『場所が悪かった』
<<いいスネーク、まずCQCの基本を思い出して>>
「これより、バーチャスミッションを開始する!」
─約5分後─
「少佐、ここに…!」
「ああ、恐らくは我々以外にも降下した奴が居たのだろう。パラシュートの引っ掛かり方から見ると…」
「俺のように崖を目前にして咄嗟にパラシュートを?」
「ああ、そうだろう。状況判断に優れた人間だな」
「しかしバックパックや弾薬がパラシュートから崖の方向へと散らばっているが、これはつまり…」
「ああ、そいつは運が無かったんだな…場所が悪かったんだ」
「…………」
「スネーク、君もそのパラシュートの主と同じようにならなくて良かったじゃないか」
「ああ…では、任務に戻る!」
<<少佐、応答して下さい!少佐、応答を!少佐あぁぁぁ!!!>>
デー、デー、デ、デデン、デデデン!!!
One week later(一週間後)...
11:30PM August 30,1964
(1964年 8月30日 PM11:30)
Arctic Ocean airspace
(北極海上空)
夜の北極海上空を、一機の航空機が飛行していた。何も知らない一般人が見れば、上部に見慣れない物を取り付けた通常の双発エンジンの航空機としか思わないだろう。しかしその航空機が通常ではあり得ない速力で飛んでいるのを除けば…だが。
SR−71
それがこの航空機の名称である。簡単に言えば、成層圏ギリギリをマッハ3で飛べる化け物偵察機である。
そんな化け物偵察機がこの北極海上空を飛行しているのには勿論理由がある。それが、この偵察機が上部に取り付けた"ある物"であった。
<<現在北極海上空高度3万フィート、ソ連領空に接近中。間もなくドローン射出ポイントに到達します。ドローン、油圧・電圧共に正常。ペイロードへの酸素供給は正常。ペイロード用防寒装置への電力供給異常なし。突風(ガスト)なし…現在ドローン切り離しに問題なし>>
<<いいか、今回はHALO降下は無理だ。前回の作戦以来空域の警戒が厳重になった。バーチャスミッションの時のように上空へは近づけない───よって、最新鋭の兵器を使う>>
ドローンと呼ばれた上部のある物、その中には人間が入っていた。その人間は野戦服を着て、バンダナを頭に巻いた男だ。そう、あのバーチャスミッションを遂行しようとし、失敗し、ザ・ボスによって敗北したスネークであった。
<<スネーク、これはアラン・シェパード並の栄誉だぞ。これが最後のチャンスだ、愛国心を示せ!>>
この日、ソ連領内ドレムチイに未確認物体が墜落した。
音速超えで空中を切り裂くように飛行するそれは、米軍の秘密兵器──ドローンであった。
小型ロケットとも表現出来るドローンは凄まじい速度でソ連領空を飛行、追跡を仕掛けてきたソ連政府のMIG戦闘機を簡単に引き離し、山中へと消えた。
そして墜落する直前、ドローンは内部から1人の人間を射出した。射出された人間は射出と同時に背に背負ったパラシュートを開傘し、落下速度にブレーキを掛けながら生い茂る密林の中へと消えていった。
それから数分後、異常を察知した哨戒部隊がドローンの落下地点と目された区域へと急行した。
しかし暗い夜の闇によって、落下していたドローンを発見はしたものの、肝心な存在──すなわち彼等のそばを匍匐で潜みながら進んで行く侵入者に、哨戒に当たる歩兵は誰も気付かない。
だが匍匐でナイフ片手にひっそりと進むその男──あのドローンから射出されたスネークは、武器を携行していなかった。いや、確かにナイフを手にしてはいるが、彼はそれ以上に肝心な武器──銃を所持していないのだ。
それはつい先程、自身を射出し着陸した小型ロケットもといドローンを見付ける為に、探索していた時に起こった事態故であった。
──アメリカ某所──
「どうだ?最新のICU(集中治療室)に入院した感想は?」
