カカシ真伝 雪花の追憶   作:碧唯

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第十一話 少女の正義とカカシの決意

 程なくして、幹部連中と、ナルト、サスケ、サクラがやって来た。

「サスケ、お前達も戻ってたのか」

「あぁ」

「ちょうどよかった。悪いが会議の間、三人でリッカを見ててくれないか」

「おう! じゃーさ、じゃーさ、お前においろけの術教えてやるから、お前もオレ達に何か術教えてくれってばよ!」

 …ナルト、頼むからくのいちにおいろけの術をやらせるのはやめてくれ。…というか、そもそもリッカはくのいちではなく「王女様」だったんだよ…。それはマズイだろ…。

「はい、わかりました!」

 オイオイ、リッカ…。 って、問題はおいろけの術だけじゃなかった…。

 

 幹部達が、オレを物言いたげに見ている理由を察して声をかける。

「ナルト待て。おいろけの術はともかく…。いや、それもリッカには教えるな。あと」

「そうよ、バカナルト!リッカに変なこと教えないで!!」

 サクラは同じ女の子としてそこが引っ掛かったようだが、流石にサスケは違った。

「このウスラトンカチ…。忍者が他の里の奴に術教えるなんて聞いたことねーよ」

 

 そう、幹部連中も同じ事を考えていたのだ。

「サスケの言う通りだ。リッカ…、お前は十分に情報を漏らしてる。里の術まで漏らしたら、お前は国を、更に裏切る事になるんだよ?お前は国に帰りたいんじゃなかったのか?いいのか?」

 部屋を出ていこうとしていたリッカが振り返り、小首を傾げながら、しかし自信を持って答えた。

「構いません。それに私の国は既に、いくつかの火の国の情報や、木ノ葉の術を得ています。ここで私の知っている術を教えても、それでちょうどおあいこじゃないですか?」

「…おあいこ…か」

 

 大人びた口を利いてもまだまだ子供…

 オレも含めて、幹部連中まであっけにとられている。

 その情報を、守ったり奪ったりすることに命を賭してきた、歴戦の忍たちだ。

 が、誰一人としてリッカの答えを、子供だからとバカにしているわけではない。

 子供ならではの純粋な正義感。

 自らもかつて持っていたそれを、百戦錬磨の忍達も思い出しているのだろう。

 本当に不思議な子だ…。

 この人達のこんな顔、見たことなかったからね…。

 

「お前が分かってるのなら、オレは何も言う事はないよ。お前の思うようにしたらいい」

 そう言ってやるとナルトはガッツポーズで喜んだ。

 

 これまでリッカはあくまでも捕虜であり、同行した任務中も、演習中も、一切忍としては動いていない。恐らく、三人は彼女の実力を知らないだろう。だからこそナルトも、おいろけの術を教えてやると上から目線なのだ…。一応言っとくか…。

「ナルト、サスケ、サクラ、いいか?お前らより年下だと言って侮るなよ。体術はともかく…、手裏剣術や忍術は、リッカの方がかなり上だろう。よく教えてもらえ」

 これには幹部連中と三人、特にサスケは非常に驚いていた。

 そりゃそうだ…、仮にも忍者学校(アカデミー)首席卒業のエリートだ。

 エリート君のプライドが刺激されたようだった。

 

「いや、ちょっと待て」火影様が止める。何か不味かったか?

「カカシ、あの娘は氷遁を使うと言っておったな」

「はい、確かに氷遁は教えても…」

「と、言うことは…じゃ、水と風じゃな」

「そうですね」ここでやっと気付いた。

 恐らく、火影様の頭の中には、水でびしょ濡れになった重要な巻物と、風でずたぼろになった大切な書が思い浮かんだのだ。

 

 オレは窓の外を見下ろした。小さな池のほとりにちょっとした広場がある。

「ナルト、術をやるなら外で…、ここの下ならオレにも見えるからそこでやりなさい」

 あいよーと言って、元気よく出ていった。

 

