ノンケ提督が艦シーメール鎮守府に着任しました。 作:ゔぁいらす
変わり果てた姿を実の弟に見られてしまった阿賀野はただただ震えていた。
「見られちゃった・・・・どうしよう・・・・私・・・・」
阿賀野はひとまず風呂の戸を閉め、戸にもたれかかった。
(どうすれば良いの・・・・?代智に話す?いや何処から・・・それにそんな事したら代智は私になんて言うか・・・・それに私自身そんな事言える勇気も覚悟も無いし・・・そうだ!逆に考えるのよ阿賀野!!何事も無かったかのよ〜に振る舞うのよ!!落ち着け〜私・・・いや俺・・・!そう。俺は何も見なかった・・・・代智も何も見ていない・・・・代智も何も見ていない・・・・よし。これで大丈夫)
阿賀野はそう自分に言い聞かせ
「さあ早い所風呂上がって寝るか!」
と言い風呂を出て凄まじい勢いで胸にサラシを巻き、髪をくくり何事も無い様に装った。
その頃代智はというと
「なっ・・・なんで家の風呂に知らない女の人が居るんだよ・・・・女の・・・人?なんかそれにしては下半身に見覚えのあるナニかがぶら下がってた気が・・・・・」
代智はただただ直面した状態に混乱していた。
「とりあえず走って風呂場を離れちゃったけど・・・・一体あの女の人は一体誰なんだ・・・・いやでも確かにあの女の人俺の名前を呼んでたぞ・・・?しかしあの人どっかで会ったような気が・・・それに風呂場の前の洗面所に脱ぎ散らかされてたのは兄さんの服だったし・・・一体どういうことなんだよ?ああもうわかんねぇ!」
代智は頭をくしゃくしゃと掻いた。
「でもあのまま放っておく訳にも行かないよな・・・とっ、とりあえずもう一回風呂の様子を見に行こう。うん。決して女の人の裸が気になるとかではなく家の安全の為だ!」
代智はそう言い聞かせ風呂場へと戻った。するとそこには何事も無かったかのように洗面所で阿賀野が身体をタオルで拭いていた。
「おっ、代智?どうしたんだこんな夜遅くに?」
阿賀野は何事も無かったかの様に代智にそう声をかける。
「ああ兄さん。いやちょっと勉強をしようかなっておもっ・・・て・・・ってそうじゃなくて!!風呂!さっき風呂に女の人が居たんだよ!!」
代智は阿賀野にそう言った。
「女の人ぉ?夢でも見てたんじゃないのか?」
阿賀野はそうすっとぼけるが
「いやいやいや俺本当に見たんだって!!風呂で気持ち良さそうにシャワー浴びてる女の人」
代智は阿賀野にそう言い張る。
「ええ〜代智風呂になんか来てないぞ?やっぱり気のせいだって!きっとそうだって!!」
阿賀野は念を押して代智に言った。
「そんな訳無いだろ!!だってそこに俺が落としたシャンプーのボトルがあるだろ?さっきそれ俺が落としたんだけど?兄さんなんか怪しいな・・・?」
代智は阿賀野の言動に疑いを持ち始める。
(やばっ・・・でもこのまま切り抜けなきゃ・・・)
阿賀野はそう思い
「ああ〜俺もう眠いし寝るわ〜じゃあ勉強頑張ってな〜」
と阿賀野は脱ぎ散らかしていた服をそそくさと着ようとするが
