ノンケ提督が艦シーメール鎮守府に着任しました。   作:ゔぁいらす

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天津風のやきもち

 天津風・・・いやソラとにびしょびしょになりながら鎮守府び戻っていた。

ソラの顔を見つめるとその横顔はどこか暗い印象を受ける。

吹雪に会うのが怖いのかもしれない。

「なあソラ・・・?」

「なっ!?ちょっと鎮守府で天って呼ぶのやめてくれない・・・?なんか恥ずかしいから・・・今の私は天津風。この海が平和になって私がやりたい事が見つかるまで天って名前は私の胸の中だけにしまっておきたいの・・・その名前をお兄さんに呼ばれたら私、艦娘になった事を後悔しちゃいそうで・・・だからこれは私・・・・いや僕なりのケジメだから」

「お前今僕って・・・」

以前淀屋はもう自分は淀屋であって淀屋はないと言っていた。

確かに彼は俺の知っていた親友の淀屋だった。しかし口調も全く違う上にそれが演技だとも思えない。

でも大淀と違って愛宕さんはオッサン臭くなるし怒野太い声で怒鳴るけど阿賀野の立ち居振る舞いからは男っぽさを微塵も感じられない。

それに春風は男らしくなりたいと言っているし艦娘になると言う事に対して彼らがどのように折り合いを付けているのかが俺には全くわからなかった。

個人差があるのだろうか?

ソラがどれだけ以前のソラで何がどう変わってしまったのかはわからないが、彼は彼なりに艦娘である今の自分とそれ以前の自分に折り合いをつけている様に感じる。それじゃあ淀屋は・・・

そんな事を考えていると

「何私の顔ずっと眺めてるの?気持ち悪いんだけど!!」

ソラ・・・いや天津風に怒鳴られた。

「ああすまん・・・お前はお前なりに色々大変だったんだなって思ってさ・・・」

「べっ・・・別に同情して欲しい訳じゃないんだけど!?それより服びしょびしょじゃない!早く用事済ませて着替えないとあなたに風邪引かれたら困るのよ!ほら!さっさと医務室へ行くわよ」

天津風は少し頬を赤らめて俺の手を引いて医務室へと向かった。

 

そして医務室の前に到着すると

「お兄さん・・・・先にどうぞ・・・」

天津風がもじもじしてそう言った。

「天津風ここまで来て入り辛くなったのかよ。しょうがねぇなぁ先に行って話してきてやるから呼んだら入って来るんだぞ?吹雪ー天津風から話があるってさー」

俺はそう言って医務室の扉を開けた。

しかし医務室には高雄さんが居るだけで吹雪の姿はなかった。

「あら提督、びしょ濡れじゃないですか!吹雪ちゃんから聞きましたよ?天津風ちゃんを探しに行ったって。どこまで行ってたんです?」

「え、ええちょっと外まで・・・」

「天津風ちゃんが勝手に出ていったのね?」

「とはいえ天津風が出て行った原因は俺にある。

「いや・・・確かにそうなんですけど俺が追いかけてたら流れでそうなっちゃって・・・」

「そうだったの・・・でもしっかり連れて帰ってきてくれたんですね。あっ、そうだ!あの子昨日ひょっこり工廠に愛宕に謝りに来たんですよ」

その時薬を天津風に渡したのか。

「あの子泣きじゃくって大変だったんですよ?もう愛宕も怒る気無くしちゃったみたいで・・・・それで何か私にできることは無いかって言うものだからあのお薬を持たせたんです。吹雪ちゃんも元気になったみたいですししっかり薬も持って行ってくれていたんですね。よかった」

高雄さんがそう続けると

「ちょっと高雄さん!それはお兄さ・・・・じゃなかった提督には言わないでって言ったじゃないですか!!」

医務室の扉が勢い良く開かれ天津風が顔を真っ赤にしてこちらに走ってくる

「あら天津風ちゃん聞いてたの?あなたもびしょ濡れね・・・そうだ!吹雪ちゃんが今入渠しているんだけどあなたも一緒にお風呂に入ってらっしゃい?吹雪ちゃんにお話、あるんでしょう?」

