ノンケ提督が艦シーメール鎮守府に着任しました。   作:ゔぁいらす

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見知らぬ再会

 俺に胸を揉ませようとして追いかけて来た愛宕さんは食堂にいた高雄さんに説教され、俺は夕飯を済ませた後自室のベッドで一息ついていた。

ふう・・・今日はいろんな事があって長い一日だったなぁ。

そんな事を考えて今日一日の事を思い起こしていると

「シャワー浴び終わったよ。お兄ちゃんも入る?」

風呂場からそんな吹雪の声が聞こえた

「ああ。わかった」

俺はそう返事をする。

それからしばらくして寝巻きに着替えた吹雪が風呂場から出て来てこちらに向かって来た

「お兄ちゃん・・もう怪我は大丈夫なの?」

吹雪は俺を心配そうに見つめる

「ああ。おかげさまで・・・」

そんな吹雪の顔を見てふと雲人さんの小屋にあった写真に写っていた少女の事を思い出す。

やっぱりあの写真の子・・・吹雪に似てるな。あっ、そうだ。無事に大淀とも仲直り出来た訳だし雲人さんにお礼しにいかなきゃな

「何?お兄ちゃん?私の顔に何か付いてる?」

吹雪は俺の顔を覗き込んでくる。

いつもながらに距離が近い。最初の頃は少し抵抗があったが今となってはもう慣れっこだ。

しかしこう見つめられるとやはり少し恥ずかしい。

「いっ・・・いやなんでも無い。ちょっと考え事をしてただけだから」

俺はそう誤摩化す

「そっか・・・昨日お兄ちゃんが急に居なくなったから私心配だったんだよ?」

吹雪は俺の隣に座った。

「ああ、ごめんな吹雪。心配かけて」

「私・・・もうお兄ちゃんが居ないとダメみたい・・・結局一人じゃ眠れなくて昨日は天津風ちゃんのお部屋に泊めてもらったんだけど・・・前の提督の夢を見ちゃって・・・私・・・・」

吹雪は少し震えていた。

それだけ前の鎮守府で怖い思いをしていたのだろう。最近は全くそんな事を気取らせなかったが怯える吹雪を見て吹雪をそんな風にした提督、そしてそれを思い出させてしまった自分に腹が立った。

今の俺がしてやれるのはこれくらいだ。

「ごめんな吹雪。お前を一人にしないって言ってたのにな・・・」

俺は吹雪の頭を撫でてやった。

吹雪の湿った髪の感触が俺の手に伝わる。

「お兄ちゃんの手・・・・あったかい・・・私を一人にした事は許してあげる。でも今日はいつもよりお兄ちゃんに甘えちゃうから!」

吹雪は俺に飛び付いて来た

「ちょっ・・・吹雪!?俺まだ風呂入ってないんだけど!!!」

俺は吹雪に押し倒される。

「昨日できなかったからもうちょっとだけこうさせてて!ぎゅうっ〜」

吹雪は俺にしがみついてはなれない。

しかし悪い気はしないし吹雪の不安がそれで薄れるのなら俺はそれで良い。

「しょうがないな・・・・ちょっとだけだぞ?」

俺は吹雪を抱きしめ返した。

そんな時部屋の戸が開き

「吹雪〜昨日の晩うなされてたし心配だから来てあげたわ・・・・」

天津風が部屋に入って来た。そしてこちらを見るや否や顔を真っ赤にした

「ああああああああなた何吹雪に抱きつかれてニヤニヤしてんのよ!?そそそそそそそれにベッドでそんなこと・・・!あか・・・・あかちゃん出来ちゃったらどうすんのよ!!?!?!?」

天津風は目をグルグルとさせてこちらを指さす。

赤ちゃんも何も吹雪は男だし・・・・

「なっ、天津風!?お前ノックくらいしろよ!!」

「天津風ちゃん!これは私が勝手にお兄ちゃんに甘えてただけで・・・」

吹雪もビックリしたのか俺から離れてそう弁明するが

「そんなの分かってるわよ!!なんてうらやまし・・・・じゃなかった破廉恥な!!あなたちょっとこっち来なさい!吹雪!ちょっとこいつ借りていくわよ!」

「あっ、うん・・・」

吹雪!そこは食い下がってくれよ!!

