カカシ真伝 雪花の追憶   作:碧唯

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第十四話 脱走

 翌日夜になって、火影様からの召集があった。

 情報収集にあたっていた部隊からの一次報告があったようだ。

 

 オレは支度を終わらせ、まだベッドで寝込むリッカに聞いた。

「大丈夫か?なんならサクラ呼ぼうか?」

 

 まだ立ち上がるのが精一杯、という感じなので、目を離しても大丈夫だろうと判断したが、そういう状態のリッカを一人残して行くのが少し気になったのだ。

 

「大丈夫ですよ。お部屋の中ならなんとか動けますし、それにこんな夜にサクラさんに来ていただいては申し訳ないです」

 …まったくこの子は、いつも他人の事ばかり気にしてるなー。

 

「そうだね。じゃー、あまり無理しないよーにね」

 そう言って部屋を出ていこうとした瞬間、リッカが呼び止めた。

「カカシ先生!」

 オレが振り返ると、少し戸惑った顔をして

「あ、いえ…、…いってらっしゃい!」と微笑んだ。

「うん、行ってくるね!」

 そう言ってオレは部屋を出た。

 

 移動しながらオレはリッカの様子を思い返していた。

 …まさか、ね。

 ま、早く切り上げて帰った方が良さそうだな…。

 

 まだ調査二日目ということもあり、各部隊からの報告はそれほど重要なものは無く、途中経過ばかりだった。

 杜の国の内偵に向かった部隊も、まだ到着もしていない筈なので、報告は無い。

 引き続きの調査をお願いして、さっさと帰ろうとしたが、火影様に呼び止められた。

 

「カカシ、気は変わってはおらんのか?」

「は、変わっておりません」

「…そうか」

 話が長くなりそうな気配を察知して、遮って言った。

「申し訳ありません、少し気掛かりなので失礼します」

 オレが今気掛かりと言えばリッカの事しかない。

 火影様もそれをわかっているので、これ以上は引き止めないだろう。

 礼をしておいて、家へと急ぐ。

 

 しかし、というか、案の定というか、部屋にリッカは居なかった。

 …やれやれ。

 代わりに机に小さな紙が置かれていた。

 

「お世話になりながら黙って出て行く無礼をお許しください。

 お世話になりました。ありがとうございます。

 カカシ先生、どうか御身お大事になさってください。

 追伸 急ぎ、襲撃への備えを固めてください」

 

 女の子らしい文字と文面とのギャップに少し微笑んでしまうが…。

 困ったね…。あの身体じゃ、まず里からも出られないだろうに…。

 

 

 高い建物を飛び移りながらリッカを探すと、驚く事にあうんの門までは来ていた。

 

 しかし、夜は門が閉ざされているのだ。それを予想してなかったんだな…。

 全快していれば飛び越える事もできただろうが…今の状態じゃ無理だ。

 

 暫く様子を見ていたが、リッカが塀を駆け上がり始めたので行くしかなかった。

 案の定、中程を越えたところでグラリと揺れ、落ちてきた。

 

 オレが受け止めると、驚いて声をあげる。

 

「カカシ先生!!」

 

「キミ無茶しすぎでしょー…」

 

「お願いです!行かせてくださいっ」

「何焦ってるのか知らないけど、そんな身体で里の外に出ても、刺客や夜盗どころか野犬に襲われて終わりだよ…」

「でも、行かなきゃ! 行かなきゃいけないんです! 先生、お願いです!」

 

 リッカは抱き止めたままだったオレの胸にしがみついて、泣きながら訴えた…。

 落ち着かせようと背中をポンポンと叩きながら、オレは答える。

 

「帰国させてもらえるように、火影様には言ってあるから…。でも、こんな身体じゃ無理だって、自分でも分かるでしょー…」

 

「でも!でも!…わぁぁぁぁぁ」

 

 泣き止まないリッカを抱いたまま、オレは塀にもたれかかった。

 

 …無理だと分かっていても出て行かなきゃいけない…か。何がそこまでさせる…?

 

 

 暫くそのままでいたが、リッカが次第に静かになったので声をかけた。

 

「とりあえず、今日は帰ろう…」

 

 返事が無いので覗きこむと、眠ってしまっていた…。

 

 元々立ち上がるのがやっとだった筈、それがここまで歩いて来て、塀を上ろうとした。

 塀を上るにもチャクラを使うわけだから更に体力を消耗しただろう…。

 そしてあれだけ泣いたらね…。

 泣き疲れて寝ちゃったか…。

 起こさないようにそーっと立ち上がって連れ帰る。

 

 なんか…この子、こればっかりな気がするなー…。

 この短い期間で、無茶をして気を失ってオレが運ぶ…、これが何回あっただろう…。

 

 そんな事を考えながらベッドに下ろそうとした、が…、しっかりとオレのベストを掴んでいて離れない…。

 

 これは、困った…。

 

 色々試みたがどうやら無理らしいと諦め、そのまま床に座りベッドにもたれて、オレが使っている布団を引っ張りあげた。

 

 いくらオレが忍で、どんな状態であっても仮眠が取れるとはいえ…

 流石にこの状況では無理でしょー。ま、仕方ないか…。

 

 オレは火影様の言われた言葉を思い出していた。

 

「遠い他国の忍の話じゃ。と言って切り捨てるには…、少し関わりすぎたのォ、カカシよ。お前もそうであろう」

 

 火影様で「関わりすぎ」と言うなら…、任務を受けたあの日からほぼ一緒にいるオレはどうなるんだ…。

 

 はぁー…、まいったな…。どうしたもんかね…。

 

 

 

 腕の中で「キャ!」という小さい声がして、オレは起きた…。

 

 これで寝られる訳がないと思ったが…、しっかり寝ちゃったようだね、オレ…。

 

「やぁ、おはよー!」

「お、お、お、おはようございますっ!私…どうして」

「あぁ、あの後オレのベスト掴んだまま寝ちゃったから…。ベッドに寝かせようと思ったんだけど、離れてくれなくて…」

 

「ご、ご、ご、ごめんなさい!ごめんなさいっ!」

 リッカは真っ赤になって何度も謝った。

 

「いやいや、いいよ。もう脱走しないって約束してくれたら、それでいい」

「ごめんなさい…」今度は消え入りそうに謝る。

 

「ハハハ。まぁ、オレも帰国の事は触れないようにしてたから、それで無茶させたのもあると思うしね。火影様にはきちんと話してあるから、もう無茶しないでよ?無茶すると回復が遅れて余計出発が遅れるんだからね?」

「わかりました…」

「じゃあ、昨日無理しちゃった分、今日は一日寝てること!いいね?」

「はい」と言って、リッカは素直に布団に潜り込んだ。

 

 

 

 十分に動けるようになるまで、それから一週間かかった…。

 

 例の術に使う生命エネルギーは、精神・身体エネルギーと比べてはるかに回復に時間がかかると言っていたが、それだけではなく、恐らく最近の疲れが一気に出たのだろう。

 

 少し動ける様になると、また脱走を試みるのでは…と若干不安もあったが、オレが会議に出て留守にしてもきちんと待っていたので、さすがに無茶をしたら余計出発が遅れるという事を、やっと理解してくれたようだ…。

 

 

 その日の午後、演習場で軽く調子を見て、オレは合格にした。

 

「うん、これなら明日には出られそうだね」

「はい!ありがとうございます!」

 久しぶりに思いっきり動いて頬を上気させたリッカは、嬉しそうにそう言った。

 

「じゃぁ、今日のうちに火影様に挨拶に行っておこうか」

 


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