いながら彼女たちを見送り部屋には俺と大淀だけが残った。
「ふう・・・・それじゃあ明日か・・・大淀はどうするんだ?」
「私は明日の資料を片付けてから行くから謙は先に行ってて。一応あなたは提督なんだから遅れちゃダメでしょ?」
「あ、うん・・・いつも悪いけどそれじゃあ頼むな」
「謝らなくたっていいの。これが私の選んだ仕事なんだから気にしないで」
「ありがとう大淀。それじゃあまた明日」
「ええ。おやすみなさい」
「ああ。おやすみ」
大淀と挨拶を交わし執務室を後にする。
「ただいま」
「お兄ちゃんおかえり!!」
自室のドアを開けると吹雪がいつものように出迎えてくれた。
そしていつものように風呂を済ませ明日の準備をして吹雪が待っているベッドに横になると吹雪は相変わらずくっついてくる。
人肌が暑苦しく感じる季節になってきたがこんな俺をしたってくれているのだからと俺はそんな蒸し暑さを我慢して吹雪を受け入れた。
「お兄ちゃん・・・明日は頑張らなくっちゃね!」
「ああ、そうだな。おやすみ吹雪」
「おやすみお兄ちゃん」
俺は吹雪のその言葉を聞き部屋の明かりを落とす。
もう吹雪の部屋は既に用意されているし一緒の部屋に住む必要もなくなってから久しいが今となってはこれが当たり前になりつつある自分がいた。
本当は吹雪のためにも俺のためにも早く吹雪を新しい部屋に移動させなくてはいけないと思いつつも結局吹雪は俺の部屋に住み着いている。
このまま吹雪とこんな関係を続けていいのだろうか?吹雪はあくまでも俺の部下であって妹ではないはずなんだ。それなのにこんなことをしていてもいいのか?そんなことをずっと考えてはいるがやはり目の前で嬉しそうに俺に寄ってきてくれる吹雪の顔を見るとそんなことはどうでもよくなってしまい結局いつもこの考えは先延ばしにしてしまっている。
だって吹雪のそばに居てやるって約束したから。
俺は吹雪の寝顔を見つめた。
吹雪は俺にぴったりとくっついて気持ちよさそうに寝息をたてている。
そんな気持ちよさそうな寝顔を見てしまうと離れるのもなんだかしのびない。
むしろこんな可愛い年端もいかない子と添い寝してることもここ最近はどうも思わなくなってきたが十分にいけないことのような気もするがそこは気にしないでおこう。
しかし本当に気持ちよさそうに寝てるな・・・こうして吹雪の寝顔を見ているとなんだか本当に年の離れた妹ができたみたいで庇護欲のようなものが湧き出てくるような気がして撫でてやりたいそんな気分だ。
俺は吹雪を起こさないようにゆっくり右手を吹雪の顔に近づけると
「んぅ・・・・お兄ちゃ・・・・」
吹雪が急に声をあげた。
もしかして起こしちゃったか?
「ごっ・・・ごめん吹雪!!別に何もしようとしてないからな!?」
びっくりしてとっさに手を引っ込め弁解を試みるも吹雪はそんなことなど知ったことではないと言わんばかりに気持ちよさそうに眠っている。
「なんだ寝言かよ・・・びっくりさせやがって」
小声で呟き優しく吹雪の頭を撫でると髪はとてもさらさらしていて俺と同じシャンプーを使っているとは思えないほどにほんのりといい香りがした。
俺はそんなほんのりと香るシャンプーの匂いに包まれながらゆっくりと眠りに落ちていく。
次の日、耳障りなアラームと蝉の声が俺を呼び起こす。
いつもより少し早いこともあり寝起きは良いとは言えないが手始めにくっついて眠っている吹雪を起こして早速支度に取り掛かる。
長峰さんによれば動きやすい服装でということだったので吹雪と共にジャージに着替え部屋を出てひとまず初雪を起こしにいくことにした。
初雪の部屋の前に到着した俺は
「おーい!初雪!!起きてるか?」
部屋の扉をどんどんと叩いて初雪を呼んでみると
「う〜うるさいしめんどくさい・・・こんな炎天下の中作業なんか・・・」
