レラレラレラレラ
ピザモッツァレラ、ニョホッ♪
─グラーニニ・ゴルキー南の森林地帯─
森林地帯で、今まさに2人の人間が向かい合っていた。かたや髭にバンダナの兵士、かたや野戦服の幼女である。
「私はザ・ピース、あの地獄の戦いを生き抜いた1人だ。そこで私が見出だしたのは…」
「…ピース(平和)…!」
「そうだ、私は常に平和を求めていた。例え戦火に包まれていても安全な場所で安全な地位に就けば命の危機は少ない…そのためにあのクソッタレな戦争を戦い、生き延び、将来いつか訪れん平和を享受しようとした…だが戦えど生き抜けど地位を上げようとも世界は、私に戦争と地獄を与え続けてきた…平和を求めながら最も平和から離れた地獄へと、送り込まれ続けたのだ!」
「………」
「だが、あの戦いを最終的に生き延びた私は、ついに平和を享受した…誰もが退屈だという他愛の無い日常をな…命の危機を心配する必要のない暮らしを手にいれたよ…」
「お前は…」
「だが悲しいかな…なまじ地位と実績故に再び戦場へと送り込まれた。またあのクソッタレな戦場を駆け抜けねばならなくなった…だというのに……酷く落ち着いたよ…」
「銃弾と砲弾が飛び交い、泥や臓物、汚物にまみれた戦場で…私はまるで、自宅で寛いでいた時のような…まるで仕事から家へ帰ってきた時のような安堵と心地好さを感じたのだ…」
「戦場に安堵を…」
「皮肉だろう…まさに矛盾…平和を求めながら平和から最も離れた地獄で僅かながらも平和を感じたのだ!これが私だ!」
「蛇よ、貴様は戦場に何を求める?いや、何を目的とする?」
「…信じるものが目的だ、俺は兵士だ。任務遂行を目的とする」
「ならば掛かってこい!その任務のために!そして私は、貴様を倒し、再び平和を享受しよう!」
ザ・ピースの叫びが、戦いの幕を切って落とした。
ザ・ピースは、自らの背に背負っていた、銃身を短く切り詰めたライフルを取る。
スネークはその瞬間に横っ飛びで大木の裏へと隠れる。するとザ・ピースもスネークに顔を出させないよう牽制射をしつつ大木の裏へと移動した。
【Side スネーク】
初撃は免れたものの、早速互いの状況が膠着に陥ったため、迂闊に動くことが出来ない。
おまけにザ・ピースは人間とは…幼女とは思えない怪力を持っている。あの力なら、頭蓋骨を粉砕することすら容易いのだろう。
とにかく距離を詰められてはマズイ。まずはザ・ピースを決して近付けさせないこと、すなわち近接戦に持ち込ませないことが重要となる。
そこまで考えていると、先ほどザ・ピースがいた方向から木がひしゃげるような音が断続的に響いてきた。音に反応して咄嗟に身体をよじり、半身の体勢を取った。
丁度半身になった瞬間、先ほどまで自分の脇腹があった辺りを拳大の何かが通過していった。それはスネークのいる大木の反対側にあった別の大木に当たると、既に威力が弱まっていたのか大木の表面にめり込む形で止まった。
それは成人男性の頭サイズ程もある石であった。それがまさに今、スネークの側を大木をことごとく貫き飛んできたのである。
「チッ!(木の盾は無意味か…どうすればいい?)」
あの馬鹿力幼女への対応に思考を割いていると、無線にコールが来た。ザ・ピースからの攻撃を警戒するためにしばし辺りに気を配ったのち、未だに次の攻撃は来ないため多少の時間はあるだろうと、無線通信に入った。
<<スネーク、無事か?>>
「ああ少佐、だがまたコブラ部隊兵士に襲撃されている」
<<先ほどの会話は聞いていた。相手はザ・ピースだったか?>>
「そうだ。馬鹿力を持つ幼女だ…つい今しがたもボーリング玉サイズの石が大木を貫通しながらこっちに打ち込まれたところだ」
<<幼女?スネーク…いくらジャングルで女っ気が無いとはいえついに敵が女に見えだしたのか?しかも年端も行かぬ幼子に?
つまり何だ、幼女がコブラ部隊だと言い張って隠れた君目掛けて大木を幾つも貫通出来る勢いをつけたボーリングサイズの石を投擲してきたと言いたいのか?…よしスネーク、とりあえず私はこの任務が終了したら私が腕の良い精神科医を紹介するから君は…>>
「少佐!俺は真面目に話してるんだ!幼女だというのもボーリングサイズの石を投擲したというのも!」
<<落ち着けスネーク、ちょっとしたジョークだ。事前にコブラ部隊兵士の詳細情報は報告を受けていたから多少は知っているとも。
さてスネーク気を付けろ、そんなものをまともに受ければ助からん。それで、ザ・ピースは捉えたか?>>
「ジョーク…はぁ〜、分かったもういい。ザ・ピースとは互いに隠れたままだ。先ほどの石の攻撃も一回だけでまだ次は来てない。恐らくは向こうも手探りだと思う」
<<…よし、それならばまだ手はあるな。スネーク──決して負けるなよ>>
「分かってる」
少佐との無線通信を終えると、M1911を構えながら隠れていた大木から飛び出し、待ち構えていたザ・ピースがライフル弾、自分は拳銃弾を互い目掛けて撃ち込みながら密林地帯を駆け抜け始めた。
【Side ターニャ】
「さて、とりあえずはこれでいいか…」
皆さん、こんにちは。現在進行形でグラーニニ・ゴルキー南側にある森林地帯にて、アメリカのエージェント・スネークと対峙しておりますターニャ・デグレチャフであります。
ヴォルギン大佐より御下命を受けつい先ほど到着し、襲撃の機会を窺っていたのですが、流石はザ・ボスの弟子といったところでしょうか?
