歯車戦記   作:アインズ・ウール・ゴウン魔導王

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本話にてMGS3、終了となります。明日、最後の小話的なのを投稿後、オプスに入ります。


第30話

白いオオアマナが咲く花畑。

 

そこでは、互いに忠を尽くした戦いに終止符が打たれていた。

 

地に倒れたザ・ボス…そして彼女を見ているスネーク───それが戦いの結末を示していた。

 

 

 

 

 

「…これが我らを救う…」

 

 

ザ・ボスがそう言いスネークに手渡したのは、あの賢者の遺産───それらのデータが収められたマイクロフィルムであった。

 

スネークがマイクロフィルムを受けとると、ザ・ボスは自らの愛銃パトリオットをスネークに差し出す。

 

 

「パトリオット(愛国者)…ボス、何故これを?」

 

「ジャック…いえ、貴方はスネーク…素晴らしい人…。殺して…私を…さぁ…!」

 

 

パトリオット(愛国者)───その名を冠した銃を持つスネークに対してザ・ボスが口にしたのは、自らの命を奪って欲しいという願いであった。

 

それは同時に、スネークに与えられた任務でもある。ザ・ボスを抹殺すること───それがこのスネーク・イーター作戦の目的なのだから…。

 

ならば果たさねばならない。彼女、ザ・ボスを愛する人間として以前に、スネークは祖国アメリカの兵士として国に忠を誓った存在だからだ。

 

これは、その祖国が命じた任務なのだ。

 

そう自身に言い聞かせるように、スネークは手の震えを押さえると、パトリオットの銃口をしっかりとザ・ボスの胸へと向けた。

それを見たザ・ボスはゆっくりと眼を閉じると、最期に呟いた。

 

 

 

「ボスは2人もいらない…蛇はひとりで良い…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オオアマナ咲き乱れるロコヴォイ・ピエレッグ(運命の水辺)に、一発の銃声が高々と響き渡った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side スネーク】

 

 

 

ザ・ボスの命をこの手で奪った。その事実を重たく噛み締める。

 

自分は、銃口から小さく硝煙を立ち上らせるパトリオットを手に、ザ・ボスの亡骸を前にただ立ち尽くしていた。

夢か幻か…咲き乱れるオオアマナは、普段の白い姿ではなく、真っ赤な真紅色に染まっている。

 

まるでザ・ボスの死を、この場の全てが悼んでいるかのようだ。

 

そこへ、鳴き声と蹄の音を響かせながら近付いてくる生物が現れた。スネークとザ・ボスの前に近付いてくるのは、ザ・ボスの白馬であった。

 

白馬はザ・ボスの亡骸を前に鼻先で彼女の身体を揺する。しかし、彼女が眼を覚ますことは無い。

 

それを理解したのだろうか…白馬は悲しげないななきを響かせた。

 

 

 

 

 

「…?…あれは…!」

 

 

 

 

 

そこでスネークは、オオアマナ咲き乱れるロコヴォイ・ピエレッグの向こう側、木々の合間からこちらを覗く幾つもの人影を見て、その正体に驚いた。

 

 

全員が一様に黒い野戦服を着込み、顔を目出し帽で隠すというスタイルに、二の腕付近に付けられた、髑髏と翼を象徴としたシールド型のワッペン。

 

 

米国非合法工作部隊"ゴースト・カンパニー"の兵士らが整列し、スネークの方へと敬礼の姿勢を崩さずにいた。

 

そして彼らの中央部分、真横に整列した部隊員らより一歩前に出ている、彼らと同じく黒野戦服にゴースト・カンパニーのワッペンをした酷く小柄な人物。

 

だが顔は隠しておらず、金髪・碧眼の整った幼くも美しさと気高さを見せる素顔を露にしている。

 

 

「ザ・ピース…」

 

 

スネークの呟きと同時に、ザ・ピースは部隊員らに指示を出し休めの姿勢を取らせると、ゆっくりと此方側へ歩いてくる。

亡命者でありスネークの敵であった筈のゴースト・カンパニーと、コブラ部隊兵士ザ・ピース───だがザ・ピースが此方に味方し出してからは唐突に協力姿勢を見せてきた彼ら。

 

そしてワッペンこそ付けていないものの、彼らとまったく同じ黒野戦服を常着していた、今は姿の無いEVAの護衛と名乗ったヴィクトーリヤ。

 

