ノンケ提督が艦シーメール鎮守府に着任しました。 作:ゔぁいらす
ファミレスを出た俺と阿賀野は映画館へと向かっていた。
「提督さーん。席取っといて欲しいんだけど良い?」
阿賀野は映画館に着くや否やそう言った。
「別に良いけど何かあんのか?」
「うん!ポップコーンとか買ってくるね。提督さんは要る?」
コイツまた食べ物の話してるよ・・・俺は少し呆れてため息を吐いた
「あー今また食べ物の話してるって思ったでしょ〜?」
阿賀野はそう言って俺に突っかかって来た
「思ったでしょ〜?・・・じゃねぇよお前さっきどんだけ食ったと思ってんだよ!?」
「だって映画館だよ?ポップコーン食べなきゃ映画館じゃないじゃん!!ここの映画館のポップコーンは美味しいから別バラなの!!それにこの映画館のポップコーンは・・・・・・・」
それから阿賀野のポップコーンに対する熱弁が始まり俺はその熱気に圧倒されてしまった。
「あーわかった!わかったから!!全くしょうがねぇなぁ買ってこいよ。俺が席とって来てやるから」
俺が呆れてそう言うと
「ありがと提督さん。それじゃあ阿賀野ポップコーン買いに行って来るから席はそうだなぁ・・・真ん中よりちょっと後ろの方の席が良いかなぁ。じゃあ行ってくるね提督さん。」
阿賀野はそう注文をつけるとポップコーン売り場へ走って行ってしまった。
それを俺はやれやれと思いながら見送り席を取るためチケット売り場へと並んだ。
そして俺は席を取り終わり、阿賀野と合流した。
「おい阿賀野、席とって来たぞ。ちゃんとお前のいった通りの席にしといたから」
「ありがと。提督さんそれじゃあ早く行って座っちゃおっか」
そう言っている阿賀野の持つお盆には溢れんばかりのポップコーンが乗せられていた。大して腹は減っていなかったがバターの香りと目の前のポップコーンを見ていると少しつまみたくなってしまう。
「おう。そうだな。折角だし俺にもちょっとポップコーン分けてくれよな。席とって来てやったんだから」
俺は少し恩着せがましく阿賀野に頼んでみた。すると
「もーしょうがないなぁ提督さんは。でも今日は特別に分けてあげる。でもちょっとだけだからね」
阿賀野は少し偉そうにそう言った。
「まあこんなところで話してるのもなんだしもう入るか。3番スクリーンだってさ」
「うん!」
俺は阿賀野にチケットを手渡し3番スクリーンへと入った。
その頃・・・
(謙を監視s・・・ゲフンゲフン!!じゃ無かった見守る為に来た物の何処に要るか分からないなんて・・・・)
大淀は吹雪を連れてショッピングモール内を彷徨っていた。
「大淀さん!ゲームセンターよっても良いですか?」
吹雪は目を輝かせてゲームセンターを指差している。
「うーん当てもなく歩いてても仕方ないし、ちょっと寄って行きましょうか」
大淀は吹雪を半ば強引に連れて来てしまった事を少し悪いと感じゲームセンターで時間をつぶす事にした。
「やったぁ!私、この間司令官と遊びに来た時太鼓叩く奴やったんですよ。私、アレやりたいです!」
吹雪は嬉しそうにそう言った。