さて、ある程度は抑えて、しかし確実にスネークの喉を抉る筈だった手刀は、彼の皮膚を掠めただけに終わった。この忌まわしい力は、初見で対処されたのはこれまでザ・ボス以外存在しなかった。だがそこにあのエージェントが今日加わったのである。
まぁそれは置いておくとして、現時点で最初の襲撃から既に10分が経過した。これは完全な殺意を以て戦っている訳ではないが、それでも10分もの間、スネークは私の攻撃を全てかわしつつ反撃を幾度もしてきているのだ。
事実幾度もの反撃を許した結果、45ACPを1発だが脇腹に喰らっている。最もこの忌まわしい力は身体感覚にも影響があるため、脇腹の傷は一般人の観点で言えば、小さな擦り傷がヒリヒリする程度なのだ。
まあ、そのお陰でこれといって作戦遂行に支障が無いのは幸いだが───全くくそったれだ。あのくそったれの悪魔が無理矢理私に能えたこのクソ忌まわしい力のお陰など…。
いかんいかん。今大事なのは作戦遂行である。とにかくあのアメリカのエージェントの実力は分かった。これならばある程度のサポートさえあれば問題なく彼は任務を達せられるだろう。ならばそろそろ、ここいらで"私(ザ・ピース)"の役目は終わりにしよう。
これからまた忙しくなる。"私(ターニャ)"として、最終目的に至るための仕事があるのだ。では、そろそろ…
私は胸元───すなわち心臓部分に"ある物"を滑り込ませた。…やはりブニブニベトベトと妙な感覚だ。それはそうだ、普通は"これ"をこんな事に使ったりはしない。妙な感覚なのも当たり前である。しかしあのエージェントに気付かれぬように死を偽装するには必要な事だと割り切る。
私は近場の茂みへと潜り込み、その場に腰だめでしゃがむと、茂みの中でライフルを構えてスネークが私の射線に入るのを静かに待つ。それから数分経った頃、スネークが辺りを警戒しながら大木から大木へと移動するのが見えた。
もう少し…もう少しだ………今!
私は射線に入ったスネーク目掛けてライフルを撃つ。当てる為ではない。一瞬気を此方に向けてもらう為だ。私の撃った弾が身体を掠めたスネークは私の射撃に気付き、こちらへと顔を向けた。
その瞬間、私は全力で駆け出す。そして首からかけたロザリオを握ると、唱えたくはないが必要であるため、心の中で憎悪と罵倒を渦巻かせながら、祈りを唱えた。
『主よ、我に力を…』
私は凄まじい速度で、1秒と経たずにスネークの数mほど手前へと移動を終えていた。そこから、ガバメントからナイフへと体勢を切り替え迎撃せんとするスネークへと飛び掛かるために地面を蹴る。
空中に躍り出た私はライフルに付いている折り畳み式銃剣を開くと、右手で槍を持つが如く握りしめながら、慣性の法則と重力によってスネーク目掛けて落ちていった。
私とスネークの身体が鈍い音を立ててぶつかり合った。
互いの顔が非常に近くにある。鼻と鼻の距離など数cmもない。スネークの荒い息や汗・硝煙といった匂いまでもが分かるほどだ。そして、私の右手で握るライフルの銃剣はスネークの肩を浅く斬り裂いただけにおわり、逆にスネークのナイフは『根元近くまで深く私の胸に』突き刺さっていた。
私はこの結果にニンマリと笑みを浮かべた。そして空いている左手をスネークの後ろ頭に回すと、更に顔を近付けてやる。
そして言った。
「…私の役目は終わった…また会おう、スネーク」
そして言い終わると、スネークの身体に脚を押し付け、後ろへと目一杯跳ぶ。胸に深く突き刺さっていたナイフはスネークがしっかり握っていたことと私が目一杯飛んだ事で、ズルリと抜けた。
スネークから少し離れた辺りで、私は自らが持つ自決用爆弾を作動させた。
ザ・ピース!!!
