ノンケ提督が艦シーメール鎮守府に着任しました。 作:ゔぁいらす
俺がこの鎮守府に着任してからそろそろ1ヶ月が経とうとしており、そつなく任務などもこなせるようになってきていた。
そんな俺は吹雪と共に今愛宕さんの作った朝食を優雅に楽しんでいるのだが・・・
「いやぁ〜愛宕さんのサンドイッチは最高ですよホント!」
「本当ぉ?喜んでくれて嬉しいわぁ〜うふふ♡」
「愛宕さん!私にも今度作り方を教えてください」
「良いわよ〜」
吹雪や愛宕さんとそんな会話をしていると慌ただしい足音が近付いてくる。
「提督さーんおはようございま〜す」
急に目の前が真っ暗になり後頭部に柔らかい感触を覚える。
最初は鼻血が出そうにもなったが最近はこいつは男なんだ俺より立派なイチモツが生えているんだと頭の中で繰り返し、やっとこらえられる様になったもののやはりこの感触にはまだ慣れそうにない。
「もがががが・・・・阿賀野お前急に抱きつくのやめろって言ってるだろ!」
「えへへ〜ごめんなさい提督さ〜ん」
全く懲りない奴だ。もはやこれが朝の日課のようになってきている。しかしこんなところ大淀に見られたら間違いなくぶん殴られるとは思うが・・・・朝食の席に彼が居ない事を密かに感謝した。
「あら阿賀野ちゃん朝から元気ねぇ〜阿賀野ちゃんの分ももうできてるわよ」
そう愛宕さんが言うと
「はーい!阿賀野もうお腹ぺこぺこ〜いっただっきまーす」
と俺から凄まじいスピードで離れ席に着く阿賀野。これが最新鋭軽巡のスピードなのだろうか?いや違うと思う。
ふと横を見ると吹雪が自分の胸を見てなにやらぶつぶつと呟いていた。
「吹雪どうした?」
「いっ!いえなんでもありません!!司令官、私そろそろ朝の射撃演習に行ってきますね!!」
そう言うと吹雪はそそくさとその場を立ち去ってしまった。もう少しゆっくりしていけば良いのに。と言いつつ俺もそれほどのんびりしている時間はなさそうだ。俺は急いで残りのサンドイッチを口に詰め込んだ。
「愛宕さん、ごちそうさまです。じゃあ俺執務室行ってくるんで」
俺は席を立つ。すると
「提督。それならこれを大淀ちゃんに持っていってあげて。大淀ちゃんの分のサンドイッチよ」
と愛宕さんにバスケットを渡される。
「わかりました。いってきます」
俺は執務室へ向かった
「おいーすおはようさん」
俺はいつもの様に執務室のドアを開ける
「おはようございます提督」
中で作業をしていた大淀と高雄さんが俺に挨拶をする。
「提督も来たので私は失礼します。提督、そこに書類まとめてますので目を通しておいてくださいね。それでは失礼します」
高雄さんは俺にそう言うと執務室を後にする。高雄さんは会計から医務室の番、それに艤装のメンテまで何から何までやってくれているので本当に助かるのだが、一人で大丈夫なのだろうか?とたまに思う。すると
「提督、紅茶お淹れしました」
大淀が紅茶を持って来てくれる。もう朝飯後のこれがないと一日が始まった感じがしない。
「サンキュー大淀、あっ、そうだ。愛宕さんからお前の分のサンドイッチ預かって来てるから食えよ。ほい。」
俺は大淀にサンドイッチの入ったバスケットを手渡す。
「では頂きますね」
大淀はサンドイッチに手をつける。
俺はそれを尻目に大淀の淹れてくれた紅茶を飲みながら書類に目を通す事にした。
いつもは足りない備品や日用品などの経費をまとめた物や、多少サインが必要な書類、それと本陣からのお知らせのようなものばかりなのだが、今日は目に見えて書類の量が多い。
「ふむふむ」
なにやらいつもの書類以外に㊙と書かれた封筒があったので開けてみる事にする。
なになに?トラック泊地周辺で謎の海難事故が起こっている為タンカーの護衛任務を遂行されたし・・・・期間は4月30日のヒトフタマルマルより・・・・・って明後日からじゃん!
「大淀!これ見てくれよ!!」
俺は大慌てで大淀に声をかける
「何ですか提督、そんな急に大声出して」
「いやいやこんな急に明後日トラック周辺に行けだなんてそんないくらなんでも急過ぎるだろ!!何考えてんだ本陣は」
俺は大淀に行き場の無い焦燥感をぶつける。すると
「あー大丈夫ですよその事なら」
と大淀は呑気に返事をする。
「何が大丈夫なんだよ2日後だぞ?準備もしなきゃいけないしそれに今から出発しても間に合うかどうか・・・」
俺がそう言うと
「だからその心配は無いんですって」
大淀はそう一蹴する。一体何が心配ないのだろうか?
「あのですね、トラックまでは数分で行けますから。」
は・・・?一体何を言っているんだ
「いや・・・あの何言ってるかさっぱりなんだが・・・トラックってめちゃくちゃ遠いんじゃないのか・・・?」
俺は恐る恐る聞き返す
「はい。確かに遠いですが遠方への戦闘が絡む作戦や任務には
今なんて言った・・・・?