そんなパズルのピースが繋がると同時に疑問も新たに増えていくスネークの前に、ゆっくりと歩を進めていたザ・ピースが辿り着いた。

 

互いに視線を交わし、一呼吸置いてからザ・ピースは話し出すのだった。

 

 

「あと3分後にミグの爆撃が始まる。時間が無いので手短に要件を伝える…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─ロコヴォイ・ピエレッグ(運命の水辺)、湖上─

 

 

 

湖に浮かぶWIGではEVAが発進準備を進めており、その隣ではいつの間に来たのか、ヴィクトーリヤ───ヴィーシャがEVAの補助をしていた。WIGへと戻ってきたスネークは、初めはヴィクトーリヤに驚くも、今はコクピット後ろのスペースで、あの花畑から持ってきた、真っ赤に染まった1枚のオオアマナの花弁を眺めている。

 

 

「行くわよ、スネーク?」

 

「主翼問題無し、モーター回転数正常!後部ジェットエンジン点火!」

 

WIGの真横でヴィーシャがWIGの機器チェックを行い、全て問題無しと分かると、エンジンを点火した。

 

WIGは徐々に速度を上げながら離水体勢に入っていく。

 

 

「大丈夫?スネーク!」

 

 

何度呼び掛けても上の空であったスネークに、EVAが強めに呼び掛けると、スネークはようやく返事を返した。

 

その際にスネークの手からオオアマナの花弁が離水時の風で巻かれると、スネークが佇んでいたWIGの開いたままのドアから外へと飛んでいく。

すると、それまで真っ赤に染まっていたオオアマナの花弁は、まるで幻だったかのように元の白い花弁へと戻ると、遥か後ろへと消えていった。

 

 

 

 

スネークはそれを見ると踏ん切りがついたのか、WIGのドアを閉める。全ては終わったのだ。ヴォルギン大佐の排除も、シャゴホッドの破壊も、そしてザ・ボスの抹殺も…。

 

腰から装備を取り外すと、床に落とした。そして一息つこうと自身も床に腰を下ろそうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、いきなり響いた金属が弾ける音と共にWIGの機体が大きく揺れた。急激に重くなった機体の操縦幹をEVAは必死に押さえ機体姿勢を立て直そうとするが、フロートの片側が水面についてしまう。

 

スネークが何事かと外を見れば、そこには浮遊する小型プラットフォームを操りながらWIGと並走するオセロットの姿があった。手にはSAA───オセロットはそれでWIGの片側エンジンを撃ち抜いたのである。

 

 

「スネェーク!まだだっ!」

 

 

オセロットはそう叫ぶと、飛行する小型プラットフォームを器用に操り、WIGの扉へと勢いよく叩き付けてきた。その衝撃で扉が壊れると、オセロットはプラットフォームを乗り捨ててWIGの機内へと飛び乗ってくる。

 

しかも衝突の衝撃でスネークは倒れてしまい、手にしようとしていた装備ベルトは、飛び乗ってきたオセロットに奪われてしまう。

 

オセロットはその装備ベルトを、破壊したWIGのドアから湖へと投棄した。これでスネークは丸腰となった。しかし、それで諦めるスネークではない。

 

一気にオセロットへと殴り掛かると、乱闘へともつれ込んだ。狭い機内で互いに殴打、頭突き、膝蹴りと次々と素手で打ち合い、壁へと打ち付けあう。

 

 

 

「くっ…重いっ!」

 

「エンジン出力低下、機体高度下降!さらに機体傾斜20度!このままでは湖に墜落します!」

 

 

対してコクピット側ではEVAとヴィーシャが何とか機体制御をしようと格闘している。

 

その辺りで、スネークとオセロットは互いに殴打し合う形から離れ、ゆっくりと向き合う。

 

スネークは再び殴り合うために拳を握りしめようとしたが、ふと、ザ・ボスの声が───ヴァーチャス・ミッションで無線通信の際にボスに言われた言葉が脳裏に響いた。

 

 

 

 

 

 

<スネーク、まずCQCの基本を思い出して…>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スネークは握りしめようとした拳をほどくと、重心を低く保ちながら下顎付近で両手を半分ほど開いた状態で構えた。そしてオセロットの攻撃を待ち構える。

 

 

それがCQCの基本───防御からの絡め、そして反撃である。

 

 

スネークは殴り掛かってきたオセロットの拳の手首を左手で掴んでかわすと、間を置かず肘に右手を添えながら一気にオセロットの腕を彼の背中へと捻り上げた。

 

