ノンケ提督が艦シーメール鎮守府に着任しました。   作:ゔぁいらす

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自分なりの答え

 目の前に高校時代の大親友が居る。

普通なら久しぶりだと声をかけ思い出話に興じるだろう。

でもまさかこんな形で以前の彼に会う事になるなんて・・・

俺は久しぶりと声をかければ良いのかなんと声をかければ良いのか分からなかった。

「どうしたの謙?そんなに僕の事じろじろと見て。やっぱりこの恰好の僕の方が謙は良いんだよね」

彼はそう俺に言った。

確かに俺はずっと彼に会いたかった。

提督になってからもいつも近くに居た筈なのにどこかとても遠い所に行ってしまったような気がしていた彼に。

でも・・・本当にそれで良いんだろうか?いや良い筈が無い。

俺のせいであいつをここまで思い詰めさせてしまったのだから・・・なんとしてでも彼の本心を聞き出す必要がある

「な、なあ淀屋・・・」

俺が彼の名を呼んだその瞬間

「あー!そうだ謙!今日の分の書類とか全然整理出来てないよね!早く執務室に行かないと!!高雄さん怒ってるよね・・・ごめんね謙・・・せっかく朝僕の事呼びに来てくれたのに返事もしなくて。さっ早く済ませて久しぶりに男二人で遊びに行こうよ!!じゃあ僕執務室に先に行ってるからすぐ来てね!!」

「ちょ・・・待て!淀屋」

俺は呼び止めるが彼はそのまま執務室の方へ走って行ってしまう。

結局言いたい事は言えなかったし俺の言葉であいつが相当ダメージを負っている事をまざまざと見せつけられた俺はまた自責の念に駆られた。

しかしここで突っ立っている訳にも行かない。あいつがあの恰好で鎮守府に入れば他の艦娘と接触してしまうだろう。そうなると色々面倒な事になりそうだ。早い所追いかけなければ。

俺は彼を追いかけた

そして執務室へ行く道中那珂ちゃんが何やらうっとりとしているのを見つけた。

このままにしておくにはヤバい表情をしていたので

「那珂ちゃん、どうしたんだこんな所でぼーっとして」

俺がそう尋ねるとその声で俺に気付いたのか那珂ちゃんは俺に飛び付いて来て

「あっ、提督!さっきのイケメン誰!?提督のお友達!?」

イケ・・・メン・・・・?あいつの事なのか!?目つきは悪いしいつも前髪を伸ばしていて顔がよく見えなかったがたしかに顔は整っているしそれに気配りも人一倍出来る奴だったし言われてみればそんな部類に入る人間なのかもしれない。

なんだか負けたような気がしたがそんな事はどうでも良い一体何があったのか那珂ちゃんに尋ねる事にした。

「な、なぁ那珂ちゃん・・・何があったんだ?」

「えーっとねさっきね那珂ちゃん高雄さんに頼まれ事をしてて医務室まで絆創膏を取りに走ってたんだ〜そしたらね、イケメンくにぶつかっちゃってね那珂ちゃん転んじゃったの。そしたらそのイケメンが那珂ちゃんの事転ばない様にささえててくれてねそれからそれから「大丈夫?怪我は無い?」って言ってくれたんだ!キャー!ダメだよ那珂ちゃんはぁ〜皆の物なのにぃ那珂ちゃんあなただけの物になりたくなっちゃう〜!!!!!!で、那珂ちゃんが誰?って聞いたら「ああ、僕は謙の・・・あっいやここの提督の友達だよ。それに危ないからあんまり屋内で走っちゃだめだよ。じゃあね」って言って執務室の方へ行っちゃったんだけどあの人誰なの!?提督の知り合いなんだよね!?紹介して!!」

