ノンケ提督が艦シーメール鎮守府に着任しました。   作:ゔぁいらす

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大変お待たせしました。


ひつじ雲の行方

 俺は雲人さんを小屋から連れ出した。

その手はとても細く、少しひんやりとしていて男のものだとは思えなかった。

「ちょっ、離しなさ・・・離してください!!」

そんな雲人さんの声が背中から聞こえる。そしてその更に後ろから

「謙待って!!そんなに走ったら・・・!」

大淀の声も聞こえてくる。

それからしばらくして俺と雲人さんは階段に差しかかり

「謙さんっ!分かりました!!引っ張らなくても行きます・・・行きますから!!階段でそんな無理に引っ張られると危な・・・」

雲人さんがそう言った刹那

「きゃあっ!」

雲人さんはつまづいたのかそんな声を上げてこちらに倒れ掛かって来た。

「うわぁぁぁあぁ!」

まずい。このまま倒れられたら雲人さんはおろか俺もろとも階段を転がり落ちてしまう。それだけはなんとか阻止しなければ・・・・!!

「うおおおおおおおお!!!!!」

その時俺にも何が起きたのかはっきりとは分からなかったが気付いた時にはバランスを崩した雲人さんの腕を思いっきり引っ張って宙に浮かせ、そのまま抱える様に抱いていた。

いわゆるお姫様だっこという奴である。

まさか人生発のお姫様抱っこをする相手が男になるなんて・・・・

いやそれにしても雲人さんめちゃくちゃ軽いな・・・本当に女の子みたいだ。

俺がそんな事を考えていると

「ちょっ、なにすん・・・じゃなかった何してるんですか謙さん!早く降ろしてください!恥ずかしいです!!それに危ないですって!!」

雲人さんのそんな声が聞こえ、彼は俺にぎゅっとしがみついている。

止まりたいのは山々だが体重は常に前にかかっているので無理に立ち止まろうとすればこのまま転んでしまうだろう。

被害を最小限に食い止めるにはもうこのまま一気に階段の無い場所まで降りるしか方法は無い!

そう決心し

「ごめんなさい雲人さん!もうちょっと我慢しててください!!」

俺は雲人さんにそう言って抱える力を強め、そのまま階段を駆け下りた。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

駆け下りている最中雲人さんの悲鳴が聞こえたが俺はそんな事をもろともせずなんとか階段を下りきり、平坦な場所で思いっきり後ろに体重を駆けて腰に力を入れなんとか立ち止まる事に成功した。

