カカシ真伝 雪花の追憶   作:碧唯

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第十九話 挑発

「馬鹿にしないで!!」

それまでオレ達の会話を黙って聞いていたリッカが、突然怒鳴った。

 

「私の国が木ノ葉を落とすのは無理? そうでしょうか? 忍び五大国の筆頭、火の国木ノ葉隠れの里…、考えていたより全然大したことないじゃないですか!」

 

この言葉にはタマルよりもナルトが反応した。

「おめー!リッカってば、何言ってんだよ!木ノ葉なめんじゃねーぞ!!」

 

タマルは鼻で嗤う。

「おいおい、お姫様よぉ。それが、今まで守ってくれた仲間に対する態度か?」

 

真っ直ぐすぎるナルトと、オレを術に嵌めて興奮状態にあるタマルは気付かないらしいが、サクラとサスケはリッカの性格を知っているし、暗部連中もこの術から脱出できる可能性として考え、気付いているだろう…。リッカがあえてタマルを挑発していることを…。

しかし、危険すぎる…。

 

「だってそうじゃないですか!貴方が自分で言ったんですよ。この術だけで上忍になったと。この術がなければ敵わない。だから怖くて、武器を捨てさせ、こうやって拘束してないと小国の忍すら殺せないんですよね?」

 

タマルが忍の心得通り、感情を押し殺し冷静さを失っていなければ、リッカの挑発には乗っていないだろう。しかし、タマルは完全に興奮状態にあった。

 

「…怖いだと?お前みたいなガキなど、この術がなくても瞬殺だよ!」

 

「そうでしょうか?私も剣術なら、この木ノ葉の下忍には容易く勝てる自信があります。なら私は木ノ葉では中忍クラスって事でしょう?この術がなければ上忍になれなかった貴方も中忍クラスって事、同じじゃないですか?」

 

タマルは怒りで顔が青白くなっていた。

 

泥の動く気配を感じ振り返ると、リッカの足元だけ泥土が引き地面が現れていた。

 

「それなら跳べるだろう。刀を持って外に出ろ!」タマルはリッカに言う。

 

リッカは泥土の外まで跳び、刀を振って泥を落とした。

 

確かに、この術を解かせる為には、外に味方が居ないこの状況では、誰かが何としても泥土の外に出ないといけない。そして、タマルが泥土から出しても良いと判断するのは、リッカかサクラくらいだろう。木ノ葉で生まれ育ったタマルは、サスケのうちはの血を恐れ、ナルトの中の九尾を恐れ、子供だと言っても、あの二人の拘束を解くことは絶対に無い筈だ。

 

そう考えると、リッカが唯一の希望であるのは確かなのだが…。

 

しかし、リッカは既に呼吸が荒い…。リッカの剣術はチャクラこそ使わないが、動いている以上スタミナは消耗する。忍術より消費量は少ないといっても、既にかなり消耗している筈だ。そこにサスケに転生術を使っていた。これでは自殺行為だ…。

 

「リッカ!ダメだ!逃げろ!」オレは叫ぶ。

 

「フンッ!逃げたところでまた足元が泥土となるだけだ。それにこの姫様が一人逃げる奴ではないこと位、お前ももう分かってるだろう。自国の忍の血が流れる事を良しとせず、自ら敵地に乗り込んで行くようなバカだからな!」

 

タマルのこの言葉は、オレ達と同じ様に泥に嵌まっている杜の国の忍達に、動揺をもたらしたようだ。自分達が殺そうとしていた小さな王女こそ、実は自分達を守ろうとしていたのだと、ようやく気付いたのだろう。

 

 

オレの前にいたタマルは、リッカの跳んだ方の泥土の端まで移動しながら言った。

「しかし、姫様は戦嫌いで血が流れるのを好まないと聞いていたが…、意外にも剣術がお得意とはな!あれほど避けたかった自国の忍の血をそれほど浴びて、どうだ気分は?まるで鬼の子のようだぞ!」

 

嘲笑うタマルを、リッカは睨みつけながら言った。

 

「私にはこの血を流させた責任がある!流れなくてもよかったこの血を流させたのは…、そうさせたのは貴方だけど、止められなかったのは私とお父様だわ。私を信じ帰国してくれた忍達にも、この戦を何も知らずに暮らしてる国民にも、私は責任がある。皆の未来を守らないといけない、それが王族としての務めだもの」

 

僅かな間を置き、リッカは続ける。

 

「カカシ先生は私に言った。自分が奪った命の重さを背負って生きていけって!私は生きていくわ!この人達にもみんな望む未来があった。その望む未来の為に、私に、王家に背いたのよ。この血に誓って、その望んだ未来全部、私が背負って生きていく!」