どうやら淀屋に出くわして那珂ちゃんは一目惚れしてしまった様だ。

それにしてもやかましいというかなんと言うかもう自分の世界に入り込んじゃってる感じだ。

はたして那珂ちゃんにあいつが大淀だと言ってやるべきなのかどうか悩んだが噓を付いても仕方が無いので

「ああ。あれ・・・大淀なんだよ」

俺は那珂ちゃんに真実を告げた。

那珂ちゃんはフリーズした後

「オオ・ヨドさん?変わった名前だねでも素敵☆」

と眼を輝かせた。どれだけ自分に都合のいい解釈をしたらそうなるんだ。

「だーかーらーここの秘書官の大淀なんだって!!」

「へぇっ!?噓・・・ホントに!?確かに言われてみればそんな気もするような・・・嗚呼・・・惚れた相手が艦娘だったなんて・・・那珂ちゃん悲劇のヒロイン・・・それでも那珂ちゃんあの人の事が・・・キャー!!!!」

那珂ちゃんは最早引き上げられないほどに自分の世界に入り込んでしまっている。

それを冷ややかな視線で見つめていた俺を見て我に帰ったのか那珂ちゃんが

「ねえ提督・・・なんで大淀ちゃん男の子の恰好してるの?そりゃ那珂ちゃんも大淀ちゃんも男・・・だけど・・・それに大淀ちゃん那珂ちゃんに少し前髪のお手入れの仕方とかヘアメイクのやり方とか教えて欲しいって聞きに来てくれたのにその髪をバッサリ切っちゃうなんて・・・」

と尋ねてくる。

あいつ・・・やっぱりあの髪ちゃんと手入れしてたんだな・・・

あいつの長い髪からほんのりと香るシャンプーの匂いを思い出す。やっぱりあいつなりに艦娘である以上は女の子らしく振る舞おうと思ってたんだ・・・

「大淀ちゃんの髪の毛とっても綺麗だったのに・・・それに最近は髪を弄るのが日課になって来てるんだって言ってたよ?それなのに大淀ちゃんどうしちゃったの・・・?提督何か知ってるんじゃない?」

那珂ちゃんは俺に尋ねてくる。そんな那珂ちゃんの言葉で俺はやっぱり取り返しの付かない事をしてしまったんだと再確認させられる。

俺は早くあいつに今の気持ちを伝えなければいけない。そう思うといても立っても居られなくなった。

「ごめん那珂ちゃん!詳しい事は今度話すから!!」

俺は逃げる様にその場を離れ執務室へと急いだ。

そして執務室の戸を開けると

「あっ、謙遅かったね。もう紅茶用意してるよ。喉かわいてるよね?氷も持って来たから冷たくして飲む?」

そこでは彼が慣れた手つきで紅茶を淹れてくれていた。以前の姿でこうして紅茶を淹れてくれるのは初めてかもしれない。

このままじゃダメだ・・・言わなきゃ・・・今の気持ちを全部・・・そうじゃないと本当に後戻りが出来なくなってしまう。

でも本当に伝えてしまっていいのか?そんな迷いが俺の邪魔をする

「あの・・・・淀屋・・・!」

思い切って俺は口を開くが

「いやぁ〜やっぱり女の子のフリって疲れるね。艦娘になる為に無理矢理あんな事してたけどやっぱりこっちの方が楽でいいよ。はい紅茶。どうする?冷たくする?」

彼はまた俺の言葉を遮る様に言った。

「あ・・・ありがとう。それじゃあ冷たい方がいいかな・・・」

俺はそんな彼に押し負けてそう言ってしまった。

「うん。わかった。それじゃあちょっと待っててね」

彼はそう言うと執務室に置いてある冷蔵庫から氷を取り出してグラスに入れ、そこに紅茶を注いだ。

そして出された紅茶を俺が飲んでいると

「ねえ、謙・・・この恰好の僕とならずっと親友で居てくれる?」

彼は遠慮がちに尋ねてきた。

そんなの決まっている。それにどんな姿だって親友である事に代わりは無い・・・筈だ。

でも今そんな言葉を彼に投げかけた所できっと信じてもらえないだろう。

本当にそれでいいのだろうか?

