ノンケ提督が艦シーメール鎮守府に着任しました。 作:ゔぁいらす
一体どうしたっていうんだ?俺はとりあえず雲人さんと吹雪が居る方へ走った。
「雲人さん!一体どうしたんですか!?吹雪もびっくりしてるんで離してやってください・・・・ちょっと雲人さん聞いてます?雲人さん!雲人さん!!」
俺がそう呼びかけると雲人さんは我に返ったのかハッとして吹雪を離し、雲人さんの手から離れた吹雪は俺の方へ走って来て俺の影に隠れた。
「ごっ、ごめんなさい・・・私の知り合いに似ていたもので・・・つい我を忘れて・・・そんな事ある筈ないのに・・・ごめんなさいお嬢ちゃん、急にびっくりさせちゃったね・・・」
そう申し訳無さそうに言った
そんな雲人さんを吹雪は俺の影からじっと見つめている
気まずい感じになってしまったので
「紹介するよ。この人は前に山で遭難しかけた時に俺を助けてくれた稲叢雲人さん」
俺はひとまず吹雪と大淀に雲人さんの紹介をした。
それを聞いた吹雪は俺の陰から
「吹雪・・・です・・・」
と恐る恐る名乗り、それに続ける形で大淀も
「え、えーっと・・・その・・・謙・・・いえ提督を助けていただいた様でありがとうございます・・・はじめまして。私、大淀と言います」
少し気まずそうに頭を下げた。
そんな大淀の言葉を聞いた雲人さんは
「提督?あなたが・・・?それにやっぱりその子は・・・」
そう言って俺を見つめてきたので
「はい。数ヶ月前に着任して提督やってます。それに雲人さん、吹雪の事を知ってるんですか?」
と俺は答える。
「そうだったのですね。あなたが新しい提督・・・・話はしれいか・・・いえ、愛宕さんから聞いていました。私の前に吹雪が再び現れたのもきっと何かの縁です。立ち話もなんですから小屋まで来てください。先ほどの無礼のお詫びと言ってはなんですがお茶くらいはお出ししますよ。それに少しお話ししたい事があるんです。そちらのお二方もどうぞ」
話したい事ってなんだろう?
そんな疑問を抱いたまま雲人さん俺達をこの間泊めてくれた小屋へと案内した。
吹雪はさっきの事があったからなのか少しびくびくとして俺にくっついている。
そして部屋に通され
「それではお茶の用意をしますからそこにおかけになって待っていてください」
雲人さんはそう言うと台所の方へ行ってしまった。
そして雲人の居なくなったのを見計らって
「お兄ちゃん・・・あの人・・・怖い・・・でもあの人が怖いんじゃないの・・・私、あの人の事なんか全然知らない筈なのに何故かあの人を知ってる様な気がするの・・・それがなんだか怖くて・・・」
と吹雪が俺にこっそりと耳打ちしてきた
「大丈夫。あの人は悪い人じゃないから。なんたって山でぶっ倒れてる俺を助けてくれたんだからさ。きっとさっきのはその・・・なんだ。俺にもよくわからないけどきっと何か深い事情があるんだよきっと」
俺はそう吹雪をなだめる。
それからしばらくして雲人さんがお茶菓子とお茶をお盆に乗せて戻って来た。
「さあどうぞ召し上がってください」
雲人さんはそう言うが大淀は疑念の表情で出された菓子やお茶を見つめていた
「そんなに警戒しなくても毒なんて入っていませんよ」
それを見た雲人さんはそう言って一つお茶菓子をつまんで食べて笑ってみせた
「そ・・・そうですか。すみません頂きます・・・・」
大淀はそう言ってお茶を飲み始めた。
それを見た吹雪も遠慮がちにお茶菓子に手をつける
そして俺達がお菓子を食べ終わって少ししてから
「謙さんが新しい提督だったのですね。すこしびっくりしました。そちらの大淀さんは秘書官かなにかなんですか?」
雲人さんがそう尋ねてくる。
「はいそうです。」
「そんな大淀さんと喧嘩して山で倒れていたんですね。でも仲直り出来た様で良かったです」
雲人さんは嬉しそうにそう言ってくれた。
