ガイに散々からかわれたお陰で、木ノ葉への道のりが恐ろしく長く感じた。
何度、ガイの車椅子をミライに預けて走り出してやろうか、それとも、このまま高速で押して帰ってやろうか…と考えたことか…。
驚いたのは、人の顔を覚えるのが苦手な筈のガイが、二度程しか会っていないリッカの事を覚えていた事だ。ま、顔を覚えていたというより、印象が強かったのだろう…。
「そうか!あの時の隠し子がこんなに大きくなったのか!」
ガイのこの言葉には、ミライが明らかに挙動不審になり、聞いてはいけない事を聞いてしまった…、と思っているのがわかった…。
「だーかーらー、隠し子じゃないからね!」
それだけ言ったけども、では何なのか?と聞かれても困るので、瞳術「これ以上聞いてくれるな」を使った。
写輪眼でなくても、「先代」なら使える瞳術のはずだ!
そしてようやく火影室までやって来たが
何故今日に限ってこんなに人が居るのか…。
サスケが居ない事だけがオレの救いだった…。
リッカがナルトに話をする間、オレは目を閉じて聞いていた。
ナルトがどんな顔をするか、わかっていたからだ…、が、意外にもナルトはリッカの話に茶々を入れる事もなく、黙って聞いていた。
流石に火影になったナルトは昔とは違う。感心してそっと目を開けると、そこには…顎が外れんばかりに大きく口を開けて、絶句している七代目の顔があった…。
黙って聞いていたんじゃなくて、驚き過ぎて言葉にならなかったのね…。
はぁー…。
「それで、父からの書状がこちらです。 ……ナルトさん? …火影様?」
リッカが書状をナルトに渡そうとしても、ナルトは呆けたままだった。
他の者も同じ様子で、唯一正気を保っていたシカマルが受け取り、ナルトに渡す。
「あ、あぁ…。わりーわりー」
書状を開くとナルトはオレを見て尋ねた。
「先生もう読んだのか?」
「いや、火影宛だからオレは読んでない」
オレが勝手に読むわけ無いだろう! と、言ってやりたいところだが、まっ、今日は穏便に済ませてやろうじゃないの…。
「じゃー、一緒に読もうぜ!」
「まさかお前…、漢字が読めないとか…じゃ、ないよね?」
「ま、ま、まさか!…うーん、確かに漢字が多いな。そ、それはともかく、これってば先生とオレ宛になってるぜ?」
それはリッカも知らなかった様子で驚いている。
書状の外側には「火影様」としか書いていなかったからだ。
オレは机を回り込み、ナルトの後ろに立つと一緒に書状を読んだ。
六代目火影 はたけカカシ様
七代目火影 うずまきナルト様
確かに宛名は二人だった。
六代目火影様、七代目火影様には過日には大変お世話になり深謝致しております。
長らく雑事にまぎれご無沙汰してしまい、誠に申し訳ございません。
また、娘の突然の訪問、大変心苦しく、お詫び申し上げます。
忍界大戦の折には、娘に自分も行かせて欲しいと懇願されましたが、国内がまだ安定しておらず、大戦に乗じた内乱などもあり、行かせてやることができませんでした。
お世話になりながら、ご協力できず大変申し訳ございません。
娘の六代目様への思慕は、ヒイラギより報告を受けておりましたし、あの折の娘の様子からも、承知しておりましたが、時間と共に忘れるだろうとたかをくくっておりました。それ故、弟を一人前にしたら好きにして良いと言ってしまったのですが、娘は私が言った事を心の支えにし、今日まで国に尽くしてくれたようです。
娘は帰国後、三代目火影様の言葉を借り、「お父様は私の父であろうとしないばかりか、国民の父にもなろうとしなかった」と私を諫めました。その娘の尽力もあり、国内も安定し、新しい世代の重臣達も育ち、安心して国政を任せられると思えるようなりました。
そして本日、私は譲位する事に致しました。次なる王は、娘が貴国で学んだ事を元に厳しく育てましたので、国民の父として、きっとより良い国へと育んでくれる事でしょう。
私が王としてやってやれる最後の、また、娘の父としては最初で最後の務めは、娘を貴国へと送り出す事だけでした。
娘の突然の訪問、大変ご迷惑とは存じますが、受け入れていただける事を切に願っております。
末筆ではございますが、皆様の益々のご健勝を、心よりお祈り申し上げます。
「ふーん」とナルトが唸る。
…コイツ、理解できてるんだろうか…。
「ってことはさー、リッカってば、あれからずっとカカシ先生の事好きだったのか?」
「おまっ…」そこかよ…。
「え!? ち、父は何を書いてるんですか?」動揺するリッカ…。
「読んでみろってば!」と言いながら、書状を差し出すナルト。
「よろしいんですか?」
「いいよな?先生」
「あぁ、お父上のお気持ちだ」
渡された書状を読み始めたリッカの瞳から、次々涙が溢れた。
「…お父様」
「いい親父さんだな! でさー、ずっと好きだったのか?」
…お前、しつこいよ!