「お前はそれでいいのかよ・・・?」

俺は彼に投げかける

「当たり前じゃないか。こうやって謙とまた昔みたいな付き合いが出来るんだから!」

彼は言った。本当に提督になってからの大淀はでっち上げでこっちが本心なんじゃないかとどこか自分の中で思い込もうとしてしまう。

でもあの時の告白は多分本当だ。

俺の知ってるあいつは人を騙すような事は絶対にしない。

「じゃあ風呂場で俺の事好きって言ったのはなんだったんだよ!?」

「そっ・・・それは・・・・・その・・・」

彼はそ顔をほんのり赤くして口を噤んでしまう。

やっぱりそうだ。

俺の知ってるあいつは噓が下手だった。

「あっ・・・あれは謙の事を試したんだよ!噓も噓!!わた・・・僕が女の子として迫ったら謙がどんな反応をするか知りたくなってね!謙のビックリした顔ホントに面白かったよ!ごめんね。本気にしちゃってた?」

そう言うものの目が泳ぎまくっている。

これも以前の彼と変わらない。

「そうか・・・それじゃあ・・・・」

俺が更に質問をしようとした瞬間

「そうだ!謙が来るの遅かったからさ、高雄さんが大体やっててくれたみたいでもうお仕事片付いちゃったんだ!紅茶飲み終わったら××ショッピングモールでも行こうよ!この辺あそこくらいしか遊べる所も無いしさ!!僕が車出すしいいでしょ?」