「ちょっと待って兄さん、胸に巻いてる包帯、それどうしたの・・・・・?それになんか体つき丸くなった?手は細くなってたから痩せたと思ってたけど・・・」
(やっ・・・・ヤバい・・・・誤摩化さなきゃ・・・・)
「あ、ああコレは仕事でちょっとケガしちゃっててさ・・・」
阿賀野は必死に誤摩化そうとするが
「えっ!?それで風呂入ったの!?大丈夫なの兄さん」
代智は阿賀野を心配して詰め寄ってくる。
「う、うん大丈夫だから・・・心配しなくて良いよ」
阿賀野は代智と距離を取ろうと少し後ずさる。
「兄さんホントに大丈夫なの?ちょっと見せてくれる?」
代智はサラシに触ろうとする。
「これホントに包帯の中グロい事になってるから!!見たらトラウマになっちゃうから!!」
阿賀野は必死で抵抗するが
「いやいやそれこそそんな状態で風呂入っちゃいけないだろ兄さん!!とりあえずなんか消毒とかしなきゃ!!いいから早く見せてくれよ!!」
さらに代智は阿賀野に詰め寄る。
「いや・・・だから大丈b・・・きゃっ!!」
阿賀野は後ずさろうとするが、さっき代智が落としたシャンプーのボトルにつまずき仰向けにひっくり返る。
「兄さん!!」
代智はそれを受け止める。
「あっ・・・ありがとう代智・・・・あっ!?」
その受け止めた時の衝撃で阿賀野の胸に巻かれるサラシの締めが甘かったのかサラシが緩み、胸の弾力でサラシがどんどんと緩んでいった。そしてどんどんと阿賀野のバストが露になってゆく。
「に、兄さん!?むっ・・・胸・・・?」
「きゃあああああああ見ないでえええええええ!!」
阿賀野は胸を隠して悲鳴を上げる。
「おわあああああああ!ごごごごめん!!ってえっ!?えええええええ!?兄さん!?」
代智もそれに驚き声を上げた。
(もう誤摩化しきれない。こうなったらもう言うしか無い!)
阿賀野は胸ははだけていたが腹を括った。
「俺・・・いや私艦娘になっちゃったの!!!!!」
阿賀野がそう叫ぶと代智は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしてすこし黙り込んだ後
「えっ・・・?兄さん何言ってんの・・・・」
代智は阿賀野の言葉を理解し切れていなかった。
「ごめん代智・・・・全部話すからリビングでちょっと待ってて・・・」
阿賀野はそう言って立ち上がり代智から離れた。
「う・・・・うん」
代智はもう何がなんだか分からなくなりただただ阿賀野の言う事に従い洗面所から出て行った。
そして阿賀野はふと洗面台に映った今の自分の姿をまじまじと見つめる
(私・・・・もう大賀じゃないんだよね・・・・こんな身体になった私を見ちゃった代知はもう私の事兄さんだなんて呼んでくれないよね・・・・)
阿賀野は自らの姿が以前の自分の物からかけ離れてしまっている事を痛感した。
(でもこうなった以上はしっかり話さなきゃ・・・・もう二度と私の事を兄さんって呼んでくれなくたっていい。円を切られたって良い・・・私は私なんだ・・・だから今の私の・・・・阿賀野でもあって大賀でもある今の私の覚悟を・・・思いを打ち明けるんだ!)
