ノンケ提督が艦シーメール鎮守府に着任しました。 作:ゔぁいらす
ボクは吹雪。そういう名前らしい。家族は居ないしどこで生まれたのかもわからない。あるのは"吹雪”という駆逐艦の記憶がうっすらあるだけ。別に二重人格と言う訳ではないのだがボクの頭に別の何かの記憶がある。そういう不思議な感覚だった。しかしそんなボクが吹雪であるという認識以外に自分の存在を確かめる物は無かった。それに自分自身を証明出来る物なんて一つも無かったボクはただその"吹雪"という存在にすがる他無かった。
それ以外のボクの記憶はあまり無く。はっきり覚えているのは気付いたら施設に居たという事だけだった。始めはあまり気にはならなかったが、その施設にいるみんなとボクは決定的に違った。どうしてボクだけ皆と違うのだろう?そのズレは日に日に大きくなっていった。
そしてボクは遂に施設の皆を避け、独りで居る事が多くなってしまった。
そんなボクに
「吹雪ちゃん元気ないっぽい?」
「吹雪ちゃん吹雪ちゃん!一緒に遊ぼうよ!」
と二人の艦娘が話しかけて来てくれた。夕立と睦月という艦娘らしい。これは名前を聞いた訳でもなく頭の中で"
ボクは自分の中の"
そんなある日の事夕立がボクと睦月に嬉しそうにこう言った。
「吹雪ちゃん!睦月ちゃん!夕立追に○○鎮守府への着任が決まったっぽい〜?」
睦月はその事にとても喜んでいたが、それがどういう意味なのかボクは理解していた。遂に夕立達と離ればなれになる時が来たのだと。
それからしばらくして夕立は施設から居なくなった。夕立とはそれっきり会っていないしどうなったのかなんて知る由も無い。
またそれからしばらく経って
「吹雪ちゃん!私も●●鎮守府への着任が決まったの!如月ちゃんもいるんだって!吹雪ちゃんも早く着任先の鎮守府が見つかると良いね!」
と言って睦月も施設から居なくなった。"
それからどれくらい経っただろうか?ボクも遂にとある鎮守府に着任する事が決まった。しかしボクは他の艦娘とは違う出来損ないだ。これが気付かれてしまったらボクは捨てられてしまうだろう。そう思ったボクはボクを押し殺し完璧な"
「はじめまして、吹雪です。よろしくお願いいたします!」
"
しかしそんな時間は長くは続かなかった。
鎮守府に着任してから数ヶ月が経った頃、"
「吹雪!好きだ!!これからケッコンカッコカリを前提に俺と・・・・」
それはまぎれもない告白だった。"
「あの、あのっ・・・私も司令官のこと・・・大す・・・い、いえっ信頼しています!はい!」
と返した。
それから司令官との距離が縮まり、ボクはこんなに幸せで良いのかと思う程楽しい時間を過ごした。しかし距離が縮まってしまったが故に遂にボクの秘密がバレてしまう事になる。
ここからは余り思い出したくもないし覚えていないのだが司令官の態度は一変し、ボクは良く憂さ晴らしの為によく殴られたり酷い事をされるようになった。
「お前は不良品だ。解体されないだけありがいと思うんだな。 それにお前は俺を騙してたんだからこれは当然の報いなんだ!おい吹雪!こんな出来損ないを鎮守府に置いて頂いてありがとうございますと言え!!」
そういつも言われていたこの言葉だけは忘れる事が出来ないし今でも良くこの言葉に苦しめられる。でもボクが司令官を騙していた事は事実だ。だからボクが悪いからこんな事になってしまったんだ。そう自分自身に言い聞かせ、ボクはどんな暴力にだってごめんなさいと言い堪え続けた。でもやっぱり痛いのは嫌だ。戦って傷つく訳でもなくただただ信頼して一度は"
そんな最悪な日々が何ヶ月か続いた頃、突然他の鎮守府から阿賀野と名乗る軽巡洋艦の艦娘がやって来て、ボクを抱きしめながら
「吹雪ちゃん。辛かったよね?あの提督のやって来た事は全て憲兵に報告したからもう大丈夫よ。あなたはもうこんな辛い事を我慢しなくていいんだよ。」
と言った。
ボクは生まれて初めて抱きしめられた。何故か自然と涙がこぼれ、ボクは生まれて初めて声を上げて泣いたしかしこのままではボクはこの鎮守府を追い出されてそれこそ本当に解体されてしまうのではないか?そんな不安がよぎる中、彼女は
「吹雪ちゃん。あなたが良かったらなんだけど、もし良かったら私たちの鎮守府にこない?万年人手不足でここよりは設備も良くないけどきっと辛い思いはさせないわ。」
と続けた。
ボクは行くアテも何も無かったので黙って頷いた。今度の司令官はどんな人なんだろう?それにまたボクが男だとバレれば嫌われてしまうかもしれない。また酷い事をされるかもしれない。そう思ったボクは再び"
それから数日後司令官は憲兵に連れていかれ懲戒処分になったらしい。しかし司令官をそんな風にしてしまったのはボクのせいだ。そんな中ボクだけそんな苦しみから逃げ出しても良かったのだろうか?そんな事を考えながら阿賀野さんから貰った紙を頼りに××鎮守府へ出発した。
そして××鎮守府に到着。まわりには何も無かったがとにかく桜の綺麗な鎮守府だった。その鎮守府の前に佇む一人の男が居たので、関係者かもしれないと思い
「あの・・・ここで何をしているんですか?]