オセロットはすぐさまスネークが背中へと捻り上げた自分の手を固める前にその体勢から脱すると、逆にスネークの右腕を同じように捻り上げようとした。

 

しかし不安定な体勢かつ、しっかりと関節や弱点を押さえずに捻り上げようとしたために、スネークは簡単に身体を動かせる。そこからスネークが繰り出した左腕の肘打ちを側頭部に食らい、よろけてしまう。

 

すぐさま体勢を立て直しスネークに左手で殴りかかるも、再び腕を掴まれて振り回される。

体勢を崩されては不味いとオセロットもスネークの腕を掴み返すと、逆にスネークを振り回して彼の体勢を崩そうとした。

 

だが今度はしっかりと力を込めてスネークの左腕と肩部分を握っていたのが仇になる。スネークはがっちりと足を床に下ろし全体重を乗せてオセロットの振り回しを止めると、掴まれていた左腕を肘を下に向けて折り曲げた。

 

 

 

 

 

 

 

当然力を込めて握っていたオセロットは、いきなり腕を曲げて下に下ろしたスネークの動きに対し、握る手を離されないようにと更に力を込めた。だがやはりいきなりのことに半端な力しか掛からず、離されないようにとスネークの腕を何とか握ったままではあるが、自身の体勢が崩れてしまう。

 

そこからスネークは側転でオセロットの手から掴まれていた腕を振りほどきながらオセロットと距離を取った。

 

そして再び構えてから、頭部狙いのハイキックと正面突きを繰り出す。

 

オセロットはその2連撃を防ぎつつスネークの正面突きを左手で掴み逃げられないようにすると、すぐさまスネークの顔面へと素早く拳を入れた。しかししっかりと力を込めず、一撃を入れることを念頭にただ素早く繰り出しただけの突きは全くダメージにはならなかった。

慌てて掴んでいたスネークの右手を捻り、今度はしっかりと関節を決めてスネークを床へと叩きつけた。だが今度は追撃を焦り、馬鹿正直に突きを繰り出してしまう。

 

最初と同じように手首と肘を掴まれると、先ほどとは比べ物にならない力強い勢いで床に叩き付けられてしまった。

 

受け身もろくに取れずにWIGの床へと思い切り叩き付けられたオセロットは痛む背中に顔をしかめるも、同時にスネークの動きから新たな格闘方法を覚えられたことに笑みを浮かべながら言う。

 

 

「はっ!その動きは頂いた!」

 

 

そして言い終わるやいなや、腰からSAAを抜き放つ。格闘ではスネークの勝ちだ。しかしこれは戦争───命を賭した戦いなのだ。

汚いもズルいも無い。生き残ることが勝利の証なのである。

 

 

「丸腰の奴を撃つのは気が進まないが…仕方ない!」

 

「EVA!」

 

 

オセロットの言葉とスネークの叫びは同時。そして操縦幹を握るEVAは懐からSAAを───牢獄でスネークがザ・ボスから渡され、ザオジオリエでスネークが武器を失ったEVAに渡した銃───を引き抜くと、スネークへと投げた。

 

そして銃を構えるオセロットと投げられた銃を受けとるスネーク。

互いに同時に銃口を額へ向け合うと、すぐさま両者はサミングによるハンマーコックと射撃を互いに6回ずつ1秒ほどの間に繰り返した。

 

 

弾は出なかった。

 

 

両者共に弾切れだったのだ。しばし、両者は互いの額を捉えたままその場を回る。ここからどう戦いを自分有利に運び勝利を得るか…だが、その空気をオセロットが変えた。

 

胸元に下げたチェーンから下げられた45LC弾───ヴァーチャス・ミッションにてスネークに敗北した時にマカロフをジャムで射撃不能にした、あの曰く付きのマカロフ弾───その弾頭を鋳溶かして混ぜた弾であった。

 

 

「お前と最後の勝負がしたい」

 

 

オセロットはそれをスネークに対して掲げるとそう言った。

 

 

「…いいだろう」

 

 

スネークもその提案に乗る。ある意味2人の因縁の始まりとなった弾丸を用いて、因縁に決着を着けるには、これ以上相応しい弾も無いだろう。

 

スネークが自身のSAAをオセロットの額から外して下ろすと、オセロットは自身のSAAにその弾を込め、シリンダーを腕を滑らせながらランダムに回転させてハンマーコックした。

 

対してスネークもガンアクションをひとしきりしてから、自らのSAAをオセロットに差し出した。

 