「…背広の連中に、面会時間を教えてやってくれ。昼も夜も質問攻めでは、治る傷も治らん」
そこでは葉巻をくわえた顔に傷を持つ男が、全身包帯だらけでベッドに寝かされている男と会話をしていた。
葉巻をくわえた男の名はデイビッド・オウ──またの名をゼロという。あの科学者、ソコロフを救い出す作戦の指揮官であった男である。
そして包帯だらけでベッドに寝かされている男は、スネークであった。彼は先の救出作戦──バーチャスミッションと呼ばれる作戦において目標達成に失敗し、全身傷だらけになりながらも、生還を果たしていた。
しかし上層部からは、ザ・ボスの亡命を手助けした売国奴という嫌疑をかけられ、治療を名目に軟禁されている最中でもあった。
「ああ、軍上層部の事情聴取だな」
「事情聴取?尋問だ。奴等によれば、俺はザ・ボスの亡命を助けた売国奴らしい」
「連中には処分する対象が必要なんだ」
「……あんたもその対象に?」
「お互いヒーロー(英雄)にはなり損ねたということだ」
「俺たちの『FOX』も死ぬのか?」
「いや、狐(フォックス)はまだ狩られない。今日来たのは…そう、我々『FOX』の汚名を返上するためだ」
「なんだって?」
「状況が変わったんだ。まだ我々が生き残るチャンスはある」
「何のチャンスが?」
「落ち着け。君も葉巻はどうだ?ハバナだ」
「いや、遠慮しておく…」
「そうか。実は今朝、CIA長官から呼び出しを受けた」
「そうか…俺たちの処刑時期が決まったか?」
「違う。いいか、よく聞くんだ…」
見舞いに訪れたゼロ…彼からスネークは、クレムリンの指導者フルシチョフと、アメリカの指導者ジョンソンによる対話と交わされた密約を告げられた。
すなわち、スネークを再びエージェントとして送り込み、ヴォルギン大佐の殺害と核搭載戦車シャゴホッドの破壊───そしてソ連の設計局に核を撃ち込んだ狂人ザ・ボスを抹殺することで、今回のザ・ボスの亡命及び核爆発がアメリカの仕業ではないという潔白を証明することであった。
自らの恩師を自らの手で殺す。
しかしそれが成されなければ、世界は核戦争によって滅びる運命にあるのだ。
それと平行して、スネークは少し前からゼロに頼み込んでいた調査の結果を聞いていた。
すなわち、あの時ザ・ボスのコブラ部隊と共にいた、アメリカ国旗のワッペンを着けた謎の兵士についてである。
「スネーク、君から頼まれた調査だが、連中の身元が割れたよ」
「彼らはやはり、アメリカ軍の人間だったのか?」
「ああ、その前にだが、ホットラインでの対話でフルシチョフ書記はこう言っていたそうだ。"我が国のレーダーが、貴国の軍用機らしき機影を<2つ>捉えた"とな」
「どういうことだ?」
「我々だけではなかったのだよ。あの日、ソ連領空を侵犯していたのは…な」
「しかし他に友軍機は……英国の民間機か!」
「そうだ、少し裏を探ったら見つけた。我々アメリカの空軍基地に駐機されていたよ。外見は民間機だが観光客を運ぶには必要無いバルカンカノンを2門、中身も空挺降下用だった。最も、私が調べた数時間後に"不慮の事故"で爆発に見舞われてスクラップとなったがね」
「あんたが嗅ぎ付けたからか…」
「ああ、まぁそれは置いておこう。さて、連中の正体だが正確には軍ではなくCIAの連中だった」
「CIA?」
「君がツェリノヤルスクで見た連中は米国非合法戦闘工作部隊───通称"ゴースト・カンパニー"、CIAお抱えの非合法部隊だ。直接の戦闘から諜報・破壊工作・暗殺・テロ偽装といった表沙汰には出来ないアメリカの暗部を切り盛りする連中だ。隊長以下隊員の実名も素性も不明、分かっているのは総司令官がシェパードという現役の陸軍中将だということと、ゴースト・カンパニーの連中はCIAに組み込まれる以前からシェパード中将の部下をやってるということだ」
「シェパード中将…あの"狂犬"か。だが良くそこまで分かったもんだ。で、彼はなんと?」