我ながら凄まじい事をやってしまった気がする。

「はあ・・・はあ・・・・大丈夫ですか?雲人さん・・・」

俺は抱きかかえていた雲人さんの顔を確認すると

「はぁ・・・・謙さん・・・・あなた強引な人なんですね・・・」

雲人さんは顔を赤らめ目を潤ませていた

胸に抱えているだけあって顔が近いし女顔な事もあってそんな表情に俺はドキッとしてしまう。

「ごっ、ごめんなさい!今降ろしますね!!」

俺は照れ隠しにそう言って雲人さんを地面に降ろした

「はぁ・・・・まさかこの年になってお姫様だっこをされる事になるなんて思いませんでした・・・それに私男なんですよ?」

雲人さんはそう言って恥ずかしそうに俺を見つめる

その表情はなんだろう・・・元々幻想的な青白い髪に男とは思えない白い肌が赤く火照ってこちらを見つめるの幻想的な姿は正に異世界のお姫様の様だ。

俺はそんな雲人さんに見とれていた

「あの・・・何か私の顔に付いていますか?その・・・・そんなに見つめられると恥ずかしいですよ・・・」

そんな雲人さんの声で我に返った俺は

「ごめんなさい!!その・・・綺麗だったんで!!」

ぽろりと本音を洩してしまう。

しまった!やってしまった・・・絶対変な奴だって思われるよ・・・

「ああその綺麗って言うのはなんて言うかその・・・えーっと・・・・」

俺は必死に弁明をしようとしたがそんな姿を見ていた雲人さんは

「綺麗・・・ですか。あ、ありがとう・・・・ございます」

そうきょとんとした顔で言った。

予想していた反応と180度違う反応が来たので俺は反応に困ってしまい結局そのまま黙ってしまった

それから間もなく息を上げて大淀と吹雪がこちらに駆け寄って来る

「はぁ・・・・はぁ・・・・謙・・・・!大丈夫!?怪我は無い?」

大淀は心配そうに声を駆けてくる

「あ、ああ・・・なんとか大丈夫」」

少し肩が痛むが言う程でもないと思ったので俺はそう返事をした。

しかしそんな俺よりも息を上げてしんどそうにしている大淀が心配になって来たので

「お前こそそんな息上げて大丈夫なのかよ?ちょっと休憩してから行くか?」

そう大淀に尋ねると

「はあ・・・はあ・・・・気にしないで。大丈夫だから・・・・早く鎮守府に戻りましょう・・・・」

大淀は息を上げながらそう答える。そんな姿を見た吹雪も

「お姉ちゃんしんどそう・・・少し休んだ方が良いよ」

と大淀の身を案じている。

流石にこのまますぐに歩き出す訳にもいかないので

「無理しなくて良いんだぞ?そこまで急ぐ事も無かったな。ごめん大淀」

俺は少し勢い良く飛び出しすぎてしまった事を謝罪した。そして丁度手前にベンチがあったので

「あそこで少し休憩しよう」

と言って大淀を誘導した

「ふぅ・・・・やっぱりデスクワークしかやってないと急に走るのは疲れるわね・・・」

大淀はそう苦笑する

「お前は大淀になる前から少し走ったらそんな感じになってただろうが」

俺は以前の彼女・・・いや彼の事を思い出す。

いつも俺が彼の手を引いてどこかに連れ回しては日が落ちるまで色々な事をしたものだ。

そこで出来た沢山の思い出は彼がどんなに変わっても忘れられない大切な思い出だ。

「そう・・・だったね・・・・私も少し運動した方が良いかな」

大淀はそう言って笑った。

「お姉ちゃん!それじゃあ私と一緒に走ろうよ!天津風ちゃんと春風ちゃんも居るよ!!」

吹雪は目を輝かせて彼女に言った。

「あ・・・うん・・・考えておこうかな〜でも私・・・朝は秘書官のお仕事で忙しいから・・・」

大淀はそう曖昧な返事を吹雪に返した。

こいつ絶対走りたくないだけだぞ・・・

そんな二人のやり取りを雲人さんは不思議そうに見ている。

「あの・・・・吹雪ちゃんはなんで大淀さんをお姉ちゃんと呼んでいるのですか?それに謙さんその前からと仰っていましたが大淀さんとは艦娘になる前からのお知り合いで・・・?」

俺にそう尋ねてくる

「あ、ああそれには色々訳があって・・・」

俺は雲人さんに俺と大淀の関係、そして吹雪との出会いの一部始終を雲人さんに話した。

一応どちらも男だと言う事は伏せて

「そうだったのですね・・・以前からのお友達・・・それに吹雪ちゃん、辛かったでしょう?でも今はお友達も居て、お兄さんと慕える人が居て・・・私も羨ましいです」

そう言って吹雪の頭を撫でた

「あ、ありがとう・・・ございます。雲人お兄さん・・・・」

吹雪は恥ずかしそうにそう言った

「い、今・・・お兄さんと言ってくれたんですか!?」

雲人さんはその言葉に驚く

「は、はい・・・さっき見ず知らずの私を妹だって言ってくれて・・・それにあなたは・・・叢雲ちゃんは私の大切な妹だって私の中の吹雪の記憶がそう言うんです。でも私より雲人お兄さんの方が私よりよっぽどお兄さんで・・・それにお兄さんは私には無い大切な自分自身の名前も持ってる。だから雲人お兄さんって呼ばせてください」

吹雪がそう言うと雲人さんはまた泣き出す

「ありがとう吹雪ちゃん・・・・ごめんね・・・私、お兄さんだって言われてこんなに嬉しいだなんて思わなくて・・・・吹雪ちゃんの前で泣いちゃう情けないお兄さんでごめんね・・・」

と涙を拭いながら言った。

すると吹雪は雲人さんの頭を撫でて

「お兄さんがどれだけ吹雪ちゃんと・・・その吹雪ちゃんから貰ったその名前をどれだけ大切に思ってるのか・・・自分でも信じられないくらいに分かるんです。私じゃない吹雪ちゃんが付けてくれたその名前のことを好きでいてくれると私もなんでか分からないけど嬉しいと思えるから・・・・」