「私も昔良く提督と一緒にやったなぁ太鼓の鉄人。良いわ。私の太鼓さばき見せてあげる」
大淀も懐かしくなりはり切って太鼓の鉄人の筐体へと向かった。
そして・・・
俺達は映画が終わり、俺達は映画館を出る。
「いや〜弩ジラなんて弩ジラ最終戦争以来見て無かったし逆に新鮮だったなぁ〜」
俺は阿賀野にそう会話を振ってみる。
「うんうん!最期に弩ジラが親指を立てて溶鉱炉に沈むシーンは涙無しには見られなかったよ!」
そんなこんなで映画の内容を2人で語り合った。あー阿賀野が女の子だったらこの状況も文句は無いんだけどなぁ・・・・そんな事を考えていると
「ねえ提督さん・・・・」
急に阿賀野が真剣な表情をする
「どっ、どうしたんだよ阿賀野・・・・」
俺はそんな表情に驚く
「あのね・・・?付き合って欲しいんだけど良いかな・・・?ちょっと恥ずかしいんだけど・・・・」
「ええっ!?な・・・・なんだよ急に・・・」
えっ!?このタイミングで告白!?いやいやいや急過ぎるだろ!!それに何回も言ってるけど阿賀野は男なんだぞ????しかし初めて会った時よりもなんか心なしか顔も更にかわいく・・・いや女の子らしくなってるような気がするし・・・いや元々かわい・・・・いやなんでも無いなんでも無い・・・・落ち着け・・・落ち着くんだ俺・・・・
俺が脳内でこんな思考を走り巡らせていると・・・
「買物・・・付き合って欲しいの。ほら、実家に帰る事になったでしょ?だから男物の服買っとかないとって思って。提督さんならそれっぽい服選んでくれそうだなーって思って・・・ダメ?」
なんだよおおおおそんなことかぁぁぁ俺は少し残念だったがそれと同じくらい安心した。こんな事前にもあったな・・・・
「お、おう分かった。俺が言い出した事だしな。それくらいなら付き合ってやるよ」
「ほんと?よかったぁ。それじゃあむらさめ行こっか!提督さん早く早く!!」
阿賀野は嬉しそうに俺の手を引いファッションセンターむらさめへと向かった。
その頃・・・
「うーん謙は何処なの・・・」
未だ大淀と吹雪はショッピングモールを彷徨っていた
「大淀さん・・・ちょっと休憩しません?」
吹雪は大淀にそう言った。そんな時である。
「あっ!」
吹雪が何かに気付く
「どうしたの吹雪ちゃん?」
大淀は食いつく。
「あれ司令官と阿賀野さんじゃないですか?」
吹雪は2人を指差す。
「うーん確かに提督と阿賀野ね。服屋に入って行ったけど何する気でしょう・・・」
大淀の頭には服屋でイチャイチャする2人の映像が浮かぶ
『てーとくさーんこの服似合ってるかなぁ〜?』
『ハッハッハッ似合ってるぞ阿賀野〜まあお前はどんな服を着てもお前の魅力の前では霞んじまうけどな』
『も〜提督さんったらぁ〜きゃっ!て、提督さん!?』
『阿賀野・・・俺もう我慢出来ねえよ・・・』
『提督さん・・・』
『阿賀野・・・』
(ダメだ!このままでは謙が阿賀野の毒牙にかかってしまう!!何としてでも阻止しなくては・・・!!でもいきなり突っ込んで行くのはマズい・・・まずは観察よ。観察するのよ大淀!!)