 

「………(ごくっ…!)」

 

 

そしてヴィーシャは機器チェックやEVAのサポートを忘れて、2人の戦士の決闘に息を飲んでいる。

 

SAAを受けとったオセロットは、2丁のSAAを使いシャッフルを始める。最初は交互に回してから、左右の位置を入れ替え、2つを同時に放り上げ、最後は背後から2丁を自分からも見えないように投げて、シャッフルを終えた。

 

そして床に2丁とも下ろすと、スネークに対して質問をしてくる。

 

 

「お前、名前は?」

 

「スネークだ」

 

「違う、そうじゃない」

 

 

オセロットはスネークの答えに首を振る。彼が知りたいのはコードネームではないのだ。

 

 

「お互い、蛇(スネーク)と山猫(オセロット)では示しがつかない…俺の名前は、アダムスカ。お前は?」

 

「ジョンだ」

 

「…分かった、ジョン。ありふれた名前だが、忘れない………さぁ、来い!」

 

 

オセロット───アダムスカの宣戦布告を受けたスネーク───ジョンは、床に置かれた2丁のSAAをゆっくりと見る。

 

左か右か…シリンダーに込められた弾丸はどちらか1丁の1発だけ。もう1丁のシリンダーは空だ。

 

当たれば生き残り、外せば死ぬ…たったそれだけのシンプルな…しかし重い選択が突き付けられた。

 

 

(左<Left>か<or>右<Right>か)

 

 

アダムスカが選んだのは右、ジョンが選んだのは左だった。両者は同時にSAAを掴み上げると、背中に合わせになる。

そこからゆっくりと3歩を歩いていき、3歩目を踏むと同時に手に持つSAAを構えながら振り返った。

 

 

 

 

 

1発目…不発

 

 

 

 

 

2発目…不発

 

 

 

 

 

3発目…不発

 

 

 

 

 

4発目…不発

 

 

 

 

 

5発目…不発

 

 

 

 

 

6発目…発射!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弾が入ったSAAを選んだのは、ジョンであった。彼のSAAから発射された弾はアダムスカの胸に命中し、アダムスカは苦痛の声を上げてしゃがみ込んだ。

 

しかし直後、ジョンは驚きの表情を浮かべた。アダムスカは胸を撃たれたにも関わらず笑いを上げながら立ち上がると、傷ひとつ無い胸を叩きながら嬉しそうな笑顔と笑いを見せつつ子供のように嬉々として種明かしをした。

 

 

「ふふっ!ははははっ!空砲だ!」

 

 

してやられたという表情を浮かべるジョンは、同時にアダムスカが最早生死を掛けた戦いを望んで来たのではないと気付いた。

 

ただ彼は、1人の戦士として別れの挨拶のために追ってきたのだと…。

 

ただ生来の性格故に、ただの挨拶では物足りないと感じたアダムスカは、わざわざ"最後の勝負"といってあんな運試しの戦いを持ち掛けたのだ。

 

今や、ジョンとアダムスカはアメリカとソ連───CIAのエージェントとGRUのスペツナズという敵対する関係では無かった。

 

ジョンはスネークとして見事任務を達成し、アダムスカはオセロットとしてそのジョンの兵士としての資質・実力に惚れ込んでいたのだ。

 

 

「楽しかった!」

 

 

そう心から楽しそうに笑って近づいてくるアダムスカに、ジョンは自分が持っていたSAAを差し出した。元々は彼の持ち物だからだ。落とし物は持ち主へ───である。

 

 

「また会おう、ジョン」

 

「ああ」

 

 

SAAを受け取ったオセロットは、自分が破壊したドアから飛び降りると、湖へと消えていった。

 

だが再び問題が発生していた。

 

 

「スネーク!」

 

 

EVAの悲鳴にジョン───スネークが振り返れば、WIGの飛行進路の先には崖があったのだ。

 

オセロットの攻撃で片側のジェットエンジンを損傷していたWIGは、未だ水面ギリギリの位置を飛行していたのである。

 

 

「くっ!」

 

 

EVAとヴィーシャが必死に機体を上昇させようと手前に引こうとしている操縦幹にスネークも手を伸ばすと、あらんかぎりの力を込めて引く。

 

人間3人の力で引いたことで、ようやくWIGの重くなった操縦幹は動き、機体が緩やかに上昇を始めていく。

 

だが既に崖が目の前に迫ってきている。WIGが崖を越えられる高度まで上昇するか、WIGが崖に衝突するかは半々だ。

 

