ノンケ提督が艦シーメール鎮守府に着任しました。   作:ゔぁいらす

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その先にあるもの

 ・・・身体が重い。身動きも取れない。どうやら航行ができない状態にあり海に沈みつつあるようだ。

阿賀野は艦娘になってからと言うもの良く昔の阿賀野の記憶を夢に見る。これもそうなのだろう。いつも妙にリアリティはあるが、自分ではない自分を見ると言う不思議な感覚には不快感の様な物も感じる。

薄れゆく意識の中一人の艦娘がこちらに近付いてくる事に気付く。

「■■■■■!来ちゃダメ!!逃げて!!!」

阿賀野は必死に伝えようとするが阿賀野の声はもう彼女に届かない。

彼女はぐしゃぐしゃになり泣きながら

「助けられなくてごめんね・・・・」

と阿賀野に言う。その刹那、彼女が爆風に包まれる。

そこで阿賀野の意識は途切れ闇に落ちていった・・・・

 

 

 

朝の静寂を断ち切るように目覚まし時計の音が鳴り響く

「う〜ん。またあの夢かぁ。目覚め最悪・・・ありえな〜い。でもそんな事いちいち気にしてられないよね!私は私なんだから!!」

阿賀野は自分にそう言い聞かせて時計を見る。

「もうこんな時間!?やだやだ!遅刻じゃない!!朝ご飯食べられなくなっちゃう!」

阿賀野は大急ぎで支度を始める。

「最近やっとヒゲが生えてこなくなったのよね〜でもしっかり顔のお手入れはしなくちゃ提督さんに嫌われちゃう!」

いつもこの時間と朝ごはんの時間はどれだけ時間がなくてもしっかり取るのが彼女の日課だ。

「よし!準備完了!阿賀野今日も可愛い♡」

そして彼女は鏡の前でいつも自分に言い聞かせる。いつからかこれが何故か阿賀野の口癖になっている。それは元々阿賀野自身でなく他の誰かの口癖だった様な・・・阿賀野はそんな気がしていた。

「あっ!もうこんな事してる場合じゃない!早く行かなきゃ!!」

阿賀野は急ぎ足で食堂へ向かった。

 

その頃謙はいつもの様に朝食を食べていた。

「いや〜高雄さんの作る和風の朝食も最高ですよ〜」

今日は高雄が朝食の当番のようで、メニューはご飯に味噌汁、それに鰆の塩焼きだ。

「そうですか?ありがとうございます。これでも有り合わせで作ったんですよ?そういえば提督、吹雪ちゃんはどうしたんです?」

高雄は謙に尋ねる。

「ああ、吹雪の奴昨日の夜から緊張して眠れないとかなんとかでずっと緊張してて、なんとか寝かしつけたんですけど起きたら置きらで今は念入りに荷物やら艤装のチェックをしてますよ」