大淀の頭の中の謙が相当美化されていたのはさておき、大淀はやっと謙を見つける事ができ、少し舞い上がっていたのだ。
しかし大淀は出て行ったところで謙に何故出て来たのかと聞かれた場合その理由を自分自身が答えられない事に気付き、一瞬で正気を取り戻し、何かをひらめいた。
「ね、ねえ吹雪ちゃん?」
「なんですか大淀さん?」
「ちょっと耳貸して・・・」
大淀は吹雪に何かを耳打ちした。
「それ面白そうですね!私やってみます!!」
吹雪はそう言ってむらさめの方へと走って行った。
その頃阿賀野と謙は・・・
「いらっしゃーいなの!」
あっ、この間の変わった店員だ。俺はそんな事を思っていると
「ああ育田さん久しぶり〜」
えっ!?知り合い!?普通に阿賀野が店員と話を始めたので驚く。でもこの店良く来るって言ってたもんな普通か。
「阿賀野ちゃん元気そうでよかったの〜おっぱいまた大きくなったの?」
「あーうん。1カップくらいかな〜」
なにやら楽しそうに2人はガールズトークを展開している。
「あっ、この間のお兄さん!阿賀野ちゃんのお知り合いだったなの?」
店員は俺に話を振ってくる。
「ああ・・・はい。まあ一応」
俺は適当に返事を返す。
「何〜?彼氏さんなの?阿賀野ちゃんも隅に置けないのね!」
「えへへーでしょ〜?」
阿賀野は胸を張って答える
「おいちょっと待て!俺はお前の彼氏じゃないぞ!」
俺はすかさず修正を入れる。
「え〜提督さんのいじわる〜」
阿賀野は頬を膨らませる。
「えっ!?提督さんだったなの?それじゃあ今の××鎮守府の提督さん・・・?」
店員は驚いてこちらを向く
「うん。そうだよ。今日は阿賀野の服選びに付き合ってもらおうと思って」
ん?ちょっと待て・・・今の・・・ってどういう事だ?俺がそんな事を思っていると
「分かったなの!どんな服を探してるの?」
「今度弟達に合う事になってね。男物の服を買いに来たの」
阿賀野はそう店員に言った。
「あー阿賀野ちゃんあれだけもう会わないって言ってたのに覚悟決めたのね?分かったなのそれっぽい服探して来てあげるからちょ〜っと待ってるのね!!」
店員はそう言って店の奥に消えて行った。ん・・・?ちょっと待てよ、前の・・とか一体何者なんだこの店員?俺はそう思ったので思い切って阿賀野に聞いてみる事にした。
「なあ、阿賀野・・・」
「何?提督さん」
「あの店員知り合いっぽかったし鎮守府の事情も知ってそうだったし一体何者なんだ?」
俺がそう聞くと
「あー育田さんは阿賀野達の同業者だよ〜元だけど」
阿賀野はそう答えた
「えっ!?元同業者って事はあの人も艦娘なのか?」
「うん。阿賀野のセンパイで色々教えてくれたんだ〜右も左も分からなかった阿賀野に女の子の服の選び方とかお化粧のやり方とか色々教えてくれたの。ああ見えて結構しっかりしてるんだから!」
なるほどそう言う事だったのか。俺は少し納得した。そして
「じゃあお前が男だってのも知ってるんだな。急に男モノの服を・・・とか言い出したときは少し焦ったけど」
と俺が言うと
「当たり前でしょ。だって育田さんも男なんだもん」
と阿賀野はあっさりとそう言った。
「えっ・・・えええええええええええ!!!!!!」
俺は驚きの余り声を出してしまう。そんな時
「阿賀野ちゃ〜んそれっぽい服持って来たなの。それとお兄さんそんな声出してどうしたなの〜?」
店員が戻って来た。
「えっ・・・えっとあの・・・」
俺は阿賀野の口から出た事実に驚愕していた。同じような事は何度かあったがまさかこんな普通に黙ってれば美人な人も男だなんて・・・もう性別ってなんだろう俺はそんな事を考えていると
「あー育田さん。提督さんに阿賀野のセンパイだって話してたの〜」
と阿賀野が店員と話している
「ええ〜!もうスク水と魚雷一丁で海に出てたなんて今となっては恥ずかしいのね〜」
「育田さん!そこまで言って無いって〜」