吹雪はそう言った。

やっぱり吹雪も艦としての記憶を引き継いでいてきっと雲人さんと初雪を助けた以前の吹雪も今俺の目の前にいる吹雪にも影響を少なからず与えているんだろう。

そんな吹雪が雲人さんの事をお兄さんと呼ぶ事に俺はどこか寂しさの様な物を感じていた。なんでだろう・・・今まで俺を兄と慕ってくれていた吹雪が少し遠い存在に思えてしまう。

そうだよな・・・俺はあくまで吹雪の提督でしかないんだよな・・・・それに比べたら雲人さんの方が俺なんかよりずっと吹雪に近い存在じゃないか。

 

そんな俺の事を知ってか知らずか

「でも私のお兄ちゃんはお兄ちゃんだけだからね!その・・・血のつながった兄弟でも姉妹艦でもないけど・・・その・・・・上手く言えないけどお兄ちゃんは私のお兄ちゃんだから!雲人お兄さんは・・・そう!親戚みたいな感じ・・・かな・・・?」

「ははは・・・なんだよそれ」

「親戚・・・ですか・・・まあ良いです。吹雪ちゃんがそれでいいのなら親戚だってなんだって」

雲人さんは少し残念そうな顔をしたがそう言って笑った

「うーん・・・・でもお兄ちゃんはひとりぼっちだった私を初めて家族だって言ってくれたから・・・・それが本当に嬉しくて・・・これは艦娘の吹雪としてじゃない。一人の人間としての私の・・・誰でもない私自身の思いだからお兄ちゃんは今まで通りお兄ちゃんで居て欲しいな」

「吹雪・・・」

俺はそんな言葉にとても安心を覚えていた。。

以前吹雪は俺が居ないとダメだと言っていた。

しかし俺もそれと同じくらいに吹雪が居なければダメになってたんだ。吹雪は本当にかけがえの無い存在なんだと再認識させられた。

ずっと吹雪は俺に依存をしている物だと思っていたが俺も吹雪に依存していたんだ。

側に居る約束をしたからとかではなく今は俺も吹雪の側に居たいんだ。

このままずっと同じ部屋で一緒の布団で眠るような依存される関係を続ける訳にもいかないと少しばかり危機感もあるが今は・・・まだ当分はそんな吹雪の言葉に甘えていよう。

「ああ。ありがとう吹雪」

俺の口から自然にそんな言葉が出ていた。

 

そして休憩も一段落し、俺達は再び鎮守府に向けて歩き始める

「うう・・・・やっぱり緊張します・・・」

雲人さんはそう言って身を強張らせている

「大丈夫ですって!ここまでこれたんですから!それに俺も・・・吹雪も付いてますから!」

「そうですよ雲人お兄さん!私も一緒に居てあげますから・・・!だから私をもう一人のお兄さんに会わせてください!!」

吹雪は俺に続いてそう言った

「そう・・・だよね。吹雪ちゃんがそう言うなら私も頑張らないと・・・」

雲人さんの表情が変わる。どうやら覚悟を決めた様だ。

そして鎮守府に到着した俺達を高雄さんが迎えてくれた。

「あら?提督。みんな揃ってお出掛けですか?それに・・・叢雲ちゃんじゃない!珍しいわねここまで来るなんてまた背、伸びたんじゃない?」

高雄さんは驚いた顔で雲人さんを見つめた

「は・・・はい・・・お久しぶりです高雄さん。私・・・初雪に会いに来たんです」

雲人さんは言った

「そう・・・やっと会う気になってくれたのね。きっとあの子もずっと待ってたと思うわ。出て来てくれるかどうかは分からないけど・・・それにそろそろ髪も切ってあげないといけないんだけど最近呼んでも全然出て来てくれなくて・・・」