「ええ!?・・・お風呂?良いです自分の部屋で済ましますから・・・・はくちゅん!」

天津風はくしゃみをひとつした。

なんだか血色もよくないしきっと体が冷えているんだろう。

「ほらもうそんな身体も冷えてるんだからここは私の言う事を聞きなさい。それじゃあ提督、天津風ちゃんを大浴場まで連れていってあげてください。私は提督が戻って来るまで代わりにここに居るよう吹雪ちゃんに頼まれていて次は大淀ちゃんのフォローに行かなくちゃ行けないので。提督、着替等が終わり次第一旦執務室まできてください。それでは失礼しますね」

高雄さんは医務室を出て行ってしまった。

そして医務室には俺と天津風の2人っきりになる。

さてこれからどうするか・・・・とにかく天津風を風呂に連れていくか。

そんなことを考えていると

「ね・・・ねえ、ホントにそんな事しなきゃいけないの・・・?」

天津風は頬を赤らめ涙目になりながら俺に尋ねた。コイツこんなに可愛かったっけ・・・・いやいやコイツは男なんだぞ・・・

そんな可愛いはず・・・・ない・・・

俺は自分にそう言い聞かせ

「たっ・・・高雄さんに頼まれちゃったしそれに話も出来るし身体も温まるし一石二鳥だろ?それに吹雪は今までこの鎮守府でたった1人の駆逐艦だったんだ。それでやっと駆逐艦の艦娘が増えたんだって喜んでたから行ってやってくれよ」

「しょ・・・しょうがないわね!もうこうなったものは仕方ないしなんだってやってやるわ!最後に確認だけど吹雪も男・・・なのよね?」

「ああ。だから気にする事は無いぞ。ささ・・・そうと決まれば風呂だ風呂!!俺は自分の部屋でシャワー浴びるから風呂が終わったらどうだったか教えてくれよな!さあ行こうぜ」

「ちょっ・・・!まだ心の準備が・・・お兄さんあんまり引っ張らないでよ!」

俺は話を切り上げて天津風の手を引いて大浴場に連れていく。

 

そして大浴場に向かっている途中

「吹雪・・・怒ってなかった?」

天津風は心配そうに俺に訪ねてくる。

やっぱりこいつなりに気にしてたんだな・・・・

「ああ!怒ってなかったぞ。だから・・・面と向かって話してこいよ。裸の付き合いって奴だ」

そんな話をしているうちに大浴場へ到着。そのまま俺たちは脱衣所に入った。

俺がそこで突っ立っていると

「何ボーッと突っ立ってんのよ!早く出てってよ!!」

天津風にそう言われた

「なんでだよ!?お前男だし別に恥ずかしいも何も無いだろ?」

「そ・・・そうだけど・・・・あなたに裸見られるのは恥ずかしいの!!だからさっさと自分の部屋でシャワーでも浴びてきたら!?あとは私1人でなんとかするから!!」

天津風はそう言った。すると大浴場の戸が開きそこからバスタオルを巻いた吹雪が顔を出す。

「どわぁ!吹雪!?」

「あっ、天津風ちゃんそれにお兄ちゃんも!2人とも仲直り出来たんだね!天津風ちゃん、私あんまり裸見られるの得意じゃないけどもし良かったら私とお風呂でお話ししない・・・?」

吹雪は少し恥ずかしそうにこちらに歩いてくる。

しかし吹雪のフラットな身体はいつ見ても可愛らしいと言うかなんと言うか・・・・タオルでアレが隠れてるから女の子にしか見えないんだよなぁ・・・・・・っとマズい!そんな事考えてる場合じゃない!

