細かい事は気にしねぇ! って方はそのままお読みください
僕が自分を認識したのは丁度四歳の誕生日の日だった。
目が覚めたら次々に蘇る前世での記憶と僕自身が何者なのかも理解した。
40℃以上の高熱を出して起きたらテンプレの白い病室。両親等は僕が目を覚ましたら涙目になりながら抱き着いた。掛けられる言葉はごく普通で当たり前の台詞だった。
大丈夫? 具合は悪くないかい? 気分はどう?
ああ。こんなにも普通で当たり前の言葉なのに僕はどうして素直になれなかったのか。正直、気持ち悪かった。目の前の現実を受け入れられなかった。それでも返事を返さないといけないと思って
「大丈夫。具合悪くないよ、母さん。父さん」
そう返すしかできなかった。
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…とても懐かしい夢を見ていた気がする。
そう思いながら鬱陶しくなり続いている目覚まし時計を叩いた。もちろんまた鳴らないようスイッチも切ってだ。健康に過ごしているので二度寝はせずにそのまま起きる。窓側のカーテンを開けるとガラスには霜ができているが気にせずにそのままジャージを着てウィンドブレーカーを羽織る。ハンドタオルと適当に肩にかけ、自動販売機で買えるくらいの小銭を大体でいいので適当に右ポケットに突っ込む。一軒家の二階に住んでいるので階段を下り洗面所に向かい目が半開きになっている顔に水をぶっかける。歯を磨きながら鏡を見るわけだが何度も見ている赤茶色の髪に琥珀色の瞳が映ってる。見慣れた己の顔だ。だが、いまだに自身がこの世界の人物だと疑心暗鬼になってしまうが幻でもなければ夢でもない。
…どう考えても士郎さんです。はい…
本当に、なんでさ!
どーも、エミヤさんです。
あの四歳から十数年。最初はすんげぇ慌てて現実を受け止められなかったのと、この少年の精神を殺してしまったと罪悪感で日々を過ごしていたが時間が過ぎていくとその存在は少しずつ薄れていってしまった。なんて屑な人間なんだと思いながら日常を過ごしていたが運命なのか突然住んでいる近くで爆発事件が起こり俺を庇った両親はぽっくりと逝ってしまった。心の中で死んだなと笑いながら目を瞑ろうとしたら救われましたよ、正義の味方さんに。その後は養子になるかいって誘われたからなるなるーとなって次の日から美人の母親、メイドさんに将来絶対に美女になる妹が家族になりました。え? 親父? 俺にはカメラを持って妹(イリヤ)を追いかける親父は知りません。
「ただいまー」
「お帰りー、シロウ」
「シロウ、お帰りなさい。朝食はもうすぐできますので」
「はいよ。シャワー浴びて制服着てから戻って来るよ」
朝のランニングから戻ってくると元メイドの二人が挨拶を返してくれる。リズ、セラである。ちなみに俺の趣味には家事とか入ってません。やろうとしたらセラと面倒なことになるのは目に見えてるからである。だからいつまで経っても一般的なことしかできないんだよなー
「あ、シロウ? 降りてくる時にイリヤさんを起こしてくれませんか? まだ寝ていると思いますので…」
「あー、はいはい。いつも通りにね」
「相変わらずイリヤは朝に弱い」
「リズ! 貴方はもう少しメイドとしての自覚を持ちなさい! シロウは返事は一回でよろしい!」
「「は~い、お母さん」」
「誰がお母さんですか!?」
軽く受け流しながら浴室に歩いていく。役割で家事をやってるとはいえイリヤの心配をしているのと怒るところはしっかりと怒る時点で立派な母親と変わりないと思いますが? あ、でも母さん(アイリさん)の料理は勘弁してください。あの味はもう二度と思い出したくないとです…
まあ、こんな感じで俺と元メイド二人との関係は良好である。最初はよそよそしかったが今では姉弟みたいにやり取りができている。でもセラの最初メイド~ってな感じも嫌いではなかったけどな! けどリズは最初の頃からぶれていない。変わらずいつもソファーでだらけている。そこが魅力なのかもしれないがせめて一言言わせてください。自宅警備員、少しは働け(家事)。
そんな個性が強い二人だけどもう一人、個性的な妹がいる。小学五年生、髪と瞳は母親譲り、親父の要素を見た感じ一切引き継いでないとても可愛らしい妹、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンである。
