カカシ真伝 雪花の追憶   作:碧唯

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第十七話 衝突

その後何事もなく移動を続け、ようやく杜の国の隣国に着き、国境までもう少しと思われ、オレ達は、もしかしたらこのまま杜に辿り着けるのでは…と希望を抱いていた。

 

しかし、その希望は儚くもすぐに砕け散る。

 

火の国方面へ向かう、忍らしき気配を感じた。

木ノ葉の忍だ!杜の国の内偵に行っていた暗部だろう。

暗部の隊長が合図をすると、向こうが気付いたので合流する。

 

「杜の襲撃部隊が動きました。先鋒部隊は五個小隊、本隊は…少なくみても百人以上…若しくは二百近くいます」

 

「わかった、先鋒部隊は行かせる。お前は木ノ葉に知らせてくれ」

透かさずオレはそう応えた。

 

「ハッ!」とだけ彼は答え、火の国へ向かって駆け出した。

 

彼の焦り様からして本隊はかなりの数、百よりは二百に近いと考えた方がいいだろう。

 

「先鋒部隊を行かせるってどういう事だってばよ?止めなくていいのか?」

ナルトが尋ねてきた。

 

「今は警備レベルも引き上げてあるし、五小隊程度なら木ノ葉の警備で十分対処できる。オレ達がここで先鋒部隊とやり始めたら、本隊に感付かれるからな。問題は本隊だ…」

 

「二百となると…、下手はできませんからね」暗部の隊長も同じ意見だ。

 

少し考え、オレは決断した。

 

「ヒイラギ、来てくれ」

彼も合流したところでオレは話始める。

 

「先鋒部隊は行かせる。本隊が確認できたら、リッカとヒイラギはその中に例の男が居るか確認してくれ。居なかったらこのまま杜の国へ向かう。もし居たら…」

 

「やるのか?」聞いたのはヒイラギだ。

 

オレは頷いた。

 

「でも、もしあの男が居なかったら…、行かせてしまって大丈夫なんですか?」

リッカは自分たちが戦う心配よりも、木ノ葉の心配をしているのだ。

 

「それは里に残ってる皆に頑張ってもらうしかないね!」

オレが不安な素振りを見せる訳にはいかないので明るく言う。

 

「大丈夫でしょう」暗部の隊長も同意してくれた。が、本心はオレと同じだろう。

 

 

火影様は言った。「情報がある程度漏れていることを考えると、…被害は多少なりとも出るじゃろうな」と

しかしオレは今、本隊に男が居ない事を願っている。

ヒイラギを入れてもオレ達は十四人しかいない。それも多人数相手にできるのは、暗部の八人とオレとヒイラギ、十人だ。それで二百人近くとやりあうのは正直、多少という被害で済むのか…不安の方が大きかった。

 

…やはりなんとしても、ナルト達三人は置いてくるべきだったか…。

そう思い三人を見ると…。

 

「よっしゃー!木ノ葉には誰も行かせねーってばよ!」

とナルトはやる気満々で、サスケはニヤリと獰猛に口を歪める…。

サクラはそんな二人の様子に呆れながらも、以前の様に弱気になることはなかった。

 

…弱気になってるのはオレだけか。そうだな…、ま!やるだけだ!

 

 

オレの決心を見て取ったのか、ヒイラギが冷静に尋ねた。

「男が居なかったら行かせる。なら、居た場合はどうする?奇襲か?止めるのか?」

 

「確かに、高速で移動している多人数の部隊を、一斉に止めるのは簡単じゃない。かと言って、奇襲をかければ、こちらが戦争を仕掛けるのと同じになるからな…」

 

「じゃーさ、じゃーさ、オレが多重影分身で止めるってのは?」

ナルトがアイデアを出した…。確かに止まるかも知れんが…、とオレの考えと同じ意見を口にしたのはリッカだった。

 

「いえ、隊を止める為だけにそんなチャクラを大量に使ってしまっては、その後で戦闘になった時に…」

やはりこの子は聡い。実戦経験がほぼゼロでここまで状況判断できるとはね…。

 

少し考えている様子だったが、リッカが言葉を続ける。

「私が出ます。男が居るか居ないか判断しすぐ行動できますし、隊長クラスなら私の顔がわかる者も多いと思います」

…危険な賭けだが、それしかないか。

 

ヒイラギは反対するかと思ったが、意外にも同意した。

「私が一緒に行きましょう。少し派手目に登場すれば大丈夫でしょう」

 

「わかった、じゃ、それは二人に任せるね」

 

 

下手に移動して鉢合わせになっても困るので、場所を選び、身を潜めることにした。

短い草が生い茂り、岩が点在する、樹の無い草原だった。杜の国から木ノ葉へ向かうには此処を通るしかなく、また、草原に入るときに両側が崖の狭い道を通らなければならない。