阿賀野は鏡に映る自分にそう言い聞かせて覚悟を決め、胸にさらしを巻かずに脱ぎ捨ててあった服に袖を通してリビングへと向かった。
「おっ・・・お待たせ・・・」
「あ、ああ・・・・」
代智は兄にある筈の無い胸の大きな膨らみを見て困惑した表情を浮かべ、二人の間には気まずい雰囲気が流れていた。
「あの・・・兄さん・・・なんだよね・・・?」
代智は恐る恐る尋ねる。
「う・・・・うん。正真正銘阿藤大賀・・・・だったって言うべきなのかな・・・?今は阿賀野型軽巡洋艦1番艦阿賀野って呼ばれてるけど・・・・」
阿賀野は頷いた後そう言った。
「本当に兄さんなんだね・・・?色々聞きたい事はあるんだけど何でそんなことになったの?」
代智は単刀直入にそう聞いた。
「こんな姿を見ても兄さんって呼んでくれるんだ・・・ちょっと安心した。できれば凱矢と優宇には秘密にしておいて欲しいんだけどえーっとね・・・・話せば長くなるんだけど代智達の為・・・かな・・・?」
そして阿賀野は自分がこうなった一部始終を話し始めた。
「最初は昼間はコンビニ夜は工事現場で働いてたんだけどそれだけじゃお金が足りなくて・・・そんな時私に艦娘の適正があるって判ってもし艦娘になれば兄弟の生活は保証するって・・・それでこうなっちゃったの・・・もう考え方も身体もずいぶん変わったしそれに喋り方も昔の喋り方を思い出すので精一杯で以前の自分かって言われたらちょっと怪しいんだけどね・・・でも今でも代智達を想う気持ちだけは変わってないの・・・それだけは判って欲しい・・・かな」
「兄さん・・・・俺達の為に・・・だから兄さんが居なくなってから急に口座に毎月まとまった金が入って来てたのか」
代智は少し納得した。
「でもね・・・代智・・・それはあくまで表向きの話・・・私が阿賀野になった理由はそれだけじゃないの・・・それと謝らなきゃいけない事もあるの。」
「に、兄さん・・・?」
阿賀野のただならぬ表情に代智は唾を飲んだ。
「確かに建前として代智達を生活させてあげなくちゃいけない。父さんと母さんを死なせてしまった一因を作ってしまった自分自身からの罪滅ぼしっていうのがあるんだけど本当は逃げたかったの・・・」
阿賀野の口からそんな言葉がこぼれた。
「逃げたい・・?何から?」
代智はそう聞く
「色々・・・かな。父さん母さんが死んでからあなたは長男なんだから・・・とかあなたは家族を支えて行かなきゃ行けないなんて言う事をまわりの大人にいっぱい言われたの。そのプレッシャーが一番大きかったの。」
阿賀野はそう言って髪をほどいた。
「代智・・・この髪型何処かで見た覚えは無い?」
阿賀野はそう代智に聞く
「もしかして夕方に会ったおねーさん!?どっかで見た事有ると思ったら兄さんだったなんて・・・」
代智は驚きの声を上げた。
「それでね・・・それだけじゃなくてアルバイトをしてた頃自分のバイト代だけでは4人で生活するのがやっとで代智を高校にも入れてやれない。そんな時バイト先の先輩に・・・その・・・身体を売る仕事を紹介されたの・・・・ごめんね代智・・・そんな方法でお金を荒稼ぎしてたの・・・・」
「そういえばあのオッサンが援交がどうとか言ってたな・・・・でも!それは俺達の為にやってくれたんだろ!?」
代智は必死に阿賀野をフォローしようとするが
「それでもそんな職に足を突っ込んでいたのはもう変えられない事実よ。それにそんなお金儲けで代智達の生活を支えていた事・・・それに・・・それに私のせいで代智達から父さんと母さんを奪ってしまった事・・・そんな罪悪感・・・かな?代智達と一緒に居るとずっとそんな考えが当時の私の中に巡って来てね・・・・ここにはもう居られない。居ちゃいけないって思ったんだ。艦娘になればそんな考えや罪悪感から解放される。そして代智にご飯を食べさせてやれる・・・そう思って艦娘になったの・・・それで代智たちに艦娘になった姿を見られるのも怖くてもうここには帰ってこないつもりだったんだけどね・・・」
