カカシ真伝 雪花の追憶   作:碧唯

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第四話 帰郷

 リッカは小さな体を物ともせず、大人の忍を相手に戦っていた…。

 

 驚くのも尋ねるのも後だ。

 リッカを庇う必要が無ければ、更に、リッカが一人の相手をしている今となっては、二人相手なら楽勝だ。

 中忍クラスだろうと思われた方を瞬時に片付け、オレに左からクナイを突き立てようとしていた男、四人の中では一番の手練れだと思われる男、そいつに向かった。

 

 その時、リッカとやりあっていた男が断末魔の叫びを上げ、倒れた音がした。

 見ると背中には複数の氷柱(ツララ)が刺さっていた。

 

 氷遁…!?

 

 この任務を聞いた時に感じた直感はあたっていた…

 

「サスケくんっ!」

 布と肉が切れる音と同時にサクラの悲鳴が聞こえた。

 チッ!

 思いを馳せている時間などオレにはなかったのだ。

 

 スマン!サスケ!今行く!!

 一番の手練れを片付け、サスケの元に跳んで行くと、残った一人は逃げて行った。

 しかし、オレは追わなかった。

 

「先生ってばよォ!アイツ追わなくてもいいのかよっ!」

「ああ、構わん。放っておけ…」

 オレはナルトの声を遠くで聞いていた。

 目の前で起こっている事を理解しようと必死だったのだ。

 

 リッカが泣きながらサスケの傍に座り込み、両方の手のひらを傷口に向けていた。

 手は返り血を浴び、小刻みに震えていたが、チャクラが出ているのが目に見えてわかった。

 掌仙術…いや、違う… 医療忍術…? なんだこれは…。

 

「…ごめんなさい。…ごめんなさい」

 リッカの嗚咽だけが聞こえる。

 オレ達は一言も発する事ができなかった。

 

 サスケは既に出血も止まり、傷口すら閉じようとしている。

 もう大丈夫だと止めようと思った時に、リッカはそのまま崩れ落ちた。

 倒れないように支え、額当てを戻してから、リッカを背負って立ち上がる。

 

「どうしちゃったの?」サクラが心配そうに見上げる。

「…心配ないよ。きっとチャクラ使い過ぎたんだろうね…」

 この子が忍だという事は三人とも気付いている。

 それは自分達に嘘をついていた事になるのだが…、誰も怒ろうとはしないんだね…。

 

 

「さぁ、帰るぞ! サスケ、傷は閉じたばかりだ、無理するな。ナルト、リッカの荷物持ってやれ」

「いや、何か…身体が軽い気がする」

 サスケが今は薄紅色をしている切られた方の腕を回しながら言った。

 …やはりな、普通の治療術じゃないね、…どうも。

 

 ナルトは言われた通り、リッカの荷物も持ちながら聞いてきた。

「帰るってどこにだってばよ!」

「オレ達が帰るところといえば、木ノ葉の里だけだろう?」

「リッカを国に連れて行ってやるのが任務だろー? な、なんで帰るんだってばよー!」

 涙を堪えながら叫ぶ。少しの間でもオレ達にとっては共に旅した仲間…だからなぁ。

 

「お前らももう忍者だ。わかるだろ? この子は他国の忍者だった。偽って潜入していた以上は、このまま見逃してやるのは危険すぎる。オレ達にとってじゃない、里に対して危険があるかも知れないんだ。間者はオレ達がどうこうできる問題じゃない。決めるのは火影様だ…」

「でもよォ、まだ子供じゃねーか!」

「子供は大人より疑われ難いからな…、密偵に子供を使うのはよくある事だ」

 オレの真剣な言葉に、三人はそれ以上何も言わず帰り支度をした。

「よし、急ぐぞ!」

 

 

 オレは樹上を飛び移りながら考えていた。

 

 四人の刺客のターゲットは間違いなくリッカだった。

 間者だとしても、リッカは自分の任務に失敗はしていなかったはずだ。

 全て予定通りだったはず。なら何故命を狙われた?

 うちの班を指名した事とどう関係があるんだ?

 あの刺客はリッカの国の者か?

 忍である事を隠していたのに、何故、あの時オレを助けた?

 …それに震えていた。まさか…。いや、あり得ない。

 

 次々と思考したせいで、思わずスピードを上げ過ぎてしまったようだ。

 後ろからナルトの悲鳴が聞こえた。

「先生!飛ばし過ぎだってばよ!サクラちゃんが遅れてる」

「…あー、わるいわるい。でもオレはリッカ背負いながら走ってるんだからね?それに遅れるってどういうことなのよ…。お前ら、帰ったら鍛え直しだね!」

「「「えぇぇぇー」」」

「ハハハハ」

 

 途中リッカは気付いたが、暴れる事も抵抗する事もなかった。

 ただ、申し訳ないので自分で走ると言い出したが、すぐには本調子には戻らないだろうからこのまま帰った方が早い、という結論に至った。

 のどかな旅だった行きと同じ距離とは思えない程、帰りはあっという間に感じだ。

 

 

 里に帰り着き、火影様の所に一緒に行くという三人を何とか説得し、家に帰す。

 別れ際にリッカが謝りたいというので下ろしてやった。

 深々と頭を垂れて「…ごめんなさい。」

 消えそうなその声は三人には聞こえてはいないかも知れない。

 でも奴等にならきっと届くはずだ。

 

 ナルトが大きく手を振りながら叫んだ。

「楽しかったってばよォ!また一緒に旅しようぜ!」

「バイバーイ。またねー」

「じゃあな、傷…ありがとな」

 二度と会えないであろうことは三人とも理解しているはずだった。

 しかし最後にかける言葉は他に無かったのだろう…。

 

 ナルト達と別れた後、オレはリッカを情報部に預け、そのまま火影室へ向かった。

 火急の用件がある旨、先に伝令を飛ばしてあったので、火影様がきっとお待ちいただいているはずだったからだ。

 

 刺客の襲撃から里に帰るまでを全て報告した。

 任務の途中で帰った事から、何かが起こった事は察しておられたようだが、さすがに彼女が忍だった…、という事実には驚きを隠せない様子だった。

「長い道のりを急ぎ帰って来たのじゃ、疲れておろう。しばらく休め」

「…ハ」

 これ以上オレが言う言葉は何も無かった。

 

 

 必要な事は全て報告した。後は火影様が判断するのだ…。

 


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