そんな声が扉の向こうから聞こえてくる。
文句は言っているもののしっかりこんな朝の早くから起きているのかそれとも昨日から寝ていないのか・・・
「初雪お姉ちゃん!そんなこと言わないで一緒に行こうよ」
吹雪も初雪に呼びかける。
すると
「ちょっとまって・・・・・すぐ出るから・・・」
初雪がそう言ってから数分後扉がゆっくりと開いて明らかに眠そうなジャージ姿の初雪が姿を表した
「おはよう・・・ございます・・・」
「おはよう初雪!ちゃんと起きれてえらいぞ!」
ひとまず初雪を褒めてやった
「うぅ・・・・子供扱いしないで・・・それくらいできるし・・・ん?・・・・なに・・・?私の顔に何かついてるの?」
初雪はどこか得意気だったが目の下にはクマができてるしすごく眠そうだ。やっぱり昨日からずっと起きてたなこいつ・・・
こんな状態で作業できるのか少し心配だったが
「それじゃあ初雪お姉ちゃん!一緒に海まで行こっ!お兄ちゃんも早く早く!!」
「あっ、吹雪ちゃん・・・あんまり引っ張らないで・・・」
俺の心配を他所に吹雪が初雪の手を引いていく。
なんだか最近吹雪が以前より生き生きしているように見える。
俺はそんな二人の後ろ姿を微笑ましく眺めながら集合場所へ向かった。
そして集合場所の砂浜にはテントが張ってあって既に天津風と春風がその中で待っていた。
「天津風に春風おはよう。」
「司令官様、それに吹雪に初雪先輩。おはようございます」
春風は律儀にお辞儀をした
「おはよう」
その後ろで天津風は眠そうに言う
「それにしても二人とも早いな」
「ええ。わたくしいつも朝5時に起きていますのでこれくらいはなんてことないですよ」
そうだったのか。確かに全く眠くなさそうだ。それに比べて天津風はすごく眠そうだけど
「私はそんな春風に5時過ぎに起こされたの・・・・もっとギリギリまで寝てたかったのに春風が張り切っちゃってて・・・」
天津風はため息をつく
「そうだったのか。そうだ、長峰さんはまだ来てないのか?」
二人に尋ねると天津風が気だるそうに岩陰を指をさした
「向こうで話してるわ・・・まさか私たちより先客がいるとも思わなかったけどあの人元気すぎるでしょ・・・ああー眠い・・・お兄さ・・・・司令、帰っていいかしら?」
天津風はだるそうに言った
「それは大変・・・私もねむい・・・・じゃなかった先輩として天津風ちゃんを責任を持って連れて帰るから帰らせて・・・・だめ・・・?」
そんな天津風を見た初雪が目を光らせて言った
「お前はただ帰りたいだけだろ?ダメだ。天津風はしんどくなったら言ってくれよ?その時は考えるから。まだ時間あるしそれまでここでゆっくりとまではいかないけど体を休めててくれ」
「むぅ・・・対応の差に不満があるんだけど・・・・」
初雪は不貞腐れたのかそう言ってテントの日陰で体育座りをしている。
「とりあえず俺長峰さんに挨拶してくるわ。向こうにいるんだよな?」
俺は吹雪たちをテントに残し天津風が指差した岩陰のほうに行ってみると聞き覚えのある笑い声が聞こえてくる
「まさかナガトたちが艦娘やめてこんなことしてるとは驚いたヨー!」
「色々あったのよ。ねぇ長門?」
「あ、ああ・・・そうだな。色々あった」
「ふぅん・・・お互い大変デース!」
「はぁ・・・金剛・・・お前は相変わらず悩みがなさそうで羨ましいよ」
「そう見えるデース?それほどでもないデース!」
どうやら長峰さんたちと金剛が話をしているようだ。
金剛は高雄さんたちと知り合いだって言ってたし長峰さんたちと知り合いでもなんらおかしくはないか・・・
しかし声をかけていいものか
「あのー・・・おはようございます」
俺は恐る恐る声をかけた
「あら謙くんじゃないおはよう」
陸さん・・・いや今は陸奥さんって言った方がいいのかな・・・・?