店員は顔を赤くして顔を手で覆い、それを見て阿賀野は笑っていた。えっスク水一丁・・・・・?その言葉に俺の好奇心は刺激される。
「あのー・・・スク水って・・・」
俺がそう聞くと
「ああ育田さんはね、潜水艦だったの」
「はあ潜水艦・・・・」
俺はそれがなんのこっちゃ分からず言葉に詰まっていると
「フフフ・・・バレてしまっては仕方ないのね・・・・このショップ店員育田は世を忍ぶ借りの姿・・・しかしてその正体は潜水艦伊19!イクって呼ばれてたなの!」
はえ〜こりゃまた濃いい人だなぁ・・・・そう言われてもそれがスク水と同関係があるのか分からなかったが阿賀野がおもむろにスマホを弄りだし。
「はいこれ。艦娘時代の育田さんと撮った写真なんだけど」
阿賀野が写真を見せてくる。そこには今より髪が短くどことなく男っぽい阿賀野とその隣にスク水を来たあの店員が写っていた。
「ハハッ阿賀野今と全然違うな。ところでなんで店員・・・いや育田さんはスク水なんだ?」
俺がその疑問を阿賀野に告げると
「ああ潜水艦は基本スク水が制服みたいな物だからね。ねー育田さん?」
「そうなの!股間が目立たないようにするの大変だったのね!いつもサポーターがキツくて股が痛かったの」
と阿賀野と育田さんは言った艦娘って良くわかんねぇなあ・・・・
「へぇ〜そうなんですか・・・」
俺は適当に返事を返すと育田さんが思い出したように
「あっ、そうだ。服持って来たの忘れてたなの!阿賀野ちゃん、これ着てみるの!きっとかっこいいなの!」
そう言って育田さんは阿賀野に服を渡した。
「そうだった阿賀野も忘れてた。それじゃあ試着してくるね提督さん!あっ、覗いちゃダメだからね〜?」
阿賀野はそう言って試着室へ入って行った。
「誰が覗くか!!」
俺は阿賀野にそう言ってやった。すると
「それじゃあイクはこれで失礼するの!阿賀野ちゃんの服が決まったらレジまで来てねなの!あっ、この間来た吹雪ちゃん・・・だっけ?あの娘もまた連れて来てくれたら可愛い服選んであげるの!それじゃあまたね!新しい提督さん!あっ、いらっしゃいませなの〜」
といって育田さんは他の客の接客に向かった。
変わった人だったなぁ・・・・しかしまさかあの人が艦娘だったとは・・・しかもまた男・・・
この短時間でいろいろな事が起こりすぎて頭の中が少し混乱していた。そして少しぼけーっとしていると
「提督さーん」
と阿賀野の呼ぶ声がする。
「おう、なんだ?着替え終わったのか?」
俺は阿賀野に聞いてやる。
「うん。ちょっと見て欲しいんだけど良いかな?」
「何を今更」
「わかった〜ビックリしないでよね。」
といって試着室のカーテンが開けられた。そこにはさっきまでのおっとりした雰囲気の少女はおらず、後ろで髪を1本に束ねた青年が立っていた。少し前に男装している所を見たが、作業服みたいな恰好で帽子を深く被っていて顔が良く見えなかったが、カジュアルな恰好をするとこんな感じになるのか・・・やっぱり端から見れば俺なんかに勝ち目のないイケメンである。ただ前より少し女顔っぽいかも知れない。
「ど・・・・どうかな・・・?」
阿賀野は少し恥ずかしそうにそう言った。見た目が見た目だけに阿賀野の声に違和感を覚えてしまうが
「ああ、似合ってると思う・・・ぞ?普通にかっこいいと思う」
俺は率直な感想を言うと
「やったぁ!阿賀野うれしい!変だったらどうしようかと思った〜!!」
と言って俺に抱きついてくる
「あ〜!!やめろ!その恰好で引っ付くな!変な目で見られたらどうすんだよ!!!」
「え〜ちょっとくらい良いじゃない〜ただ恰好が変わっただけで私は私なんでしょ〜」
阿賀野はここぞとばかりに俺が吐いたセリフを悪用して来た。
「だあああやめろおおおおお離してくれええええ!!」
俺と阿賀野がそんなやり取りをしていると
「あらら?男同士でお熱いのね!」