【Side スネーク】
ようやくザ・ピースとの決着が着いた。彼女は茂みに潜み、1発だけ撃ってきた。それで弾切れだったのか、またはライフルが故障したのかは分からないが、撃った瞬間茂みから飛び出すと、最初に見た人間業とは思えない馬鹿力並みに非常識な身体能力で自分との距離を詰めてきた。
そして彼女は数mほど手前で自分目掛けて飛び掛かると、所持していたライフルの銃剣を開き、槍のように構えながら体当たりをしてきた。
結果は自分のナイフが彼女の胸───心臓に深く突き刺さった。彼女の銃剣は肩を浅く斬り裂くだけに終わったのだ。流石の人外染みた彼女とはいえ、ナイフを心臓に突き刺されればもはや終わりの筈である。
すると彼女、ザ・ピースは不気味なほど歪んだ笑みを浮かべたのだ。これが幼女の浮かべる表情かと若干だがおぞましさを感じた。そんな自分の後ろ頭を彼女は左手を当てて互いの顔を密着する寸前まで近付けてきた。
「…私の役目は終わった…また会おう、スネーク」
彼女はの口から出てきたのは、悪あがきや罵倒などではなく、その言葉だけであった。"また"とはあの世での再会か、はたまた宗教でよく云われる来世とやらか…そんな事をふと頭に思い浮かべていたスネークは、腹にそれなりに強い衝撃を受けた。
ザ・ピースはスネークの腹に脚を押し付け、自ら後ろへと跳んだのだ。ナイフはしっかり握っていたため、ザ・ピースの胸に突き刺さった状態からズルリと抜けた。
そしてザ・ピースが後ろへ跳び自分から少し離れた辺りで、ザ・ピースは消し飛んだ…。
彼女より前に戦ったザ・ペイン、ザ・フィアーらと同じく、シギントから聞かされていたコブラ部隊兵士が常に携行していたという自決用の爆弾───彼女、ザ・ピースはそれを使ったのだ。
…平和を望みながら平和から最も遠い場所で平和を見出だし、ついに平和を享受出来ない場所で終わりを迎えた…。
未だに様々な考えが頭を渦巻いている。平和、彼女の望み、最後の奇妙な突撃、彼女の言葉、そして彼女の胸にナイフを突き刺した時の違和感。
だがその考えを頭を振って隅に追いやる。既に時間を浪費しているからだ。自分の目的はまだまだ先にあるのだ。歩みを止めている訳にはいかない。
まずはグラーニンから教えられた倉庫の扉を通り、山岳へと通じるルートを目指さなければ。
そう言い聞かせながら、ザ・フィアー、ザ・ピースとの戦闘跡地、グラーニニ・ゴルキー森林地帯を後にして歩き出していった。
【ゲーム風対ザ・ピース戦】
『シギント』<<スネーク!ザ・ピースの使っている武器はGew43、ドイツ製のセミ・オートマチック・ライフルだ!ライフル弾を連続して撃ち込まれる間は隠れてやり過ごせ!木々を上手く遮蔽物にして、マガジンチェンジの瞬間を狙うんだ!>>
【ゲーム風ザ・ピース使用武器説明】
シギント<<Gew43を持っているのか?>>
「ああ、ザ・ピースが使っていた物だ」
<<そうか。Gew43はその数字が示す通り、1943年に配備が始まったドイツ製のセミ・オートマチック・ライフルだ。文字の"Gew"はドイツ後の"ゲヴェーア"──小銃のドイツ語読みの省略だ。分かりやすくいうなら"43年式小銃"とでもといったところか。ちなみにこいつは1944年には制式名称が「Karabiner43」に変更されたため、後期生産型の側面にはK.43と刻印されていたりする。まあ小銃でも騎兵銃でも刻印に違いがあるだけで性能に違いはないから、こいつは置いとこう。見たところ、そのGew43は従来の物より随分カスタマイズされてるな。まず銃身が通常サイズより切り詰められてるな。恐らくはザ・ピースの体格に合わせたからだろう。射程と反動制御を犠牲に取り回しの良さを追及したんだな。銃身下部には折り畳み式の銃剣…本来Gew43は銃剣の着剣装置を全て廃止してあるんだが、こいつは咄嗟の白兵戦を想定してのオリジナルカスタマイズか?どちらにせよこのGew43は遠距離や中距離の優位性を捨て、完全な近距離戦・近接戦を想定してのカスタマイズだ。恐らくは東部戦線や西部戦線で多数の市街地戦に参戦してたからこういった極端なカスタマイズにしたんだろうな。
Gew43の構造は、簡単に言うとGew41で採用されたフラップ・ロック式ロッキング・メカニズムに、トカレフ等のソビエト製半自動小銃に類似したガス・ピストン方式による自動装填システムを組み合わせたものだ。弾薬の装填方式は、固定弾倉式のGew41から着脱弾倉式に改良され、10発の容量を持つ弾倉を下から装填でき。また機関部後端右側面にはライフルスコープ用のレールが標準装備となっている。
こいつは古い型のライフルだし、接近戦カスタマイズだから使い道はかなり限られるだろうが、ザ・ピースが愛用していた武器だ。御守り代わりに持っていても損は無いんじゃないか?>>
【入手 Gew43】
ザ・ピースが使っていた旧式ライフル。持っているとスタミナが減らず、若干ライフの回復が速まる。