と"
すると彼は
「はいっ!?あっあのえーっとぼっ、ぼくはこっここここのちちち鎮守府にちゃっ着任した新しい提督なんだけどきっ、君はここの艦娘なのかな?」
とぎこちなく答える。その馬鹿らしさと純粋な瞳に頼り無さそうな人だけどボクはここでは上手くやっていけるかもしれない。何故だかそう思い自然に笑みがこぼれた。そして
「貴方がここの司令官なんですね!初めまして!ぼっ・・・いえ私吹雪って言いますよろしくお願いします!私も今日付けで着任したんです。私と一緒ですねこれから一緒に頑張りましょうね司令官!」
いけない、ついボクと言いかけてしまった。いままでそんな事は無かったのにどうしてだろう?しかし聞かれていたら彼はボクの事を不信な目で見るだろう。また嫌われてしまう。ボクは一瞬そう思ったがその考えは杞憂に終わる。
「あ、ああよろしく!」
彼は笑顔で手を差し出してくれた。
ボクは彼と握手を交わした。とても暖かい手だった。この人なら大丈夫。"
それから工廠で簡単に高雄という艦娘と話をした。彼女はボクのアザを見ると
「あら・・・酷いアザ・・・ろくに高速修復材も入渠ドッグも使ってもらえなかったのね」
と哀れみの眼差しを"
「でもこれくらいなら完全にとはいかないと思うけど少しは目立たなくできるわ!だから安心してね。」
そう言って彼女はボクの頭を撫でてくれた。それから執務室で司令官の挨拶があり、その後ボクは大淀という艦娘にまだ部屋の準備が出来ていないからという理由で司令官と同じ部屋に通された。ボクは秘密がバレてしまわないようにこれから細心の注意を払わなければいけないと確信した。すると司令官が
「吹雪、俺ちょっと寝てるから好きにしててくれ。」
と"
ボクは司令官が寝ている間に自分の用事を済ませようとひとまず部屋を出る事にした。そして阿賀野さんの元へ行き、阿賀野にお礼を言う事にした。
「阿賀野さん。私をここに連れて来てくれてありがとうございます。ここなら上手くやれそうです!」
すると阿賀野は
「いいのいいの♪でもこの指示をしたのはウチの大淀と高雄と愛宕だからお礼はその三人にも言ってあげてね。阿賀野はただそのお手伝いをしただけだから。」
と言った。どうやらこの鎮守府の皆が総出でボクを助けてくれたようだ。
この人たちを裏切る訳にはいかない。でもボクは皆さんに大きなウソをついている。こんな"
「吹雪ちゃん顔色悪いけど大丈夫?それにちょっと汗臭いよ?お風呂でも入ったら?今から大浴場へいくつもりだったんだけど一緒に入る?」
と声をかけられる。確かにここ数日ボクはロクにシャワーすら浴びれていなかったが、そんな事をしたらボクの秘密がばれてしまう。そう思ったボクは
「ごっ、ごめんなさい。私、今日はあの日なんです!失礼します!!」
と前の鎮守府で使っていた常套句を使いその場を後にする。あの日と言うのがなんなのかはボクにはわからなかったが誤摩化すときはこうすれば良いのだと"
しかし汗臭いのも問題なので司令官が寝ている間にシャワーを浴びてしまおうとひとまず自室に戻る事にした。
司令官を起こさない様にこっそりと部屋に入り服を脱ぐ。そして洗面所の鑑で自分のアザだらけの姿を見たボクは
「どうしてボクの体はこんななんだろう?」
と呟き風呂に足を踏み入れる。
そしてシャワーを浴びている時、ふと視線の様な物を感じたので振り返ると、提督が扉越しにこちらの事を覗いていた。
ボクは
「ししし司令官!?何してるんですか!」
と叫んだ。するとびっくりしたのか提督は走って出て行ってしまった。
終わった・・・・きっと提督はボクのこの醜い体の事を他の艦娘にも言いふらすつもりだろう。そう思った瞬間前の司令官の言葉がボクの頭の中を容赦なく駆け巡った。
「ううっ・・・」
ボクは吐き気を押さえながらも風呂場から出て、ボクはもうここには居られない。そう思ったボクは服を着て書き置きを残して鎮守府を飛び出した。
それからどれ位道の無い山奥を歩いただろう?持病の発作がボクを苦しめる。この発作の原因は施設の人も詳しくは教えてくれなかったが1日1回薬を飲まなければ生きていけないらしい。どこまでも面倒な体に生まれてしまったとボクは後悔する。しかし荷物を全て部屋に置いて来てしまったボクは苦しさからその場にうずくまってしまう。
あっ、ボク死ぬんだ。思い返してみると酷い人生だったな。もう少しだけでも良かったからあの鎮守府に居たかったなぁ・・・・
そう思っていると薄れ行く意識の中人影がこちららに近付いていてくるのがわかった。顔や姿はよく見えなかったが、何故かとても安心できる雰囲気だった。これを言葉に表すとするならどういう言葉なんだろう?この間阿賀野さんに抱きしめられた時も同じ様な物を感じた。そうだ。これはきっと・・・・
「おかあ・・・さん・・・・?」
ボクは無意識にそう呟いていた。そこの意識は途切れた。