「お~い、イリヤ? 起きてるかー?」
シャワーを浴びて速攻で着替え、彼女の部屋前で声を出すが返事なし。声で起きてないとするとノックしても起きる可能性は低いと勝手に判断する。となればやる行動はただ一つ
「お邪魔しまーす」
揺すって起こすしかないでしょ(ゲス顔)。勝手に入ってもリズには怒られないし母さん(アイリさん)にも怒られない。大丈夫だ、問題ない。入れば主にピンク色が多い部屋の中に布団の上ですやすやと寝ている妹がいた。まったく目覚まし時計で起きないとは我が妹ながら残念なところである。しかし可愛いから許す。可愛いは正義である。
「おい、イリヤ? いい加減に起きないと遅刻するぞ?」
「………」
軽く揺するが目を覚ます気配は感じない。その後はどんどん強くしていくが逆にどんどん顔が笑顔になっている。おいこいつ、起きてるんじゃねぇの? そんなことは言えず、困っていたところに大胆な行動をとってきた。
「わっ」
「…えへへ。おに~ちゃ~ん」
「…おいおい、抱き着くなんて。ある意味恐ろしい妹だな」
男子高校二年生、小5の義理の妹に抱き着かれる。鼻には少しだけ甘い匂いが漂うが俺はロリコンではない。興奮なんてせずに引き離そうとするが逆に抱き着きが強くなる。これは紳士の方々に見られたら俺、生きてる自信ないわー。イリヤと言ったらfete界屈指の小学生お姉ちゃん、魅惑の小学生。時には甘え、時には頼もしい姉になる。そんな印象が俺の記憶に残っている。だがここにいるイリヤは普通の小学生。そう、決して小悪魔なお姉ちゃんキャラじゃない。けど可愛い人や動物を見かけたら頭のネジが一本どころか十本以上おいてきてしまうのが残念だが。見た時は軽くショックで眠りたくなったなー本当に。
「あーあ。何やってんだか…」
抱き着いた状態のまま呟いてしまう。これセラに見られたらフライパンどころか包丁、リズのハルバード持ってくるね。けど、イリヤの笑顔に何度も気を許してしまう。昔からだ、俺が失敗した料理を食べる時も、転んで怪我をしたイリヤに絆創膏を貼る時も。俺がどこに行こうとすると必ずイリヤがついてきて離れようとしたら泣いてしまう、手を繋いだら親父が鼻血出しそうな笑顔をする。まったく敵わんよ、妹には色々と。
「…う、ん?」
どうやらようやく目を覚ましてくれたみたいだ。
「おはようイリヤ。いい夢を見れたか?」
「え…? ええぇ!?」
意識を覚醒させた瞬間、真っ赤に顔を染めて俺から離れていく。そういう乙女の反応、兄さんは嫌いじゃないぞ。
「な、なんでお兄ちゃんが私の部屋に!? っていうか、今さっきまで私…」
「うん、思いっきり抱き着かれてたな」
「っ!? お…お兄ちゃんのえっち!」
「離す努力はしたんだぞ?」
投げてくる枕を顔で受け止めながら答える。おかげで妹の初々しい反応が見れた。目のシャッターを切らなければ。眼福眼福。
「うう~! だったら、だ…抱き着く前に起こしてくれてもいいじゃん!」
「はいはい。それより朝食ができてるぞ。早く着替えてこい」
「え? 嘘!? もうこんな時間なの!?」
わ~ん! と泣いてる妹を部屋に置き去りにしてリビングへと向かう。こんな日常の生活をしてる、なんて考えると頬が緩んでしまう。並行世界を知っている俺にとってこの世界はまさに理想郷である。まさか…こんな衛宮家が存在するとはさすがに予想外だ。イリヤはホムンクルスじゃなくて歳を取れば体は成長するし、親父も母さんも生きている。メイドの二人も平和な日常を共に過ごしているし不自由がない。後は両親二人が海外から帰ってきて一緒に暮らせば完璧だが、そこは問題があるから仕方がない。色々と事情があるのだ。
「シロウ…」
「セラ、言われた通りにイリヤを起こしたぞ」
「部屋に入る必要はなかったでしょ!? シロウも何故イリヤ様の部屋に入るのですか!?」
えぇー。イリヤが勝手に抱き着いてきたし、俺悪くないんだけど…。この場合、いくら返事をしてもセラは俺が悪いと解釈する。酷い。
「起きてこなかったし、そのままにしておけないと思ってな。起こしたらすぐに出るつもりだったけどなんでか抱き着かれた」
「入らずに私達に頼めばいいでしょう!? それを当たり前のように部屋に入るシロウも常識を考えなさい! 何ですか、シロウはペドフィリアだったのですか!? ロリコンだったのですか!?」
そこまで言うか!? セラも義理とはいえ妹に興奮すると考えてるって…常識を考えてほしいんだけどな!