しかし容赦なく天津風は無理矢理俺を引っ張った

「いでででで耳引っ張るなよ天津風!!これは不可抗力でだな!」

「うるさい!つべこべ言わないでついて来なさい!」

必死の言い訳も空しく天津風は俺の耳を引っぱり部屋の外へと連れ出した。

「ふう・・・帰って来たと思ったら早速あんな事してるなんて・・・・それで・・・結局なんで昨日突然居なくなるような事したの?わた・・・・吹雪がどれだけ心配してたと思ってるのよ!?」

天津風はそう俺に尋ねてくる。

そういえば天津風も俺の事心配してたって言ってたな

「ああ・・・ごめん・・・」

俺はそのまま何故あのまま鎮守府を抜け出したのかを簡単に天津風に説明した

「ええ?金剛さん大淀さんと喧嘩した!?」

「ああ・・・それで居辛くなってその場から逃げてた」

「逃げたぁ?はぁ・・・そんな理由だったなんて・・・心配して損したじゃないの・・・」

天津風はため息をついた

「そ・・・そんな理由ってそれでも俺からしたら結構深刻な問題だったんだぞ!?」

「それでも何も言わずに勝手に出ていって吹雪に心配かけて・・・提督失格よ!!」

確かにその通りだ

「ああ。お前の言う通りだ。ごめん」

俺は頭を下げると天津風はあっけにとられたのか拍子抜けだったのか

「あら?やけに素直じゃない・・・・ってそう言う事じゃなくて!!」

そう声を荒げる

「そう言う事じゃないってじゃあどういう事なんだよ」

「だから・・・その・・・私は心配なんかしてなかったけど・・・・それでも吹雪が・・・その・・・」

「ああ。吹雪からも聞いたよ。お前の部屋で一晩泊めてやってくれてたらしいじゃないか」

「ええそうよ!でも吹雪ずっとうなされてた。ずっとごめんなさいって寝言で言ってて私は寝れたもんじゃなかったわよ・・・私・・・どうすればいのかわからなくて・・・」

天津風の表情が曇る。

なんだかんだ言って天津風も吹雪の事を気にかけてくれているようだった。

少し前までのツンツンした態度を鑑みるとこいつなりにこの鎮守府にとけ込もうとしている事に安心する。

「そうだったのか・・・お前が昨日はずっと吹雪の事見ててくれたんだな。ありがとう」

「べっ別に吹雪が可哀想だっただけで仕方なくやっただけでそうなった原因はあなたにあるんだから!!何で私があなたの尻拭いをしなきゃいけないんだか・・・」

天津風はまた一つため息をついた。

素直じゃないのは相変わらずだな。

「ごめんな天津風。もうこんな事しないよ」

「次やったら絶対許さないから」

「ああ。肝に命じとく」

「本当に悪いと思ってる?」

「ああもちろん」

「それじゃあ私汗かいちゃったしお風呂行きたいな〜」

「えっ・・・?行きゃ良いじゃないか」

「でも〜私昨日の晩寝てないから疲れてるのよね〜でも汗臭いのは嫌だし・・・どこかに私とお風呂に入ってくれる心優しい人はいないかしら〜」

天津風は辺をキョロキョロと見回した。

「ん?それじゃあ高雄さんか阿賀野あたりに頼んでやろうか?」

「もう!皆まで言わせないでよ!!私だって寂しかったんだからその埋め合わせをしてって言ってるの!!それに・・・・あんな人たちと一緒にお風呂だなんて恥ずかしくって入れないわよ・・・」

天津風はぼそぼそとそう言った。

なんだ俺と風呂に入りたかったのか。

俺とこいつの仲だしそれくらいは・・・・・

「なんだよ素直じゃないなぁ・・・それならそうと早く言ってくれれば良かったのに・・ってええ!?俺と一緒に風呂入って欲しいって!?」

そうだ。一瞬忘れそうになったがよくよく考えたらもう彼は近所の知り合いの少年ではなく部下の艦娘なのだ(男だけど)それと一緒に風呂に入るって色々マズいんじゃないか・・・?今の彼の恰好を見ると犯罪の匂いさえする

「声が大きいわよバカ!!その・・・・えっと・・・男同士の裸の付き合いって奴・・・?いいでしょ・・・?私もちょっと恥ずかしいけど・・・」

天津風は顔を赤らめてそう言ってくる。

うん。確かにそうだ!今はこんなだけどゆらゆら揺れているツインテールも付け毛だったしこの間も一緒に入ったじゃないか。ちょっと髪が長く伸びたソラだと思えば大丈夫な筈だ。

それに彼が男同士と言ってるんだったら別に良いじゃないか。

それに昨日吹雪が世話になったお礼もしてやらなきゃいけないし断る訳にもいかないしな!