また彼は俺の話を遮る。

やっぱりあいつは俺に本当の事を言うのも俺から何か尋ねられるのも今は嫌らしい。

俺は紅茶を飲み終え淀屋に言われるがまま車に乗り込んだ

「謙とドライブ出来るなんて嬉しいよ」

言われてみれば二人きりで車に乗ったのは初めてかもしれない

「ああそうだな。二人っきりだな」

俺がそう言うと

「けけけ謙!?何言ってるの!?じゃない何いってんだよ〜冗談キツいよ。男同士で二人きりだなんて・・・は・・・ははは・・・」

と誤摩化す様に笑った。

「そ・・・そうだよな。ごめん」

「変なこと言わないでよ・・・」

彼はそう言ってため息をついた。

それからしばらくお互いに気まずい感じになりそのまま俺達は何の会話もないままショッピングモールへ到着する。

「ふぅ〜着いたね!!そうだ。久しぶりに鋼拳やろうよ!!早く早く!!」

彼はそう言って俺をゲームセンターに連れていった。

「鋼拳ひさしぶりだな〜」

「あ、ああ。そうだな・・・」

鋼拳は俺が高校時代よく彼とゲーセンで遊んでいた格闘ゲームだ。

最初は全くやった事が無いと言うので手加減をしてやっていたが結局勝つまでやると言って聞かずそのまま丸一日付き合わされた事もあったっけ・・・・

そんな彼との思い出が頭をよぎる

「僕こっそりPT3版買って練習してたんだよ!負けないからね!!」

彼は得意そうにそう言った。

「なっ・・・!何ってんだよ据え置きゲーム版とアーケード版じゃ全然ちげーからな。またフルボッコにしてやる。また勝つまでやるとか言うなよな!!」

俺もそんな彼の言葉に熱が入ってしまいそのままゲームを開始した。

ゲームをしている時はさっきまでのいざこざを忘れてただただ淀屋と遊ぶ事が出来た。

そういえば提督になってからこう言う事ぜんぜんこいつとしてなかったな・・・・

「あっ、謙がコマンドミスった!よし今だ!そりゃぁ!!」

俺がそんな事を考えてしまったせいで必殺技を盛大に外してしまいそこに淀屋のキャラの必殺技がクリーンヒットしてしまう。

「くっそぉ!負けた!!」

「謙〜ちょっと鈍ったんじゃない?やっぱり練習してた僕の方が今は強いね〜」

淀屋が台越しに俺を挑発してくる

「はぁ?なんだって!?淀屋!もっかい勝負だ!」

俺は再び台に100円を入れて淀屋と再戦した。

「うぉっしゃああああああ勝ったぁ!!!やっぱ俺に勝つなんて2千年はえーよ淀屋!!」

もうその時の俺は高校時代の頃に完全に戻っていた。

「言ったな謙!!もう一回!」

淀屋がそう言って連コをする。その時の彼の表情は高校時代に遊んだ淀屋の物と寸分変わらなかった。

ああ・・・やっぱり以前の淀屋のフリをしてるだけじゃない。

しっかりあいつの中には俺の知ってる淀屋も居るんだ・・・・

愛宕さんの受け売りだった言葉がその時俺の中で確信に変わった。

「よーっし!何回でも相手になってやるから全力でかかってこいよ!」

そのまま俺は何もかもを忘れて淀屋とゲームセンターで遊びつくした。

やっぱり淀屋と居ると楽しいな・・・

そして時間は過ぎて行きお互いに遊び疲れてしまった俺達はゲームセンターの近くのベンチで一服をする事にした。

「ふう・・・遊んだなぁ・・・」

「うん。久しぶりに謙と遊べて楽しかったよ。最初から女の子のフリなんてしなくてもこうすれば良かったのに僕ってバカだね・・・なんであんな事してたんだろ・・・」

そう言った淀屋の表情はやはりどこか寂しそうだった。

久しぶりにあの頃の淀屋にも会えた。これで俺ももう思い残す事も無い。

結果はどうであれ彼に今の俺の気持ちを伝えよう。

「なあ・・・淀屋?ここの屋上にあるソフトクリーム屋あるみてーなんだけど食いにいかねぇ?」

俺はそんな適当な事を言って淀屋を誘った。

「えっ?うんいいよ」

淀屋は頷く。

よし。これが最期のチャンスだ。

多分ここで言えなかったらずっと言えない気さえする。

俺は覚悟を決め屋上に出てそこにあったソフトクリーム屋でソフトクリームを買う事にした。

「淀屋、お前は何がいいんだ?」

「えっ、わたっ・・・僕は謙と同じのでいいよ」

やはり急に話しかけると女口調が出てしまうらしい。

これも演技だとは思えないし多分必死で以前の淀屋を取り繕っているんだろう。

「今日は俺が奢るわ。久しぶりに大淀じゃないお前と遊べて楽しかったしそれにお前の事傷つけちまったしな・・・」

「そんな僕は怒ってないし・・・ここは僕が出すよ。ずっと謙に噓を付いてたんだからこんな事じゃ許してもらえないと思うけどそのお詫びに」

そうきたか。しかしこうなってしまったらこいつは引かない。なんたって頑固だから。

だからこういう時は妥協案を出す事にしている。

「じゃあお互い様って事で普通に割り勘にしようぜそれなら文句無いだろ?」

「謙がそういうなら・・・」

淀屋は渋々OKをしてくれた。

そして俺達は二人で抹茶ソフトを頼みこの間阿賀野が教えてくれた見晴らしのいい場所でほおばった。

「うめぇなこれ」

「うん。おいしいね謙」

そんな会話をしつつお互いにソフトクリームを食い終わり、俺は遂にこの時が来てしまったんだと彼の顔を見つめた。

「どうしたの謙・・・顔に何か付いてる?」

淀屋は少し恥ずかしそうに聞いてくる。

よし。今だ今しかない!

「ああ。口元にクリーム付いてるぜ」

そんなの嘘っぱちだ。でももうこうするしか無いと思った。

もし仮にあいつが本当に今まで女の子のフリをしていただけなら俺は殴られて軽蔑されて終わる話だ。

「どこどこ?今拭くから」

淀屋はポケットからティッシュを取ろうとするが俺はその腕を抑え

「いや。その必要は無いぜ」

と言って思いっきり彼の唇を目がけてキスをした。

「んっ・・・んんんんんんんんんんん!?!??!?!?!??!!??!?!?!?」

彼は突然の事にそんな声をあげた。

彼の唇の感覚それに少しづつ熱くなる体温が唇を通して俺に伝わってくる。

しかしキスなんて事故や受動的にしかした事も無く自ら進んでやった事も無いしここからどうすればいいのか分からないので俺はとりあえずもういいだろうと思ったので唇を離した。