「ああ・・・なんとかな。それじゃあ俺は部屋でシャワー浴びてくるから!」

俺はその場を立ち去ろうとすると

「ちょっと待ちなさいよ!!」

天津風が俺を呼び止めた

「はいぃ!?」

あまりにも急だったので俺は立ち止まる。

さっきまで出てけって言ってたじゃないっすか・・・

「お兄ちゃんって何よ!?あなた吹雪にお兄ちゃんって呼ばせてるの!?」

天津風は俺に詰め寄ってくる。

しまった!ずっとお兄ちゃんって呼ばれ続けてたせいで全く抵抗もなくなってたけど天津風はその事知らないんだった!なんて説明したら良い物か・・・・

「そっ・・・それは色々あってだな・・・・吹雪からもなんとか言ってやってくれよ!」

俺は吹雪に助けを求めるが

「えっ?お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ?勤務中以外はお兄ちゃんって呼んでいいって言ってくれたよね?それにお兄ちゃん優しいから私といつも一緒に寝てくれるんだよ!」

いやそう言う事でなくてですね・・・・それに一緒に寝てるとか言ったら天津風が・・・・

「いっ・・・一緒に寝てる!?あーなーたー!!!吹雪にお兄ちゃんって呼ばせてるなんて見損なったわ!変態!ショタコン!!性犯罪者!!!」

思った通り流れるような罵倒が天津風から浴びせられる

「いっ・・・いやこれは仕方なくというか流れでな・・・・」

必死に言い訳を考えるが全て事実なだけあって言い訳のしようがない。

それに吹雪の奴なんであんな得意気なんだよ・・・・

「言い訳なんて聞く気はないわこのド変態!それに・・・・・・・なんだから・・・・」

天津風は何やら口をモゴモゴとさせた

「ん?今なんて言ったんだ天津風?」

「なんでもないわよ!!もういい!詳しい話はお風呂でしっかり聞かせてもらうから!!」

へ?今なんて言ったんだコイツ・・・

「ほら何してるのよ!?早く脱ぎなさい!私も脱ぐから!!!」

どうやら天津風は頭に血が上って訳がわからなくなっているらしい

「さっきまで裸見られたくないとかなんとか言ってたじゃねぇかよ!!」

「気が変わったの!早く私と一緒にお風呂に入って!!」

天津風はそう言って濡れた服を脱ぎ捨てた。

その身体はどことなく柔らかそうな印象を受ける。あいつの腕、あんな柔らかそうな感じだっけなぁ・・・?

俺がそんな事を思っていると

「あなたも早く脱いでよ!!それとも1人じゃ服も脱げないの!?」

真っ裸の天津風は俺の服を強引に引っ張ってくる。

「うわぁあああちょっと落ち着けって!わかった!!わかったから!!自分で脱ぐから!!!」

俺は渋々服を脱ぎ天津風と大浴場へと足を踏み入れた。

「あっ、お兄ちゃんに天津風ちゃん!待ってたよ」

大浴場ではすでに吹雪が湯船に浸かっている。

吹雪は風呂の中でもバスタオルをつけたままだ。

「吹雪あなた・・・」

天津風はさっき俺が話したことを思い出したのか言葉を濁した

「ん?なぁに天津風ちゃん?あっ・・・ごめんね。お風呂の中でもバスタオルつけたままで・・・でも私・・・こうしなきゃ天津風ちゃんやお兄ちゃんと一緒にお風呂は入れないから」

吹雪は俯いた

「い・・・いいえ別に私は気にしないわ!ご・・・ごめんなさい変な気を使わせちゃって・・・」

天津風のやつ結構気の利いたこといえるじゃん。

そんなことを考えていると急に鼻がムズムズして

「ぶわぁっくしょい!」

と大きなくしゃみをしてしまった。

「ほら、お兄ちゃんも身体冷えてるんでしょ?早く入って!天津風ちゃんも!」

「ええ・・・わかったわ」

「そ・・・それじゃあお邪魔します・・・」

俺と天津風が浴槽に浸かると俺の目の前で2人の少女(いやどっちも少女じゃないんだけど・・・)が話を始めた。

俺の頭の中では天津風の変態やショタコンと言った言葉がグルグルしていてむしろそう言われると逆に意識してしまって目のやり場に困るんだよなぁ・・・・

でも俺はショタコンでも変態でもないんだ!!

でもなんでなんだ吹雪はともかく目の前に居るのはソラのはずなのになんでこんなに目のやり場に困るんだよ・・・

それにしてもこの状況なんだか気まずいぞ?