「確かに最初は父の言うように、憧れとか、尊敬だったんだと思います。でも、カカシ先生とお話しする度にどんどん好きになっていって、国に帰ってからも、いつも、先生の言葉が支えになってくれて…。ずっと、ずっと、大好きで…、カカシ先生の隣に立っても恥ずかしくない人になりたいと思って、頑張ってこられました」
「キャーッ!!」サクラ達がなぜか悲鳴をあげる…。
もー、帰りたい…。
「……」質問したナルト本人は、また、大口を開けて絶句していた。放心した挙げ句に
「ちょっ、隣に立って恥ずかしいのは、ぜってーカカシ先生の方だってばよ!」
マスクで分かりにくいが、オレの口元はひきつり、拳はプルプル震えていた。
それに気付いた部屋中の者が青くなって、ナルトを止めようとするが止まらない。
火影ともあろう者が、背後のこんな殺気を感じ取れないとは…。
「だってそうだろー。カカシ先生ってば、あの頃で既にオヤジだったけど、今はホントのオッサンだぜー。大丈夫かよー!ハンザイだよー!」
ゴツンッ!
オレは渾身の力をこめて拳骨をお見舞いした。
「…っ!痛ってーてばよー」
頭を抱えて机に突っ伏したナルトに言ってやる。
「ま、当時なら犯罪だけどもだ…、今は別にかまわんでしょ!」
オレがそう言うと、ナルトはニヤッと笑い言った。
「てことはー、先生もOKってことでいいんだな!」
「ま…、ダメとは言ってない!」
「だってよー、リッカ!よかったなー」
リッカは真っ赤になっていた…。オイオイ、キミが言い出したんだよ…。
「でさー、でさー、シカマル! こーいうの何ていうんだっけ? おし…、おし…、押し込み強盗じゃなくってさー」
「それを言うなら、押しかけ女房だろ」
シカマルは思わず即答してしまってから、オレの様子に気付いて青ざめた。
「…キミたち、面白がり過ぎでしょ…」
オレがそれ以上言い返せないとわかると、部屋中が爆笑に包まれた…。
シカマルの言葉に耳まで真っ赤になったリッカが、改めてナルトに尋ねる。
「で、では、木ノ葉に住む許可を頂けると?」
「あー、それはオレじゃねーってばよ!」
ナルトの返事にリッカは困惑してオレを見た。
「ん…? 別に大名の許可とかは、要らないはずだけど…?」
「あー、もー! 先生まで忘れたのかよ!三代目のじいちゃんが言ってただろー。全部終わったらいつでも帰って来いって。だからー、三代目のじいちゃんがとっくに許可してるんだってばよ! やっと、全部終わったって事なんだろ? お帰り、リッカ!」
「はい!ただいまです!」この同じ場所で「木ノ葉に生まれたかった」と言ったあの時と同じように、泣き笑いしながらリッカは言った。
「じいちゃんとこにも報告に行ってやれよ! きっと喜ぶってばよ!」
「ん…、そうだね」
…三代目、あなたの意志は種子となり、遠い雪深い国でも、しっかり芽吹き、根付いたようですよ。
あの日と同じように、三代目も微笑まれた気がした。
エピローグ 願い
桜の花びらが舞い散る中、母親が忍術で作り出す雪で、双子が遊んでいる。
母親譲りの黒い髪を逆立て、父に似た生意気そうな顔の男の子と
父親譲りの白銀の髪を肩まで伸ばした、母似の愛らしい女の子
ナルトが生まれる前、オレはナルト達を戦争を知らない世代だと羨ましがった。
しかし、結局、彼らの時代も戦争が起こってしまった。
第四次忍界大戦の後、大きな戦は今のところ無い。
でも今も、世界の何処かでは争い、血を流し
命を落としている人もいるのだろう。
長い歴史の中で、人間はバカみたいに同じことを繰り返して生きてきたから
これからも、未来永劫、戦争を無くす事なんてできないのかも知れない。
次の世代が平和であることを願って、命を懸け、命を落としていった沢山の忍
生き残ったオレ達は、彼らの想いを繋げていかないといけない。
オレ達は、道に迷って傷つけ合い、たくさんの血を流した。
大切な人を亡くした悲痛な叫び、涙、たくさん見てきた。
だからこそ願わずにはいられない
一人でも多くの人が、オレ達のような悲しみを知らずに過ごせること
次の世代が一日でも長く平和で、一人でも多く戦争を知らない子供が増えるように
その子供が戦争を知らないまま一生涯過ごせるように。
どうか、この子達も戦争を知らない世代であるように…
エピローグが1話分に満たなかったので最後無理やり入れてしまいました…
これにて、「雪花の追憶」は終わりです。
最後まで読んでいただいてありがとうございました(*- -)(*_ _)ペコリ
この後、カカシ真伝II 白き閃雷の系譜 という小説の予告編のようなプロローグを投稿します。
こちらは題名の通り、はたけサクモさんからカカシ先生へと繋がる物語になります。
こちらも読んでいただけると嬉しいです。
ただ、雪花と違って毎日更新はできません…。
雪花は書き上げた後に投稿を始めたのですが、白き…は書きながらになるからです(´;ω;`)
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