謙は答えた。

「あら、心配性なのね。あの子」

高雄はクスクスと笑った。

そんな時である慌ただしい足音が食堂へ向けて近付いてくる。

「提督さ〜んおっはようございま〜す」

いつもの様に阿賀野は謙に抱きつく。

「もがががが、だから飯食ってる時に急に急に抱きつくなって何度言ったらわかんだよ!」

謙は少し声を荒げ、いつもなら阿賀野はすぐに離れ、笑って謝るのだがその日の阿賀野の様子はいつもと少し違った。

「ごめんなさい提督さん、もう少しだけこのままで居させて・・・」

どうやら阿賀野は今朝の夢の事を気にしているようだった。謙も阿賀野が出撃に対して不安を募らせているのを知っていたので鼻血を全力で堪え、我慢してやることにした。

それを見た高雄は

「あらあら、朝から元気ね。」

と笑って言った

「ハア・・・ハア・・・・もういいだろ阿賀野・・・」

謙は顔を真っ赤にして阿賀野に言った。

「ありがとう提督さん。少し楽になった。」

阿賀野はそう言った。

「お前・・・もしかしてまた昔の阿賀野の記憶を・・・」

謙は阿賀野を心配する。

「安心して提督さん。私は私だから、提督さんがそう言ってくれたからもう怖くないよ。」

阿賀野は謙の頭をなでてそう言った。

謙はまた少し頬を赤らめて照れくさそうに

「そ、そうか・・・ならいいんだけどな・・・」

と言った。そんな時

「阿賀野ちゃん、お熱いのはいいんだけど朝ご飯冷めちゃうわよ?」

と高雄が言う

「そうだ朝ご飯!いっただっきまーす!!!」

阿賀野は素早く謙から離れ、席に着いた

「べっ!別に阿賀野と俺はそんなのじゃないですからね!!」

謙は必死で弁明するが

「うふふ・・・照れなくてもいいじゃないですか」

と高雄に一蹴された。

「ホントにそんなのじゃ無いんですからね!阿賀野からも何か言ってやってくれよ」

謙は阿賀野に助け舟を求めるが阿賀野は朝食を一心不乱に搔き込んでいて話を聞いていないようだった。

「全く・・・出撃直前だってのに緊張してるんだかしてないんだか」

謙は呆れてそう言った。しかし謙はいつも通りの阿賀野を見て少し安心するのであった。

そして謙は朝食を食べ終わり、

「じゃあ俺、執務室に行ってきます。ごちそうさまでした高雄さん。」

そう言って謙は食堂を後にした。

そして謙はいつものように執務室の戸を開け

「ういーっすおはようございまーす」

と執務室へ入った。

「おはようございます提督。」

「提督ぅ〜おはようございまぁす♪」

と愛宕と大淀が謙を迎え入れる。

「今日は高雄さんが当番だから愛宕さんが代わりに手伝ってくれてるのか」

謙は大淀に言う。

「はい。愛宕さんの方が何故か高雄さんより手際がいいんですよね。少しガサツですけど。」

大淀は散らばった書類を片付けながら呟く。

「もぉ〜大淀ちゃんってばひど〜い」

愛宕はわざとらしく頬を膨らませそう言った。

「まあまあ・・・あっ、そうだ紅茶淹れてくれるか大淀」

謙は軽く愛宕をなだめていつものように大淀に紅茶を淹れてもらう事にした。

「はい。すぐお持ちしますね。」

大淀は待ってましたと言わんばかりに紅茶を淹れに行き

「お待たせしました提督」

謙に紅茶を渡す。

「サンキュー」

謙はそう言ってから紅茶を飲んだ。

そして謙が紅茶を飲み終わると

「提督、本日の作戦要項等まとめた書類です。目を通しておいてくださいね。」

と大淀が謙に書類を手渡す。

「わかった。」

謙は返事をした。それを見た愛宕は。

「では私は朝メ・・・じゃなかった朝食に失礼しますねぇ〜提督また後でね♡」

と行って執務室を出て行った。

それからすこししてから謙は全員を執務室へ集めた。

「えー、コホン今回は初の遠方での任務な訳だが、指令書にも書かれている通り今回の目的はタンカーの護衛であって戦闘じゃない。各自戦闘は極力避けるように。それと前にも言ったが誰一人この鎮守府に欠けずに戻ってくる事!これが一番の命令だからな!以上!!それじゃあ皆配置に付いてくれ。ヒトフタマルマルになったら作戦開始だからな」

謙がそう言うと

「了解です提督」

「わかったわぁ」

「はい!司令官!精一杯頑張りますね!!」

「りょうかーい」

と高雄、愛宕、吹雪、阿賀野の返事が帰ってくる。

そして4人が執務室を出て行こうとしたとき

「阿賀野、ちょっと話がある」

謙は阿賀野を呼び止める

「なあに提督さん?阿賀野はもう絶対に大丈夫!お守りも貰ったし」

と阿賀野は笑顔で答える。

「それなら良いんだが、何かあったらすぐに報告するんだぞ。それと・・・・」

謙が更に話を続けようとすると

「提督さん。後の話は帰ってから聞くね。これ以上提督さんと話してるとまた迷っちゃいそうで。だから、帰って来たらいっぱいお話ししよう提督さん!」

阿賀野はそう言った。

「ああ、そうか・・・そうだな。それじゃあ行ってこい!」

謙は他にも言いたい事は沢山あったがこれだけしか言わない事にした。

「はーい!最新鋭軽巡阿賀野!きっと提督さんの元へ帰ってくるわ。それじゃあまた後でね。」

そう言って阿賀野は出撃準備に向かった。

謙はその背中を黙って見送った。

そして数分後

「総員出撃準備完了よ〜」

と愛宕からの通信が入った。

「それじゃあ作戦開始だ!俺はここから指示を出す事と成功を祈る事しかできないけど俺も全力でやるから皆も頑張ってくれ」

謙がそう言うと

『はぁ〜い♪じゃあ皆行くわよ〜旗艦愛宕に続いてねぇ〜ヨーソロー』

と愛宕の声とともに4人の艦娘(厳密に言うと以下略)は鎮守府から出撃した。

それから十数分後

「提督、総員配置に着いた様です。」

と通信係の大淀が言う

「早っ!これが最重要機密(御都合主義)の力か」

謙はトラックに着く早さに驚嘆する。

「えーそれじゃあ作戦開始だ。健闘を祈る。」

謙がそう言うと作戦が開始された。

 

