歯車戦記   作:アインズ・ウール・ゴウン魔導王

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前回のあらすじ





コブラ部隊がシャゴホッド強奪した

以上。


第8話

"OKB"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはソヴィエト連邦において複数存在する、新型の武器・兵器を開発するためにソ連政府により各地に作られた秘密設計局を指し示す名称である。

 

 

そして複数ある中のひとつがOKB157、通称"ソコロフ設計局"である。この設計局において、現在におけるソ連の最高権力者であるニキータ・フルシチョフは、とある兵器を開発させていた。

 

 

 

 

 

──シャゴホッド──

 

 

 

 

 

ロシア語で"一歩一歩踏みしめる者"を意味するこの兵器は、IRBMを搭載する大型戦車として開発された。目的はただひとつ、搭載された核ミサイルによって、先制攻撃を受けること無くアメリカ本土を攻撃するためである。

 

 

しかしこの日、フルシチョフによって開発された悪夢の兵器であるシャゴホッドは、突如として襲撃してきた、正体不明の部隊によって奪われた。

 

 

襲撃部隊は兵士らを瞬く間に制圧すると、シャゴホッドを奪い、生き残りの兵士らを施設にいた研究員や科学者と共に監禁し、去っていった。

 

 

監禁された兵士や研究員や科学者達は安堵していた。謎の部隊による虐殺から逃れられ、命ばかりは助かったと。数時間後には通信途絶に気付いた政府が救助部隊を送り込んでくれるだろうと。

 

 

その謎の部隊を率いていた大男が今まさにヘリの上で常識からは考えられない狂行を為そうとしているとは思いもせずに。

 

 

"助かった"…そう思い口々に安堵のため息をついた瞬間、彼らの視界は真っ白な光に包まれた。

 

 

もはや誰も思考することも恐怖することも安堵することも無かった。

 

 

空へと赤黒く吹き上がる狂気の産物から産み出された科学反応によって、キノコ雲を残して全てが消滅してしまったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───少し前───

 

 

 

ツェリノヤルスク山中上空を、轟音を響かせながら編隊を組み飛行する武装ヘリ郡がいる。

 

 

ヘリ郡の下には奇怪な金属の塊と形容出来るような兵器がワイヤーで吊るされている。

 

 

そのヘリのうちの1機、その機内で1人の幼女が座席にどっかりと腰を下ろして、眼を閉じている。

 

 

そしてその近くでは黒髪の男性が無線機を通じてヘリのコクピットに居る操縦士と会話をしていた。

 

 

「どうしたカイル上曹、慣れない機体操縦に疲れたか?しかし、少佐殿は大変満足しておられたぞ。これならヘリ乗りに転向しても食って行けそうだな」

 

「どうも大尉殿。しかし、この新型ヘリは鈍重さを除けば非常に良い機体です。ちなみに私が気になるのは監禁した連中ですよ。フルシチョフにソコロフ博士の事がバレないように関係者は全員口封じに射殺する手筈だと…」

 

 

「ノイマン大尉、カイル上曹。作戦はまだ継続中だ、私語は慎みたまえ」

 

「「はっ、申し訳ございません少佐殿」」

 

 

注意を受けた部下の謝罪を聞き終えてから私は、座っていた座席から立ち上がると、ヘリの中で思い思いの場所で小休止を取っていた他の部下達に告げる。

 

「総員、傾注!」

 

声が響いた瞬間、彼らは即座に小休止を切り上げ、気を付けの体勢で私へと傾注する。

 

 

「よろしい。さて、カイル上曹の懸念は最もだ。だが我々に知らせていないだけで、ヴォルギン大佐は何かしらの手は打ってあるのだろう……ではカイル上曹、味方ヘリとの通信を全て切りたまえ……諸君、今後の任務を告げる。我々はグロズィニグラードへ着き次第、兵を2つに分ける。ここまでは事前に伝えていたな?」

 

「「「はっ!」」」

 