「あのー大淀・・・その
すると大淀は答える
「
と大淀は不敵な笑みを浮かべる。なにそれこわい・・・・しかし移動の心配をしなくていいのならばそれでいいしこの件には深入りしない方が良さそうなのでもう何も聞かない事にした。
「お・・・おうわかったよ。じゃあ大淀、昼間位に皆を集めて今回の作戦の説明やらをするか。」
「了解です提督。」
そして時間は過ぎ正午・・・鎮守府の皆を集めて会議をする事にした。
「えーこほん、急遽皆をここに集めたのは他でもない。上から出撃の命が下った」
俺は仰々しく話を切り出す。
「え〜遠方〜どこどこ〜?」
すると阿賀野が呑気に聞いてくる。調子狂うなぁ・・・
「それは後で説明するから・・・・とにかく、俺は遠方の出撃と言うものを経験した事がないし、俺はここから指示を出すだけだが皆には頑張って欲しいし、無事に帰って来て欲しい。ひとまず俺からは以上だ。大淀、後は任せた。」
俺は大淀にパスを回す
「それでは私から簡単に説明を。今回の任務はトラック周辺でのタンカーの護衛任務です。なにやらトラック近海で原因不明の海難事故と謎の通信障害がが起きている様で本陣はそれを警戒しての依頼だと思われますが、あの海域での深海棲艦隊の動きはそれほど活発ではありませんが当海域では最近少数ながら深海棲艦が確認されており戦闘になった際はタンカーの護衛を優先するようにとのことです」
大淀の話を聞いていると何やら阿賀野の顔色が悪くなっていた。
「どうした?阿賀野?気分でも悪いのか?」
俺は阿賀野に問いかけるが・・・
「嫌・・・・嫌・・・・阿賀野のせいで・・・阿賀野のせいで・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・・」
なにやら阿賀野はぶつぶつと頭を抱えて震えながら呟いている。その彼女の表情は今まで見た事の無い恐怖や悲しみに歪む形相だった。
「お・・・おい・・大丈夫か阿賀野・・・?」
俺は阿賀野に駆け寄るが声は届いていないようだ。すると高雄さんが
「これは少々マズいかもしれないです。私が医務室に運んで様子を見ますから提督は残りの皆さんと作戦会議を続けてください。詳しくは後で話します」
そういうと高雄さんは震える阿賀野をひょいと抱え上げ執務室を後にした。
いつも楽天的でほがらかな彼女に一体なにが起こったのだろう?その重苦しい空気のまま作戦会議は進行し、なんとか編成や当日の流れやルートを残りの皆で確認した。
しかし阿賀野は下手すると参加出来ないかもしれないな・・・
「会議も足早に終わらせたし、俺医務室行ってくるよ。大淀後は任せる」
俺は阿賀野が心配だったので医務室へ向かう。
そして医務室へ向かうと入り口の前に高雄さんが立っていた。
「高雄さん!阿賀野は一体どうなっちゃったんですか?アイツが急にあんな事になるなんて・・・・」
俺は高雄さんに説明を求める。すると高雄さんは重い表情で
「これは艦娘になったものが背負う宿命・・・というか病気のような物なのよ。幸い今は落ち着いているけれど」
と話を始める。病気?一体どんなものだろう?
「艦娘になった者には個人差はあれど断片的に昔の艦の記憶が受け継がれるという原因不明の症状が見られるんです。私もたまに夢に見るわ。嬉しかった事、楽しかった事、悲しかった事、そして
「そんな事が・・・って事は阿賀野は昔トラック周辺で何かあったって事なんですか?」
艦の事をあまり知らない俺は高雄さんに尋ねる。
「ええ。艦だった阿賀野、そして先代の阿賀野もトラックの全く同じ場所で同じように沈んでいるの。詳しい事は私も知らないですがこれだけは事実よ。阿賀野は多分艦の記憶が色濃く受け継がれていて、その時の事がフラッシュバックしてああなったんだと思うわ」
そんな・・・・歴史は繰り返すとでも言うのか?それに2回も同じ場所で沈み、阿賀野はそのいつ思い出すともしれない記憶の爆弾を頭の中に抱えていたのか・・・
「高雄さん、俺・・・アイツになんて声をかけてやれば良いのかわかりません・・・」
俺は自分の無力さに唇を噛む
「今はそっとしてあげる他無いわ。今度の作戦は彼女を外した方が良さそうね・・・・心配しないでください。私が阿賀野の分も頑張りますから」
高雄さんは俺に心配させまいと笑ってみせる。
しかし指令書には少数だが敵潜水艦の存在が確認されている。対潜装備も用意されたしと書かれていた事を思い出した俺は
「でも高雄さん、もし潜水艦に襲われたらどうするんです?吹雪一人に対潜を任せるのはいささか荷が重いと思うんですが・・・この際この作戦自体を他の鎮守府に代わりに当たってもらえないか検討してもらった方が良いのかも・・・」
そんな事を高雄さんと話していると突然医務室のドアが開き阿賀野が出て来た。そして
「提督さん!そんな迷惑かけられないよ。阿賀野もう大丈夫だから・・・」
と無理に元気そうにそう言ったが表情は曇ったままだった。
「大丈夫ってお前、無理するなよ。それに震えてるじゃないか・・・」
「そうよ阿賀野。まだ寝てなきゃダメよ!」
高雄さんも俺に続いて阿賀野を説得する。
「そんなぁ・・・・阿賀野本当にもう大丈夫なのに・・・」
阿賀野はさらに表情を暗くし、医務室へ戻って行った。
俺は彼女になんと言ってやれば良いのだろうか?ここで「そんな状態でこられても足手まといになるだけだ」と厳しく突き放すのも気が引けるし、だからと言って彼女を自分が沈んだ場所に出向かせてトラウマを悪化させる訳にもいかない。俺は一体どうすれば良いのだろう?
こんな時悩みを受け止めてくれるような人を俺は何故か知って居た。何故そう思ったのか自分自身でもわからなかったがあの人ならばこの悩みを解決に導いてくれる。そう思った俺は居ても立っても居られず鎮守府を飛び出した。