多人数の部隊であっても其処を通る時には横に広がることが出来ず、一斉に止めるにはうってつけの場所だったのだ。

 

 

暫くして先刻の暗部の報告通り、先鋒部隊と思われる五個小隊が通り過ぎ

 …頼んだぞ、みんな! オレは遠く木ノ葉の方に向かって祈った。

 

 

リッカとヒイラギは崖の上に身を潜めているはずだ。オレでさえも何処にいるのか分からない位だから、移動してくる奴らは到底気付かないだろう。

 

オレは頭を空っぽにし、耳を澄ました…

耳と体に感じる感覚だけを研ぎ澄ませるのだ。

 

風の音と草葉が擦れる音だけが聞こえ

次第にそれすら排除し得るほど感覚が鋭敏になっていく。

 

 

 

………………

 

 

 

不意に異質な気配を感じた。

 

来た!!

 

本隊が向かう先に広がる草原、そこにクナイが投げられ、それが四方八方で爆発した。

起爆札が付けてあったのだろう。その中心にリッカとヒイラギが降り立つ。

派手目に登場すればってこういうことね…。

 

 

「止まりなさい!」リッカの凛とした声が草原に響き渡る。

二人が動いたということは男が居たということだ。

オレもリッカの隣に姿を現した。

 

 

杜の国の忍達は全員臨戦態勢だが、中にはリッカを見て明らかに驚いている者もいる。

 

そのはるか後方に男はいた。

 

 

他の揃いの忍装束とは違い、一人だけ黒いマントを羽織りフードを目深に被っていた。リッカが話した通りの姿からはオレへの強い殺気を感じる。

 

フードの中の目と目が合った。

 

しかし…、あれじゃまだ、誰かわからんな。

オレは先日の会議で暗部から提出されたリストの、名前と顔を一人ずつ思い出していた。

リストは抜け忍と、所在不明忍者のリストだった。聞いたような名前もあったが、オレに恨みを抱くほど関りがあったような者は一人も居なかった。しかし、それはオレの受け止め方であって、火影様の仰ったように、相手の受け止め方は違ったのかも知れない。

 

 

オレはこの時、気付いていなかった。暗部のリストでは厄介なのは大蛇丸のみで、他は対処に困難をきたすような術を使う忍者は居なかった。大蛇丸のやり方とは違うとみて排除していたのだが、忍としてあらゆる状況を考えておかねばいけなかったのだ…と。

 

 

リッカは胸を張り、大きく息を吸い込んでから声を張り上げた。

 

「私は杜の国第一王女リッカ。貴殿方の中には私の顔を知っている人もいるでしょう」

リッカは名乗り、隣でヒイラギはひざまずく。

 

そこら中でヒソヒソと話す声が聞こえる。

それぞれの隊長に確認する声、間違いないという声や、何故此処にという声も

その声に答えるように、リッカは後方にいるマントの男を指差しながら言葉を続ける。

 

「私はその男との盟約により、木ノ葉より戻りました。よって、木ノ葉襲撃は白紙となります。貴殿方は速やかに帰国しなさい!」

 

これにはヒソヒソがザワザワに変わっていく。

 

「私の命に従わないという者は残念ですが…、王家に仇なす者と見なし、処する!」

 

ひざまずいたままのヒイラギが得物に手をかける。

 

「もう一度だけ言います! 速やかに帰国しなさい!」

幼い少女の声とは思えないほど威厳のある声だった。

 

何人かの隊長が「ハッ」と応えてひざまずき、部下を連れて帰った。それに呼応するように同じ様にひざまずき、王女に忠誠を誓い、踵を返していった者達もいた。

 

 

…約半分か…。

 

残った者達はひざまずく事もなく、憎々しげに小さな王女を見下ろし、それぞれの武器を構え殺気をみなぎらせる。

 

反体制派であったり、前王妃派であったり、ま、そんなとこだろう…。

 

 

リッカはオレとヒイラギにしか聞こえない小さな声で言った。

「…ごめんなさい。思ってたほど帰ってくれなかった…」

「十分だ。これならいけるよ…」

オレが笑ってやると、ヒイラギも無言で頷きながら立ち上がる。

 

リッカは涙を堪えながら刀を抜き、決意を口にする。

「では、これをクーデターと見なし、王女の名のもとに制圧します!」

 

それがまるで合図であったかのように、身を潜めていたナルト達と暗部達も出てきた。

 

オレはヒイラギに言う。

「ヒイラギ!悪いがうちの三人とリッカを頼む。オレは暗部達と数を減らしてくる」

「承知!」ヒイラギは透かさず応えた。打てば響くとはこういうことだ。オレに対して良い感情を持っていないであろうヒイラギだったが、共闘するとなればそんな事は関係ない。