「ぷはっ!?なっななななな何するのよ謙!!」

顔を真っ赤にした彼はそう言った。

やっぱり少し寂しいけどこっちの口調が今の彼の素なのだろう。

「ごめん・・・強引だけどこれくらいしか思いつかなかった。話しようとしたら遮られると思ってさ。お前に今の俺の気持ちを聞いて欲しいんだ」

「なっ・・!?何言ってるの!?わた・・・わ・・・僕は男なんだよ!?男同士でそんな事したらダメ・・・だよ・・・」

彼は今にも泣きそうだ

「なあ大淀」

俺は彼に呼びかける

「違う!僕は大淀じゃない!!淀屋・・・淀屋大だよ!?謙はそうだって言ってくれたじゃない!!」

彼は必死に否定する。でもここで折れるわけにはいかない

「ああ。確かにお前は俺の大切な親友の淀屋だ。でも今のお前は大淀でもある。そうだろ?俺はそんな淀屋でも大淀でもない今のお前自身と話がしたいんだ」

「謙・・?」

「お前と鎮守府で再会してからまだ少ししか経ってないけどいろんな事があったよな?それでお前はずっと俺の近くで色々手伝ってくれて・・・俺も最初はお前の事を親友の淀屋だと思ってた。いや思いたかったんだ」

「そ・・・そうだよ。僕は淀屋。大淀のフリをしてただけ・・・・」

「本当にそうなのか?でもあの時お前は俺の事を男として好きだって言ってくれた。」

「だからあれは冗談で・・・」

「なんであんな所で噓を付く必要があったんだよ?それにあの時俺は答えを出せなかった。なんでか分かるか?」

「それは・・・・やっぱりそんな事を言う僕が気持ち悪かったから・・・?」

「馬鹿野郎。気持ち悪いなんて思ってたらその後お前の事抱きしめたりしねぇよ・・・」

「噓だ!だって昨日気持ち悪いって・・・女の子が好きだって・・・・」

「ああ言った。それはもう事実だし変える事は出来ない。それに女の子が好きなのも変わらない。でもお前をそれで傷つけてしまった事をあやまらなきゃいけない。ごめん・・・・・みっともないけど言い分けさせてくれ。俺は怖かったんだ。俺は大淀が近く居ても淀屋の事は凄く遠くに行ってしまった様に感じる事があってお前を大淀だって・・・異性として見ちまったら淀屋が本当に消えてなっちゃうんじゃないかって思えて怖かった・・・だから俺は絶対に鎮守府の皆を女として認める訳にはいかないって心のどこかで思ってたんだ。だから・・・・だから俺はそんな独り善がりで金剛にあんな事を言っちまったんだ・・・だから・・・」

「謙・・・ごめんね・・・僕のせいでそんなに思い詰めてたなんて・・・それならこのまま僕が僕のままずっと謙の側に居るから!だからそんなに思い詰めないで!!」

彼が俺の言葉を遮る。

でもここでやめるわけにはいかない。

だって俺は・・・・

「でもそれじゃあお前はずっと俺の為に自分を偽るのかよ!?あの時俺に好きだって言った気持ちは本物だろ?お前は噓が下手だからそれくらい分かるよ。もう長い付き合いだからな」

「そっ・・・それは・・・」

彼は言葉を濁す

「でもな・・・大淀と一緒に居るうちに俺も大淀に親友とは別の感情を持ち始めてたんだ・・・・お前の綺麗な髪・・・そこからほんのり香るシャンプーの匂い・・・それに毎朝俺より早く起きて俺を執務室で迎えてくれるひたむきな姿・・・そんな大淀と毎日過ごせるのが俺もいつの間にか嬉しくなってたんだ。でも・・・これを・・・・これを言葉に出しちまったら本当に後戻りができなくなっちまう。そう思ってた。でもな、お前はあの時俺に勇気を振り絞ってくれたのに俺だけ逃げてるなんて恰好悪い。だから言うぞ・・・・」

