カカシ真伝 雪花の追憶   作:碧唯

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第十五話 信頼

「そうか…、明日発つのじゃな」

火影室の机の前にリッカと並び火影様に報告をしていた。

 

「はい、長らくお世話になりました。カカシ先生には沢山ご迷惑もおかけしましたし、大変お世話になってしまいました。本当にありがとうございました」

 

「ん?」火影様が少し疑問を持ってしまった…。

 

「カカシ先生だけじゃなく、先生が監視任務に就いている間、火影様やナルトさん達にもご迷惑を」

 

リッカの言葉を遮って火影様がオレに尋ねる。

「カカシ、お前この子に言っておらんのか?」

「はぁ」

 

「え?」リッカが不思議そうにオレを見上げる。

 

「カカシはのォ、お前と一緒に杜の国に向かうと言って聞かんのじゃ」

 

「え!? どうしてそんな事を!?」

 

「どうしてって、お前はオレを連れて帰ることが、戦争を避ける最善の方法だと思ったんだよね? オレも同じだ。だから一緒に行く。それだけだ」

 

「違うんです!あの時は確かにそう思ったけど、でも、違ったんです!」

 

瞳いっぱいに涙を溜めてリッカは言った。

「火影様!カカシ先生を止めてください!」

 

「ふーむ。一度は止めたがのォ、それで聞く奴では…ないんじゃ。お前らは二人ともよう似とる。一度言い出したら聞かん…」

オレをジロリと睨みながら言う…。

 

「そんな…」

俯いたリッカの瞳から床に涙がこぼれ落ちた…。

 

 

「リッカ、違うって言うのは何が違うんだ?」

「それは…」

 

オレは思い当たる事を聞いてみた。

「ヒイラギ君の言ってた、お前が此処に居る事が火種になるって事なんじゃないか?」

 

俯いたまま何も言わないリッカにオレは言葉を続ける。

「リッカ、人に頼らず一人で頑張ろうとするのは…、お前の良い所でもあるけど、悪い所でもあるんだぞ?」

 

「カカシ…」火影様は言葉が過ぎると言いたげだが、これは言わないといけない。

 

「悪い所って言うのは言い過ぎだな、…すまん。 確かに、お前の境遇を考えればそうやって一人で背負い込もうとするのは仕方ないのかも知れない。でもな、何でも一人でやろうとするのは、周りの人を信じて無いって事にもなるんだよ」

 

「そんなこと…」悲しそうに首を振る。

 

 

「信頼って言葉は、信じて頼る、頼りになると信じる、そういう事だろ? お前が誰にも頼れないというのは、誰も信じられないと言ってるのと同じになってしまわないか? オレがお前を預かる事になった時に、お前が言ったんだよ。火影様がオレを信頼しているからだって…。いくら火影様でも、お一人で里を全部守れるわけじゃないんだ。だから」

 

オレの言葉を遮ったのはリッカだった。

 

「火影は里の者を皆家族として信じ、里の者は火影を父として信じる。 弟子は師を信じ、師は弟子を信じる…」

まるで学校で教わる心得を暗唱するように言った。

 

それを聞いて火影様は温かく微笑み、大きく頷かれた。

 

「ま、そういうことだ! オレや火影様にとってお前は木ノ葉の仲間と同じなんだよ。だからもう、お前一人で背負い込まなくていいんだよ?」

 

オレがそう言うと、リッカの瞳からは大粒の涙が溢れだし、泣き笑いしながら言った。

 

 

「私も…、木ノ葉に生まれたかった…」

 

 

彼女がずっと言えなかった、いや、絶対に言ってはいけないと思っていた本音なのだろう…。オレは何も言えず、いつものように頭を撫でてやるしかできなかった…。

 

暫くの沈黙の後、ようやくリッカは話し始めた。

 

「私がバカだったんです…。ヒイラギに言われるまで気付きませんでした…。もしかしたらあの男は最初から、私がカカシ先生を連れて帰れるなんて考えてなかったんじゃないかと…。 私が失敗して木ノ葉に拘束されれば、杜の国には木ノ葉を襲撃する理由ができます。最初からそれが目的だったのでは…と、やっと気付きました。 だって…、よく考えたらおかしいんです。カカシ先生はとても優秀な忍です。いくらあの男の計画が綿密でも、私が騙し通せる訳がないんです。 きっと、失敗する事まで計画だったんです。だから、カカシ先生は杜の国に行く理由は無いのです。私が木ノ葉を出れば…」