「よし、まずノイマンは3名を連れてカイルのヘリで兵舎と武器保管庫に向かいたまえ。そして残りの3名は私と副官と共にシャゴホッドを…」

 

 

気流の乱れが起きたのか、説明の最中にいきなりヘリが揺れた。立っていた私は僅かにたたらを踏むとヘリの扉に手をついた。その時、ふと何気無く視界にあった窓の外を見た。特に理由は無かったし、周りが気流の乱れで崩れた姿勢を直そうしているのを、気にもしてなかった。もしかしたら、途切れた説明を私が続けない事に部下達が困惑していたかもしれないが…。

 

 

私の視線の先にいるのはザ・ボスだ。彼女がヘリから外を見つめている。彼女は何を思っているのか…自然と自らの手を外へと向けた。

 

 

しかし暫しのあと、彼女は手を戻した。しかしその顔にはまだ、何かを惜しむような表情が垣間見えた。

 

 

「…待たせて済まなかったな諸君、さて…続きだがシャゴホッドを…」

 

「お話し中、失礼致します少佐殿…ヴォルギン大佐がデイビー・クロケットを構えてます」

 

「何?まさか証拠隠滅のためだけにわざわざ同国の人間を核で吹き飛ばすつもりか?」

 

 

ヴォルギン大佐がデイビー・クロケットを発射しようとしている理由は分かるが、わざわざ核でそれを為そうなど、精神異常者のそれを疑うものだ。

 

 

…あの悪名高きロボトミー手術が必要なのは、精神病患者達ではなく、むしろ同国の人間を核で吹き飛ばす等という何か大事なモノが欠落してるとしか思えないヴォルギン大佐ではあるまいか?

 

 

 

『ロボトミー手術』

ジョージ・ワシントン大学のウォルター・フリーマン博士という、非常にヤバいお方がヤバい勢いで施術しまくったヤバい手術。当時は治療が不可能と思われた精神疾病が、外科手術である程度は抑制できるという結果から世界各地で手術がおっぱじまった。ちなみに手術で治療したとしても、しばしばてんかん発作・人格変化・無気力・抑制の欠如・衝動性など、重大かつ不可逆的な副作用を発症した。最終的に抗精神病薬の発明とクロルプロマジンが発見されたことに加え、ロボトミー手術による予測副作用の大きさと人権蹂躙批判が相まって規模は縮小し、精神医学ではエビデンスが無い禁忌と看做され、廃止に追い込まれる。

(要は治療3割人体実験7割ぐらいの割合の人類史上トップクラスの最悪手術である。勢いで「必要なのは〜云々」と言ってしまったが、絶対やってはいけないと思う。ナチスのやった人体実験と何が違うかと言われたら多分誰も反論出来ない。─ターニャ・デグレチャフの心の呟き─)

 

 

ヴォルギン大佐のある意味とんでもない行動に、しかし私は冷静に現状把握に思考を割り当てているなか、突然周囲が凍りついた。

 

 

今の私がこんな武装ヘリの中にいる、いやそもそも私がこんな時代を生き抜かなければならなくなった元凶のご登場である。

 

 

私以外の全てが凍り付いた世界に私が居ることが、それを証明していた。

 

 

ヘリの内部に貼られたアメリカのギタリストのポスターの男が顔を此方へと向けてきた。

 

 

「…存在X。またしても貴様か」

 

 

「いかにも、あの世界大戦を味わえば貴様に信仰心の欠片でも芽生えるかと思ったが、未だその兆しは無しか」

 

 

「…存在X。貴様──あの男(ヴォルギン)に何か吹き込んだな」

 

 

「なに、少しばかり心を弄っただけだ…"持ち込まれた物は、知られたくない人間に知られぬよう証拠を消し去るにはうってつけの手土産"だと…そして"亡命者を確実に縛り付けるには国に帰れぬようにしてしまうこと"だとな…」

 

 

「ん?証拠隠滅は分かるが亡命者を確実に縛るだと?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………。

 

 

 

 

 

 

 

…!?待て!まさか、ヴォルギン大佐の行為は!?