高雄さんが不安そうに言う

「ごめんなさい。初雪がご迷惑をおかけして・・・」

雲人さんはそれを聞いて申し訳無さそうに頭を下げた

「いいのいいの。あなたが気に病む事じゃないわ。それじゃあ付いて来て」

高雄さんはそう言うと俺達を初雪が引きこもる部屋の前へと連れていった

いつ見ても扉にびっしりと張られたno entryと書かれたテープは物々しい

高雄さんがそんな扉をノックし

「初雪ちゃんあなたにお客さんよ。初雪ちゃん?」

と呼びかける

しかし扉の先から返事は無く高雄さんがなんどか呼びかけていると

「・・・・うるさい・・・私の安眠を妨害しないで・・・」

という小さな声が扉の向こうから聞こえて来た

「初雪ちゃん!起きてるなら出て来て!!」

高雄さんはその声にそう呼びかけるが

「やだ」

扉の向こうからはそんな声がする

「なんで嫌なの?あなた髪も伸びて来てるでしょ?そろそろ切らなくちゃ・・・」

「めんどくさい。それに・・・・ねむい。だからドア叩くの・・・やめて」

「初雪ちゃん!はぁ・・・・・ごめんなさいね。せっかく会いにきてくれたのに」

高雄さんも万事休すと言った感じでため息を吐く

仕方ない。ここは高雄さんより他の人の方が話を聞いてくれるかもしれない

「俺が呼んでみます」

「ええ!?提督が?無理ですよ・・・私でも出てきてくれなかったんですから」

高雄さんは俺を止めるが

「いえ。俺もやってみます。それに俺も初雪と話しがしたいんです。だから物は試しですよ」

俺は意を決して物々しい扉を叩く

「おーい初雪・・・・その・・・・俺・・・ここに着任した新しい提督の大和田って者なんだけど・・・挨拶がしたくってさ・・・」

しかし俺の呼びかけに扉の先から全く反応は無く

やっぱダメか・・・・そう思った時

「あ・・・あのときの・・・・さえない幸の薄そうな人・・・・?」

という小さな声が扉の先から聞こえてきた。

幸が薄そうなのは余計だ!でも食いついてくれた。もしかしたら開けてくれるかもしれない

そんな俺を雲人さん達は固唾を飲んで見守っている。これは責任重大だぞ・・・・

そんな事を考えていると続けざまに扉の向こうから

「お客さんってあなたの事・・・・?」

という声が聞こえてくる

そうか。当たり前と言えば当たり前だけどまだ雲人さんが来てる事は初雪はわかってないんだ。

「そ・・・そう!この間君の事を幽霊呼ばわりしちゃったからさ・・・そのお詫びもしたくてさ・・・とにかく・・・その・・・・一応君もここに住んでる艦娘だし・・・提督として挨拶くらいはしとかないと・・・・って思って」

「私・・・・もう艦娘じゃないし・・・別に放っておいてくれてもいいし・・・」

「そ・・・そうだったね。ごめん・・・それでもここに住んでる以上は一回面と向かって挨拶したいしこないだの事も謝りたいんだよ。だから一回君に会って話をしてみたいなーって・・・・」

「「もーいい・・・寝かせてよ・・・・私の司令官はもういないし・・・・私は艦娘をやめたから・・・・もう構わないで。私こう見えても忙しいから・・・それにもうあの事怒ってないし・・・・ね?もうこれでいいでしょ?」

「えーっと・・・俺はそれでも君に会ってみたいなーって・・・・」

ダメだ。これ以上言う事が見つからない・・・

「あなたいい加減しつこい・・・・!私はもう艦娘はやめたしあなたにも誰にも会いたくもないの!!帰って!!」

初雪は声を荒げた

「それじゃあお前はずっとそうやってその部屋の中で一人で居るつもりなのかよ!?」

俺もそんな初雪につられて少し声を荒げてしまうが

「提督、もうやめましょう。これ以上無理に刺激しても逆効果です・・・」

高雄さんが俺を諌める

すると

「アンタいい加減にしなさいよ!!!」

俺の後ろからそんな声が聞こえてくる。その声は聞き覚えがある。

しかしそれはいつもの様な落ち着きのある声では無い。いや。一回こんな喋り方をしていた彼を俺は知っている。

「雲人・・・さん・・・・?」

俺は恐る恐る声の方に振り返ると雲人さんが眉間にシワを寄せて涙を浮かべていた

「むむむむむ叢雲!?な・・・・なんでここにいるの・・・・!?」

扉の先からも初雪の驚いた声が聞こえてくる

「すみません高雄さん、謙さん。急に大きな声出して。私・・・さっきまで初雪が出てこないことに今日はもう会わなくて良いってどこかで安心していました。でも・・・・やっぱりそれじゃダメなんです。だから・・・私が直接話します」

雲人さんはそう言うと扉へと一歩一歩を踏みしめる様に歩みを進めた。

 


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