 

「よくそこまで気付いたね」オレは心から感心して言った。

 

するとリッカは少し驚いた顔でオレを見上げる。

「え!?じゃぁ、先生も、気付いて…?」

 

「そうだね、最初にリッカの話を聞いた時にそう思ったかな。でも、リッカが今言った事はほんの一部だと思うよ。これは何重にも張られた罠なんだよ」

 

「何重にも…?」

 

茫然とした顔で尋ねる。当たり前だ、ヒイラギのあの一言だけで「失敗するまでが計画」だと、自分で気付いただけでも十分聡い子だ。

 

 

「あのね、まず…、リッカがオレを連れて帰る事に成功する。これは確率的にはすごく低い。しかしゼロじゃない。という事は、それでもその男の目的は最低限達成できる筈なんだ。だから、その男は最悪でもオレをどうにかしたいと考えてるんだろうね。 でもその男の目的は、オレだけじゃなく木ノ葉の襲撃も一つなんだろう。だから、出来ればリッカの帰国任務が失敗するように仕向けたんだ。 まずリッカの言ったように、オレが気付いてお前を拘束する事も一つ。それに兄上達の襲撃もその男が絡んでいると見ていいだろう。これも暗殺が失敗すると予想していた筈だ。 オレを知っているという事はオレの力量も知っているだろう。リッカの性格を知っていれば助太刀する可能性も読んでいたかも知れない…。 一人逃がした奴がいたよね。ヒイラギ君が言うには、そいつが国に帰って王子は木ノ葉の忍に殺害されたと報告したと…。そいつは男の手の者なのかも知れないね。 暗殺が失敗して返り討ちにあう…、これで完成だ。前王妃派には、木ノ葉の忍が王子を殺害した。という事実ができ、新王妃派には、木ノ葉が王女を拘束した。という事実ができる。両派閥とも木ノ葉襲撃に乗らざるを得ない」

 

「オレはそう考えている」

 

「恐らくそうであろうな」火影様も同意した。

 

「そんな…。お父様はどうして、何も…」

 

「ヒイラギ君が来た事を考えると、お父上でも止められない所まで行ってしまってるんだろうね」

 

「どういう事ですか?」

 

「うーん、ヒイラギ君はリッカが任務を依頼するときに言ってた子守でしょ?あれがヒイラギ君の事だとしたら、今は弟君についてるはずだ。リッカの身柄が木ノ葉にあって、兄上二人いなくなった今となっては、国内にいる唯一の王の子でしょ?その護衛にあたっている者を遠い木ノ葉まで向かわせたんだから、余程切羽詰まっての事だと思うよ。お父上は自分の手で止められないから、せめてリッカを帰国させて新王妃派を抑えたかったんじゃないかな…。そして、お前を任せられるのはヒイラギ君しかいないと考えたんだ。お父上は余程ヒイラギ君を信頼しているんだね」

 

逆に言えば、もう国王が頼れるのはヒイラギ君だけなのでは…とも考えられたが、それはリッカには話さない方がいいだろう…。

 

「そんな…、私…全然わかってなかった…」

 

「仕方ないよ…」それしか言えなかった…。

 

いくら賢い子だといっても、こんな手の込んだ悪質な計画を見抜くには純粋過ぎるし、経験も足らない。でも、それを今リッカに言ったところで何にもならない…。

 

オレはそんなリッカの性格を逆手に取って利用した男に、心底怒りを感じていた。

 

 

「でも、じゃあ、やっぱりカカシ先生が杜の国に行く必要はない、って事ですよね?」

リッカが思い出したように言った。

 

「いや、行くよ」

あっさりと答えるが、リッカは納得できないようだ。

 

「どうしてですか!?私が帰って新王妃派を抑えたら、前王妃派も引いてくれるかも」

 

「うん、そうだね、それも期待したい。でも、リッカ一人で帰ったら、今度こそ消されるかも知れない。木ノ葉に拘束されている事にする為にね。 それに、男の最低限の目的がオレである事は確かだ。その男が誰なのか知らないといけないし、もしオレが行く事で襲撃が無くなる可能性が僅かでもあるなら、オレは行くよ」