阿賀野はそう語った。
「兄さん・・・俺達のせいでそんな・・・」
代智はそう言った。
「代智たちのせいなんかじゃないよ・・・元はと言えば私が父さんと母さんを・・・」
阿賀野がそう続けようとしたとき
「このバカ兄!兄さんはいつもそうだよ・・・いっつもいっつも出来もしないのに一人で抱え込んでさ・・・・!それは言うなっていったじゃないか!!」
代智は怒りの声を上げる
「だ・・・代智・・・!?」
阿賀野は滅多に怒らない代智のそんな声に驚きを隠せなかった。
「なんで俺に・・・俺達にそうなる前に少しも相談してくれなかったのさ!?俺だって・・・俺だって兄さんばっかりに負担かけてるのは悪いって思ってたよ!それなのに俺に高校くらいは出なきゃいけない。大丈夫俺がなんとかするからって言ったのは兄さんじゃないか・・・!それなのに・・・それなのに・・・・こんな事になってるなんて・・・・」
代智は溢れ出る感情を押さえられなくなり泣いた。
「代智・・・・ごめんね・・・・ごめんね・・・・」
そんな代智を見て阿賀野も泣いた。
「兄さん・・・それに艦娘だなんて・・・それこそ命がけの仕事じゃないか!兄さんが死んじゃったらそれこそ俺達はどうすりゃ良いんだよ!?」
代智は阿賀野の肩をつかみ声を荒げる
「大丈夫・・・私が沈んでも手当が入る事になってるから・・・」
阿賀野はそんな代智の迫力に押され目をそらす
「金の話じゃないんだよ!兄さんが死んだら凱矢と優宇だって悲しむだろ!?それに急に居なくなったんだから尚更じゃないか・・・・俺は凱矢と優宇になんて説明すりゃ良いんだよ・・・・!!」
代智はそう言って肩を落とす。
「私だって・・・私だって沈むのだって皆に会えなくなるのは怖かったよ・・・・!それにどんどん男だった時の感覚が消えていってこのままいけば代智達の事や父さん母さんの事も忘れちゃうのかもしれないって思ったら怖くて・・・・」
阿賀野はそう言って目を伏せた。
「ご・・・ごめん兄さん・・・言い過ぎた・・・」
代智もそれを見て少し阿賀野から離れた。
「でも今は違うの。」
阿賀野は代智を見据えた。
「今は・・・こんな私の事を阿藤大賀としても阿賀野としても受け入れてくれた人が居てその人がお前はお前だからって言ってくれたから。だからこうやって帰ってくる事が出来たの。でも艦娘になった姿を見られるのはどんな反応されるかわかんなかったし今でも怖いけど・・・。でもそのおかげで・・・その人や代智達を含めた皆を守りたい。私達みたいな悲しい思いをする人を減らせるようにしたいって心の底から思えるんだ。」
阿賀野は胸を張ってそう言った。
「そうなんだ。決意は固いんだね兄さん。それなら俺が口を挟む事も無いし、何より結局は俺達の為だもんね。そんなになってまで俺達の為に戦ってくれてるんだからまずはありがとうって言うよ。それに俺だって兄さんがどうなったって俺達の兄さんだと思ってるよ。だからせめて自分だけで抱え込むのはやめてここに居ちゃいけないなんて言わないでくれよ・・・ここはいつまでも兄さんを含めた俺達家族の家だからさ。俺が家の事はなんとかするから。」
「代智・・・・」
阿賀野は何かから解放されたようなそんな気分になった。
「ただ・・・」
代智がそう続ける
「優宇に寂しい思いをさせた償いだけはしてもらおうかな・・・?それでいつ頃帰るつもりなの?兄さん」
代智がなにやら不敵な笑みを浮かべる。
「えっ・・・・えーっと後2〜3日は居る予定・・・だけど。」
阿賀野は呆気にとられそう言った。
「それなら・・・ごにょごにょ・・・・」
代智は阿賀野に耳打ちをした。