育田さんが少し意地の悪そうな笑みを浮かべてこちらを見ている
「だああああそんな誤解されるような事言わないでくださいよおおお育田さんも見てないで助けてくださいよおおお!!!」
俺の悲鳴は店にこだまし、逆に他の客や店員に冷ややかな目で見られてしまった。そして
「ありがとうなの〜!またきてね〜」
阿賀野は元の服に着替え直した後会計を終え俺達はむらさめを後にした。
「はあ〜散々な目に遭った・・・・」
今日一日の疲れがどっと出た気がした。
「え〜楽しかったじゃない」
呑気だなぁコイツは
「お前一体誰のせいでこんな疲れてると思ってんだよ!」
俺は少し起こって阿賀野にそう言った。
「えへへ〜ごめんごめん」
阿賀野はいつも通り悪びれる様子もないが・・・・
「あっ、そうだ提督さん。このショッピングモールの屋上行ってみない?」
急に阿賀野にそう聞かれる。特に断る理由も無いので
「別に良いけど何があるんだ?」
と聞いてみると
「あのね、ここの屋上から見る夕日がとっても綺麗なんだ〜一緒に見に行こうよ!丁度良い時間だし」
「へえ〜そうなのか。じゃあ行ってみるか。もうやる事も無いしな。」
そして俺達は屋上へ向かった。そこにはパンダの乗り物やらこじんまりとした遊園地のような空間が広がっていた。
「おお!屋上遊園地なんて今時珍しいな」
「そうなの!珍しいでしょ。この辺りここ以外にあんまりこういう所も無いからね〜」
阿賀野はそう言った。その夕日で赤く染まった遊園地はどこか良いムードって言うんだろうか?なにやら良い感じな雰囲気を漂わせていた。
「なあ」
「提督さん」
俺と阿賀野は同時に口を開いた。
「あっ、阿賀野から言ってくれよ。
「ううん。提督さんから・・・・」
なんだよこれ!?ラブコメとかで良くある奴じゃん!!なんか更に雰囲気が良くなっているような気がする・・・
「ああ。じゃ、じゃあ俺から・・・阿賀野、お前に弟達に会いに行けって言ったときはお前嫌がると思ってたのに結構すんなりだったな。俺も結構迷ってたんだぜ?」
「阿賀野もその事話そうと思ってたの。この間までの阿賀野だったら絶対そんな事言われても会いに行こうだなんて思わなかった。でも提督さんのおかげ・・・かな。阿賀野ね。提督さんにとっても感謝してるんだ・・・それでね?」
阿賀野はそう言って俺を見つめてくる。ああ!これっ!漫画とかで呼んだ事ある奴!ギャルゲとかでやった事ある奴だ!!これギャルゲのシナリオクリア直前の奴だ!!いやいや待て待てそれじゃあこの先に待ってるのは・・・いやいや待て待て阿賀野は男なんだぞ!?
「それでね、阿賀野ね、言おうかどうかずっと迷ってたんだけどね。いつも提督さんのことからかってたけど阿賀野本当に提督さんの事・・・・」
待て待て!それ以上はいけない!!俺はどう返せば良いのか分からない。誰か!誰か止めてくれ!!!そう思った刹那
「ちょっと待ったぁ!!」
何やらこちらに向けて大声が飛んでくる。
「なっ!?」
俺はビックリしてその声の方を振り向く。するとそこには瓶底眼鏡をかけたツインテールの女性が立っていた。
「えっ!?えーっとどちら様です?」
俺はそうその女性に聞く。
「はあ・・・はあ・・・謙・・・・」
息を上げて俺の名前を呼ぶ女性。なんでこの人俺の名前知ってるんだ?そう思って居るとその女性は瓶底眼鏡を外す。
「おっ・・・お前・・・淀屋か・・・?」
「ええ〜大淀!なの?」
俺はいつも見慣れた大淀の姿では無かったのではっきりとは分からなかったがあの目は淀屋の目だ。
そしてそれを聞いた阿賀野も驚きの声を上げる。
しかしそんな淀屋の目は今にも泣き出しそうだった。
「お前も来てたのか・・・・なんでそんな恰好してるんだよ・・・それに一体どうしたんだ?」
「謙・・・私だって・・・・私だって謙の事・・・・・・・」
ん?なんだろう?俺がどうしたって?
