カカシ真伝 雪花の追憶   作:碧唯

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第十二話 秘術

 池のほとりで四人並んで座っていたが、皆息を切らせている。

 何か術を教えてもらっていたのだろう。

「やぁー、お待たせ!」と言いながら姿を現し、リッカとナルトの間に腰をおろす。

 

 見れば周りの木には、クナイや手裏剣がいくつか刺さっている。手裏剣術もやったが、そっちはすぐに止めたってとこか。

 ま、仕方がないか…。

 オレもあの時一度きりしか見ていないが、リッカは特殊だったからだ…。

 

 あの刀の男に投げた手裏剣が、闇雲に投げたものでは無いことは、その後のクナイを持って向かっていった姿から分かった。

 急所、何処を突けば何処が動かなくなるか、理解している者の動きだった。

 体術と言っても、組手の様な、相対して打ちあう事は最初から考えておらず、急所を突く事のみに特化していたのだ。

 

 だから先刻は「体術はともかく」とあえていったのだ。

 まだ幼い女の子であるリッカが、大人の忍相手に体術で渡り合えるはずがない。

 

 忍者学校(アカデミー)では幼いくのいちであっても体術を教えるが、相手は同じような体格の同級生同士でやらせる。

 それは目先の事ではなく将来に渡って身を護り攻撃する術として教えているからだ。

 

 しかし、リッカの場合はそんな悠長なことを言っていられなかった。

 体格も体力も全く敵わない相手が、今日にでも襲ってくる可能性が多分にあったのだ。

 

 まぁ、あのヒイラギ君の影響もあるのだろう。

 リッカは幼い頃より護衛として仕えていたと言ったが、そうすると、オレよりいくつか若い筈の彼は、少年の頃から仕えていたことになる。

 彼自身が幼い身で大人とやりあわなくてはいけなかったのだろう。

 

 オレが周囲の様子を見ていたのに気付いたナルトが言う

「あー、手裏剣はもうやめたんだよ。リッカってば剣術の方が得意らしーぜ!」

 アレより得意なものがあったとは…。オレは興味をそそられて尋ねた。

「へー、そうなんだ。チャクラ刀を使うの?」

「いえ、剣を使うのは、チャクラの消費量が多い忍術の補助のようなもので…。忍術だけではすぐチャクラが切れちゃいますし、体術ではどうしても劣ってしまいますから」

「そうだなー、リッカの歳だと、まだチャクラの量も多くないだろうし…。オレもお前らの歳の頃は短刀が主武器だったな。まっ、チャクラ刀だったけどな」

「「「「へぇー!」」」」

 四人揃って興味津々だが、オレの昔話はいいんだって。

 

「で、今は何やってたの?」

 これにはリッカが答えた。

「水の性質変化をやってたんですけど、教えるのは難しいですね」

「そうだなー。まずその性質が扱えるかどうかからになるしなー。五つの性質の内、上忍でも二つか三つだしなー」

 さすが成績優秀のサクラには理解できたようだ。

「どの性質も扱える訳じゃないんだ…。先生は?」

「オレか? オレはもちろん、全部だ!」

「「「「えぇええー!」」」」四人揃って驚く。

 

「写輪眼でコピーした術は全部使えるからな。けど元々のオレの属性と合致する術の方が威力が高いからな、実戦で使うのは属性が合ってるものだけだ。 そうなると、雷、水、土の三つだな!」

「それでも三つかよ!ずりーなー!」

 …オイオイ。オレも上忍だぞ…。

 

 

「ところでさー」唐突にナルトがリッカに尋ね、横でサクラがワクワクと目を輝かせる。

 このパターンは嫌な予感しかしない…。

 

「リッカって今、カカシ先生と一緒に住んでるんだってな!」

「…いや、一緒に住んでるっていうかだなー」

「そ、そ、そうです。監視です!私は他国の忍ですから!」

 リッカは真っ赤になって、目を真ん丸にしてしどろもどろに答える。

 

「でもさー、でもさー、一緒に暮らしてるってことはさー、もしかしてカカシ先生のマスクの下見たことあるんじゃねーか?」

「そ、それは…」リッカが答えてしまう前に、遮ってオレが答えた。

「ないよー。 ね!」と言いながら、右側のリッカにだけ見えるように片目を瞑る。と言ってもオレはいつも片目なのだが…。

 すると、リッカは耳まで真っ赤になってしまった…。ありゃりゃ…マズイ。

 

「あのねー。オレは家でもマスクつけてんの。上忍たる者如何なる時においても」

 オレの言葉が終わらないうちにサクラは「あーはいはい」と言い、ナルトは「なんだよー、つまんねーなー!」と悔しがる。

 …ふぅ、なんとか誤魔化せた。

 しかしまー、素直な子達だ。

 普通に考えて、マスクをしたまま風呂に入ったり、眠る奴がいるかよ…。

 

 家でくらい寛がせてくれ…。

 でもまぁ監視対象を家に置いて寛いでいるとは、部下の前では決して言えないからね…。

 

 その時、不敵な笑みを浮かべるサスケに気付く。

 …あぁ、一人いたね、素直じゃない奴が…。

 

 

「そんな事より、もう術はいいのか?」

「だってさー。簡単に覚えられるのがねーんだってばよー」

「そりゃお前…。そんな簡単に覚えられたら誰も苦労しないでしょー…」

「「「………」」」 …皆の言いたいことはわかった。

 なんだこの、まるでオレが楽してるとでも言いたげなコイツらの眼差しは…

 