一応男装してるけど・・・ええいまどろっこしい!そんな彼?彼女?が俺に気づいてくれた
「おお謙くん。おはよう今日は朝からすまないな」
「ケン!やっときたデース?グッドモーニングネー!!!!」
それに続いて長峰さんと金剛も俺に声をかけてくる
「あ、はい。今日はよろしくお願いします」
「そうだ謙くん、天津風ちゃん・・・いやソラくんには私のこと・・・・言ってないよな?」
「はい。言ってないです」
「そうかよかった」
長峰さんは安堵の息を漏らす。
「もういい加減打ち明ければいいじゃない。その方がかえって楽かもしれないわよ?謙くんももう知ってるんだし別に隠すことでもないでしょ?」
「そ・・・それは・・・でもきっとあの子は私のこと・・・」
「気にしてないと思うわよ?別にあの子のご両親が亡くなったのだってあなたのせいじゃないんだから」
「それでもダメなんだ・・・私がしっかりしてなかったばっかりに・・・」
まずい・・・なんだかシリアスな雰囲気だ。
何か気の利いた言葉をかけるべきなんだろうけどなんて言えばいいんだ・・・
俺が悩んでいると
「ごめんね謙くん。長門ったらあの子の話するといつもこうなるのよ。私はもう過ぎたことだしあの子ももう13才にもなったんだし話くらいは聞いてくれると思うんだけど長門こう見えて結構怖がりだから」
「こ・・・怖くなどない!ただあの子の心の傷をこれ以上刺激したくないだけで・・・」
「はいはいわかったから。それじゃあ謙くん、また後でね。金剛、あなたもそろそろ戻った方がいいんじゃない?私たちも準備したらすぐに行くから」
「そうデスネー!久しぶりに話せて楽しかったヨー!!それじゃあケン、ワタシとテントまで戻りまショー?それじゃあナガト、ムツまた後でネー!さぁケン、はやく戻りますヨー!!」
金剛はそういうと俺の腕をがっちりと掴んで引っ張ってくる
「えっ、ちょ・・・うわぁ!!」
その力は華奢そうな容姿に反して凄まじく、そのつかむ力と引っ張る力で彼女が男であることをまざまざと感じた。
そして長峰さんたちから少し離れたところで
「やっぱりあの二人も大変そうデース・・・ケンはどう思うデース?アマツカゼとナガトのこと」
金剛は少し落ち着いたトーンで尋ねてくる
「どう思うって言われても・・・ソラ・・・いや天津風はなんだかんだで今の自分を受け入れようとしてると思うんだ。だから今そんな過去の亡くなったご両親の話を聞かされるとまた気分が落ち込んじゃいそうだけどあのまま二人をモヤモヤした関係のまま放っておくのもなんだか嫌で・・・」
やはり俺に答えは出せなかった。
確かにソラの両親が死んでしまったのは長峰さんのせいではないと思う。
でも長峰さんもきっとソラの両親を助けられなかったことをずっと後悔し続けているんだと思うとそれもいたたまれない気持ちになる。
ソラだって自分が艦娘になってこの××町に戻って来ていることを長峰さんは知らないと思っているしそんないっぺんにいろいろなことを話されたらソラはパンクしてしまうんじゃないかとも思う。
最近はよく吹雪や春風たちと楽しそうにやってるようにも見えるけどまだ13才のソラに背負わせるには重すぎるのかもしれない。
「俺は・・・・ごめん。やっぱりどうしてやるのが天津風と長峰さんにとって一番なのかわからないや」
「そうデスか・・・ナガトは責任感が強い子デスからネー・・・なんとかしてあげたいんデスけど・・・きっとワタシがおせっかいすぎるんデスね・・・結局大切な誰かを失う悲しみは結局無くした本人にしかわかりませんから・・・あんまり干渉しすぎるのもよくないデース・・・反省反省」
その金剛の表情は今までに見たことがないくらいに寂しそうだった。
「金剛・・・お前も誰かを・・・」
「・・・・っとあんまり暗い顔してるとワタシらしくありまセーン!今日も元気にいきまショー!!」
話を無理矢理空元気ではぐらかされたような気がするがきっとこう見えて金剛も色々抱えるものがあるんだろう。
だからこそ金剛はあの二人のことを放っておけないのかもしれない。
そんなことを考えていると
「ヘーイケン!その前に元気の補給をさせてもらいマース!!!」
金剛はそう言って俺に抱きついて来た
金剛の柔らかい胸がぎゅっと俺の左肩に押し当てられる。
「うわぁちょ・・・急にやめろって!!胸!胸あたってるから!!」
相変わらずすごく柔らかいです・・・
っと金剛は男なんだぞ・・・・!?男なのになんでこんな柔らかいものがついてんだよおおおおお!!!
