歯車戦記   作:アインズ・ウール・ゴウン魔導王

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いよいよ決戦開始。

んのっく大佐の余命カウントダウンも開始。


幕間 〜決戦の火蓋〜

【グロズィニグラード・地下金庫通路】

 

 

 

 

 

不味い、非常に不味い。

 

よりによってあの女スパイ、この大事な時に…。

 

あの女が遺産目当てだということは理解していたが、まさかこのタイミングで地下金庫に侵入など…。

お陰で手を出す前に遺産が運び出されてしまった。

 

警備数人を制圧して奪うだけだったというのに、女スパイが地下金庫を彷徨いていたせいであっという間に十数人の警備が押し寄せてきて、無様にも目の前で遺産が運び出されてしまうのを指をくわえて見ているしかなかった。

 

 

「…今さら悔いても仕方ないか…」

 

 

重苦しい腕を動かして恐る恐る無線機のスイッチを入れると、自らの上官たる人の周波数に合わせて発信する。

 

そして数秒の後、Call(コール)した相手が出ると、開口一番に謝罪と現状を述べた。

 

 

「ヴァイスであります。大変申し訳ありません少佐殿、例の遺産ですが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【グロズィニグラード・兵器厰本棟、格納庫】

 

 

 

 

「この女(タチアナ)…ここの地下金庫を彷徨いていた…捕らえてみると面白い物を隠し持っていた…見るがいい」

 

 

シャゴホッドの格納された兵器厰───そこでは今まさに、遺産の現持ち主であるヴォルギン大佐が掲げる、子供の手のひらサイズの薄い四角形型の物質がかざされていた。

 

それは、何の変鉄も無いマイクロフィルムである。しかしヴォルギンが次に放った言葉に、その場にいた誰もが目の色を変える。

 

 

「賢者の遺産だ!」

 

 

遺産という存在が生み出されてから半世紀、血で血を洗う幾多もの戦いと謀略を渦巻かせた元凶たるそれが、今ここで初めてその姿を表した瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん…あれが"賢者の遺産"か。あんな小さなマイクロフィルムが、我々の目的とはな…」

 

 

グロズィニグラード兵器厰本棟の天井付近。私は整備用の鉄骨組みだけの細い通路に潜み、状況をつぶさに確認していた。

 

敵の巡回経路、人数、警報装置の位置、整備員の行動等を頭の中で反復し、立ち回る方法及び目的達成後の脱出のためにじっくりと辺りを見渡していたのだ。

 

その最中、シャゴホッドを破壊するべくロケット燃料のタンクにC3爆薬を仕掛けているスネークを発見した。彼は何処からか拝借したのだろう整備員用のツナギで変装し、敵の巡回を上手くかわしながら液体ロケット燃料を貯蔵している各タンクに爆薬を仕込んでいた。

 

そしてあっという間に爆薬を仕込むと、変装のために着ていたツナギを脱ぎ捨てていつものオリーブドラブの野戦服へと身なりを変え、残りの爆薬を貯蔵されている液体燃料へ仕掛けるために最後のタンクへと歩き出した。

 

私は彼の行動に満足しながら、今度は周りへの確認ではなく、手に持つ試作サプレッサーを取り付けたM−16アサルトライフルを鉄骨組みの足場に伏せた状態から構え、兵器厰本棟と東棟・西棟を繋ぐ通路から唯一この本棟に入れる赤く塗装された扉へとその銃口を向けた。

 

そこには今まさに扉から出てきたばかりの兵士がいた。丁度スネークが身を潜ませながら爆薬を仕掛けている時、彼は少し離れたそこからスネークの姿を発見したらしい。

 

サボタージュ(破壊工作)の準備を進めるスネークの姿を何をしているのかと訝しげに見て、彼の手元を見た瞬間、その顔が驚愕に包まれた。

 

だが声を出す間もなく、私が構えるM−16───そのサプレッサー付きの銃口から放たれた一発の銃弾が彼の頭部を穿った。

急激に力が抜けた彼の身体はその場に倒れ込み、場所が場所故に誰にも気付かれなかった。

 