「ええ〜!!私に母さんの真似をして優宇と話をしろですって!?」
「兄さんのバカ!声がデカいよ!」
阿賀野が驚きの声を出すがそれを即座に諌める
「でも何でそんな事・・・これ以上私に噓を重ねろって言うの?」
阿賀野は戸惑っていた。
「確かに優宇に噓を付く事になってしまうかもしれない。でもまだ優宇は母さんや父さんが死んだっていう事を認識出来てないんだよ・・・思い出すたびに母さん母さんっていう優宇の姿を見るのは俺や凱矢だって辛いんだ。だからせめて母さんの代わりに母さんとして優宇に別れを告げて欲しいんだよ。これなら誰も傷つく事もない。それに優宇だって時が来ればわかってくれるよ。それまでの優しい噓さ。」
代智はそう言った。
「でも何でそれを私に・・・?」
阿賀野は首を傾げる。
「夕方に会ったときから思ってたんだけど、今の兄さん。その・・・アレだ。母さんに似てるよ。」
代智は恥ずかしそうにそう言った。
「そ・・・そう・・・かな・・・・?」
阿賀野も恥ずかしそうに言った。
「母さんの服ならちょっと残ってるからさ、それでも着て優宇に少しでいいからその姿で話してやって欲しいんだ。そうだな・・・せっかくだし明日の夜決行しよう!」
代智はそう言って拳を固めた。
「うん・・・わかった。優宇のため・・・だもんね・・・・」
阿賀野はこれが正しい事ではないと思いつつ頷いた。
「ありがとう兄さん。凱矢はなんとかして明日はあの部屋で寝ないように誘導するから。それじゃあ頼んだよ。ふわぁ〜眠っ・・・今日は色んな事で頭使っちゃったから今日は勉強すんのヤメヤメ。それじゃあ兄さん。俺寝るから。お休み。」
代智は大きなあくびをしてリビングを後にした。
「うん・・・お休み」
阿賀野はそう返した。
「あっ、そうだ。兄さんの部屋、まだ入ってないだろ?最低限の掃除はしてるけど出て行ったときのままにしてるから。」
代智は去り際に思い出したようにそう言った。
そして一人残された阿賀野は
「私も寝ようかな・・・・今から優宇のベッドに入ると起こしちゃうかもしれないから久しぶりに自分の部屋で寝よっと。
阿賀野はそう呟いて自分の部屋へ向かい部屋の扉を開いた。
「2年くらいぶり・・・かな?本当になにも変わってない・・・懐かしいなぁ」
阿賀野は部屋をきょろきょろと見回した。そしてベッドに横になる。
「このベッドも久しぶり・・・ん?あれは・・・」
阿賀野がふと天井を見上げると何やら紙切れのようなものが天井に張り付いていた。
「なんだろ・・・?あれ」
阿賀野は部屋の隅に置いてあった洞爺湖と書かれた木刀でその天井に張り付いた紙切れを引っ掛けて天井から剥がす。
そしてその紙切れははらりとベッドの上へ落ちた。
その紙切れには拝啓いつかの阿藤大賀様へと書かれていた。
「なんだっけこれ・・・?」
阿賀野は首を傾げ折り畳まれていたその紙を開く。そこにはこう書かれていた。
拝啓いつかの阿藤大賀様へ
あなたがこのメモを読んでいると言う事はあなたは家に帰って来たと言う事ですね。もしそうならば今のあなたはどうやら俺達の事を忘れていなかったと言う事ですね?そしてあなたは自分が艦娘になった事を弟達に打ち明け、弟達はあなたを阿藤大賀として迎え入れてくれたと言う事でしょうか?そうなら嬉しい限りです。そんな今のあなたは艦娘としての職務を全うしているのでしょうか?それともそんな事は既に終わっていて家に帰って来たのでしょうか?どちらにせよこれを読んでいると言う事は、あなたが家族の事を忘れていないと言う事だと思っています。もしそうならこれからも代智、凱矢、優宇を大切な家族を幸せにしてあげてください。そして身体に気をつけて弟達の為にも元気で居てください。そして何より自分自身を忘れないでください。
阿藤大賀より。