「あ、ああ・・・お前が良いってんならそれくらい・・・」

「あ、あるがとう・・・それじゃあ気が変わらないうちに早く行くわよ!」

天津風は嬉しそうに言った後俺の耳をまた引っ張った

「あいだだだだだだ!!だから耳を引っ張るなっていっただろ!!!」

そして天津風に引っ張られていると風呂上がりと思わしき阿賀野と那珂ちゃんに遭遇する。

「提督さん?どうしたの?天津風ちゃんにひっぱられて」

阿賀野に尋ねられる

「ああ、ちょっと天津風がいっ・・・てぇ!!!!」

天津風が一緒に風呂に入って欲しいって言うからと言おうとするとすかさず天津風は俺のつま先を踏みつけて来た

「なんでもないんです。提督に大浴場の脱衣所の蛍光灯を替える様に言ったのに聞かないから私が無理矢理連れていってるだけで・・・」

天津風はよそ行きの声でそう言った。

畜生こいつ・・・・

「ふ〜んそうなんだ。そう言えば少しチカチカしてる蛍光灯があったね。天津風ちゃんしっかり提督さんに伝えてくれたんだね。ありがとね」

阿賀野は天津風の頭を撫でる。

「べっ・・・別に私は当然の事をしただけですから・・・・」

天津風は恥ずかしそうに言った

「天津風ちゃんえら〜い!阿賀野ちゃんと丁度そのこと話してた所なんだ〜那珂ちゃんからもありがと〜」

那珂ちゃんも天津風を撫でる

「だ・・・だから・・・そんな褒められる事じゃ・・・・」

天津風の奴あんまり褒められなれてないんだな。なんだか嬉しそうだ

「でもね。提督さん一応怪我してるんだからあんまり乱暴しちゃだめだよ?」

阿賀野は天津風に言った。

「はい。程々にします」

天津風はまたよそ行きの声でそう言って笑ってみせた。本当に程々にしてほしいんだけどな・・・

「それじゃあ那珂ちゃん達はもう寝るね。提督、蛍光灯替えるのよっろしく〜」

「それじゃ提督さん、お休みなさい。大変そうだけど頑張ってね」

そう言って二人は部屋のある方へと歩いていった。

「ふう・・・なんとか誤摩化せたわね」

「なんとかじゃねぇよ!!」

「しょうがないじゃない。あなたと一緒にお風呂なんて恥ずかしくて口が裂けても言えないわよ・・・」

「そうか・・・じゃあさっさと入っちまおうか」

俺が大浴場の方へ向かおうとすると

「そっちじゃないわよ?」

天津風はそう言った

「えっ!?こっちじゃない?」

一緒に入るというからてっきり大浴場の事かと思っていたが

「そうよ・・・そんな広いお風呂なんかじゃなくて・・・」

天津風は新宿舎の方を遠慮がちに指差す

「風呂ってまさか・・・」

「ええ。私の部屋のお風呂よ。もうお湯は入れてあるから」

「お、おう・・・」

俺は言われるがまま天津風の部屋に通される

「何も無い部屋だけど気にしないでね」

そこは前に来た時同様まだ家具なんかも完全には揃っていないような殺風景な部屋だったが

「あの・・・前から言おうと思ってたんだけどさ・・・」

「何?」

「あのおもちゃ大事にしててくれたみたいでありがとな」

俺は引き出しに置かれていた以前ソラと別れた時に渡したロボットの玩具を指差す

「あれは・・・その・・・他に置く物が無かったから仕方なく置いてあげてるだけよ!」

天津風は恥ずかしそうに言った。

