赤鬼転生記~クロスオーバーオンライン~   作:コントラス

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第五鬼

「よう、マザー。仕事はまだか?」

 

 

 特に無駄なことを言わず、桃色の髪の女に声を掛ける。姿はやはり“桃香”そのものだが、中身は全く違う。

 

 

『おや? あなたの好みではありませんでしたか? メモリーに記録されていた姿だと思うのですが』

 

 

 どこか機械的な声で首を傾げながら言う。

 マザーの実体が目の前にある訳じゃない。あくまでホログラムで、立体映像にすぎない。

 だから、手を伸ばして触れることも叶わない。すり抜けるのが落ちだ。

 

 それはともかく、⋯⋯メモリーってのは記憶だ。英語にしただけじゃない。俺達に埋め込まれているマイクロチップには、記憶を保存する機能がある。その機能を単にメモリーと呼んでいるだけだ。

 で、マイクロチップはネットワークに繋がっている。それは全てマザーの元に集約され、それを閲覧する力を彼女は持っているわけだ。

 要は、マザーは俺が思いでとして思い返し、脳裏に浮かべた鮮明に残る戦乱の、古代中国の戦いの記憶を見たりもできるわけだ。

 つまり、そこから蜀王“劉備玄徳”の姿を持ってきたんだろうな。

 まぁ、彼女には人としての姿はない。こうしてAI、人工知能と自己学習機能でそつなく意思疏通も可能で、自分の思うように行動できる。不便はない。

 が、彼女は幾度となく俺の前に、記憶から引っ張ってきた姿、嘗て愛した⋯⋯いや、今でも愛していると断言できる彼女達の姿で現れるのだ。バイトでここにくる度に。

 

 

「いや、好きだけどな? でも、アンタは“桃香”じゃないだろ? ってやり取りも何十回ってやってる気がするんだが⋯⋯」

 

『ええ、そうですね。先日はフェイトという女性でした。随分と器量の良い女性のようですね。慈悲深く、愛に溢れた少し抜けた方のようで──「それより仕事だろ? 早く入れてくれ。でないと心が保たないんじゃなかったのか?」──⋯⋯そうですね。残念ですが、取り掛かってください。ワクチンはそこのアタッシュケースの中に』

 

 

 自分の妻だった女の話を何も知らない人間(人格を持ったAIだが)から聞くのは気分のいいものじゃない。だからマザーの言葉を遮って話を進めてもらった。

 

 マザーが指差す場所に、言葉通りアタッシュケースが寝かせて置かれている。

 それに近付き、カシュ、カシュ、とロックを外した。蓋を開ければ入っているのは三本の注射器。注射器の中には水色の液体が入れられている。

 

 

「今日は3人か⋯⋯」

 

『ええ。住所はどの方も都心郊外。自然保護地区近辺です』

 

「そうかい」

 

 

 話ながら三本の注射器を取り、二本は懐に仕舞う。

 俺の唯一の仕事道具だ。これがないことには始まらない。

 仕事は簡単だ。暴れるウイルス感染者(・・・・・・・)の首筋に、このワクチン入りの注射を打ち込むだけだ。

 

 ネットウイルス⋯⋯俺達のマイクロチップはネットワークに繋がっている。そこから侵入してくるウイルスがある。

 150年前、とあるハッカーが日本中に広がるネットワークの海に流したウイルスだ。

 ネットワークは全てマザーコンピューターを経由して企業や組織、個人に繋がっている。そしてマイクロチップが受信して交信が可能となる。

 色々はしょったが、詳しいことは知らない。ただ、そうであるとだけ認識している。

 それはともかく、そのハッカーが流したウイルスはマイクロチップに侵入して人を意のままに操るって代物だった。

 ただ、ソイツの誤算はマザーコンピューターがソイツが思っていた以上に優秀だったことだ。

 自分のマイクロチップに打ちネットワークに流したウイルスはマザーコンピューターに届いた瞬間、速攻でワクチンソフトが作られ、駆逐された。時間にして1秒足らずだったらしい。

 が、駆除したウイルスは消滅寸前に分裂した。本物の細胞のように、分裂して成長を果たし、進化した。マザーコンピューターが作ったワクチンに対抗するように。

 そして、ネットワークを通じて人に入り込む前に更に組まれたワクチンに駆除された。

 

 それからはイタチごっこだ。進化し、駆除され、また進化する。そして、ウイルスは更に進化してマザーコンピューターに察知されないステルス機能を身に付け、潜伏し、己を偽装した。

 ネットワークにはあらゆる電子が飛び交っている。その一部に擬態する能力を得た。

 その段階で3日程度の日数が経っていたらしい。この事件は被害者もいないことから、表沙汰にされることもなかった。ウイルスを放ったハッカーは自分の予想を遥かに越えたウイルスの進化に対応しきれず敢えなく感染して⋯⋯死んだ。

 ウイルスが感染者を死なせた。感染したから死んだんじゃない。いや、ある意味ではそうだが、具体的に言うのなら、ウイルスがハッカーの身体を使って自殺させた。ハッカーはウイルスを完全に死滅させるソフトを開発していた。自分の手からウイルスが離れたとき、殺せるように。だから、ウイルスはソフトを復元できないように破壊し、ハッカーを殺した。

 でもだ。どれだけ進化しようと、マザーコンピューターはウイルスを見付け、殺し続けた。




うーん、進まないですね~。今話でバイト終わらせるつもりだったんですけど、文字数少ないと、展開が遅いです。
でも、こっちに力入れて文字数多くすると、今度は異世界召喚の方が遅くなるんですよね。
なので、これはペースをこのままに進めます。読んでくださる方、どうぞお付き合いください。

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