そしてトラック海域では・・・

 

「うーん私、やっぱり緊張しちゃいます・・・」

吹雪は不安そうな面持ちで呟いた。

「大丈夫よ!お姉さんが絶対あなた達を守るから。精一杯私に着いて来てね」

愛宕は緊張する吹雪を優しくなだめた。

「はい!愛宕さん!」

吹雪は元気にそう返した。

それを見ていた高雄は

「阿賀野、あなた大丈夫なの?」

と阿賀野に声をかける。

「大丈夫。阿賀野、提督さんと約束したから。それに、もし何かあっても高雄が助けてくれるでしょ?ね?」

と阿賀野は明るく振る舞った。

高雄はやれやれというような表情を見せたが

「ええ、そうね。誰一人欠けずに鎮守府へ戻れというのが提督の命令だものね。わかったわ阿賀野。ただ無茶をしてはダメよ?」

と阿賀野に言った。

「もちろん!」

阿賀野はそう高雄に返した。

 

 

それから数時間後特に大きな戦闘も無く、タンカーを無事目的地まで護衛する事に成功した。

執務室では

「提督、作戦成功です!」

という大淀の一言で

「あー終わったあああああ!よかったぁぁぁぁあぁ」

謙はここ数時間気が気ではない思いをしていたので自分の事のように作戦の成功を喜んだ!

「皆!おつかれさま。でも鎮守府に戻るまでが作戦だからな。気を抜くんじゃないぞ」

謙は艦娘達にそう連絡した。

『はぁ〜い♪では今から帰投しますねぇ〜』

という愛宕の声が通信機から聞こえる。

そんな時である

大淀が顔色を変え

「提督、トラック泊地より電文です」

と謙に告げる

「んー?どうした?お祝いかお礼の電文でも来たのか?」

謙は呑気にそう言うが

「いえ、そんなノンキな物ではありません・・・・トラック泊地の一艦隊が未確認の敵と接触、かろうじて撤退した物のまだ1隻の艦娘が取り残されているようです。至急救助に向かって欲しいとの事なのですが・・・」

大淀は暗い表情でそう言った

「そ、そんな・・・無事終わったってのに何だよそれ・・・」

謙は嫌な予感がした。

「皆、通信は聞いてたな。一旦泊地に戻って補給を受けさせてもらってからもう一度出撃出来るか?」

謙は艦娘達に問う

『ええ。私は大丈夫よ。』

愛宕は真剣な声色でそう言った。

『愛宕が行くなら私も。』

高雄もそれに続いた。

『私も行きます!足手まといにならないように精一杯頑張ります!』

吹雪もそう続いた。

『提督さん・・・』

阿賀野は何かを言いたげに謙を呼ぶ

「おう何だ阿賀野?お前は無理しなくていいんだぞ。」

謙は阿賀野にそう言うが

『その取り残された艦娘って・・・もしかして那珂って娘・・・?』

阿賀野は少し声をふるわせて謙に聞く

「どうした阿賀野・・・。なあ大淀、取り残されてる艦娘はなんて艦娘なんだ?」

謙は大淀に聞く。

「えーっと・・・噓・・・そんな事って・・・」

大淀が声を詰まらせる

「どうした大淀」

謙は聞く

「取り残された艦娘は、軽巡洋艦川内型の三番艦・・・那珂」

大淀は驚きを隠せないようだった

「なんだって?阿賀野・・・何でわかったんだ?」

謙は阿賀野に聞く。

『私・・・今全部思い出したんだ。阿賀野がどうやって沈んだのか・・・・なんでこんなタイミングで思い出しちゃったんだろ・・・・思い出さなければこんな気持ちにならなくて済んだのにね。阿賀野こうしちゃ居られない!早く那珂ちゃんを助けに行かせて!!』