阿賀野はそんな紙切れを読み終えた時クスっと笑った
「ふふっ・・・そういえばこんなの書いて出て行ったっけ・・・・もう二度と帰らないとか言っておきながら未練タラタラじゃない・・・情けないなぁ私・・・」
阿賀野はいろいろな感情が入り交じり、目から涙をこぼした。
「ごめんね大賀。今の阿賀野は結局未練も捨てられなかったし結局自分からは自分が艦娘になっただなんて弟達には言えない弱虫のまんまだよ・・・でも大丈夫。今の私は阿賀野だけどしっかり大賀だから・・・・」
阿賀野は自分に言い聞かせるようにそう言った。
「ふわぁ・・・・私ももう眠いや。寝よ。」
阿賀野は懐かしいベッドの感触ですぐに眠りへと誘われた。
そして次の日
「兄さーん入るよ」
という代智の声で阿賀野は目を覚ました。
「兄さん!このサラシ置きっぱなしだったじゃないか!それに服とか入れてたキャリーバッグも玄関に置きっぱだったし人に秘密にしといて欲しいって言ってたのにバレたらどうすんのさ!?抜けてる所も全然変わってないね!!」
代智は皮肉混じりにそう言ってキャリーバッグとサラシを阿賀野に手渡した。
「あ、ありがとう・・・私変わってない・・・?」
阿賀野は恐る恐る聞く
「ああ変わってないよ。喋り方とかは全然変わったけどそのまぬけな所とか独りよがりなところは全くね」
代智はそう言った
「ふふっ・・そう。ありがと。代智」
阿賀野はそう言って笑った。
「ああもう!調子狂うなぁその喋り方・・・まあいいやもう朝飯できてるから降りて来てくれよ。もちろんその胸はなんとかしてからね。」
代智はそう言って戸を閉めた。
「代智に変わってないって言われた・・・良かったぁ」
阿賀野は少し安心した。
そして胸を昨晩のようにはだけないようにキツくサラシで縛り上げ、代智達が待つリビングへ向かった。
「おはよう」
阿賀野は声を低くして言う
「兄ちゃんおはよう。昨日は良く眠れた?」
凱矢がそう声をかけてくる
「ああ。よく眠れたよ」
阿賀野はそう頷く
そして優宇が阿賀野に寄ってくる
「たいがおにーちゃん・・・よかったぁ・・・起きたら居なかったからまた居なくなっちゃったかと思ったよ・・・」
優はそう言った。
「ごめんな優宇。ちょっと自分の部屋が気になってさ。」
阿賀野は優宇の頭を撫でた。そこに代智が皿を持ってやってくる。
「兄さん。はい、ベーコンエッグ。冷めないうちにどうぞ。」
代智はそう言って皿をテーブルに置いた。
「ありがとう代智。それじゃあ食べるか。」
「食べるも何も皆兄さん待ちだよそれじゃあ凱矢と優宇も食べな。ほい。」
代智は阿賀野以外の分の皿もテーブルに置いた。
「それじゃあ頂きます。と」
代智がそう言って手を合わせると
他の3人も
「いただきまーす」
と声を合わせて朝食を食べ始める。
(やっぱり家族と食べる朝ご飯はおいしいや・・・)
阿賀野はそう思いながらベーコンエッグをかき込んだ。
そしてその日の深夜・・・
「兄さん、準備は出来てる?」
「う・・・うん。」
代智と阿賀野は母の使っていた部屋に居た。
「代智、どう・・・かな?ちょっと髪型も母さんに似せてみたけど・・・」
阿賀野は母の着ていた服を身に纏っていた。
「ああ。似合ってるよ。本当に母さんみたいだ。」
代智はそう言って頷いた。
「ただ・・・・ちょっと胸がキツい・・・・かな?」
阿賀野はボソっとそう言った
「えっ!?兄さん今母さんより胸あるって事かよ・・・いやなんでも無い・・・少しの辛抱だから我慢してくれ・・・・凱矢には俺の部屋で寝てもらってるから。今あの部屋には優宇しか居ないよ。俺はこっそり後ろから見守ってるから。それじゃあ決行だ!」
代智がそう言うと2人は優宇の眠る部屋へと向かった。
(う〜ん請け負ったはいいけど緊張する・・・・私の母さんの真似・・・気付かれないかな・・・?)