「謙!言わないで!!僕・・・いえ私もその言葉を聞くのが怖いの!!だからあの時曖昧な返事をされて安心して・・・」

「いや言うね!お前が止めたって言ってやる。一回しか言わないからよーく聞いとけ俺は・・・・俺は大淀が好きだ。大好きだ。でも淀屋の事も大切な親友だ。だからお前の事・・・男としても女としても俺は大切に思ってるんだ!!だから自分に噓を付くのはやめてくれ・・・・今のお前が時折見せる悲しそうな顔でバレバレなんだよ!それに例えお前が変わったって淀屋として過ごした思い出だって大淀として過ごした思い出だって消えやしない。だからお前には取り繕った淀屋でも艦娘としての大淀でもない今のお前自身で居て欲しいんだ!!どっちかを捨てる必要なんて無いんだ!どっちもお前なんだから!!」

「謙・・・・ええそうよ!そうだとも!謙の言う通りなの・・・今の私は以前の高校時代の謙の友達だった私じゃない・・・・でも謙がその時の私を望むなら私はずっと自分に噓を付いたって良い。それで謙の側に居られるなら私は今の自分だって捨てられる・・・!友達として居た方が謙とは近くにいられる・・・だからもう私は大淀である事をやめようって思ってたのに・・・・今更そんな事言うなんてズルいよ・・・・」

「違う!お前はどうなろうとお前なんだ!!確かに今のお前は前までの淀屋とは違うかも知れない!でもさっき遊んで楽しかったのは噓だったのかよ!?あんな楽しそうなお前見たのは久しぶりだった!!それも今のお前なんだ!!俺の事を好きなお前と友達としてありたいお前・・・どっちかなんて俺には選べない!お前と一緒に提督をやってるうちに選べなくなった!だからどっちも受け入れてやる!俺みたいな頼りないのでもお前一人くらいならどっちだって抱え込んでやる!!だから自分を偽ってまで昔の自分に囚われることはないんだ!だからと言って大淀であることに固執することもない!なんたってどっちも今のお前自身なんだから!!淀屋だけでも大淀だけでもない全部をひっくるめた今のお前を俺は心の底から大切に想ってたんだよ!」

俺がそう言うと彼女は少し黙り込んだ後

「謙・・・本当・・・?」

そう言った彼女の頬には涙が伝っている

「ああ本当も本当。今日お前と久々に遊んで分かったんだ。お前の中にはしっかり俺の親友だったお前が居るって。今のお前がどれだけ変わってもお前の中からはその時の事は消えないんだってそう思えた。だからお前には今の自分に正直にあってほしいんだ」

「ありがとう。私も最初は謙を一人にするのが心配で・・・それに謙と居たい一心で艦娘になった。最初は友達のままで居ようって思ってた。でもどんどん身体が変わって行く度にそのままじゃ居られなくなって来て・・・自分でもどうしたらいいのか分からなくなって・・・でも謙はそんな私の事を親友だって言ってくれた・・・だからそんな謙を裏切る訳にもいかない・・・それに好きだなんて言ったらきっと謙は私の事を変だって言うって思ってた。だからあの時私の事を拒絶しないで抱きしめてくれて本当に嬉しかった。それだけで答えなんかどうでも良いって思えた。でも昨日謙のあの言葉を聞いてやっぱり私じゃだめなんだ・・・こんな事ならずっと謙の親友で居れば謙は私の事を嫌いにならないってそう思ったから私・・・・でも謙にはバレバレだったみたいだけど・・・本当にバカね・・・私も・・・・」

彼女は自嘲した。

「そりゃ長い付き合いなんだからお前が噓付いてる事くらい分かるよ。でもこうなったのも俺があの時答えを出せなかったからだったんだ。だからあの時の返事も今する。俺の事好きって言ってくれてありがとう。俺もお前と同じ気持ちだ。こんな俺だけどまた秘書官としてこれからも俺の側・・・任せていいか?」

俺は彼女を見つめた。

「ええ。不束者ですがこれからもどうかよろしくね・・・謙。私・・・艦娘に・・・大淀になって良かった・・・今なら胸を張ってそう言えるわ。」

彼女は涙を流し言ってくれた。

「ああ俺もお前なら・・・んっ!?」

俺がそう続けようとした瞬間大淀が俺に唇を重ねてきた

「んっ・・・・・ちゅ・・・・さっきのお返し!これでお互い様だね!昔の私とは違うこんな私だけど・・・身体は男のままだけどこれからも側に居させてくれる・・・・?こんな事さっきまでなら私怖くて聞けなかった・・・」