 四人が出ていくと、まずシカクさんがオレに言った。

「カカシ、面白い娘だな。不思議な魅力もあるが、気も強そうだ」

「そうですね」答えながら笑いをこらえるのに必死だった。

「あれが木ノ葉の娘なら、息子の嫁に欲しかったところだ」

「ハハハ」全員が笑った。

 

「カカシの言うように、あの歳でうちはサスケよりも上だとしたら、もし木ノ葉に生まれていれば貴重な逸材になっていたでしょうな」

 誰かが言った。それを聞き、オレは火影様と笑いあった。

 ちょうど三人でその話をした後だからだ。

「彼女は内乱の絶えない祖国に生まれ育ったからこそ、今の自分があるとわかっています。戦争中だった私の子供の頃と、今のナルト達の成長のスピードが違うのと同じように、争いの絶えない彼女の国と、この火の国では違います。彼女ももし、木ノ葉に生まれていたら年相応にまだ忍者学校で学んでいるところでしょう。忍になることすらなかったかも知れません」

 ちょうど窓の下に到着し、手を振るナルト達を見ながらオレは、リッカがなぜあのように大人びているのか…、そうならざるを得なかった背景、リッカが話した杜の国の事情から話始めた。

 

 話を聞き終えた幹部達の意見は、オレや火影様が感じていた事と概ね違いはなかった。

 それぞれが管理する部隊への指示を振り分け、会議はお開きとなった。

 

 早速部隊への指示を出すために皆が部屋を出ていき、火影様とシカクさん、オレだけが部屋に残ると、シカクさんが火影様に尋ねた。

「それで、あの娘をどうするおつもりですか?」

「ワシはあの娘を捕虜だとは思っておらん。帰りたいと言うなら帰してやりたいが…。果たして、国に帰ることがあの娘にとって、本当に幸せなことなのか…」

 

 火影様は少し考えるようにパイプを燻らせてから話を続けた。

「遠い他国の忍の話じゃ。と言って切り捨てるには…、少し関わりすぎたのォ、カカシよ。お前もそうであろう」

 オレは黙って頷くしかできなかった。

 

「例え杜の国が襲撃してきたとしても、抑える事はできるだろうが、情報がある程度漏れている事を考えると、…被害は多少なりとも出るじゃろうな。木ノ葉も守りたいと言った、あの娘の気持ちにも応えてやりたいと思うが…、どのようにするべきか…のォ」

 

 オレの意見を求めている訳ではない事は分かっていたが、ずっと考えていた事を口にせずにはいられなかった。

「もし、火影様がリッカの帰国を許されるのでしたら、私は彼女と同行したいと思っています」

「「何!?」」二人が同時に声をあげる。

 

「元々が私を杜の国に連れて行ったら、木ノ葉襲撃計画には協力しない…、という約束の元に、リッカは木ノ葉に来たのです。それで全てが解決するなら、それが最善かと思いますが…」

「しかし、お前を連れて来いというからには、お前に恨みがある者の仕業じゃろう。それを分かっていて行かせるような事はできん!」

 火影様はきっぱりと言うが、オレは既に決めていた。

 

「私も死にに行くつもりはありません。しかし他に方法が無いのです。例え止めても、リッカは強引にでも国に帰ろうとするでしょう。その時、私は引き止められる自信がありません」

 火影様達はわかっている。オレが力尽くで引き止めようと思えば不可能な筈がない。

 だが、オレはそうしたくないと言っているのだと…

 

「リッカを一人帰せば、今度こそ消されるか、万が一、帰れたとしても戦争を止める事はできないでしょう。火影様も仰られたように、あの子がどうなっても関係ないと言うには関わりすぎました。それに、私を恨んでの事なら尚更、私が行くべきです。リッカを一人で帰す事には賛成できません」

「…ふむぅ。…しかしのォ」

 と言って、火影様は決断を先延ばしにした。

 

 それが最善である事に変わりはないし、リッカの事だけでなく、オレは何と言われても杜の国へ行き、その男に会わなければいけない。

 

 今はこれ以上話しても無駄だと思ったオレは

「それでは…」と言い残し、四人がいる場所に向かうため窓から飛び降りた。

 


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