「ありがとうございます雲人さん。それで・・・話したい事ってなんですか?」
俺は尋ねた。
「はい。あなたが提督ならこのお話はしておくべきだと思いまして・・・そこに写真立てがありますよね?」
そう言って雲人さんはこの間見た写真が入れられている写真立てを指差した。その写真立てはまた伏せられている。
そんな写真立てを雲人さんは手に取りテーブルに置いた。
それを見た吹雪は
「噓!?これ・・・私・・・・?それになんで・・・・ここに写ってる子・・・私皆知ってる・・・・会った事も話した事も無い筈なのに・・・・」
そう驚きの声を上げる
「雲人さん・・・あなたもしかして・・・」
大淀が何かを言おうとすると
「叢・・・雲・・・ちゃん・・・・?」
吹雪が雲人さんを見つめ涙を流しながらそう呟いた
「叢雲?」
俺は首を傾げる
すると
「吹雪ちゃん・・・いえ、吹雪・・・」
雲人さんも目に涙を溜め吹雪を見つめた
「あなたの事もこの写真に写ってる子の事もみんな知らない・・・・知らないはずだけど何故かあなたの事も知ってる気がする・・・・あなた叢雲ちゃん・・・だよね?」
「はい・・・・吹雪」
吹雪は雲人さんの事を叢雲と呼び、雲人さんはその呼びかけに答えたそして一体どういう事なんだ?
俺が訳もわからずにモヤモヤしていると
「謙、私達が艦の記憶を受け継いでいるのは以前の阿賀野の一件で知ってるよね?私にもうっすらとだけどそんな大淀としての艦の記憶が混じってるの。でね、多分だけどあの写真に写ってる吹雪ちゃんは今の吹雪ちゃんより前の吹雪ちゃん・・・そして他に写っている子達は吹雪型の艦娘達だと思うの。私には姉妹艦の記憶がないから分からないけど吹雪ちゃんには姉妹艦の記憶を少しだけ引き継いでいるから写真の子達をかろうじて認識できるのかも・・・それにあの雲人って人は・・・きっとあの写真に写ってる青白い髪の子よ」
大淀は俺にこっそりそう言った。
たしかに写真に写っている少女は雲人さんに髪の色も似ているしどこか面影もある。でも雲人さんが艦娘・・・・?男なのに?いや・・・そんな人を俺は今までにも沢山見て来たじゃないか。
それなら今さっきまでの状況にも合点がいった。
「あの・・・雲人さん・・・この写真の吹雪は・・・」
俺は早速雲人さんに尋ねる
「はい。この事をお話する為にここまで来て頂いたんです。それにしても吹雪がまたあの鎮守府に着任した事を教えてくれないなんて司令官も意地の悪い人です」
雲人さんはそう悪態を突いた。多分司令官っていうのは愛宕さんの事なんだろう。そして雲人さんの口からこの写真の艦娘達の事が語られ始めた。
「私は叢雲という名前の艦娘でした。それ以前は孤児院暮らしだったのですがそんな孤児院から私ともう一人の子供に艦娘の適正があるからとある施設に移されたんです。私達はそこで艦娘にされました。そして艦娘として生きて行く事を余儀なくされた私達が鎮守府へ着任した時に吹雪や白雪、深雪と出会ったんです。私達2人を男だと知りながらも彼女達は優しく姉として支えてくれました。そんな彼女達のおかげで私達は辛い戦いもくぐり抜ける事もできたんです。そして最後の殲滅作戦が開始される直前に吹雪は私達にあなた達の本当の名前を教えて。と聞かれたんです。私達は孤児院に入る前から名前なんて意識した事も無かったですし孤児院でなんと呼ばれていたのかも思い出せませんでした。そんな私達に吹雪は名前をくれたんです。戦いが終わったら人として生きて行って欲しいからと私に雲人、そしてもう一人には
雲人さんはそう言って指を指した。
あれ・・・こっちの髪の長い子もどこかで見た事がある様な・・・・
俺がそう思っているうちに雲人さんは話を続けた