「大淀・・・・当たり前だろ!何回も言わせんなよ・・・なんか恥ずかしいだろ・・・」

俺が彼女を見つめていると彼女も恥ずかしくなって来たのか

「べっ・・・別にたまにはまた親友としてこうやって遊んであげてもいい・・・けど・・・?」

とそっぽを向いた。

「ああ。やっぱりお前も楽しかったんだな。それなら今度は取り繕いなんかなしにしてまた来ような」

「うん!」

俺達はそのままショッピングモールを後にした。

そして帰りの車の中で行きの車内での沈黙が嘘の様に俺は彼女と高校時代の思い出話に花を咲かせた。

提督になってから余りそういう話をしていなかったし口調から何から過去とは違っていたが思い出はやっぱり変わらないし大淀もしっかりその事を覚えていてくれていた。

淀屋はしっかり大淀の中に居る。

そう感じられて俺は安心した。

そして鎮守府のガレージに差しかかった時

「謙・・・・ちょっと言い忘れた事があるんだけど・・・」

大淀が突然真面目なトーンで俺に声をかけてくる

「どうした大淀?」

「あの・・・・私・・・服とか下着とか全部捨てちゃったんだ・・・今日ゴミ袋に詰めてゴミ捨て場に出しちゃった・・・」

「なんでそれもっと早く言わないんだよ!?」

「だってそれ言ったら謙怒るかなって・・・・だからゴミが回収される間にショッピングモールで誤摩化そうって思ってたの・・・そしたら踏ん切りも付くかなって思ってたんだけど謙は女の子で居ても良いって言ってくれたし・・・どうしよう・・・」

今から引き返して最低限の衣類を買うにもゲーセンでほぼ持ち金を溶かしてしまったどうすれば・・・

「そ・・・それはひとまず後で考えよう・・・それより俺・・・高雄さんに会って謝らないと・・・」

「私も心配かけたし一緒に行く。でもそう言えば今日見かけてないような・・・」

俺は大淀と車を降り、鎮守府へと脚を進めた。

 

鎮守府に入ると愛宕さんが俺達に声をかけて来た

「あらぁ〜2人共何処行ってたの?高雄が探してたわよ?」

やっぱり昼間の出来事が噓の様にいつもの愛宕さんだ。

「そうですか・・・で、高雄さんは何処に?」

「多分今は部屋よ。でも良かった。その感じだと提督はしっかりやれたのですね〜♪えらいえらい♡」

愛宕さんに頭をなでられた。

やはり昼間の事を考えると凄まじいギャップだがいまはこの優しいお姉さんの好意に甘える事にしよう

「わ・・・わかりました。それじゃあ行ってきます」

俺は大淀と共に高雄さんの部屋の前に立ちノックをした。

「すみません。呼ばれたって聞いたので来たんですけど居ますか?」

俺がそう言うと扉が開き部屋着の高雄さんが出て来た。

「あっ、提督・・・今朝はごめんなさいね・・・私もついカッとなってしまって・・・・でも大淀も一緒みたいで良かったわ。」

「ごめんなさい・・・俺・・・あんな酷い事を言ったのに・・・それに俺のせいで大淀は服も捨てて・・・それに髪までこんなに切っちゃって・・・」

「もう大丈夫ですよ提督。愛宕から大体の事は聞きましたから。

それに大淀!これ全部回収するの大変だったんだから!」

そう言うと高雄さんは部屋の中からゴミ袋を大量に出してきて大淀に渡した。

「えっ・・・!これって・・・・!?」

大淀は眼をぱちぱちとさせている

「ええ。あなたが捨ててるの見ちゃってね・・・その時あなたが髪をバッサリ切ってるのも見ちゃったの。だから私提督がそこまで大淀を思い詰めさせたんだって思うと腹が立って・・・その後愛宕に止められてから私ゴミ捨て場からこれ全部運んで来たのよ?またもしかしたら必要になると思ってね、全部運ぶの大変だったのよ?それに言うなって言われたけど金剛も手伝ってくれたの。あの子も責任感じてるみたいだったし・・・」

高雄さん・・・流石だ。

これで衣類の問題は解決する!