「なに、こっちも特殊部隊を設立してる身だ。政府の裏を知るためのコネクションくらいは持っている。話が逸れたな…シェパード中将の言い分だが"隊長を含めた士官と隊員らで部隊を脱走し亡命に走った者は居ない"…だそうだ」
「"狂犬"の言い分だ。鵜呑みは出来ない」
「その通りだ。実際に調べたが隊員のうち約10人程がシェパード中将曰く"息抜きの長期休暇"で所在不明だった。ちなみにその所在不明の隊員らは、休暇申請日はバラバラだがほぼ全員がバーチャスミッションの約10日前辺りから居なかった。最後の数人も6日前に長期休暇申請で行方を眩ました。しかし行方の知れない連中が関わっていたと立証するのが難しいのも事実だ。経歴も名前も顔すら不明な以上、つついてみた所で行方知れずの連中の身代わりが出てくれば我々によるデマだと言われる。しかも相手は大統領直轄も噂される裏の部隊だ。新設部隊の我々がとやかく言ったところでまともに取り合いはしまい。確かこういったのを日本の諺で"ノレンに腕押し"と言ったかな?ジャック…つまり、この作戦には極めて厄介な不確定要素が増える訳だ。決して油断するな」
こういった経緯から、スネークはまだ傷が完全に癒えていないにも関わらず、事件から1週間後、再びソ連へと単身潜入をしているのだ。
そして銃を失ったのは丁度着陸したドローンを発見した時であった。
ドローンへと近付いたスネークは、突然の嘶きに周囲を見渡した。そこにいたのは鞍の着いた白馬であった。武器をしまいながら、誰の馬かは知らぬスネークは馬へと歩み寄る。
「命拾いしたようね」
その一言と共に現れたのは、SFに出てきそうな白い戦闘服を着たザ・ボスであった。
「どうしてここに?」
スネークのその問いに返ってきたのは、ザ・ボスによる近接格闘であった。距離にして10m以上はあったが、ザ・ボスはその距離を瞬く間に詰めてきた。
スネークは咄嗟に銃を構えるも、銃口が前を向いた時には既に、ザ・ボスはスネークのM1911へ手を伸ばしていた。
発砲する間もなくスネークは地面に叩き伏せられた。即座に起き上がるも、M1911はザ・ボスによって分解されてしまい、鉄屑と化していた。
ザ・ボスによって武器を奪われ、彼女から「帰れ」と叫ばれた。それでもスネークは帰る気は無かった。
そして今、こうして武器を持たないながらも類い稀な潜入能力で以て、スネークはロシアの山奥を進み最初の目的地へと───ラスヴィエットにある、あの始まりとなった廃工場へと辿り着いていた。
纏めて書いていたら遅れました。明日か明後日辺りに残りも投稿します。
-追記-
本編ネタ解説
【部隊マーク】
作中で描写した翼と髑髏のワッペンは、FPSゲームCoD・MW2に出てくる特殊部隊TF141という部隊のマークをイメージした物です。
細部の違いなどもあるのですが、残念ながら絵心が無いため正確なイメージをお伝え出来ません!本当にややこしくて申し訳ない。
【シェパード中将】
シェパードは同ゲームに出てくる米軍の将軍です。渋い声と外見に44口径のマグナムリボルバーを愛用する頭脳明晰で頼れるTF141の司令官でもありますが、ゲームをプレイした事がある方は多分「殺せ、ロシア人だ」の迷言を持つテロリスト並みかそれ以上に嫌いな存在でしょう。
【METAL GEAR AHOD】
これを観たが最後、貴方はメタルギアのあらゆる感動を破壊され尽くし、焼け野原ひろしと化す事でしょう。
真面目な話をすると、元は『シークレットシアター』というメタルギアソリッドのスタッフが3を作った際に、本編ムービーの幾つかを作り替えて感動シーンを抱腹絶倒の馬鹿ムービーに仕立て上げた動画シリーズです。打ち上げで監督らが上映されたその動画を観て、さらに幾つものムービーを作成しました。そのなかのタイトルのひとつを使い、前書きの話を作りました。