「吹雪・・・昨日の事は謝るわ。酷い事言ってそれにあんなケガまで負わせてしまってごめんなさい・・・・」

「うんいいよ!気にしてないから。それに天津風ちゃんが無事で本当に良かった!」

吹雪は笑顔でそう答える。

あんな状況になって自分の方が危ない状況だったのにこうやって天津風のことを心配してやれる吹雪は本当に優しい子だ。

「あ・・・ありがとう・・・・・ってそうじゃないの!!何よお兄ちゃんって!?吹雪あなた一体お兄さ・・・・提督とどんな関係なのよ!?」

天津風は吹雪を問いつめる

「お兄ちゃんは・・・家族の居なかった私の事を初めて家族だって・・・父親代わりは無理でも兄くらいには思ってくれていいってそう言ってくれた。だから司令官は私のお兄ちゃんなんだ。もちろん天津風ちゃんの事も大事な家族だと思ってるよ?あっ、家族って言われるの嫌だったんだよね・・・・ごめんなさい・・・・」

吹雪はそう言った。

この話他人に聞かれるのはちょっと恥ずかしいなぁ

「そ・・・そう・・・なんだ・・そういうことなら別に・・・私も・・・家族と思ってくれてもいい・・・けど・・・・?」

天津風は恥ずかしそうに言った。

「ええ!?本当?私嬉しい!!」

吹雪は天津風の手を握った。

「でっ・・・でも一緒に寝てるって言うのは何!?いくらあなたが提督の事を兄みたいに慕ってるからって兄弟が一緒に寝るような年でもないでしょう!?そんなの犯罪よ!!」

天津風は少し呆気にとられていたがそう吹雪に問いつめた。

「それはね・・・私、少し前までとっても大切な人が居たんだ。でもその人が居なくなってから私独りになると寂しくて怖くて・・・でもお兄ちゃんと一緒に居たら安心するの。だからいつもお布団に入れてもらってるんだ。これは私のわがままだから・・・だからお兄ちゃんを責めないで」

やっぱりこの子は天使だ・・・性別とか血が繋がってないとか関係なく俺の妹なんだ・・・・俺は心の中で思いて少し泣いた。

「わかったわ・・・・それじゃあ・・・・」

天津風はそう言うと黙り込んでしまった

「天津風ちゃん?」

吹雪が天津風に声をかける

「私も・・・・・・」

天津風は何かを言いたそうにしていたが意を決したのか口を開き

「私もあなたの事これからもお兄さんって呼ぶ!吹雪ばっかりズルいじゃない!!それに私達が皆家族なのなら私にとってもあなたはお兄さんでしょ?でもこれは別に羨ましいとかそんなんじゃないんだからね!?ただ不公平だと思っただけなんだから・・・・」

はぁああああああああ!?!?!?!?!?!?!?

いや・・・まあ今までずっと提督のお兄さんって呼ばれてたけどこれは少しニュアンスが違うんじゃ・・・

それに吹雪はなんて言うんだ・・・・!?これは2人の仲がこじれちゃう奴なのでは・・・・

「ふ・・・・吹雪はどうなんだ・・・?」

俺は吹雪の顔色をうかがうると

「うん!お兄ちゃんは皆のお兄ちゃんだから私は良いと思うよ!」

吹雪は笑顔で答えた。なんてすんなり答えるんだこの子はぁああああああ

「吹雪も良いって言ってるし良いでしょ・・・・兄さん」

天津風は恥ずかしそうにそう言った。

「お兄ちゃんも天津風ちゃんと仲良くなれたみたいで私もうれしい!」

吹雪も俺に笑顔でそう言った。その屈託の無い笑顔のせいで断るに断れないな・・・

しかしなんかとんでもない事になってしまった気がする・・・・

「わ・・・・わかったよ・・・・ただ他の皆には内緒だからな?」

結局俺は折れてしまった。

「良かったね天津風ちゃん!」

「あ・・・ありがとう兄さん・・・私の事もいも・・・・弟だと思ってくれていいんだからね!?」

天津風は頬を赤らめてそう言った。なんだよこれ破壊力あり過ぎだろ!あーダメだ・・・こんなの2人に囲まれてたら本当にヤバい事になってしまいそうだ。

よし!逃げよう!!