 

 

 

 

300m。

 

 

 

 

「引けぇ!」

 

「これで手一杯ですよ!」

 

「不味いわ!」

 

 

 

 

 

 

200m。

 

 

 

 

 

 

「何か余計な重量物を減らせないか!?」

 

「そんな暇はないわ!」

 

「いっそ誰か飛び降りればいいのでは!?」

 

 

 

 

 

 

100m。

 

 

 

 

 

「ウォォォォ!!」

 

「くうぅぅぅ!!」

 

「んぐぅぅぅ!!」

 

 

 

 

 

 

 

僅差であった。

 

 

僅かな僅差で、WIGは崖への衝突を免れることが出来た。

 

あとは邪魔になる障害物もなく、いちど一定高度まで上昇出来ればWIGの重かった操縦幹も少しばかり軽くなる。

 

 

 

「やった!やったわ!」

 

「よくやった、EVA」

 

「疲れたぁ…」

 

 

 

機内にはトラブルを乗り切ったことで安堵の空気が満ちていた…が、それはすぐに機器から響き渡る警報音に掻き消される。

 

 

 

「不味い、ミグよ!」

 

 

 

なぜここにミグ戦闘機がいるのか?グロズィニグラードの基地はザ・ボスが放ったデイビー・クロケットで壊滅した筈…。

 

答えは簡単である。あれはGRUではなく、フルシチョフの軍の戦闘機だからだ。フルシチョフ政権にとってはスネークの任務以前に、ブレジネフやコスイギンといったタカ派を推してクーデターを企むヴォルギンの存在は危険分子であり、目障りであった。

 

故にフルシチョフはスネークが遂行する任務とは別に保険も兼ねてグロズィニグラードとシャゴホッドを攻撃しようと軍を動かしていたのだ。

しかし軍が攻撃に移る前に、グロズィニグラードはザ・ボスが放ったデイビー・クロケットで破壊された。

 

核汚染によって要塞そのものへの進出が出来なくなったフルシチョフ揮下のソ連軍はヴォルギン派の残党狩りに目的を変更───核汚染されていない地域一帯に展開してグロズィニグラードの残存兵力を潰していたのだ。

 

そこへGRUの───しかもグロズィニグラード要塞所属の部隊マークを貼り付けている航空機が飛行しているのだ。彼らはまさか、フルシチョフとアメリカの裏取引で送り込まれたエージェントが乗る航空機だなどと露ほども知らない。

 

ミグはWIGを強制着陸させるべくスネークらの正面を塞ぐように飛行しつつ、翼を左右に振って追随を要求してくる。

 

EVAがスネークを見れば、スネークはやるせなさを噛み締めながらも、従うことは出来ないと拒否を示した。

あくまでもアメリカが極秘に誰かの暗殺任務を遂行したという、目的不明だが関与を示す証拠を残すのが命令だ。

 

だがここで捕まれば、裏取引はご破算となる。フルシチョフ揮下とはいえ彼らは只の何も知らない軍人だ。グロズィニグラード攻撃の任務さえシャゴホッドという核搭載戦車の破壊が目的だとは知らされていないのだ。

 

故に彼らはスネークの任務が何なのかを全て明らかにしようとするだろう。当然国際世論にもそれらの事情が漏れる。まず間違いなく、核搭載戦車等という最悪の兵器は世論の怒りをソ連に向けさせる。

 

更にはアメリカが自国の亡命軍人を暗殺するというソ連との裏取引の交渉材料としてフルシチョフ政権にとって邪魔なソ連軍人抹殺と、核搭載戦車破壊による事件の隠蔽に加担したという事実は、アメリカの国際的な地位を地に落としかねない汚点になる。

 

それを理解しているからこそ、スネークは投降を拒否した。

 

当然投降拒否を受けたソ連戦闘機は、敵性航空機を撃墜するべくWIGの背後へと回り、照準に彼らを捉える。機器からはミサイルのロックを受けたことを示すアラートが響くがスネークらにはどうしようもない。

 

 

「撃ち墜とされる……これまでね…」

 

 

EVAは操縦幹に掛けている手から力を抜いた。もう操縦する意味は無い。ミサイルが当たれば、WIGは簡単に破壊される。

 

例えミサイルで死なずとも、墜落すれば同じことだ。これ以上は無意味───EVAはそう力なく項垂れた。だが、彼女の手をスネークが握った。

 