「ふふ〜ん、当ててるんデース!ほらほら・・・ワタシのバスト・・・・どうデース?オトコの胸だとは思えないでショー?別に今なら触ってもいいヨー?」
さらに胸をぶにぶにと俺の肩が埋もれるくらいに力強く押し付ける
「はっ・・・離れてくれって・・・!!男の胸なんかきょきょきょ興味ないんだって」
「ふふ〜ん♪相変わらず照れてるケンはかわいいネー!別にオトコでもオンナでもいいでショー?今はワタシのことを感じてて欲しいデース!」
金剛はさらに力を強めただけでなく頬ずりまでしてくる
「わーっ!やめろ!!かかか感じるなんてそんなただお前が勝手にひっついてるだけだろうが!!」
くそっ!完全に逆効果だった!
でも金剛の肌・・・すっげぇすべすべしてるな・・・・本当に同じ男だとは思えない。
って違うこんなところ天津風たちに見られたら何されるかわからないし気づかれる前になんとかして金剛を離さないと!
「ケン〜本当にかわいいデース・・・今ならオオヨドも居ないし食べちゃいたいデース」
金剛は右手をするりと俺の後頭部に回しがっちりと掴むと俺の顔を金剛の方へ向けてきた。
金剛の顔と俺の腕に押しつぶされた彼女の豊満なバストが俺の目に飛び込んで来る。
意識して見ないようにしてたのに・・・・やっぱりこれが俺と同じ男だとは思いたくもないし考えられないぞ・・!?
「ケン・・・もっとワタシのこと見てくだサーイ・・・ほら・・・ケンのハートの音・・・いっぱいバストで感じてるネー・・・!素直にワタシの身体で興奮してること・・・認めたら楽になれるヨー?ワタシは今からでもウェルカムネー!」
金剛は潤んだ唇に綺麗な瞳で俺を見つめて来る。
「おっ・・・俺はそんな・・・・興奮なんてしてねーし・・・」
苦し紛れにそういうもののやはりここまでされて興奮しない男なんか居ないじゃないですか
「ダウトデース・・・だってほら・・・ここもこんなに膨らんでるヨー・・・・?ほら・・・」
金剛は膝をたくみに使って俺の股間を撫でて来る
「うわっ・・・そっ・・・それは生理現象だから・・・朝勃ちだから!!!なっ?お前も男ならわかるだろ!?」
ま・・・まずい・・・!!色々とまずいぞ!?具体的に貞操の危機とR-的な意味で!!!
「それもダウトネー♡さっきまでこんなに膨らんでなかったデース・・・♡ほら・・・ワタシでこんなに大きくしてくれたんでショー?別にワタシは別にカノジョにしてくれなくてもガールフレンドでもそれよりもっと踏み込んだフレンドでもいいデース♡」
そ・・・それってもしかしてアレですか!?
「いっ・・・いやその・・・・もっと踏み込んだっていうのは・・・?」
「ふふっ♡わかってるくせにぃ・・・ケンは意地悪ネーもちろん踏み込んだフレンドって言うのはセッ・・・・・・ぐえっ!」
金剛が何かを言いかけた瞬間ごつんと鈍い音がして金剛が地面にへたり込んでのたうちまわっている
「アウチ!痛い!!痛いネー!!!それに砂浜もファッキンホットデース!!!!!痛いし暑いヨー!!!!ヘルプミー!!!」
よかった助かった・・・・でも一体誰が?