「おっ、俺もう温まったから後は2人でごゆっくりいいいいいいい」

俺はそう言って風呂から飛び出した。

 

はあ・・・散々な目に遭った。

でもソラの奴なんであんな事・・・あいつもしかして吹雪の事羨ましかったのかな?たしかあいつも家族が居ないって言ってたし・・・・まあそれなら仕方ないか!もう頷いちゃったし

俺はそうさっき起きた事を正当化しようと自分にそう言い聞かせる。

そして俺は何か忘れているような気がしてきた。

「そうだ!執務室!!」

俺は高雄さんに執務室へ呼ばれていた事を思い出し急いで部屋に戻り服を着替え執務室へ向かった。

「すみません!遅くなりました!!」

ドアを開けるとそこには高雄さんと愛宕さんと大淀が居た

「あらぁ〜提督、遅かったじゃない」

「提督お待ちしてましたよ」

愛宕さんと高雄さんはそう言った。

「で、用ってなんなんだ?」

俺は大淀に尋ねる。

「はい。今回の被害等をまとめた資料をまとめたのでそれに目を通して頂こうかと・・・これ資料です」

大淀はそう言って俺に資料を手渡した。そこには破損した艤装の数や減った資材の数等が書き込まれていて結構な打撃を受けていた事がわかった。

「それともうひとつ・・・天津風ちゃんの処遇の件なのですが」

大淀は真剣な表情で続ける。

「ああそのことね、その前にこれだけは提督の耳に入れておかないといけないと思うんだけど昨日の夜工廠で簡単に私がお説教させてもらったわ。そしたら素直に謝ってくれたの」

愛宕さんは言った。

「さっき高雄さんから聞きました。それであいつをどうするか・・・・ですか」

処遇・・・・天津風をどうするか・・・それを考えようとすると彼の顔そして「お兄さん」という言葉とアイツの裸を思い出し不覚にも俺は顔を赤くしてしまう。

「提督?お顔赤いですよ?大丈夫ですか?」

大淀は俺を心配してくれたが顔が赤い理由を話したら絶対殴られる・・・

「ああいや・・・大丈夫なんだけど・・・・それに俺も天津風と今朝話したんだ」

俺は何故天津風が命令違反を犯したのか大淀達に簡単に説明をした。

「あいつも反省してるしなぁ・・・」

「そう・・・ですか。その気持ちはわからなくもありません。しかしこれは立派な命令違反ですよ?」

大淀は淡白にそう言った。

「天津風ちゃんを止められなかった私にも原因はあるのよ!今後二度とあんな事が起こらないように私も気をつけるから少し多目に見てあげてくれないかしら・・・」

そんな大淀に対して愛宕さんは天津風を庇い頭を下げた。

「うーん・・・」

責任は愛宕さんに任せっきりにしていた俺にもある。

それに吹雪本人も気にしていないと言っているし天津風と吹雪は和解している。

それに今あいつを謹慎にしたら尚更他の艦娘たちとの距離が離れてしまうだろう。

でもお咎め無しと言うことにしてもそれはそれで他の艦娘達への申し訳も立たないし・・・

「それじゃあ1ヶ月トイレ掃除とかやらせたらどうだ?」

俺がそう提案すると

「もう!小学生じゃないんだから!!でも・・・・提督らしいです。私はそれで良いと思いますよ。提督がそう言うのなら」

大淀は笑ってそう言ってくれた。

「そう・・・か。ありがとう大淀。それじゃあ天津風に伝えなきゃな!それじゃあ天津風に伝えてきます!」

天津風ももう風呂も上がっているころだろう。

大浴場まで行ってみよう。俺は執務室を後にし大浴場へ向かった。

 