阿賀野は覚悟を決めてそう言った

「でもお前は・・・」

謙は阿賀野を制止しようとするが

『今すぐ行かなきゃダメなの!このままじゃ那珂ちゃんが死んじゃう!!だからお願い!阿賀野に先行させて!!』

阿賀野はそう続けた

「そんな・・・お前を死にに行かせる訳には行かない」

謙は阿賀野を止めるが

『これだけは提督さんがなんて言っても曲げられない。ごめんなさい提督さん』

阿賀野はそう言い残すと通信を切った。

『ちょっと阿賀野!無茶よ補給も受けずに!!提督!阿賀野が艦隊を離脱しました!早く指示を!』

高雄の声が聞こえる。

「そんな・・・やっぱり運命は変えられないのか・・・・やっぱり俺にはアイツを救う事なんてできなかったのか・・・・クソッ!!」

謙は自分がやはり無力な存在である事を再び思い知らされる。

『提督!!』

高雄は謙に呼びかけるが

「ダメだ・・・肝心な時俺はどうすれば良いかわからない。このまま皆を未確認の敵に突っ込ませて全滅なんて事になったら・・・・」

謙は更に弱音を吐く。すると

「ごちゃごちゃぬかしてんじゃねぇぞ!!お前ホントにキ○タマ付いてんのか?ああん?」

とドスの利いた声が突然通信機から聞こえる

「ヒッ!」

謙は突然の出来事に呆気にとられる。

「えーっとどちら様でしょうか・・・?」

謙は恐る恐る聞く

『ハァ?部下の事も覚えられねぇたぁ少々お前の事を買いかぶりすぎてたみてぇだな。愛宕だよあ・た・ご!!』

その声の主は愛宕だった。

「えええええええええええええええ」

謙は驚愕する。

『お前自惚れてんじゃねぇ!何が俺には救えないだぁ?それに全滅するかもだぁ?そんなに俺たちの事が信用できねぇってか?ふざけんじゃねぇよ!こっちもやれる事はやろうっつってんのに提督であるお前がそんな事でどうすんだよ!?ええ?』

その愛宕の声に謙はもう何が何やらわからないと言ったような状態だった

「ハイ、スミマセン・・・」

謙は謝る事しかできなかった。

「スミマセンじゃねぇよ!そんなんで阿賀野を救えるだなんて甘っちょろい事言ってたのかクソッタレが!!今自分にできる最前の事を今すぐひり出すんだよ!!わかったか?』

謙のすべき事はもう一つしか残されてはいなかった。

「ハイ!今すぐ指示出しますからそれ以上怒鳴らないでください・・・・」

謙は申し訳なさそうにそう言った

『おう、そうか。わかってんじゃねぇか。あ”〜ン”ン”ッ!!あーあー。うん。よし!戻ったわ。わかったのなら宜しい。それで私達はどうしたら良いのかしら提督?』

謙の声を聴いた愛宕は元の声に戻り優しく尋ねた。

「はい!阿賀野に追いつけるのはこの艦隊では吹雪だけ。でも練度の低い吹雪を先行させるのは不安が残ります。なので高雄さんは吹雪に随伴してそのまま阿賀野を追ってください。愛宕さんは一旦戻って弾薬燃料を弾薬を補充してから2人を追ってください。」

謙は少し震えた声で指令を三人に伝えた。

すると愛宕は

『よくできました♡それじゃあ吹雪ちゃんと高雄にはさっきタンカーからわけてもらった燃料と戦闘食料を持たせるわ。私も補給が完了次第追いつけるように頑張るわ〜それじゃあ私はお先に補充へいってきまぁす♡』

と言った。

『司令官!私絶対阿賀野さんと那珂さんを助けます!そして皆で司令官の元に帰ってきます!!』

吹雪も覚悟を決めたようにそう言った。

『提督、愛宕が怒鳴りつけてごめんなさいね。それと救出へのGOサインを出してくれてありがとうございます。その思いも無駄にしませんし阿賀野はきっと連れて帰ります。』

高雄も謙にそう言った。

「でも吹雪、高雄さんは弾薬が切れかかってるから戦闘になったらすぐに退避するんだぞ。あくまでその未確認の敵を見つけても愛宕さんが来るまでは温存するように。それじゃあ那珂、ならびに阿賀野救出作戦開始!」

謙のその一声で高雄と吹雪は救難信号が出ている位置へと舵を取った。


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