「ああそうか。でもまあこれからも大事にしてやってくれよ」

「しょ・・・しょうがないわね。あなたがそう言うならそうしてあげる」

ほんと素直じゃないなぁ・・・

「それじゃあ先にお風呂入っててくれる?」

「なんでだよ」

「だってその・・・服脱ぐ所見られるのが恥ずかしくって・・・・」

「今から一緒に風呂入るんだろ?なんで裸は良くても脱ぐのは見られたくないんだよ?」

俺がそう尋ねると

「うう・・・・うるさい!なんでもよ!!結構この服脱ぐの時間かかるの!だから黙って早く先に入ってなさいよ!!」

天津風は声を荒らげて言った。一緒に入りたいって言ってみたり恥ずかしいから見るなって言ってみたり忙しい奴だなぁ・・・・

「はいはい分かった分かった」

俺は天津風に言われた通り先に洗面所で服を脱ぎ風呂に入った。

流石新しく出来た宿舎の風呂だけあって俺の部屋の風呂より綺麗だなぁ・・・

俺はかけ湯とシャンプーを済まして浴槽に入る。

ふう・・・まだ少し傷口にしみるけど痛いって程じゃないな・・・あれだけ盛大に坂から転がり落ちたのに雲人さんが介抱してくれたおかげだろうか?

そんな事を考えながら俺は天津風を待った。

それからしばらくすると戸が開き

「お・・・・お待たせ・・・・」

天津風が恥ずかしそうにタオルを胸まで巻いて入って来た

「天津風・・・」

その姿は元々華奢だった身体が更に華奢になった様な感じがした。

と言っても以前のあいつの裸を見た事もないからあの頃からどう変わったったのかは分からない。

でもなんというか少し全体的に丸みを帯びてるというか柔らかそうになったな・・・・

って何考えてんだ俺は!!

そんな俺の事を知ってか知らずか

「じろじろ見たら殺すから!!」

と天津風は声を荒げる

「お前が風呂入ろうって言ったんじゃないか!見るななんて無理だろ」

「そ・・・そうだけど・・・何?そんなに年下の男の子の裸が気になる訳?この変態!!」

「違うって!それに男だって言うんなら胸なんか隠してんじゃねえよ!」

「こっ・・・これは・・・その・・・もう!良いから早く出なさい。背中流してあげるから」

「えっ?俺が流される側なのか?まあ良いけど」

俺は浴槽から出て椅子に座った。

「ふぅん・・・・なんだか頼りない背中ね。でも男の人の背中って感じ・・・」

天津風は俺の背中を優しく撫でてくる。

「頼りないは余計だ!で、それがどうしたんだよ?」

「私・・・家族で一緒にお風呂にあまり入れなかったから・・・こうして広いお風呂じゃなくて普通のお風呂で普通の子供みたいにお父さんと一緒にお風呂に入りたかったなって・・・」

そうか・・・天津風、いやソラの両親は深海棲艦に・・・・それからずっと一人だったんだもんな。

そんな小学生に入って間もない頃に両親を失った彼の事を考えるといたたまれない気持ちになる。

「ソラ・・・」

「やめてよ今の私は天津風・・・その名前で呼ばれたら私きっともっとお兄さんに甘えたくなっちゃうから・・・」

前に愛宕さんに昔の自分と今の自分に白黒ハッキリ付ける必要は無いと諭された。そのおかげで俺は大淀の事が好きだと言う事もそれでも淀屋は親友である事は変わりないと言う事も自分の中で折り合いをつける事が出来た。