その道中那珂ちゃんと阿賀野に出くわす

「あっ!提督さん!!聞いたよ〜吹雪ちゃん元気になったみたいで良かった〜」

阿賀野は安堵の表情を浮かべていた

「吹雪ちゃんが元気になってくれて那珂ちゃんも嬉しいっ!」

那珂ちゃんもそう続けた。

「ああ。2人とも心配してくれてありがとうな」

「提督ちょっといい?」

那珂ちゃんがこちらに向かってきた

「なっ、何!?」

突然の事に俺が身じろぎしていると

「那珂ちゃんね〜提督とお話したい事があるんだ〜☆阿賀野ちゃん、出来れば2人でお話したいから先に行ってて欲しいな〜」

「ん〜?2人で秘密のお話?でも提督さんは阿賀野のなんだからね!」

「お前のモノになった覚えはねーよ!!」

「え〜細かいこと気にしないでよ〜でも良いよ。それじゃあ阿賀野は先に部屋戻ってるね〜」

阿賀野はそう言って立ち去った。

「で、那珂ちゃん話って何だ?」

もしかして告白!?いやいや那珂ちゃんも男なんだぞ!?そ

れにまだお互いの事あんまり知らないしせめて友達から・・・・俺がそんな事を考えていると

「単刀直入に聞くね〜ここの鎮守府の艦娘さん達、皆那珂ちゃんと同じなんだよね?」

那珂ちゃんはいつにもなく真剣な表情でそう聞いてきた

「あ、ああ。皆男で・・・」

俺はそんなただならぬ表情に押されつつそう答えた

「そう・・・だよね・・・でも皆本当に楽しそうで・・・それでね、本当の女の子になりたいって思ったりしないのかなって」

那珂ちゃんはそう言った。

「なりたい・・・?」

「私もこの身体になってずいぶん経つけど未だに男の自分が怖いの・・・提督も男の子ならわかるでしょ?阿賀野ちゃんを見てたらあそこが固く切なくなってきて・・・変な気分になっちゃうの・・・でも阿賀野ちゃんは那珂ちゃんと同じ境遇のお友達だけどこんな事阿賀野ちゃんに言ったら嫌われちゃいそうで・・・・そんな自分が嫌になるの・・・那珂ちゃんは女の子で居たいのに・・・これじゃあ艦娘になる前と変わらないよね」

那珂ちゃんは深刻な顔をしてそう続けた。

「那珂ちゃん・・・」

きっと那珂ちゃん・・・いや他の艦娘達も男の身体と艦娘としての心の間で大きく揺れているんだろう。

そんな悩みを打ち明けられた時俺はなんと言ってやれば良いんだろう・・・?

「あっ、ごめんね提督!那珂ちゃんの変な話聞かせちゃって!そうだよねー阿賀野ちゃんも私と同じ男の子なんだよね。少し那珂ちゃん疲れてたのかも〜でも話聞いてもらえて少し楽になったよー!那珂ちゃん元気っキャハッ☆あっ、でもこれ阿賀野ちゃんには内緒でお願いね♡それじゃあまったねー」

那珂ちゃんは遮る様にそう言って阿賀野の向かった方へ走って行ってしまった。

どこか無理に明るく装っているそんな那珂ちゃんの背中を俺は見送ることしかできなかった。

 

そして大浴場へ向かうと丁度天津風と吹雪が大浴場から出てきたところだった。

「おっ、天津風ちょうどよかった」

「何よ・・・急に飛び出していったと思ったら丁度良かったって忙しい人ね」

「ああ、お前の命令違反に対する処罰が決まったからそれを伝えようと思ってさ」

「命令違反・・・」

天津風は自分がやってしまったことの重大さを身をもって感じたのか一気に表情が重くなる。

「お兄ちゃん!天津風ちゃんだって反省してるんだしそんな命令違反だなんて・・・私ももう大丈夫だから天津風ちゃんを許してあげて!」

吹雪は処罰という言葉で顔色を変えて天津風を必死にかばう。

「まあ最後まで聞いてくれ。天津風、お前がやったことはれっきとした命令違反だ。それにお前のせいで吹雪や他の艦娘たちにもあらぬ被害が出てる。だからお咎め無しって言うわけにも行かないのはお前もわかるよな?」