 

「済まないが、今声を出されては不味いのでね…」

 

 

ちなみにM−16とよく総称されるこのアサルトライフルだが、私が持つこいつは正確にはXM16E1が名称だ。陸軍・海兵隊向けに開発されたモデルであり、生産開始直前になって陸軍の要請を受けて完全閉鎖しなかったボルトを強制的に閉鎖させる「ボルトフォワードアシスト」の追加、最初期モデルの三叉状の消炎器を、『木の枝や蔓に引っかかりやすい上に衝撃に弱く、水も侵入しやすい』という問題により、先端閉じで4つのスロットが切られた鳥かご型への変更といった様々な改修を受けて後のM−16A1へと変貌する前進の銃だ。

 

様々な問題こそ抱えてはいたが、それでもこれまで制式採用されていたバトルライフルに比べれば携行性や命中率等に関して高い評価を持つアサルトライフルである。

 

この程度の距離ならば、海兵隊の軍事訓練をこなして栄えて正式に海兵隊員入り出来るくらいの兵士なら命中させるのは難しくはない。

 

さて、現状であるが、まず第一に私の見ていた先でヴォルギン大佐がスネークらに掲げて見せつけていたように、賢者の遺産は今大佐の手にある。

 

少しばかり前に、遺産奪取のために地下金庫に居たヴァイスからタチアナが地下金庫で捕縛され、所持していた遺産も運び出されたと報告を受けたのだ。

 

ヴァイスは歴戦の猛者だが、残念なことにその時に持っていたのは拳銃だけであった。これはグロズィニグラードのセキュリティによる制約で、地下金庫は原則警備兵以外は武装したままの進入が禁止されているからだ。

 

それは我々ゴースト・カンパニーとて例外ではなかった。まぁヴォルギンの遺産への執着ぶりを考えれば当然ではある。

 

そのため毎回自主警備や物品移動などの適当な理由で地下金庫を歩き回り、その度に拳銃部品や弾・マガジンなどを各所にバラして隠していた。

 

本来ならばヴァイスは地下金庫に潜入し、事前にバラして隠していた拳銃部品を組み立てて武装───2名の警備兵を排除して遺産を奪取し脱出する…それで終わる筈だった。

 

だが結果はタチアナが発見されてしまい、その場で動ける武装兵士がわらわらと押し寄せてきてしまった。そしてヴァイスの装備は1丁の拳銃と予備マガジンが1つのみ…。

 

つまりはアサルトライフルやショットガン、手榴弾で武装した中装クラスの兵士十数人を相手に戦う武装ではないために、ヴァイスはやむ無く遺産が運び出されるのを眺めているしかなかったという訳だ。

 

かといって初めから正面火力突破による奪取を考えなかった訳ではない。だが遺産が地下金庫のどこにあるのか不明であった以上、敵に遺産奪取が目的だと誇示するような派手な方法は使えなかった。

 

万が一正面火力突破で地下金庫に辿り着いても、『我々が知らない別ルートで運び出された後でした』なんてお粗末な結果は私の今後に確実に響く。

ならばこそ、後手に回る可能性があっても隠密・秘密裏の奪取を選んだのだ。

 

だが今はそこはどうでも良い。現時点での最重要事項はヴォルギンからどうやって遺産を奪うか…そこである。さて、とりあえず東棟と西棟に唯一繋がる通路と出入りする扉に先ほどの敵以外の姿は見えない。

 

私は扉から目を離して再びヴォルギンの方へ視線を移した。

 

どうやらスネークは発見されたらしい。眼下では今まさにスネークとザ・ボスのCQCによる一騎打ちが行われていた。

 

しかしザ・ボスの技術は高く、スネークは一撃も浴びせられずに打ち倒されてしまい、オセロットに銃を突きつけられてしまった。

 

そしてヴォルギンの前へと連れてこられたスネークは、ヴォルギン、ザ・ボス、オセロット、EVAといったこの舞台を演じる面々との再度の顔合わせをし、ヴォルギンからあの遺産を見せられたのだ。