 

リッカに向かう集団を見つけ、オレが反応するよりも早くヒイラギが術を発する。

 

「水遁 水蛇(ミヅチ)昇天の術」

 

地面から幾筋も細い竜の姿をした水が湧き、その竜は水の槍となって敵を貫いていく。

集団は一瞬にして水と血と悲鳴に包まれた…。

これはリッカが見せてくれた術の一つだが、池の水を使ったリッカと、恐らく地下水を使っているヒイラギ、しかし、術の威力はヒイラギの方が桁違いに高かった。

更に、リッカが見せてくれた時は「敵」が居なかったからか、池から真っ直ぐ昇天するだけだったが、実はこの水の竜には追尾性があったのだ…。

さながら、贄を求める竜のようだった。

 

「何だ?」オレが見ている事に気付いたヒイラギが言った。

「いやー、キミとは戦いたくないなーと思ってね!」

「お前次第だ!」……どーいう意味なんだ? 今は考えてる暇無いな…。

「じゃー、頼んだよ」

 

 

リッカの命令に従わなかった約半数の忍達を、更に半数にし、残りは五十人を切っているだろう。オレはここまで写輪眼を使っていない。暗部の連中も小さな傷こそ負ってはいるが、全員凄まじい勢いで戦っていた。

圧倒的な人数差があっても、忍び五大国の筆頭火の国木ノ葉隠れの里と、小国杜の国ではこれほどの差がある。

あの男にとって杜の忍などただの捨て駒に過ぎないのだろう。

 

オレにどんな恨みがあるのか知らないが、…これは許される事ではない。

 

 

ふとリッカ達に目をやると、リッカとヒイラギはまさに阿吽の呼吸で戦っていた。

長年の(と言っていいのかはわからないが…)師弟コンビに言葉はいらないのだ。

リッカが向かう敵が多いと、ヒイラギが弱い術で一瞬の隙を作り、その隙にリッカが一人仕留め、返す刀でもう一人仕留める。リッカの小さな体を活かした機動力、敏捷性、的確で最小限の攻撃、どれを取っても天性の才能を感じる…。

 

ま、リッカを育てたヒイラギがまず天才なのだ。

そのヒイラギは自らの戦闘をしながらリッカのサポートもしている。

リッカを如何に大切にしているか、はっきりと見て取れた。

 

うちの三人もなかなかの成長が窺える。

しかし、サスケは少し傷が多いな。

ナルトは多少なら傷を負ってもあの九尾の治癒力があるが、サスケはサクラを守ろうとする為に少し無理をしているようだ…。あのままでは危険か…。

 

オレがサスケ達に合流しようと考えていた矢先、リッカが動いた。

リッカが例の転生術でサスケを応急処置し、その間、ヒイラギがリッカとサスケを守る。

 

ありがとな、リッカ。すまんな、ヒイラギ。

 

しかし、例の術はチャクラ消費量と疲労が半端ではない。あまり長引かせられないな。

残りの人数も少なくなり、戦いの範囲も狭まってきた。一気にいくか…。

 

 

するとそれまで傍観していたマントの男が動いた。

 

ここからは出し惜しみ無用か!

 

オレは額当てを引き上げながら、男が向かった先、リッカ達の方へ跳んだ。

 

男とリッカの間にオレが立ち塞がると男が言った。

「カカシ、あの姫様は医療忍術を使うのか、懐かしいな…」

「!?」…オレはこの声に聞き覚えがある。何処でだ?何時だった?

 

それに、リッカの掌仙術に似た術を見て懐かしいと言った…。掌仙術を使う医療忍者を懐かしいと言っているのか?その医療忍者をオレも知っていると?

 

 

ヒイラギの前でリッカの術を使う事に少しだけ申し訳なさも感じたが…、やむを得ん。

 

「風遁 散華乱舞」

 

一陣の風が吹き草原に咲いていた花を散らし、上昇気流が無数の花弁を辺りに舞い上がらせた。男はふと空を見上げる。

 

風の性質を持つ術者であれば、かなり強力な上昇気流となって、この術で落下物の落下速度を緩めることも可能だろう。本来のオレの属性とは違うので実戦での使用は難しいが、この程度なら…。

 

空を見上げた男のフードを上昇気流が煽る。

 

狙い通り、男の顔が露になり、その男は舞い散る花弁を見て

「なんだカカシ、リンの供養のつもりか?」と言った。

 

オレは男の顔を見た瞬間、その男のデータ、術が全て思い出された。

 

「全員退け!!樹の上まで退け!」

「土遁秘伝 代掻きの術!」

オレが叫ぶのと、男が叫ぶのが同時だった。

 

既に結印が済んでいた術は声と同時に発動されていた。

 


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