「え、ええ・・・そうね・・・」

「お兄ちゃん!」

「でも・・・吹雪もこうしてなんとか大事にも至らなかったしお前が反省してる事は高雄さんや愛宕さんからも聞いてるし俺もお前が反省してるって事はよくわかったしお前が違反を犯した理由もわからなくもない。だから・・・」

「だから・・・?」

「お前は明日から1ヶ月間のトイレ掃除を命じる」

「えっ・・・ええ!?トイレ掃除?なにそれ・・・子供じゃないんだから・・・」

天津風は呆れたのかそれとも処罰の内容が予想外だったからなのか一つため息をついた。

「これはれっきとした処罰で提督命令だからな!しっかりやれよ?それとこれに懲りたらもうあんな事するんじゃないぞ?一人の勝手な行動のせいで他人に被害が出たらお前だってその事で苦しむことになるんだぞ?」

「え、ええ・・・そうね・・・わかったわ!やってやるわよ!」

「天津風ちゃん・・・良かったね・・・厳しい処分じゃなくて本当に良かった」

吹雪も安心したように言った。

吹雪・・・もしかして処罰って言葉にもトラウマが有るんだろうか・・・?

それならさっきの必死な言動にも辻褄が合うし・・・

吹雪には悪いことしちゃったかな・・・

「まあそういう事だから明日から反省してトイレ掃除に臨むように!」

 

 

その日の夕食の時、天津風は他の艦娘達に謝り前回出来なかった歓迎会の続きがささやかに行われる事になった。

そんなささやかな天津風の歓迎パーティーが終わり部屋に戻ってそろそろ寝ようとベッドで横になっていると

「お兄ちゃん。心配かけてごめんね」

吹雪がそう言いながら俺と同じ布団に入ってくる。

「あ、ああ。お前が無事で本当に良かった」

「うん・・・私も天津風ちゃんとお兄ちゃんが仲直りできて・・・それに天津風ちゃんと仲良くなれてうれしい・・・・でもやっぱり裸見られるのは嫌・・・私の傷だらけの背中にこんな身体なんか誰も見たくないよね・・・」

吹雪は小さな声で言った。

「吹雪・・・」

きっと吹雪なりに相当無理をして俺と天津風を大浴場に招き入れたんだろう。

俺はそんな吹雪になんて言ってやればいいのかわからなかった。

すると突然部屋の扉をドンドンと叩く音がした。

「誰だよこんな時間に・・・」

俺は渋々ベッドから降りて扉を開けるや否や寝巻き姿の天津風が部屋に上がり込んできた

「うわぁ!天津風?何しに来たんだよ!?」

「あっ、天津風ちゃんいらっしゃい!どうしたの?」

「何しに来たって決まってるじゃない!私もお兄さんと一緒に寝る!」

「ちょ・・・・ええええええええ!?」

俺は突然の事に声を上げる。

それにしてもこいつなに一丁前にこんな可愛い女物の寝巻き着てんだよ・・・

制服の天津風といつもTシャツなんかのラフな服装だったソラしか見た事の無い俺はそのギャップを感じて複雑な気分になってしまっていた。

「何ジロジロ見てんの?気持ち悪いわよ?」

天津風が俺を睨みつける

「えっ・・・いやあの・・・可愛い寝間着だなって」

「かっ・・・可愛い!?別にこれは私の趣味じゃなくてここにくる前にもらったから仕方なく来てるだけよ・・・!それじゃあさっさと一緒に寝かせなさい」

天津風は顔を赤くした。

「い・・・一緒にって・・・」

俺は吹雪の顔色を伺うと

「私は大歓迎だよ!賑やかになるねお兄ちゃん!!」

吹雪は嬉しそうにそう言った。

「お、おう・・・」

吹雪が嬉しそうならそれで良いか・・・・

いやいやそんな訳あるか!!こんなの大淀に見られたら絶対殺される・・・!

なんとかしなきゃ・・・・

俺は天津風を説得し結局今日だけという条件付きで3人で眠ることになったが俺は結局その日は一睡もする事ができなかった。


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