「私だって謙の事がッ・・・・・・・」
淀屋がそう言いかけた瞬間
ピンポンパンポーン
と館内放送が流れる。
××鎮守府より起こしの大淀様・・・迷子の吹雪ちゃんがお待ちです。迷子センターまでお越し下さい。
ピンポンパンポーン
少しその場所には静寂が流れた。
「な、なあ淀屋・・・」
「ななななな何?謙」
「吹雪も来てたんだな。」
「ええ!?ああうん!そうなの!!どっかではぐれちゃったのかな〜それじゃあ私、吹雪ちゃんを迎えに行ってくるからごゆっくり〜」
淀屋は何かを誤摩化すようにそう言ってすたこらさっさと走り去ってしまった。なんだったんだ今の・・・
そしてまたその場には静寂が訪れ
「な、なあ阿賀野・・・・」
「なに?提督さん?」
俺と阿賀野は気まずい雰囲気の中に取り残される。ここは今のうちに予防線を張っておかないと・・・お互いそっちの方が幸せな筈だ。
「さっ・・・さっきの続きの事なんだけどな・・・」
俺が言いかけると
「ん?ああさっきの事ね!アレはただいつも提督さんの反応が面白くってからかっちゃってごめんね!って言いたかっただけなの!それだけ!それだけだから!!あっ!!!そろそろ帰らなきゃ!阿賀野今日夕飯の当番だったの忘れてた!買物も済ませてないし急いで帰らなきゃ!バス2時間に1本しか来ないし阿賀野先に帰るね!吹雪ちゃんが心配だからそっち見に行ってあげて!それじゃあ後でね!」
そう言って阿賀野も一人走り去ってしまった。
一人残された俺はとりあえず吹雪が居るという迷子センターまで行く事にした。
そして迷子センターに行くとそこには淀屋と吹雪が居て
「うわあああんお兄ちゃあああああああん」
と吹雪が俺に飛び込んでくる
「バカ!お兄ちゃんはやめろって言っただろ!?」
俺はその飛び込んで来た吹雪を押さえる
「だって・・・だって・・・大淀さんにおに・・・じゃなかった司令官さんを見張ってるようにって言われて・・・ぐすん・・・隠れてたらいつの間にかみんな居なくなってて・・・私寂しくて・・・・ひっく・・・」
「ああ分かった分かった」
俺は吹雪の頭をやさしく撫でてやった
「ところで淀屋・・・?」
「えっ!?なんですか提督!?」
急によそよそしくなる淀屋
「吹雪に見張っとけって言ってたってどういう事だよ?」
俺がそう淀屋に聞くと
「え!え〜っとそっ、それは・・・・・・」
淀屋は口をつまらせている。すると
「大淀さんは探偵ごっこをやろうって私に言ってくれたんです!大淀さんは悪くないんです!!」
と吹雪は言った。理由はともかくこんな状態でも淀屋を庇うなんてやっぱりええ子や・・・・
「ま、まあいいや。じゃあそろそろ帰ろうぜ」
俺は淀屋と吹雪に言った
「そっ、そうですね!帰りましょうか!」
淀屋もそう言い、迷子センターを後にした。
「いや〜お前が私も・・・って言ったときは焦ったけどお前に限ってそんな事は無いよな!単に阿賀野となんかそれっぽい感じになってたから止めてくれたんだよな。やっぱ持つべき者は友達だぜ。ありがとう!」
俺がそう言って手を差し出すと
「えっ、う・・うん!そそうなの!あのままだと謙が大変だろうなーって思って!!」
淀屋はまた少し寂しそうな顔をしてそう言った。最近コイツのこんな表情を良く見ている気がする。
「おうそうだよな!やっぱりお前みたいな友達を持てて俺は幸せだよ。それとその私服めちゃくちゃ可愛いぞ!」