「はぁ・・・・この色ボケは相変わらずそうで逆に安心するわ」
俺が顔をあげると奥田さんが拳をぎゅっと握りしめて立っていて後ろでは長峰さんがため息をついていた。
「あっ・・・奥田さんに長峰さん。助かりました。というかもう準備は済んだんですか?」
「ああ。仕事を押し付けておいて私たちが遅れるわけにはいかないからな」
「準備って言ってもほぼ長門をなだめてただけだから」
「待て陸奥っ!それじゃあ私がぐずってただけみたいじゃないか!」
「あらぁ?違ったの?」
「それは・・・・その・・・」
二人がそんな言い合いをしていると
「うぅ〜ムツ・・・ひどいデース・・・準備って言うからもっと時間かかると思ったのにぃ〜それに相変わらず見かけに反して殺人級のパンチデース・・・・もう少し加減してヨー」
金剛は殴られたであろう部分をさすりながら立ち上がった。
「加減なんかするもんですか。謙くんが女性恐怖症になっちゃったらどうするのよ?年下の男の子をからかうのも楽しいけど朝っぱらからやるには激しすぎるわ。もっとソフトに行かなくちゃ。ね〜謙くん?」
奥田さんがこちらに向かってウインクをしてくる。
男装をしていると言っても相当な美人だ・・・というかこの人も男装云々以前に男なのだが
そんな奥田さんに軽くキスをされて顔を真っ赤にしたことを思い出してしまってまた少し顔が熱くなってしまった。
「は・・・はいそうですね・・・・」
俺は思わずそんな彼から目を逸らす
「あらあら照れちゃって。それじゃあ謙くん、行きましょうか。そこの色ボケが何かしないか私と長門が見張っててあげるから」
「あっ、はい・・・」
俺はそう言った奥田さんと長峰さんに連れられてテントへと戻った。
テントに戻ると阿賀野と那珂ちゃんが待っている。
「提督おはようございまーっす!!」
「あっ、提督さんおはよー!あっ、長峰さんたちもいっしょだったんだーおはようございまーす」
阿賀野と那珂ちゃんはあざとすぎるくらいに挨拶をしてくれた。
「おはよう二人とも・・・それじゃああとは愛宕さんだけか・・・」
「ううん。愛宕ならもう来てるよ」
阿賀野がそう言ってテントの方を指さすとテントの中で愛宕さんは大きなあくびをしてあぐらをかいていた。
そんな愛宕さんがこちらに気づき
「あら提督・・・おはようございまーす・・・はぁねみー」
生気の抜けたような声を上げ、そんな姿を見た長峰さんは頭を抱えた。
「おい愛宕!駆逐艦の子たちも見てるんだぞ!?もっと艦娘としての自覚をだな・・・」
「なっ・・・!?長t・・・・じゃなかった長峰くんももうきてたのね〜おはよございまぁす・・・なんちゃって・・・」
そんな彼の姿を見た瞬間愛宕さんは立ち上がって誤魔化すように笑う。
「はぁ・・・今更誤魔化しても無駄だろう全く・・・・あなたと言う人は・・・」
長峰さんはため息を一つつき、そんな長峰さんの事を後ろで天津風が気まずそうに見ていた。
「長峰さん、高雄さんと大淀は書類が片付き次第合流するのでこれで今は全員です」
「そうか。それでは少し早いが私の方から挨拶と今日の説明をさせてもらう。」
長峰さんがそう言って今日の予定を話し始めた。
「・・・以上だ。私が振り分けた班の通りに別れて各自行動してくれ。すでに協会員が持ち場で待機している」
「お昼ご飯は用意してるからね〜」
そして俺たち長峰さんに指示された持ち場に移動を始めた。
阿賀野と那珂ちゃんに駆逐艦たちはブイやクラゲ避けネットの配置と点検(艦娘だから簡単に海の上で交換ができる)
金剛と愛宕さんは長峰さんと××町観光協会の人たちと海の家の運搬やらの手伝い(海上作業をさせるには燃費が悪い上になんだかんだであの二人は男性ウケがいいかららしい)
そして俺は・・・・・・・
「ゴミ拾いってどう言うことだよぉぉおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
俺は観光協会の人たちと一緒に流れ着いたのかどこからか風に飛ばされてきたのかもわからないようなゴミの掃除に流れ着いた危険物がないかの確認を任された。
一緒にゴミ拾いに参加している観光協会の人たちに話しかけられたりもしたが
「女ばっかりの職場で羨ましいねぇ・・・俺たち男所帯だからさぁ」
とか
「最近の若もんは・・・・」
みたいな話ばかりで正直ゴミ拾いよりもダルかったが慣れて来ると久しぶりに男性と胸を張って言える人たちと話しながらゴミ拾いをするのはそこまで苦ではなくなっていった。
そして昼前には高雄さんと大淀も合流し高雄さんは資材搬入そして大淀はゴミ拾いに回されてきた。
「謙・・・いえ提督。遅くなりましたこれから私も参加しますね!観光協会のみなさん、大淀と申します。よろしくお願いします!」
大淀は協会の人たちに頭を下げる。
しかしあんな営業スマイルなんかいつのまにできるようになったんだあいつ・・・
そんな大淀を見た観光協会の人たちは
「若い女の子だ・・・・」
「あの・・・大淀ちゃん、歳はいくつ?」
「初めましてだよね・・・?いつここに来たんだい?」
「ワシは高雄ちゃんみたいなボインのが好みじゃなぁ・・・でも可愛らしい子じゃ・・・少し尻を触らせてはくれんかの?」
などと俺そっちのけで大淀の方へ駆け込んで行った。
大淀は流石に困った様子で笑みを浮かべこちらに助けを求めてくる。
なんだか修学旅行の時にバスガイドさんに話しかけたくなった俺や海斗の事を思い出して側から見るとこんな感じだったのかと少し若さゆえの過ちを恥ずかしく思った。
ってちょっと待て、最後にあの爺さんなんて言った!?
