気がつくと朝になっていて、俺はチノの部屋のベッドで寝ていた。どうしてこんな状況になったのか、昨日の出来事を思い出そうとするが激しい頭痛に襲われ、思い出せない。するとチノが部屋に入ってきた。
「おはようございます。奏斗さん、よく眠れましたか?」
「あ、ああ。お陰様で」
「それなら良かったです。朝御飯が出来てるので早く降りてきてくださいね」
チノが部屋から出ていったところで俺はようやく思い出した。俺は昨夜、チノに監禁されていたんだ。両腕を縛られ、身動きがとれない状態で。あのときのチノは確かに異常だった。しかし、先程の様子からは昨晩のような異常さは感じられなかった。
「…とりあえず、下に降りるか…」
階段を降りて、リビングに入ると、チノが作った美味そうな朝御飯が綺麗に並べられていた。
「おぉ…すごいな…」
「遅いですよ。ほら、早く食べてください。朝御飯冷めちゃいますよ?」
「わ、わかってるよ」
朝御飯を食べてる途中で気になった事があった。それはココアさんとタカヒロさんがいないことだ。いつもならあの二人もいるのにいったいどうしたのだろう。
「父は今日は仲間と旅行に行ってます。ココアさんは昨日から1週間実家に帰ってますよ」
「そ、そうか…」
「奏斗さん、折角だから今日は何処かへ出掛けませんか?こんなに天気もいいですし」
「あー、ごめん。俺、今日は用事があるんだ。出掛けるのはまた今度な」
「そうですか…」
「じゃあ俺、もう行くから。朝御飯美味しかったよ」
そう言って俺は逃げるように出ていった。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
気づいたら俺は全速力で走っていた。まるで何かから、或いは誰かから逃げるように走っていた。そして着いたのは学校の近くの大きな公園だった。今日は休日のため、家族連れやカップルで賑やかだった。
(とりあえずベンチで休もう…)
ちょうど空いていたベンチがあったので腰をかけ、荒れていた呼吸を整えながら背もたれに重心を預けた。
しばらくすると一人の女の子が俺に声を声を掛けてきた。
「あの…君、もしかして奏斗君?」
「そうだけど…お前は?」
「優月だよ、鷺澤優月。やっぱり覚えてないかな…。まぁ、無理もないよね。小学校以来だし…」
「ん?鷺澤…もしかして優月か?」
「思い出してくれた?」
「ああ、なんとなくだけど…」
「良かった…。てっきり忘れちゃったのかと思ってたから…」
「それで、俺に何か用?」
「突然なんだけどさ、今から時間ある?」
「えっ…」
「久しぶりだし、どこかお茶でもしに行こうかなって思ってたんだけどダメかな?」
「あっ…えっと…」
奏斗が反応に困ってると突然奏斗の携帯が鳴り出した。
「出ていいよ」
「わ、悪い…」
公衆電話からだった。誰かなと思い出てみると、
「奏斗さん…あの女、誰ですか?」
「っ!?」
携帯から聞こえてくる声に思わず背筋がゾクッとした。チノからだった。
「何の事だ?」
「誤魔化しても無駄ですよ…。私は貴方の全てを知ってるんですから…貴方が今どこで何をしてるのかも私は知ってるんですよ。なんなら今からそちらに行きましょうか…?」
思わず電話を切り、携帯を電源をオフにしてしまった。その姿を見ていた優月が心配して声をかけてきた。
「大丈夫?なんかすごい慌てているように見えたけど」
「な、なんでもない。気にしないでくれ」
「それはそうと、さっきの返事を聞いてないんだけど…」
「あ、ああ。その…悪い。少し用事を思い出したからそっちに行かないと…」
「そうなんだ…。じゃあ、またね」
「ああ。誘ってくれてありがとな」
彼女と別れ、俺は少し小走りで公園を出て、自分の家に帰った。家に着くと、俺は即座に玄関の鍵をかけ、人が出入りできる場所は全て鍵をかけた。
(見ていた…。あいつが…木陰から…)
そう、見ていたのだ。彼女が、チノが。木陰から優月を睨むように、そして奏斗に微笑むかのように…。
(まさかとは思ったが、ホントにあいつは俺の行動を把握してたのか…)
すると、玄関のインターホンが鳴った。それも一回ではない。二回、三回、四回とどんどん増えていった。やがて、インターホンが鳴り止むと、なにやらガチャガチャと何かの物音が聞こえる。
(まさか…)
そのまさかだった。来訪者は的確なピッキングで俺の家のロックを解除してしまった。そしてドアが開き、現れたのはチノだった。
「奏斗さん、ここにいるのはわかってるんですよ…出て来てください…」
俺は隠れても無駄だと思い、チノの前に姿を現した。
「やっと見つけましたよ…奏斗さん」
「チノ…なんだよお前、その血は!」
チノの服には返り血がついていて、手には血まみれの包丁が握られていた。
「ああ、これですか?奏斗さんをたぶらかす悪い女がいたから私が始末したんです。二度と奏斗さんの前に現れなくなるように」
「お前、自分が何をしたか分かってるのか!」
「わかってますよ。私がしたのは単なる害虫駆除です」
「チノ…お前やっぱりおかしいよ!」
「おかしくても結構です。それでも貴方への気持ちは変わりませんから…愛してますよ、奏斗さん。アイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマスアイシテマス」
「や、やめろ…やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!」
奏斗はそのまま気絶してしまった。が、チノはニヤリと笑い気絶した奏斗の耳元でこう囁いた。
「ずっと一緒ですよ…奏斗さん…ふふっ♥️」