 

「ダメです!杜の国の問題でカカシ先生や木ノ葉にこれ以上ご迷惑はかけられません!」

 

「リッカ!それが間違ってるんだよ!」

 

いつになく強い口調になってしまい、リッカはビクッとした。

 

「いいか?これは杜の国の問題にオレや木ノ葉が巻き込まれてるんじゃない。逆なんだよ。オレとその男の問題であり、木ノ葉の問題に杜の国が巻き込まれてるんだ」

 

オレは一呼吸置いて続けた。

 

「杜の国にいるその男は木ノ葉の忍、いや元忍に間違いない」

 

「…木ノ葉の忍?」リッカが茫然と呟いた。

 

火影様も大きく頷く。

 

「どうして木ノ葉の忍がカカシ先生を狙ったり…、木ノ葉の襲撃なんて…」

 

リッカのその呟きには火影様が答えた。

「人と人というのは不思議なものでな、人が当たり前の事をしてもそれを感謝し死ぬまで恩を忘れんこともあれば、些細な事をすれ違って死ぬまで恨むこともある…。言葉にしろ行動にしろ、やった方と受け止めた方が全く違う重さに捉える事はよくある。何を恨んでおるのかわからんからの、カカシはその男に会いたいと思っとるんじゃろう」

 

今度はオレが頷く番だった。

 

「だからな、これは元から木ノ葉の中の問題なんだ。お前が責任を感じて無理に帰国する事はない。もしお前が望むなら、帰国せず木ノ葉に残っていいんだよ?」

 

先程まで泣いていた瞳にもう涙はなく、代わりに強い意志を感じる光を宿して答えた。

 

「私が木ノ葉に残ると言っても、カカシ先生は行くんですよね?」

 

「そうだね」

 

「だったら私も行きます。カカシ先生とあの男の問題であっても、動くのは私の国の忍で、そうさせてしまう責任は私やお父様にありますから。ですから、カカシ先生もお一人で背負い込まないでくださいね」

 

最後のはいたずらっぽく笑いながら言った…。まいったね、どーも…。

 

「フォッホッホッ!やはり、お前らはよう似とるわ」

 

 

「師は弟子を信じるですよ!きっと私にもできる事がある筈です」

 

「…弟子? オレ、キミの師匠になった覚えは…」

 

「確かに術や学問を教えて頂いてるわけじゃないですけど、もっと大事な事を教えて頂いてます。だから先生って呼んでるんですよ?」

 

「あれ?うちの班の奴等がそう呼ぶからじゃないの?」

 

「違いますよ?あの時ですよ!ほら、旅でナルトさんがスリに遭った時に先生が」

 

火影様の目が厳しくなった…。マズイ…。

 

「ナルトがスリに遭っただと?ワシは聞いておらんぞ?」

 

「ハハハ…、申し訳ありません…。リッカの事があって、すっかり忘れていました」

 

口元に両手を当てて慌てるリッカを、オレは恨めしそうに半眼で見てやった…。

 

「まぁ良いわ、アイツも成長したかと思ったが、まだまだじゃのォ」

 

 

「そうじゃ、カカシよ。明日発つのは了承した。が、これは第七班の任務とする。よって、三人も連れていけ。これは命令じゃ」

 

「しかし、奴等にはまだ危険」

 

「しかしもかかしも無いわ!三人には既に伝えてある。それと、暗部からも二個小隊行かせる。お前らの為ではないぞ?元来、抜け忍の捜索は暗部の領域じゃからのォ。お前は死にに行くつもりは無いと言ったのだ、必ず全員で帰って来い」

 

お前達の為では無いと言っても、案じられての事だと感じ取れた。ナルト達を連れて行けというのも、必ず生きて帰れという事なのだろう…。

 

「承知しました。必ず全員で戻ります」

 

「うむ。暗部との連携は勝手がわかっておろう、お前が指揮を執れ。後は、リッカ、お前は忍具を持っておらんだろう。此処の倉庫にあるものから必要な物は何でも持っていきなさい。カカシ、一緒に行って見てやれ」

 

「「ありがとうございます!」」

 オレとリッカは声を揃えてそう言った。

 


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