しかし彼は以前の自分自身と決別する事によってそんな辛い過去を乗り越えようとしているのかもしれない。

だから俺は無理に以前の自分も大切にしろとも気の利いた事も彼には言ってやれなかった。

たぶんこのままこの事を考えても答えなんて出ないだろう。

そんな事を思っていると

「それじゃあ背中洗うわね」

天津風はタオルにボディーソープを馴染ませて俺の背中を優しく流してくれた。

過去のソラを救えないなら今の天津風を大事にしてやろう。俺はそう決意した

「天津風」

「なに?」

「背中流すの上手いな。気持ちよかったよ」

俺は天津風にそう言ってやった

「あ、ありがと・・・」

天津風は小さな声でそう言った

「それじゃあ次は俺が洗ってやんないとな」

「やだ」

ええ・・・そんな即答で断らなくても

「なんで!?」

「そんなに私の事触りたいの!?」

「いや・・・そう言う事じゃなくてだな・・・・それに身体を洗って欲しいから一緒に入れってお前が言ったんだろうが!」

「しょ・・・しょうがないわねあなたがどうしてもって言うなら今日だけなら良いわ・・・でもちょっとでも変な事したら殺すから!!」

天津風は恥ずかしそうに言った。そこまで言ってないんだけどなぁ・・・・

「さ、さあ早く流してくれないかしら?」

天津風は声を振わせて言った。

「それじゃあその・・・タオルとってくれないと洗えないじゃないか」

俺がそう言うと

「うう・・・・お兄さんには見せたくないんだけれど・・・あんまり見ないでね・・・?」

天津風は恐る恐る身につけていたタオルを外した。

前は良く見えなかったがそんな彼の胸は少しだけぷっくらと膨らんでおり性徴を迎え始めた少女の様だった。

それを否定する様に股下にはアレがぶら下がっているもののやはり以前の印象や面影は残っていても少し異性として意識してしまっている自分が居る。

「さあ!早く背中洗ってよ!まず場所を変わってくれない?」

天津風がそう言うので俺は椅子から立ち天津風と場所を交代した。

「そっ・・・それじゃあ洗うぞ」

少し緊張するなぁ・・・・俺はボディーソープを馴染ませたタオルを天津風の小さな背中に恐る恐る押し当てる。

すると

「あぅ・・・・」

天津風がそんな息を漏らす

「天津風!変な声出すなよ!!」

「へっ!?変な声なんて出してないわよ!ちょっとくすぐったかっただけで・・・・早く続けて!!」

「はいはい分かった分かった」

俺はそのまま天津風の背中にタオルをこすりつけを続行するが

「んっ・・・・ふぅ・・・あっ・・・・」

天津風の甘い息づかいでそれどころではない

「天津風・・・本当にお前大丈夫なのか?」

「だっ・・・大丈夫な訳ないでしょ!?それに声が出ちゃうのはあなたの洗い方が悪いのよこのド変態!!」

天津風はそう悪態を突いてくる

「ああそうかい。それじゃあこれならどうだ!!」

俺はタオルを素早く動かしてくすぐった。

「ふぁ・・・・あ・・・・・あはははははははは!ひゃめっ・・・くすぐったいからぁ・・・・」

天津風は身悶えしてそう訴えてくる。しかしそんな天津風を見ておれのいたずら心に火が点いてしまい・・・・

「ダメだ!ゆっくり洗うのがダメならこうするしかないよな?ほらほらぁ」

「ひゃぁ!ひゃめてっ・・・あやまるっ・・・・ひうっ!あやまるからぁ・・・・・」

天津風がそう言うので俺は手を止めた

「はあ・・・・はあ・・・・あなたねぇ・・・!これはやり過ぎでしょ!!」

「だって洗い方が悪いって言ったから・・・」

「それは・・そうだけど・・・・でもあんな乱暴にしなくて良いじゃない・・・」

「悪かったよ。それじゃあ流してやるからシャワー取ってくれ」

「もう・・・分かったわよ。はい」

天津からシャワーを受け取った俺は天津風の背中を綺麗に流してやった。

それから天津風のシャンプーを済ませ、二人で小さな浴槽に浸かる

「ねえ・・・お兄さん・・・」

天津風が突然話しかけて来た。

「なんだ?天津風?」

「こんな狭いお風呂に入ったのは久しぶりよ。いつもはここのお風呂でも私には十分なくらいの広さなのに・・・」

天津風と肌が触れ合い直に俺の肌に感触が伝わってくる

「こうやって誰かと寄り添ってお風呂に入るのってなんだか安心するわね・・・こんな事ずっと忘れてたわ。狭いけどいつもよりあったかい・・・」

天津風は俺に更に寄り添って来た。

「天津風・・・」

「なに?お兄さん」

「寂しくなったら・・・いつでも言ってくれよ?」

「えっ?急に何言い出すの?」

「俺にお前のお父さんやお母さんの代わりは出来ないけどお前の寂しさを紛らわせる事くらいは出来る筈だ。きっと吹雪も手伝ってくれる。だから・・・甘えちゃいけないなんて考えるなよ。今のお前がどうだって俺は近所のお兄さんだ。だから別に甘えてくれたって構わないんだぞ?」