阿賀野は不安なまま優宇にを揺り起こした。
「優宇ちゃん・・・・起きて」
(大丈夫よ阿賀野・・・母さんはこんな感じだった筈)
すると優宇は目を開いた
「う・・・・う〜ん・・・誰・・・・?」
優宇はそう言って目を擦ったそして見開いた目で阿賀野を見た。
「優宇ちゃん、大きくなったわね。」
阿賀野はそう言って優宇の頬を撫でる
「おっ・・・・おかーさん!?」
優宇は声を上げた
「しーっ・・・静かに・・・今お母さんがここに居る事はみんなにはナイショなの。急にいなくなったりしてごめんね優宇ちゃん。」
阿賀野はそう言って優宇の唇に指を当てた
「う・・・うんわかったよおかーさん。僕寂しかったんだよ?これからずっと一緒に居られるの!?おとーさんは!!!!?」
優宇は阿賀野を質問攻めをする
「ごめんね優宇ちゃん。お母さんこれからまた行かなきゃいけないの。もう帰ってこられないかもしれない。だから優宇ちゃんにお別れを言いに来たのよ」
「行くって何処に?僕も連れていって!!」
優宇はそう言って阿賀野を抱きしめる。
「優宇ちゃん・・・そこはとっても遠い遠いところで優宇ちゃんは連れていけないの・・・」
阿賀野は優宇から目をそらす。
「やだやだ!!せっかくおかーさんが帰って来たんだからそんな所行くのやめよ!?僕と一緒に居てよ!!」
優宇はそう言ってダダをこね始める。
「優宇ちゃん・・・そんなずっとダダをこねてばっかりで兄さん達を困らせてばっかりじゃいけないのよ?優宇ちゃんわかって・・・」
阿賀野は優宇にそう優しく諭す
「でも・・・だって・・・・皆おかーさんの事待ってるに違いないよ!」
優宇はそう言った。
「ごめんなさい。お母さんだって皆と一緒に居たい。でもお母さんもうここには居られないの。でも大丈夫。私はいつだって優宇のたちの心の中に居るわ。」
「こころの・・・なか?」
「ええ。辛い時悲しい時はお母さんの事、お父さんの事思い出してね。きっとそこに私達は居るわ。それにどれだけ離れていてもお母さんは優宇ちゃんの事きっと見守ってるから。だからいい子で居てね」
阿賀野は優宇の頭を撫でた。
「うん!わかった!僕いい子で居る!」
優宇はそう言って深く頷く
「ありがとう優宇ちゃん。これでお母さん安心して行けるわ。それじゃあ優宇ちゃん。お母さんから最後のお願い。60秒間目をつぶっててくれる?」
「うん!」
「優宇ちゃんはいい子ね。それじゃあバイバイ優宇ちゃん。元気でね」
「バイバイおかーさん!僕頑張るよ!」
阿賀野は目をつぶる優宇の額にキスをして部屋を後にした。そして代智が待機していたリビングへ大急ぎで向かった。
「はあ・・・・はあ・・・・・・これで良かったのよね・・・?」
阿賀野は息を上げる。
「ああ。これで当分は大丈夫だと思うよ。きっとそのうち優宇が死を理解出来るようになる日まで持てば良いけどね。無茶なお願いに付き合ってくれてありがとう兄さん。それで・・・その・・・・もう一個お願いがあるんだけど・・・」
代智はなにやらもじもじしている
「何?私にできることなら。」
阿賀野は耳を傾ける
「えーっと・・・その・・・・折角そんな恰好なんだし・・・・あの・・・頭・・・撫でてくれないかなって。」
代智は恥ずかしそうにそう言った。
「良いよ。」
阿賀野はそう言って代智を抱き寄せた。
「バッ!そこまでやれって言って無いだろ!!」