 

「よくやったな、EVA。ありがとう」

 

 

例え死ぬことになっても、後悔はないと、スネークは訴えた。それを見て、EVAもスネークの手を握り返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

─ソ連軍、ミグ戦闘機コックピット─

 

 

 

 

「ロック完了、ミサイル発射…」

 

<<ヴォルク19、こちらコントロール、攻撃を中止せよ。首相からの直命だ!>>

 

「は?」

 

<<ヴォルク19、攻撃を中止。直ちに帰投せよ!聞こえたか?フルシチョフ閣下からの命令だ>>

「………」

 

<<ヴォルク19、帰投せよ。聞こえたか?復唱しろ>>

 

「ちっ…了解。ミッション・アボート(作戦中止)、RTB(帰投する)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見て!ミグが帰っていく!イヤッホゥ!!」

 

 

突然ミサイルロックを解除したミグがWIGの追跡を中止して帰投していくのを見て、EVAは歓喜のあまり叫んでいる。

 

そしてスネークとEVAは互いに見つめあい、喜びを分かち合おうと唇を重ねようとした(なおヴィーシャはどこから取り出したのか、明後日の方向を見ながら板チョコレートをポリポリかじっている)。

 

だが今度はスネークの無線機が音を立てて、機内の空気を破壊した。スネークは仕方ないと無線機のスイッチを入れ、無線相手に答える。

 

 

「こちらスネーク」

 

<<よくやった、スネーク!>>

 

「少佐、ミグが引き返していったが…」

 

<<フルシチョフの指令だろう。これ以上ことを大きくしたくないのか、あるいは我々に恩を売ったつもりか、どちらかは分からんがな>>

 

 

無線機の向こう、無線相手のゼロ少佐はスネークの疑問にそう答えた。確かにミグの攻撃を中止させられる権力がある人間で、なおかつそれをすることで利がある者…そこから考えればフルシチョフというのは妥当な考えだ。

 

<<だが君たちが助かったことは確かだ。フルシチョフの命令ならば、これ以上追撃を受けることもないだろう。そのままアラスカに向かってくれ、ガレーナ基地へ迎えを行かせる>>

 

「迎え?」

 

<<大統領にCIA長官、お偉方がラングレーでお待ちだ。寄り道するなよ?>>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─アメリカ某所、森林中の邸宅─

 

 

 

 

 

結論から言うと、スネークは盛大に寄り道をしていた。アラスカへ向かい、アメリカ本土へと戻ったスネークはEVAと共に負傷と慰労を理由に大統領による表彰を遅らせた。

 

そして森林の中に建つ邸宅にて、ワイン片手にEVAと共に任務成功を祝い楽しんでいる最中だった。

 

なおヴィーシャは、アラスカでスネークと別れてしまった。恩人の1人であるヴィーシャにも共に来て欲しいとスネークは言ったが、彼女は「戻るべき場所がある」と頑なだった。

 

だから彼女とは握手と包容を最後に別れたのだ。

恐らくはKGBかクレムリンか、少なくとも祖国に戻ったのだろうとスネークは思う。

 

しかしまた新たな疑問が鎌首をもたげる。彼女…ヴィーシャはロシアの人間だ。ならば何故アメリカから亡命したゴースト・カンパニーの兵士らと同じ装備をしていたのか?

 

そしてゴースト・カンパニーを率いてロコヴォイ・ビエレッグに現れたザ・ピース───彼女とヴィーシャは一体どんな関係なのか?結局あそこに現れたザ・ピースは要件だけを告げ、スネークはそれに応じただけで終わってしまった。

 

彼女の口から真実は明かされなかった。結局亡命したゴースト・カンパニーの連中に関しても、彼らは健在のままだ。そして何処に行ったのかも不明。

 

胸に残るモヤモヤした思いは未だ消えないが、今は2人の時間を大切にすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日…全てが明かされた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─アメリカ、ラングレー内某所─

 

 

 

 

ラングレーのとある場所、大統領らが待つ部屋へと向かうスネークは、あの邸宅でEVAから明かされた事実と、全ての真相を胸に渦巻かせながら長い廊下を歩いていく。

 

 

EVA──彼女はフルシチョフに送り込まれたスパイではなかった…KGBでもアメリカから亡命したNSAの暗号解読員でもない。彼女は、中華人民共和国・人民解放軍総参謀部第二部から送り込まれたスパイだったのだ。

 