流石に触らせるのは許せない。
俺ですらまだお尻は触ってないのに・・・・・って違う違うそういうことじゃないしなんで親友のケツを揉みたがってるんだ俺は・・・
とりあえずセクハラはやめさせなきゃ!
「ちょっと待ってください!流石に艦娘へのお触りは俺が許しませんよ!?」
俺は協会の人をとっさに止めた。
「なぁに冗談じゃよ冗談!がはははは!」
止めた爺さんは誤魔化すように笑った後
去年阿賀野とかいう娘の尻を触ったら奥田の奴にボコボコにされたんじゃ・・・あの娘が触ってもいいと言うから触らせてもらったのにそこを見られていいと言われてもダメに決まってんだろクソジジイ!って言うなりワシをボコボコにしたんじゃ・・・だからもうせんよはっはっは・・・はぁ・・・・ダメか・・・」
少し残念そうに言った。
「はぁ・・・ダメかじゃないですよ!本当にやめてくださいよ・・・?」
って阿賀野の奴一体去年何をこの爺さんにやらそうとしてたんだよ
「ああわかっとるわかっとる。またボコボコにされるのは嫌じゃからのぉ・・」
奥田さんさっきの金剛にやったこともそうだけどキレると怖いんだなぁ・・・
それになんだろう・・・なんか大淀がちやほやされてるのを見ているとなんだかよくわからない感情が込み上げて来る。
多分暑さと早起きで疲れてるだけだろうと言い聞かせ俺はその感情がなんなのかわからないまま作業を続けることにした。
一方金剛と愛宕は海の家の設営をせっせと行なっていた。
「ううっ・・・ワタシもケンと二人っきりでゴミ拾いしたかったデース・・・」
「文句言わないの。設営も結構悪くないのよ?あっそこの人〜♡荷物重そうね私も手伝ってあげる〜ふふっ」
愛宕は媚びた声色で荷物を運ぶ男性の手伝いに入る。
「アタゴ・・・さっきまでとは別人みたいデース・・・でもあの人の本当の姿を知ったらきっとあの男の人もどん引きデース・・・」
金剛は少し皮肉交じりに呟くと愛宕は金剛を睨みつける。
「あら?金剛なにか言ったかしらぁ?」
「いっ、いや何も言ってないヨー!?ささ!ワタシもお手伝いしマース!」
金剛は逃げるように荷物運びを再開した。
そして設営がひと段落した頃
「アタゴーやっぱりワタシ肉体労働嫌デース・・・腕がまたゴツくなっちゃいマース・・・」
「別にこれを毎日やるわけじゃないんだからいいじゃないこれくらい。そ・れ・に・観光協会の人に媚び売っとけばお魚とかお酒とかがもらえるのよ〜せっかくのこの姿利用しない手はないじゃない?うふふっ♩」
「はぁ・・・やっぱりそういう裏があったんデスネー・・・」
金剛と愛宕はベンチで紅茶と缶コーヒーを飲みながらそんな話をしていた。
すると愛宕はおもむろに立ち上がり
「あっ、お兄さん、お疲れでしょ?肩揉んで差し上げますね〜」
そう言うと休憩していた協会員の方へ歩き出す。
「はぁ・・・やっぱりユーは見た目が変わっても中身は昔と全然変わらないネー・・・」
金剛はそんな愛宕の後ろ姿を紅茶を飲みながらため息交じりに見つめていた。