「意味は一緒で変わんないから。後、俺はさすがに義理の妹で興奮する趣味なんてねーからな。どうせ漫画を読んでて寝る時間が遅くなったとかじゃないの?」
「うっ…。それを言われますと教育者としての責任が…。ううぅ…奥方様、申し訳ございません…」
「俺が駄目じゃ、セラかリズじゃないとだなー」
「リズは却下です。ここは責任を持って私が行かないと…」
イリヤ。お前の娯楽タイムは明日から無くなりそうだ。俺は無力ながら祈っているよ…アーメン
激おこのセラを回避して良い匂いが漂うテーブルへ早歩きで向かう。そこには既に席に座っているリズが椅子に背もたれながら待っていた。ヤツめ、もう準備はできていたか。
「シロウ、セラは?」
「たぶん上に行ったと思うけど?」
「イリヤ。アーメン」
「アーメン」
二人で上に向かって祈りを捧げる。すると上から女性の喚き声が聞こえてきた、もちろんセラの声だ。おおうこうなったセラは母さんがいない限り止まらないからな。リズは何もなかったかのようにテレビのリモコンを取りチャンネルを変えていた。おい、数秒前の祈りはどこにいった。
「私、過去は振り返らないの」
「せめて失敗した過去は振り返ろよ」
「そこは何故俺の考えを読んだ…? ってツッコミ入れないの?」
本気で不思議そうに頭をかしげるリズ。そう返すか。そこでそう返してきたか。
「やべえ。俺一人じゃ手に負えない」
「ふっ…。シロウもまだまだだね」
鼻で笑いジト目で見てくる白い悪魔。行為は可愛らしいが俺はニートには厳しいんだ、許さん。
「おい、いい加減にしろよ? 自宅警備員」
「そこはニートって言ってよ」
「何故悪い言い方を進めた!?」
「皮肉言われるならせめて堂々とされた方がいいかと」
「お、今日は晴れかー。洗濯物を干すには良い日だなー」
「無視は負けと判断する。この言い合い、私の勝ち」
ブイと手を動かすリズを無視する。いつからこれは勝負になってたんだ。そんな馬鹿なやり取りをして時間を過ごしてると制服姿に着替えてきたイリヤとセラが降りてきた。イリヤが涙目になってたのを俺の無駄に鋭い視力が捉えていた。しょうがないね、家庭内は主婦が正しく最強だから。母さんは論外。神様、仏様が来る前に母さんが入るくらいにあの人はこの家庭の権力を握ってる。つまりは親父がいないと誰にも止められないのだ。
「遅いイリヤ。温かいご飯が冷める」
「ごめんなさーい! お待たせしました!」
「イリヤさん? 次があったら漫画はしばらく禁止にしますからね?」
「はいいぃ…。ううぅ…私の周りに味方がいないよ…」
「話は聞いてやるからな? イリヤ?」
「あ、ありがとう…。お兄ちゃん…」
「シロウ! 貴方はそうやってまた甘やかす!」
「家庭内にはこういう役割も必要だからな」
「せめて私のいないところで言ってほしかったよ!?」
「早く~。ご飯~」
…こんな騒がしい日常が続けばと。俺は願ってもやはり運命ってのはそれを裏切ってくる。それが普通から非日常に落ちることになることも知らずにだ…。
士郎君、リズの影響が大きい模様。