 

杜の国の忍の中には涙を流している者もいた…

己の浅はかさを悔やんでいるのかも知れない。

 

リッカは木ノ葉に生まれたかったと泣き笑いしたが…、火影様はいつでも帰ってこいと言ったが…、この子は杜の国に必要な人間だ。

この子なら国を変えることができるだろう。…オレはそう思った。

 

 

しかし、怒り心頭に発したタマルの心には届かなかった。

 

「フン!カカシは任務の為なら仲間を、それも自分に惚れてる女を平気で殺せるような奴だぞ?何が命の重さだ!」

 

「貴方は私とリンさんが似てるって言ったわよね?」

 

「あー、それは違ったな!お前みたいにクソ生意気じゃなかったからな」

 

「そうね、貴方の言う通りだとしたら、私とリンさんは全然似てないわ!そんな人と似てるなんて言われたくない!」

 

「リッカ…」続きは声にならなかった。それ以上タマルを煽ってはダメだ…。

 

オレの願いに反してリッカは言葉を続ける。

「私は平気で仲間を殺せるような人を好きになんてならない!」

 

だが、オレは… 一度は任務の為にリンを見捨てようとした、それも事実だ。

 

「貴方は貴方が好きだったリンさんの事も侮辱してるのよ!さっきカカシ先生は言ったわ。リンさんの事、普通の家庭から忍になったって…。私も本来は忍じゃない。でも私は私の意志で選んだんじゃない。だからよく分かる。自分で忍の道を選ぶなんて…、とても優しくて、心が強い人じゃないとできない。貴方もリンさんが好きだったなら分かってる筈だわ!そんな優しい人が、平気で仲間を殺せるような人を好きになんてならない! 私が好きになったのもそんな人じゃない!!  たくさん苦しんで、たくさん後悔して、迷って、悩んで、それでも堪えて…、その気持ち笑顔に隠して必死に生きてる人だもの!!」

 

…リッカ、ありがとう。…リン、守れなくてごめんな、この子は絶対守るから。

 

 

「うるさい!お前に何がわかる!!」

タマルは持っていた鎖鎌の鎖を振り回し、リッカに向かって打ち付けた。

 

なんとか間一髪で躱したが、やはりスタミナが切れかかっているのだろう、普段のリッカであればもっと余裕で躱せていたはずだ…。

 

「タマル、やめろ! その子は関係ない。お前が憎んでるのはオビトやリンを殺したオレだろう?なら、オレとやれ」

 

「お前とサシでやるつもりなら、ハナからこんな回りくどいことしてねぇよ。お前はまだ殺らねぇ。お前の目の前でコイツを嬲り殺しにしてから、その後で殺ってやる!」

 

タマルは容赦なく鎖を振り回し分銅を打ち付けていく。

 

あれだけ煽ったのだ…、今までのオレへの殺意は全てリッカへと置き換わってしまっている…。

 

ヒイラギは何故何も言わない?彼はリッカの益にならない事は、例えリッカを傷付けてでもさせないはずだ。何も言わないという事は、リッカがわざわざタマルを挑発し、泥土の外に出た事に何か活路を見出しているのだろうか…。

 

しかし、このままでは圧倒的にリッカが不利だ。鎖鎌は中近距離用武器だが、リッカの刀は近接距離用だ。鎖を戻す一瞬を狙うしか無いが、今のリッカでは難しいだろう。

忍術を使うスタミナもほとんど残っていないはずだ…。

 

 

「なんでリッカってば、攻撃しないんだよ…」ナルトが言った。

 

「そうじゃない」オレのその言葉を続けたのはヒイラギだった。

 

「攻撃しないんじゃない、できないんだ。一撃必殺の術はそれだけチャクラの必要量も多くなる。今のリッカ様にはそこまでのスタミナは残っていない」

 

「じゃー、なんで…」

 

「リッカ様が言った筈だ、剣術ならお前らにも勝てると…」

 

ヒイラギはそう言ったが、真実では無いだろう。恐らく、ヒイラギはリッカがしようとしている事が分かっている筈だ。

リッカは状況判断のできる頭の良い子だ、考えなしに突っ込んで行く子じゃない。

ヒイラギはリッカの術を全て把握している。その上で、リッカを信じているようだ。

 

 

火影室でリッカが言った言葉がオレの脳裏に蘇った。

「師は弟子を信じるですよ!きっと私にもできる事がある筈です」

 

…そうだな。お前の本当の師匠であるヒイラギがお前を信じてるんだ。

ならオレは、お前と、お前の師二人を信じるだけだ…。

 

お前たちが待つその瞬間に、オレも全てを賭ける事としよう。

 


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