「それから数日後、殲滅作戦が始まり、私達吹雪型5人ももちろん出撃しました。そんな時雪生人が航行不能になる程のダメージを受けてしまったんです。そんな時吹雪達は私に雪生人を連れて退避する様にと言って来ました。私は断りましたが吹雪達はそれを聞き入れてくれず、最後には私に砲を向けてまで無理矢理退避をさせたんです。そして私はやむなく雪生人を連れて帰投しました。そして戦いが終わり吹雪、深雪、白雪が沈んでしまった事を知り、私は行き場の無い感情を航行不能になっていた雪生人にぶつけてしまったんです。あんたのせいで皆が皆が沈んでしまったんだと。本当は誰のせいでも無いと言うのに私はそう言って彼を傷つけてしまったんです。それっきり彼は部屋の中で引きこもる様になってしまってその後の配置変更の際私は逃げる様に鎮守府を離れてこの神社に引き取られたんです。もうそれからずっと彼には会えていません・・・・これが今に至るお話です。昔話に付き合わせてしまってすみません」
雲人さんはそう言って深呼吸をした。
「そしてここからが本題です」
と雲人さんは続ける
「本題・・・?」
「はい。お願いが二つあります。これはあなたが提督だから頼める事なんです」
雲人さんは真剣な面持ちでそう言った
「まず一つ・・・・この吹雪ちゃんを私のもとに預けてはくれないでしょうか・・・?無理な事だとは分かっています。でも・・・もう吹雪に傷ついて欲しくないんです。今の私なら吹雪一人くらいを養えるだけの甲斐性はあります。だから吹雪に艦娘を辞めさせてください!私には吹雪の妹として・・・そしてこの子の兄としてこの子を幸せにしてあげる義務がある筈です!!だから・・・」
なんだって!?吹雪を預けろだなんてそんな急に一方的な・・・
でも吹雪が傷つくのを見たくないのは俺も同じだ。そんな吹雪を艦娘として出撃させて戦わせるなんて矛盾した行為ではないのか?むしろ戦いから離れて暮らした方が吹雪も幸せなんじゃないか?
俺もそんな事を考えてしまう。でも俺も吹雪と離れたくはない。でも本当にそれで良いんだろうか・・・・?
俺がそんな自問自答をしていると
「勝手な事言わないでください!!」
俺よりも先に吹雪がそう声を荒げる
「吹雪・・・?」
「確かに私は吹雪です!でもあなたの知っている吹雪さんじゃない!そんな私を無視して勝手にお兄さん面するのは辞めてください!それに私は今司令官と一緒に居る事が一番幸せなんです。その幸せを守る為なら傷ついたって構いません!だからお気持ちは嬉しいですけど私は艦娘を辞める気はありませんしあなたに養われるつもりもありません!私は吹雪だけど・・・それでも私は私自身として生きて行きたいんです!あなたが私のお兄さんだと言うのなら・・・私に幸せになって欲しいと思うなら私を司令官から離さないでください!大淀さんがいて皆が居て・・・そこに居られる幸せを奪わないで・・・・でも・・・私の事を妹だって言ってくれるのは嬉しいです。だからお兄さんとして艦娘としての私の事を見守ってくれると嬉しいです・・・・」
吹雪はそう言った。
それを聞いた雲人さんは少し安心した様な表情で
「そう・・・だよね。ごめんなさい吹雪ちゃん。あなたの今を考えずに先走ってしまって・・・・そう思えるだけあなたが謙さんに大切にされていると言う事がわかって安心しました。それなら無理に引きはがす様な事はしません。謙さん、これからも吹雪ちゃんを私の分まで大事にしてあげてください」
雲人さんはそう言った。
「は・・・はい!」
俺はそう答える
「変な事を言ってしまってすみませんでした。そして二つ目のお願いなのですが・・・・私を雪生人に会う手伝いをして頂けないでしょうか?」
会わせる・・・?会わせるも何も俺は雪生人という人の事を知らない。それをどうしろと言うのか
「あの・・・俺・・・その雪生人さんって人の事知らないんですけど・・・」
「知らない・・・?あの鎮守府に居る筈ですよ?」
雲人さんは首を傾げる。
あの鎮守府に居る・・・?