俺は淀屋にそう言った。
「もう!謙はいつもそうやって・・・・いやなんでも無い。」
淀屋は嬉しそうだったがやはり何処か寂しそうだった。
そして淀屋が乗って来た車に乗せてもらい帰路についた俺達だったが鎮守府周辺に差しかかった時俺は海沿いで一人ぽつんと海を眺めている見覚えのある人影を見かけた。
「おい、淀屋、ちょっと車止めてくれないか?」
「え、ええ」
「俺、ここで降りるわ。こっから歩いて帰るから先に行っててくれ」
俺は淀屋にそう言って車から降り、その人影の元へ走った。
「よおソラ。こんな時間に一人で海なんか見てどうしたんだ?」
そう海を眺めていた人影はいつも何かと話しかけてくる地元のガキの天だ。
「あっ、提督のお兄さん。そっちこそこんな時間に何しに来たの?」
「いや、俺はお前の姿を見かけてな。こんな時間に一人で居るなんてなんか有りそうだなって思って」
俺がそう言うとソラは少し笑った
「ホントにおせっかいだねお兄さんは。僕はただ海を眺めてただけだよ」
そう話すが、ソラは何やら悲しそうだった。
「ホントにそれだけか?なんか泣きそうな顔してるぞ?」
俺がそう聞くと
「うん。今日はお父さんとお母さんの命日なんだ。最初は海を眺めてるとひょっこり帰って来たりしないかな・・・なんて思って眺めてたのがいつの間にか毎年の習慣みたいになっちゃって・・・・」
ソラはそう話してくれた。
「そうか・・・・邪魔して悪かったな。」
俺がそう言うと
「いや。今までだれも話しかけてくれなかったし、ちょっと寂しかったからほんの少しだけ嬉しかった・・・かな。それに最後にお兄さんに会えて嬉しかったよ」
ん?今最後って言ったか?
「ソラ、最後ってどういう事だよ・・・?」
俺が聞くと
「ああうん。今僕一人で暮らしてるんだけど今年から中学生にもなるのに学校にも行かずに居るのはダメだってどっかの人が言ってね。施設に入る事になったんだ。で、明日の朝にはここを出て行かないといけないんだ。だからこの海を眺めるのもこれが最後だなって・・・」
天は寂しそうにそう言った。
「そうだったのか。少し寂しくなるな・・・」
俺はソラを見るがソラの表情は曇っていた。
「ま、まああれだ!施設でも楽しくやっていけよ!それと俺はお前が何処に居たってお前の事友達だって思ってるからな!いつでも辛かったら帰ってこいよ!まあ数日くらいなら鎮守府に泊めてやるからさ」
俺はそう言って天の肩をポンと叩いてやる。
「あ・・・ありがとう・・・・」
ソラはガラにもなく照れくさそうにお礼を言って来た。
「おっ、お前にしちゃ珍しく素直じゃないか。そんな感じで行けば施設でも友達出来るって大丈夫大丈夫!」
俺は大袈裟に明るく振るまい天を元気浸けてやろうと思った。
「そ、そうだね。短い間だったけど色々話せて嬉しかったよ提督のお兄さん。僕お兄さんに会えて良かったよ。じゃあ僕そろそろ準備とかもあるから帰るね。じゃあさようなら提督のお兄さん」
天は名残惜しそうにそう言った。
「ああ!元気でな!また会おうぜ!絶対だぞ!」
俺はそんな天の背中を見えなくなるまで見送った。
天の背中が見えなくなった時、俺はそうか天の奴居なくなっちゃうんだな。嫌味なヤツだったけど悪いヤツではなかったしきっと何処に行ってもやっていけるだろう。そう思った、そして俺も鎮守府の方へ歩き出した。