 

スネークの遺産とは何か?という問いに、冥土の土産とばかりに流暢に遺産の由来を語り出すヴォルギンと、それを眺める周りの面々。

 

そんな中、しばしの長話を終えたヴォルギンは手に持つ遺産───そのマイクロフィルムを手に世界を纏めると宣い、「アメリカごときに我々は止められん」と宣戦布告をした。

 

 

「全く誇大妄想が好きなコミュニストはこれだから……ん?あれは、……っ!いやはや何とも何とも…まさか自ら渡すとは…」

 

 

そこで目にしたのは、何とも愉快でたまらない光景であった。こんな簡単に上手いこと事態が良い方向へと転がるなんて話があって良いものか…。

 

ヴォルギン大佐の奴…自らザ・ボスに遺産の記録が収められたマイクロフィルムを手渡したのだ!

 

 

 

 

 

 

「ああ…全く、大佐…あなたという人は全く…」

 

 

遺産をヴォルギンから預けられたボスは、床に倒れ付していた女スパイ───EVAを始末すると言って彼女を立ち上がらせると、襟首を掴んでその場から離れていった。

 

さて、主役も脇役もキーアイテムも全ては整った。主役は決闘のリングへ───脇役は彼らを引き立て、キーアイテムは既に手中にある。後は全てにピリオドを打ち、この舞台に幕を下ろすだけである。

 

そんな私が今一度目線をヴォルギン大佐へと移せば、主役同士が決闘の場へと───彼がスネークと共に格納庫の昇降台にて地下へと降りていく所だ。

 

珍しいな…あのヴォルギン大佐が1対1の戦士としての戦いを行おうとは…少なくともこれまでのヴォルギンの言動を見ていれば、確実性を期す為に観客に徹しているオセロットにスネークの射殺を命じそうなものだが…。

 

まあそれは良いか…。後はスネークがヴォルギンを打ち倒せばそれで最重要目的の1つは達成される。

では、私は脇役としてヴォルギンとスネークの戦いを時間一杯観賞させて貰うとしよう。

もっとも、残念ながら脇役故に観客に徹する私に用意されるポップコーンとコーラは無いがな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【グロズィニグラード西区域・大型兵器保管区画】

 

 

 

「時間だ。これより攻撃を開始する。ノイマン、貴官は戦車の駐車区画を制圧しろ」

 

「了解」

 

「グランツ、貴官は私と共に兵器厰本棟及び東棟前の制圧だ」

 

「はっ」

 

「カイル、ハインドで上空警戒。兵器厰区画に近づく敵車両は全て始末しろ。同時に各区画を適宜援護───制圧を補助せよ」

 

「はっ、了解」

 

「いいか、作戦は今から爆薬が起爆するまでだ。つまり15分しかない。遅れは許されないぞ。よし、では全員時計合わせ───3、2、1…今!」

 




整備員1「知らない奴が無限とか書かれたフェイスペイント顔と上半身裸で目の前に現れたと思ったら、行きなりパンチ2発と蹴り1発で昏倒させられた」

整備員2「知らない顔の奴が整備員用のツナギ着てウロウロしていた。顔をよく見ようとしたら逃げたから、まあ良いかと思ってその場を離れた」

整備員3「爆薬片手に垂直立ちのままグルグルしてる奴がいた。近付いたら変な機械で透明になったから、まあ良いかと思って自分の持ち場に戻った」

整備員4「知らない奴がでかいダンボール箱被ったり脱いだりしてた。近付いたらダンボール箱被ったまま腰だめ歩きで逃げたから、まあ良いかと思って警報器の整備に入った」

整備員5「そいつが液体燃料貯蔵タンクのところで何かしてた。何かと思って見ようとしたら隠れたから、まあ良いかと思って仕事に戻った」








GRU警備兵「お前ら、それを先に言え」




─グロズィニグラード・液体燃料貯蔵タンクに爆薬が仕掛けられ、タイマーの残り時間的に解除不能になった直後の整備員と警備兵の会話─

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