「ありがとうございます高雄さん!私・・・なんてお礼を言ったら良いか・・・」

大淀は頭を深々と下げる。

「いいのいいの。それに金剛が手伝ってくれなかったら多分全部回収出来なかったから・・・・あとこれ。今日お風呂入る時にでも使って」

高雄さんは大淀にシャンプーと書かれた小さなボトルを手渡した。

「シャンプーですか?」

「ええ。艦娘やってると戦闘で髪が焼けちゃったり焦げちゃう子とか結構居るの。だからそう言う時に使うシャンプーなんだけど中に高速修復材が配合されててこれを使えば2~3日で元の髪の長さに戻るわ。でも高価だから大事に使ってね」

「あ・・・ありがとうございます!でも本当に良いんですか?そんな高価な物を頂いて・・・」

「ああ。これ愛宕のなの。愛宕が「これ大淀ちゃんに渡しといてぇ〜」って言って私にくれたのよ。自分で渡せばいいのにめんどくさがりな人でしょ?」

高雄さんは誇張した愛宕さんのまねを織り交ぜつつそう言った。やっぱり高雄さんと愛宕さん似た者同士でお似合いなのかもしれないな・・・・

「後で愛宕さんにお礼言わなきゃ・・・」

大淀はそのシャンプーを大事そうに握った。

「あっ、そうだ大淀?ちょっと今朝の資料で片付け忘れたのが医務室に残ってるから取って来てくれる?」

「はい!今すぐに!!」

大淀は高雄さんに言われた通りに医務室の方へ走って行った。

「よし。これで二人になれましたね提督」

「えっ!?なんですか?」

急な事に俺は戸惑う

「医務室に書類があるなんて噓なんです。それとまだ大淀に渡してない物があって・・・これは提督の手で大淀に渡して欲しいなっておもったんですけど・・・」

高雄さんは俺にメガネを手渡してきた。

「あっ・・・これ・・・」

いつも大淀がかけているメガネだ。

「しっかり渡しましたよ。それではそのメガネちゃんと大淀に渡してあげてくださいね。ついでに男なら気の効いた一言くらい言ってあげてください。あ〜!そうだ!今日は私がお夕飯の当番でした〜それじゃあ後は任せましたよ提督!あっ、そうだ。何があったのか詳しくレポートにして来週までに出してくださいよ?それくらいして貰わないとあなたの発現への問責は消えませんからね♡それではまた後ほど!」

わざとらしく言った高雄さんはそそくさと部屋から出て行ってしまった。

それにしてもやっぱ怒ってたんだ高雄さん・・・

しばらくして

「高雄さ〜ん書類なんてありませんでしたよ?」

大淀がこちらに向かってくる。

メガネ渡さなきゃ・・・・

「あれ?謙、高雄さんは?」

大淀は俺に尋ねて来た。

「ああ。夕飯の準備に行ったよ。で、書類は勘違いだったんだと」

「そうなの・・・それなら良かったわ」

俺と大淀の間には少しの間沈黙が生まれた。

渡すなら今しかない!

「大淀!」

「はいっ!?」

「これ・・・忘れもんだってさ・・・」

俺はさっき預かったメガネを大淀にかけてやった。

「あっ・・・ありがとう謙・・・・」

「うん。やっぱそのメガネ・・・・えーっと・・・似合ってるぞ・・・」

なんだか改めて言うのも気恥ずかしかったが大淀にそう言ってやった。

「あっ・・・ありがと・・・」

大淀はそれを聞いて頬を赤らめて笑った。

その笑顔は以前の彼の面影をどこか匂わせるいい笑顔だった。

そんな大淀の顔を見てやっぱり淀屋だろうが大淀だろうがこいつが嬉しそうな顔をしてるところを見るのが好きなんだなと俺は心の底からそう思った。

 


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