「もう!あなたはいつもそうやって私を甘やかそうとしてくるんだから・・・もう誰にも甘えられないって思ってたのに・・・・ありがと・・・そうさせてもらうわ」

天津風はそう言って笑ってくれた。

やっぱりその笑顔は初めてソラにあった時の物と寸分違わぬ屈託の無い笑顔だった。

そして風呂を上がり服を着替える

「それじゃあ俺帰るわ。吹雪も待ってるし」

「うん・・・・ありがとうお兄さん・・・私のわがままに付き合わせて」

「良いって事よ!それじゃあお休み。湯冷めするんじゃないぞ?」

「え、ええ。おやすみなさい。あっ!」

天津風が何かを思い出した様に声をあげた

「なんだよ!?」

「大浴場の蛍光灯変えといてね。ああ言っちゃったし変わってないと変に思われるでしょ?」

そういえばそんな事言ってたなぁ

「しょうがねぇな・・・じゃあちょっくら行ってくるわ」

俺は天津風に別れを告げ大浴場へ向かい、幸い誰も居なかったので用具入れに入っていた蛍光灯を切れかかっていた物と差し替えておいた。

さあ早く戻ろう。吹雪が待ってるし。

俺は自室へと急いだ。

そして自室へ戻り

「ただいまー」

俺が戸を開けると

「お兄ちゃん!!何処行ってたの!?」

吹雪は待ちくたびれていたのか頬を膨らまして問いつめて来た

「ああ、ちょっと天津風に相談事をされててな・・・・」

言えない・・・ずっと一緒に風呂入ってたなんて言えない・・・・

「そう・・・なんだ・・・なんだか髪の毛が湿ってるけどお風呂入って来たの?」

「あ、ああ。だれも居なかったから大浴場でひとっ風呂浴びて来たんだ」

俺はそう適当に誤摩化した

「そうなんだ・・・でも今日のお兄ちゃんなんだかいつもよりいい匂いがする・・・石けん変えたの?」

吹雪は俺に近付いてそう言った。そんな事分かるのか!?でもそう言えば天津風の使ってたシャンプーなかなかに良い奴っぽかったもんな・・・・俺なんかがあんなの使って良かったんだろうか?しかし正直に言う事もできず

「そ・・・そうなんだ!誰かが置き忘れてる奴使っちゃってさ!は、ははは・・・」

そう誤摩化した。

「む〜!なんだか怪しい・・・でもそんな事どうでも良いや!今夜はお兄ちゃんと一緒に寝れるんだもん!最近私以外の艦娘とお話ししてる事が多いけど夜だけはお兄ちゃんを独占出来るんだから!!」

吹雪はそう言って俺に抱きついて来た。

そういえばそうかも知れない。吹雪も少しヤキモチを妬いていたのだろう

「ああ。わかったよ。それじゃあ寝る準備するからベッドで待っててくれ」

俺がそう言うと

「はーい!」

吹雪は嬉しそうにベッドへ走っていった。

そして俺は寝支度を済ませて吹雪と共に眠りに落ちた。

 