「そりゃ写輪眼ならコピーできるけどだな…」

「それ、それ、それー! 先生がコピーしておけばいいんじゃねーかー!」

「オイ…ナルト、お前らの修行だろーが…。オレが覚えてもしょーがないでしょーよ」

 

「だってよー。リッカ、もうすぐ国に帰っちゃうんだってばよ! なら、それまでに覚えられなくても先生に教えてもらえるだろー!」

 オレは思わずリッカの方を振り返った。

 つい先程まで真っ赤になって俯いていたのに…、今は力強い意志を感じる瞳でオレを見つめる。

 やはり帰るつもりか…。

 ナルト達もリッカもオレの決心に気付いていないが、ここで話す必要はない。

 

「ふぅ…。わかったよ…。悪いがリッカ、幾つかコピーさせてくれないか?」

 言いながら、オレは額当てを引き上げる。

 

 リッカは風遁と水遁の幾つかの術をやって見せてくれた。

 

 この歳でこれだけの術を操る事にも驚いたが、絶妙なチャクラコントロールには更に驚かされた。

 少ないチャクラ量故かも知れないが、既にサクラの上を行っている。

 オレは幹部連中に、リッカがサスケ達よりも上だと言うのは生まれ育った環境によるスピードの違いに過ぎないと言ったが、これは…それだけじゃないね、どーも。この子も天才かも知れないね。

 

「こんなところでしょうか…。本当は氷遁が伝えられたら良かったのですが…」

 リッカのこの言葉にナルトがすかさず反応した。

「お前も氷遁使うのか!ハクと同じだってばよ!」

 そうか…、ナルトはあの時気付いてなかったか。

 不思議そうにリッカがこちらを見るので、代わりに説明してやった。

「少し前に出会った子が氷遁使いだったんだ。あの子も強かったからねー」

「…だなー」しみじみとナルトが言った。

 それだけでリッカは何かを感じたのだろう。何も言わなかった。

 

「じゃーさ、じゃーさ、あのサスケの傷治したのは?」

 気分を変えるようにナルトが言った一言は、オレも興味があった。

「先生さー、あれってば、医療忍術って言うんだろ?」

「ん? …どうなんだろう、実はオレも初めて見たんだ」

「えぇ!?先生が初めてって…」サクラが驚く。

「木ノ葉にも掌仙術といって似たような医療忍術があるんだけどな…、あれは違った」

 リッカは少し困った顔をして答えた。

「さすがカカシ先生ですね。一度見ただけで気付くなんて…」

「いやぁー、写輪眼で見てなかったら気付かなかったかも知れないけどね…」

 

「あれは…、医療忍術と言えるような高度なものではありません。私が唯一、ヒイラギからではなくお母様から教わった術です。 …そうですね」

 あたりを見回し、クナイの刺さった木に近づく。オレ達はそれを囲むように見守る。

 リッカはクナイを抜き取り、下に落とすと印を結んだ。

 そして両方の手のひらを幹のクナイの痕に向けると、明らかにチャクラがクナイの傷痕に流れ込んでいるのが見えた。

 すると、幹はみるみる元に戻り、傷痕など初めから無かったかのように綺麗になった…。

 

 術をコピーした流れで左眼を開けたままだったオレには、あの時と同様、リッカのチャクラの流れが見えていた。

リッカは医療忍術のような高度なものではないと言ったが、これは…。

 オレの考えが正しければ、秘術、禁術レベルだろう…。

 

「人の怪我と違って、植物や小動物を治すのは比較的簡単にできます」

 リッカのその言葉でオレ達は我に返る。

 

 引き続きしゃがみこんで、先刻の風遁の術で散ってしまった花に手をかざすと、みるみる元気になり、驚く事に蕾を付け花を咲かせた…。

「すっげー!すっげー!お前すっげーってばよ!」

 興奮したナルトが思わぬことを言い出した。

「じゃーさ、この花みたいに死んじゃった人も生き返らせることできるのか?」

 常識にとらわれないで物事を考えられるのがナルトの良いところでもある。

「ナルトバカじゃないの!」

「死んだ奴が生き返るわけねーだろ」

 サクラとサスケは常識的に言うが、リッカは驚き目を見開いている。

 …まさか…できるのか?しかし、もしできたとしても…この術の仕組みからいって…。

 

 そう、医療忍術はチャクラを大量に消費する。この術は見たところそれ以上だ。

 五大性質変化はチャクラを水や火、風、土、雷に変化させるのだが、この術は…術者の生命エネルギーを、相手の生命エネルギーに変化させているのではないか?

 もし、そうだとすれば、死者の蘇生にはそれ相応の対価が必要だろうな…。

 

「やっぱ、そっかー。そうだよなー」

 ナルトが一人で納得したので、リッカは何も言わず他の花も甦らせていった。

 さすがに術を使い過ぎだと思い、リッカに声をかける。

「リッカ、もう…」

 リッカは「はい」と言って立ち上がろうとしたが、そのまま崩れ落ち、オレは倒れないように抱き止めてやるしかできなかった。遅かったか…。

 

「ごめんなさい…」リッカは消えそうな声で謝った。

「いや、あれだけ術をさせた後だったんだ。もう少し早く止めるべきだった。すまん」

 

 そうだ、オレが来る前からナルト達に術を教え、さらにコピーするために多くの術をさせた時点で既にかなりのチャクラを使っていたのだろう。そこにあの術だ…。

 心配そうに覗きこむ三人に言う。

「オレはリッカを連れて帰るから、お前らも適当に帰りなさい」

 


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