中国に残留する『賢者逹』により、彼女はヴォルギン大佐から"賢者の遺産"を奪うべく、KGBのスパイという偽の肩書きで送り込まれたという。

 

第二次世界大戦より前、かつて米中ソの賢者逹が設立した工作員養成施設に子供の時分に集められ、訓練を受けたのだと。つまり、彼女もまた残留賢者の1人であった。

 

本物のスネーク・イーター作戦で、彼女はフルシチョフが送り込んだスパイADAMを殺し、彼に成り代わる予定であった。しかしADAMは現れなかったという───そこで彼女は鉢合わせした時の危険性を考えADAMへの擬装作戦を取り止め、代わりにEVAの名を騙った。

 

スネークもソコロフもヴォルギンすらそれを信じ、疑いはしなかったのだ。そして、彼女は遺産のマイクロフィルムとソコロフから受け取ったシャゴホッドの核発射データを手に入れ、中国へもたらすと…。

 

それは5年前からソ連に技術供与を停止され、原水爆実験が滞っていた中国が新たな力───ソ連やアメリカに負けない抑止力を手に入れられるということであった。

 

だが、1人だけ気付いていたのはザ・ボスだった…何故なら彼女は大戦前、EVAがスリーパー(潜入工作員)として育てられるべく過ごした養成施設で教官をしていからだとEVAは語る。

 

ザ・ボスだけは騙せなかったと…そして、EVAはザ・ボスから全てを打ち明けられたと明かした。本当は真相を知る関係者の抹殺───すなわちスネークもその対象だと…しかしEVAはスネークを殺さなかった。

 

愛し合ったからでも、情でも恩でもない…それはザ・ボスとの約束故───彼女のためにスネークを殺せないと…。

 

そして明かされた事実はスネークを驚愕に打ち震わせた。

 

全てはアメリカ政府の偽装亡命───そしてそれが巻き起こした世界戦争の引き金になりかけた今回の事件である。

 

アメリカは賢者の遺産を独占するべく、ザ・ボスとコブラ部第、そしてあのゴースト・カンパニーを送り込んだのだという。彼らの任務はただひとつ───ヴォルギン大佐の下に潜り込み、遺産を奪うこと。

 

ザ・ボスが偽装亡命によってヴォルギン大佐の部隊に潜り込み、遺産の在処を探り出す…そしてコブラ部隊が遺産を奪う間、ゴースト・カンパニーはグロズィニグラードを攻撃し、攪乱する。

 

だがヴォルギンが自国内で核を使い、それをザ・ボスの行為と広めてしまったことで、作戦は大規模な修正を迫られた。

ザ・ボスは死ななければならない…ソ連では核を撃った狂人として、アメリカでは恥知らずの売国奴として、そして表の世界史に犯罪者として永久に記録されること───それが祖国が彼女に新たに与えた任務だったと…。

 

そしてザ・ボスは常人では到底耐えられない重責を双肩に背負い、見事任務を全うした。

 

だが、誰にも知られることはない…スネークだけに最期に伝える彼女のデブリーフィング(帰還報告)───それだけは、愛したスネークに知っていてほしかったのだと…。

 

彼女は裏切り者ではない…むしろ、祖国を救った英雄なのだ…。

 

あれほど自分を裏切り続けた祖国に、それでも忠を尽くした英雄。それがザ・ボスなのだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辿り着いたラングレーの一室…そこでは大統領以下CIA長官や陸軍参謀長官、ゼロ少佐やシギント、パラメディックや、例のシェパード中将等といった人々がスネークを待っていた。

 

そして拍手と焚かれるカメラのフラッシュを前に、ジョンソン大統領からスネークは勲章を授与され、またザ・ボスを越える人間としてBIGBOSSの称号が与えられた。

 

彼との握手の瞬間にはより勢いよく拍手が響き、カメラがフラッシュを焚く。だがスネークは大統領との握手を終えると、横から来たCIA長官の握手やシェパード中将の労いを受けようとはせず、部屋を後にした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真相を伝えられたスネークは、愛国者という異名だけが刻まれた墓を前に、涙するしかなかった。

ただ、一心に真の愛国者(ザ・ボス)へ敬礼を手向けながら…。

 