そんな長い一日が終わった次の日

いつもの様に俺は大淀と業務を片付け一段落付いた所で彼女に俺は話しかける事にした。

「なあ大淀」

「はいなんでしょう?」

「髪・・・少し伸びたな」

「はい。愛宕さんから貰ったシャンプー効果覿面で今朝起きたら少し長くなってたんです!」

大淀は嬉しそうに言った。

「仕事中は変わらず敬語なんだな。せっかくだしいつも通りで良いのに」

「いえ。仕事は仕事ですから!それに・・・・謙と仲良くしてるのを他の人に見られるのも恥ずかしいし・・・・」

やっぱりマジメで融通が利かない所はやっぱり淀屋のままだ。

そして雲人さんとの約束をふと思い出した俺は大淀に神社の事と雲人さんに助けられた事を伝えた。

「それで今からお礼に行こうと思うんだけど一緒に来てくれないか?」

「ええ。良いですよ」

大淀はそう言ってくれた

「じゃあ行くか」

「ええ。それじゃあこれ片付けちゃいますね」

「あっ、俺もやる」

俺達は散らばっている書類を片付け出掛ける用意をして××神社へと向かった

そして鎮守府を出て少ししたところで

「謙・・・手・・・繋いで良い?」

大淀が俺にそう尋ねて来た。そういえばあんまり手をつなごうと覆った事は無かったな。まあ男友達と手をつなごうとは思わないけど今の彼女は違う。

「あ、ああ。いいぞ。ほら」

俺は彼女に手を差し出した

「ありがとう謙・・・やっぱり好きな人とお出かけするんだから手くらい繋いでも良いよね・・・?」

大淀が嬉しそうにそう言って俺と手をつなごうとした瞬間

「おーいお兄ちゃ〜んお姉ちゃ〜ん」

吹雪の声が後ろから聞こえ、大淀は思わず手を引っ込めた。

そして吹雪がこちらに駆けてくる

「どうしたんだ吹雪?」

俺がそう尋ねると

「ランニングに行こうとしたらお兄ちゃんとお姉ちゃんが出て行くのを見かけて付いて来ちゃった!何処行くの?」

「ああ。ちょっとその先の神社までな」

「神社・・・?」

吹雪は首を傾げる

「行った事無いのか?あの向こうの小山の上にあるんだよ」

「うん。初めて聞いたそっちの方には行かないから」

吹雪はそう答える

「それじゃあお前も付いてくるか?良いよな大淀?」

「え、ええ・・・」

「良いの!?それじゃあ私も一緒に行く!!」

吹雪は嬉しそうにその場で飛び跳ねた

横で少し大淀が残念そうな顔をしていたが

「吹雪ちゃんが嬉しそうなら仕方ないわね・・・」

と一言

そして俺達は3人で長い階段を上り神社へとたどり着いた。

「ここが××神社・・・なかなか立派ね」

大淀は境内を眺めてそう呟く。

ひとまず入り口で手を清めてから俺は

「それじゃあその雲人さんが居るかどうか確かめてくるからここで待っててくれ」

俺は二人にそう言って社務所の方へ向かい

「すみませーん雲人さんいませんかー」

そう声をかけてみると

「はーい」

という返事が聞こえしばらくして社務所から雲人さんが出て来た

「おや?謙さんじゃないですか。どうされましたか?ん?その恰好・・・・」

彼は以前のような優しい表情で俺を迎えてくれたが何やら俺の服装が気になっているようだった

「この間のお礼と約束通り仲直りした友達を紹介しに来たんですけど」

俺は後ろで待っていた吹雪と大淀を紹介しようとすると

「噓・・・・・・・・」

彼の表情が急に変わった。

「雲人・・・さん?」

俺はそう呼びかけるが彼はただただ目を丸くしてその場に立ち尽くしている

「噓・・・・そんな・・・・・・だって・・・・あの子は・・・・」

俺の言葉が耳に入っていないのか彼はそんな事をぶつぶつと言って吹雪の方を見つめている

「あの・・・雲人さん?」

俺がそう呼びかけなど聞き入れぬまま彼は俺を通り越して後ろに居た吹雪を抱きしめていた

「うわぁ!!あなた誰なんですか!?そんな・・・いきなり抱きしめてくるなんて・・・・そんな・・・・ダメですよぉ・・・」

吹雪も突然の事に驚きを隠せていない様でじたばたしている

「ああ吹雪・・・・会いたかった・・・・・あなたに会えたらずっと伝えようと思ってた・・・・あなたの・・・あなた達のおかげで私は今こうして立派に人として生きています・・・・吹雪・・・・・ありがとう・・・・・私の・・・大切な姉さん・・・・」

彼は吹雪を抱きしめ涙を流している

「やめっ・・・!何で私の事知ってるんですか!?姉さん!?私はあなたの事なんか知りません!!離してっ!離してください!!」

吹雪は突然の事に彼を振りほどこうと必死だ。

一体どうしてしまったのだろう?なんで雲人さんは吹雪の事を知っているんだ?あの写真の少女達と何か関係があるのか?

その時の俺にそんな事を知る術も無く、目の前では雲人さんが涙を流しながら吹雪を抱きしめていてそれをただ見ているだけしか俺には出来なかった。


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