あっ!
その時ふとあの開かずの部屋から出て来た長い髪の少女を思い出す。顔はよく見えなかったが写真の子と少し雰囲気が似ている気がする。
「もしかすると・・・その子の事知ってるかもしれません・・・艦娘だったときの名前を教えてくれませんか?」
俺はそう雲人さんに告げる、すると
「初雪ちゃんだよ・・・多分。でも初雪ちゃんは鎮守府には居ないよ?」
吹雪がそう言った。
やっぱりそうか。吹雪が知らないのも無理は無い。俺も最近まで知らなかったんだから。
前に雲人さんが言っていた喧嘩した相手っていうのはあの子の事だったのか。それならなんとかなるかもしれないぞ
「多分その人の事、俺知ってます。雲人さんは俺の恩人ですからその頼みは断れないですよ」
俺はその頼みを承諾した
「ありがとうございます謙さん・・・何度か会いにこうとはしたんですが鎮守府を目にすると怖くなって足がすくんでしまって・・・・情けないですよね私・・・ところで彼は・・・初雪は今も引きこもっているんでしょうか?」
「はい。俺も最近まで存在を知らなかったくらいには引きこもってます」
「そう・・・ですか」
雲人さんの表情が更に暗くなった。
「でもきっと雲人さんの気持ちを伝えれば初雪もなにかしら返事をしてくれる筈です。気持ちを伝えれば少しは楽になるしその後どうなるかはその時考えれば良いって言ってくれたのは雲人さんじゃないですか。大丈夫。鎮守府に入るのが怖くなっても俺達が付いてますから!」
俺がそう言うと吹雪が不思議そうな顔をして
「どういう事・・・?初雪ちゃんが鎮守府に居るの?」
と尋ねてくる
「ああ。さっきの雲人さんの話通り鎮守府の一室で引きこもってるんだよ。鎮守府に開かない部屋があるだろ?そこに住んでるんだ」
俺は吹雪に説明した
「そうだったんだ。私の姉妹艦・・・・雲人さんと同じで私の・・・吹雪の方がお姉さんだけど私より先に生まれた艦娘だからお姉さんってことになるのかな?不思議な感じ・・・・でもそんなお姉さんに私も会ってみたい!」
吹雪は目を輝かせる
「吹雪もこう言ってますし会いにい行きましょうよ」
「えっ!?でもまだ私心の準備が・・・」
雲人さんはおどおどとしている
「思い立ったが吉日ですよ!今日会えなかったら多分次も会えません!だから今日会いにいきましょう!俺もあの子に話したい事があるんですよ。だから行きましょう!!」
「うわっ!ちょっと謙さんそんな急に!!」
俺は雲人さんの手を取り小屋から連れ出した。
50話突入企画としてこの話の構造上主人公以外の登場人物同士の絡みが少ないので特定の登場人物2人をメインにしたお話を番外編と言う形で書こうと思います。なので絡みが見たいキャラがいましたら2人挙げてコメントかメッセージまでお願いします。
お題箱でも受け付けていますのでそちらでもどうぞhttps://odaibako.net/u/tys_me_rrg