大統領から与えられたボスを越えるBIGBOSSの勲章も称号すら、虚しいだけであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<<スネーク、ゴースト・カンパニーについてだけれど…貴方は更に驚くかもしれない…ゴースト・カンパニーは、実はアメリカのCIAの部隊ではないの…ましてや、ソ連でも中国でもない…彼らの正体は、"大戦の亡霊"なのよ…>>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スネーク…貴方は1945年、第二次大戦末期を知っているわよね…そう、ドイツ第3帝国は終焉を目前としていた。実はその最中、とある部隊がベルリンを攻めるソ連軍の包囲を食い破り、奇跡的な脱出を果たしたの…。

 

彼らの指揮官はどこから手に入れたのか、アメリカのマンハッタン計画を記した資料を手土産に、西部戦線から進軍していた西側連合国に降伏───資料の破棄と彼らの部隊の戦力供与を条件にアメリカへと渡ったわ。

 

そして彼らの部隊とは、既に想像がついているだろうけれど、ナチスの部隊よ。すなわちWaffen SS(武装親衛隊)なの。

 

大戦最中、化け物のような身体能力を誇る複数の兵士や部隊の噂が囁かれていたわ…ポーランド方面では人肉を食らう死者の噂が…東部戦線では全身機械の親衛隊将校の噂が…そしてあらゆる戦線に突如としてゴースト(幽霊)のように現れる武装親衛隊部隊…。

 

そう、それが後のCIAの非合法工作部隊ゴースト・カンパニーよ。彼らは如何なる理由か、驚異的な身体能力を誇り、一部の将校や指揮官に至ってはもはや兵器を相手にしているようだと言われた。

 

第0SS装甲師団「マイネ・エーレ・ハイスト・トロイエ(忠誠こそ我が名誉)」───それが彼らだったの…だけど彼らは敗北した。しかし指揮官はそこで諦めずに足掻き、アメリカへと渡ったの…もうここまで言えば分かるわよね?

コブラ部隊の兵士ザ・ピース───そうよ…彼女がその部隊の指揮官…。

 

 

本名…ターニャ・フォン・デグレチャフ…ドイツ第3帝国武装親衛隊少将。

 

 

表の世界史には第1SS装甲師団LSSAHの歩兵大隊指揮官ターニャ・デグレチャフ武装親衛隊少佐として記載されているわ。1945年5月、ベルリンでモーンケ少将との合流を目指し、途中でソ連軍と鉢合わせして戦死したという経歴よ。

 

でも彼女は生きていた…いえ、その経歴こそがアメリカがでっち上げた偽の経歴だから…実際にはモーンケ少将との合流直前でソ連軍と鉢合わせした彼女は、包囲を食い破り脱出したの…そして今の地位についた。ゴースト・カンパニーはその第0SS装甲師団の残存員が始まりだったの。

 

指揮官だった彼女と副官、そして師団の残存兵員48名が、その正体よ。

 

何故彼女を含めた師団の残存兵員らが未だ存命してるのかは不明よ…でも彼女───ヴィクトーリヤがその答えかもしれない…スネーク、貴方はヴィーシャの特異体質を見たのよね?

 

あの傷がたちどころに修復される驚異的な治癒速度。もしかしたらあれが解明の糸口になるかもしれないと中国は考えているわ。

 

 

…話がずれたわね。では何故、彼女らはアメリカに受け入れられたのか?

 

それはザ・ボスの存在があったから。

 

彼女らはザ・ボスの口添えもあって、アメリカが受け入れたと聞いたわ。彼女───ターニャは、大戦最中にザ・ボスと知り合い、友好を持ったと…。ザ・ボスは、彼女の話をする時、愛する貴方とは違った───そう、親しい友人を紹介するような口振りだったわ。

 

これは私が中国政府から教えられた情報と、彼女───ザ・ボスから聞いた話の全てよ。

 

貴方が懸念した通り、ヴィーシャもまたナチスだったの…でも、貴方がそれを聞いてどうするか、私は口を出さないわ。

 

 

でも、忘れないで…。

 

 

ザ・ボスの言葉を…人類には絶対的な敵など存在しないということを…相手は思想や思考・理念や求める世界が違うだけの、相対的な敵でしかないのだと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

じゃあ…さようなら、スネーク…また、いつか逢いましょう…。




【ゴースト・カンパニー】

正体は作中通り、武装親衛隊の残存兵員らが構成する非合法部隊。ターニャの敏腕交渉とザ・ボスの口添えで見事亡命成功。
ターニャ・デグレチャフからターシャ・ティクレティウス爆誕の瞬間。


【ザ・ボスの真実】


語ることなし。どうやってあんな凄まじく悲しい真実を文字に起こせと…?




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