「良いの良いの。今だけは私が母さんだと思って。代智・・・私が居ない間一人で頑張ってくれてくれてたんだもんね。寂しかったよね?」
阿賀野は代智の頭を撫でた
「やめ・・・それ以上は・・・泣いちゃうからぁ・・・・」
代智は必死で涙をこらえていた。
「私の胸の中で今日は思いっきり泣いて良いよ。私の分も優宇や凱矢の世話をしてくれて。ありがとう代智。」
「うっ・・・うわああああああん!!!ダメだなぁ・・・俺・・・・もう泣かないって決めてたのにっ・・・兄さんが帰って来てから泣いてばっかりだよぉおおおおおおお」
代智は阿賀野の胸の中で思いっきり泣いた。
「よしよし。これは大賀としての私の気持ち。これからも2人のこと任せる事になっちゃうと思うけど私は私で頑張るから・・・2人のことよろしくね」
阿賀野はそう優しく代智に語りかけた。
「うん。兄さん・・・ありがとう・・・俺頑張るから!!」
代智はそう言い阿賀野から離れた。
「代智。もう、良いの?もっと甘えてくれても良いんだよ?今日は私がお母さんだから」
「本当にすぐ調子に乗るところも兄さんのまんまだ・・・兄さんは兄さんだよ。それに良い年こいて胸のある兄貴の胸の中でわんわん泣いてるようじゃ弟達に笑われるからね。ありがとう兄さん。兄さんこそ無事で居てくれよな」
「ふふっ!そう・・・だよね・・・うん。約束する!」
こうして2日目の夜も更けて行った。
そして3日目もすぐに過去り、4日目の早朝。阿賀野はこっそり家を抜け出す事にした。
「よしそろそろ始発の時間だけど今度こそ皆寝てるわね・・・それじゃあ皆元気でね・・・」
阿賀野はそう呟き、玄関に差しかかろうとしたその時
「やっぱりね」
と後ろから声をかけられる。
「だっ、代智!?」
「兄さんの事だ。またなんにも言わずに居なくなると思ってたよ。せめて俺だけでも見送らせてよ。」
それを見た阿賀野は涙を浮かべる。
「代智のバカ!折角一人でこっそり抜け出そうと思ったのに見送られてたら私・・・名残惜しくて鎮守府に帰りたくなくなっちゃうじゃない!!」
阿賀野は少し怒って代智に言う
「バカは兄さんだよ。一人で出て行ったって俺が見送ったって一緒さ。さあ。行くんだろ?約束したじゃないか。家の事は任せてもらって構わないけどそのかわり兄さんは艦娘として頑張るって」
「そう・・・だったわね。それじゃあ元気でね。代智。凱矢と優宇によろしく伝えておいて。代智も身体にだけは気をつけてね。それじゃあさよなら。」
そして阿賀野が玄関のドアを開けると
「おっと兄さんこれ忘れ物」
と代智が何かを阿賀野に投げつけ阿賀野はそれをキャッチする。
「これ・・・カギ?」
代智が投げつけた物はカギだった。
「前に出て行った時からの忘れ物!家のカギも持たずに出て行くなんてどういうつもりなんだ?兄さん!いつだって帰って来てくれよな。ここはいつまでも兄さんと俺達家族の家だし兄さんはどうなったって俺達の兄さんである事に代わりは無いんだからさ。それに挨拶はさよならじゃないだろ?」
その時阿賀野は確信した。
(やっぱり提督さん、どことなくだけど代智に似てるんだ。)
そう思うと阿賀野に自然と笑みがこぼれた。
「うん!ありがと。行ってきます。代智!」
「ああ行ってらっしゃい兄さん。絶対また帰って来てくれよ!」
「うん!絶対また帰ってくる!だからそれまで弟達をお願いね」
阿賀野は大智に別れを告げ、故郷を後にした。