 

 

 

 

 

 

「ああ、そういえばお前達はこの国の指導者にソコロフとやらの情報が行かないように隠そうとしていたのだったな。喜べ、生存者が1人だけ居るぞ。今は仲間の救出を待っておるな」

 

「フルシチョフは…この事件の全容を…知る…」

 

生き残りとは恐らく、ザ・ボスが川に放り込んだというあのエージェントの事だろう。彼は我々の真の目的を知らない。間違いなく祖国アメリカに自らが知り得る全てを話すだろう。

 

 

「突然の核とやらによる攻撃に加え、近くにいた貴様の国の飛行機とやら。驚いたかね?我も人間達の言う"軍事"とらを真似てみたのだ。軍事とやらに則ると、これだけの出来事が起これば世界は最終戦争を目前とするのだろう。そして破滅を前にした人間達はこぞって我に祈りを捧げ、救いを求めるであろう。貴様も世界の終わりが来れば我を信仰しようと考えるのではないかね?」

 

 

私は漸く理解した。このクソッたれの存在Xは、ヴォルギンに核を撃たせ、ザ・ボスを核攻撃の元凶に仕立て上げるつもりなのだ。

 

 

全ては私に信仰心を抱かせるために…例えそれによってアルマゲドン"最終戦争"が勃発しようとも。

 

 

そして私が更なる抗議の言葉を挙げるまえに、周りが再び動き出し、部下達の声が聞こえてきた。

 

 

「あーあ、あの野郎撃っちまいましたね」

 

「少佐、デイビー・クロケットの着弾を確認。設計局が消滅しました。予定通り目撃者も証拠も消えたので、これでフルシチョフにソコロフ博士の件が漏れることは…少佐?」

 

 

コックピットのカイル上曹の声に外を見やれば、赤黒い炎と煙に覆われて噴き上がるキノコ雲が目に入った。

 

 

私はその場で膝を着いてしまった。慌てて周りが寄ってきて肩を揺さぶるが、今はただ…放っておいて欲しかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、ソヴィエト連邦は極秘裏に第2戦備態勢に移行───配備されている核兵器はその目標をアメリカ合衆国へと定められた。

 

 

そしてクレムリンとワシントンのそれぞれの指導者による最終戦争を回避するための、ホットラインによる対話にて、ある密約が交わされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはアメリカの手によってヴォルギン大佐を…そして亡命者──ザ・ボスを抹殺することであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『罪、それは貴方のもとへ私が飛んでいく術』ザ・ボス

 




【カイル上曹】
オリジナルキャラです。本名ケーテ・カイル上級曹長、元ドイツ空軍所属、Ta152高々度制空戦闘機のテストパイロット。
ちなみに元ネタは実際にTa152に搭乗して、唯一戦果を挙げているドイツ空軍のヨーゼフ・カイル上級曹長。本来は最近構想してたストライクウィッチーズの二次創作用に用意してたキャラですが、急遽ヘリパイロットキャラが必要になったので引っ張り出しました。

【ロボトミー手術】
本編では軽く扱いましたが、実際のところ本当に最悪の手術です。人の脳を物理的に破壊してしまう訳ですからね。症状が和らいで後遺症が無い患者は幸運ですが、万が一があった場合取り返しがつきません。そういえば洋画のTATARIという映画にはフリーマンがモデルとしか思えないマッドな精神科医が登場してます(ロボトミー手術を初めとした人体実験としか思えない治療器具や施設の数々に容姿まで似てる)

【ヴォルギン大佐】
過去、メタルギアソリッドシリーズには様々な敵が存在しましたが、基本的に彼らは残虐な行為や悪事をしていても、堅い信念や信念に準じた目的を持ってスネークの前に立ち塞がってきました(似た例で例えるとジョジョのボスキャラ達)。その中で唯一例外と言っていいのがヴォルギン大佐です。文句無しの悪人としか思えない…。

【サウンドトラック】
スカイリムのサウンドトラック欲しい…。

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